助産師のやりがいとは?場面別の魅力と勤務先による違いを解説
助産師のやりがいというと、真っ先に思い浮かぶのは分娩に立ち会う場面かもしれません。ただ、実際に助産師が向き合う時間の大半は、分娩室の外にあります。妊娠中の健診や保健指導、産後の授乳や育児の相談、地域での訪問。そのどれにも、この仕事でよかったと感じられる瞬間があります。
そして、どの場面に多く関われるかは勤務先によって大きく変わります。周産期母子医療センターと産科クリニック、助産所、市区町村では、やりがいの中身がまったく違うためです。
この記事では、助産師のやりがいを場面別に整理したうえで、勤務先ごとの違い、働き方としての魅力、そして負担の大きい部分まで正直にお伝えします。今この仕事に迷いを感じている方に向けて、立て直し方も最後にまとめました。
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助産師が「この仕事でよかった」と思う瞬間

保健師助産師看護師法第3条は、助産師を「助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子」と定めています。分娩の介助は、この定義の一部にすぎません。妊娠中の相談も、産後のケアも、新生児の保健指導も、すべて助産師の本来業務です。
やりがいを感じる場面が分娩に限られないのは、そもそも仕事の範囲がそこに限られていないからです。
助産師が関わる4つのフェーズ
根拠:保健師助産師看護師法 第3条(妊婦の保健指導)
根拠:保健師助産師看護師法 第3条(助産)、第30条(助産師でない者の助産業務の禁止)
根拠:保健師助産師看護師法 第3条(じよく婦の保健指導)、母子保健法 第17条の2
根拠:保健師助産師看護師法 第3条(新生児の保健指導)、母子保健法 第11条・第17条
分娩に立ち会ったとき
助産師でなければ助産を業として行えないことは、同法第30条で定められています。医師を除けば、分娩の介助を担えるのは助産師だけです。
実際の現場で心に残るのは、取り上げた瞬間そのものよりも、陣痛の波に付き添いながらどう声をかけるか判断し続けた時間のほうだという声が少なくありません。産婦さんの表情や呼吸、胎児心拍の変化を見ながら、体位を変えるか、もう少し待つかを決めていく。その積み重ねの先に出産があります。
一方で、異常を認めたときの対応は法律で明確に線が引かれています。この点は後述します。
妊娠中から継続して関わったお母さんが無事に産んだとき
妊婦健診や助産師外来で妊娠期から関わっていると、その人の不安がどこにあるかが分かってきます。上の子のこと、里帰りの段取り、パートナーとの関係。分娩のときには、それらを踏まえたうえで声をかけられます。
産科クリニックのように分娩数が限られる施設では、妊娠初期から産後まで同じ助産師が担当できることもあります。継続して関わった人のお産に立ち会えるかどうかは、施設の規模や体制によって変わります。
産後に「助かった」と言われたとき
産後ケア事業は母子保健法第17条の2に定められた市町村の事業で、短期入所(ショートステイ)・通所(デイサービス)・居宅訪問(アウトリーチ)の3類型があります。対象は出産後1年以内の母子で、実施は市町村の努力義務とされています。
実施自治体は令和5年度で1,547にのぼり、産婦の利用率は10.9%まで伸びました。予算事業として創設された平成26年度の実施自治体が29だったことを考えると、この10年ほどで一気に広がった領域です。
授乳がうまくいかず眠れない日が続いていた人が、数日の宿泊で表情を取り戻すことがあります。分娩とは別の種類の手応えがある場面です。
地域の母子保健に関わるなかで気づくこと
母子保健法第11条は新生児の訪問指導を、第17条は妊産婦の訪問指導を市町村に求めており、いずれも助産師が担い手として明記されています。
家庭を訪問すると、外来では見えないものが見えます。部屋の様子、周囲に頼れる人がいるか、上の子との関係。健診の場では「大丈夫です」と答えていた人が、自宅では別の表情を見せることもあります。支援が必要な人を早い段階で見つけられるのは、地域に出ている助産師ならではの役割です。
参考:e-Gov法令検索「保健師助産師看護師法」 / e-Gov法令検索「母子保健法」 / こども家庭庁「産後ケア事業について(第4回こども家庭審議会成育医療等分科会 資料2-1)」 / こども家庭庁「産後ケア事業について」
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勤務先によって、関われる場面はこんなに変わる

令和6年末時点で就業している助産師は38,721人です。就業場所の内訳を見ると、病院が23,054人(59.5%)、診療所が8,672人(22.4%)で、この2つで8割を超えます。残る2割弱は、助産所2,905人(7.5%)、市区町村1,689人(4.4%)、看護師等学校養成所または研究機関1,534人(4.0%)、保健所435人(1.1%)などです。
分娩を扱わない場所で働く助産師が、5人に1人近くいるということです。就職先を選ぶ段階では、この違いがそのままやりがいの中身の違いになります。
総合病院・周産期母子医療センターで働く助産師
周産期母子医療センターは、令和7年4月1日時点で総合が112施設、地域が297施設あり、平成29年度までに全都道府県に配置されています。合併症のある妊婦さんや早産、低出生体重児など、リスクの高いケースが集まる場所です。
体制の厚さが特徴で、令和5年の医療施設調査では一般病院1施設あたりの分娩対応助産師は20.2人、医師は7.6人(いずれも常勤換算)でした。人数が多い分、役割は分業になります。妊娠期から産後まで一人で追いかけるより、その日その勤務帯を確実に回すことが求められます。
医師と協働して母児を救えたという達成感は、この規模の施設でこそ得られるものです。一方で、一人の妊産婦さんに長く伴走したい人には物足りなく感じられることもあります。
分娩を扱う施設の人員規模
産科クリニックで働く助産師
分娩を取り扱う一般診療所は令和5年で949施設あり、1施設あたりの分娩対応助産師は6.5人、医師は2.1人でした。病院と比べると人数は3分の1以下で、一人が受け持つ範囲が広くなります。
外来も入院も産後も同じ助産師が見るため、妊娠初期から産後1か月健診まで顔なじみのまま関われるのがクリニックの魅力です。反面、少人数で24時間の分娩対応を回すため、オンコールの負担は大きくなりがちです。
- 助産師の掲載求人44件のうち、クリニックが31件、病院が7件(医療キャリアナビ掲載求人データ・2026年時点)
- 月給の中央値は全体で34.0万円、クリニック35.0万円、病院35.9万円
- 就業者数では病院が最も多い一方、求人として出てくるのはクリニックが中心です
助産所で働く助産師
助産所は医療法第2条で「助産師が公衆又は特定多数人のためその業務を行う場所」と定義され、妊婦・産婦・じょく婦10人以上の入所施設を持つことはできません。小規模であることが法律上の前提です。
扱えるのは正常な経過をたどるお産に限られ、開設者は医療法第19条第1項により、嘱託する医師と病院または診療所をあらかじめ定めておかなければなりません。
就業助産師のうち助産所で働く人は2,905人で、全体の7.5%です。妊娠中から産後まで、生活面も含めて一人の女性に深く関わる働き方になります。
市区町村・保健センターで働く助産師
市区町村に1,689人、保健所に435人、都道府県に35人が就業しています。分娩には関わらず、妊娠届の受理から母子健康手帳の交付、健診、訪問指導、産後ケア事業の調整までを担います。
母子保健法第16条により母子健康手帳を交付するのは市町村で、その窓口で最初に妊婦さんと接するのが助産師や保健師です。一人のお産ではなく、地域全体の母子の健康を対象にするのがこの働き方の特徴といえます。
教育機関で働く助産師
看護師等学校養成所または研究機関には1,534人が就業しており、全体の4.0%を占めます。就業場所としては助産所に次ぐ規模です。
学生の実習に付き添い、分娩介助の技術と判断を伝える役割で、自分が現場で積んだ経験を次の世代に渡す形になります。臨床経験を一定年数積んでから移る人が多く、キャリアの後半の選択肢として現実的です。
参考:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」 / 厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」
助産師の求人を探す助産師ならではの働き方の魅力

看護職のなかで助産師だけが持つ権限と選択肢があります。
ただし、そこには条文で定められた範囲があり、魅力だけを取り出して理解すると現場で戸惑うことになります。
正常分娩を自分の判断で扱える
助産師は保健師助産師看護師法第3条に定められた助産を業として行える唯一の資格で、正常な経過のお産であれば医師の指示を待たずに介助を進められます。同法第37条も、へその緒を切る、浣腸を施すといった助産師の業務に当然付随する行為を、医師の指示の対象外としています。
ただし、範囲は明確に区切られています。同法第38条は、妊婦・産婦・じょく婦・胎児・新生児に異常があると認めたときは医師の診療を求めさせることを要し、自ら処置をしてはならないと定めています。認められるのは臨時応急の手当までです。
何でも一人で判断できる資格ではなく、正常の範囲内で自律的に動き、異常と判断した時点で医師につなぐ役割だと捉えるのが正確です。
- 「異常があると認めたとき」の判断を最初に行うのは、その場にいる助産師
- 助産師が自ら行えるのは臨時応急の手当まで
この自律性を組織として形にしたのが院内助産です。令和5年時点で院内助産所を持つのは、分娩を取り扱う一般病院909施設のうち154施設(16.9%)、一般診療所949施設のうち40施設(4.2%)でした。助産師が主体的に分娩を扱える体制がある施設は、まだ限られています。
開業という選択肢がある
助産師は、看護職のなかで唯一自分の名前で開業できる資格です。医療法第8条により、助産所を開設したときは開設後10日以内に都道府県知事へ届け出ることとされています。医師のような開設許可ではなく、届出で足ります。
ただし、開業には次の条件がついてまわります。
- 入所施設は妊婦・産婦・じょく婦10人未満まで(医療法第2条第2項)
- 嘱託する医師と病院または診療所をあらかじめ定めておく(医療法第19条第1項)
- 出張のみで業務を行う場合も、異常に対応する病院または診療所を定める(同条第2項)
- 助産の求めがあれば、正当な事由がなければ拒めない(保健師助産師看護師法第39条)
- 助産録を記載し、5年間保存する(同法第42条)
扱えるのは正常分娩に限られ、異常があれば医師につなぐという第38条の枠は開業後も変わりません。加えて、経営や集客の責任も自分で負うことになります。
実際に助産所で働く助産師が全体の7.5%にとどまっているのは、この現実を映した数字ともいえます。
ライフステージが変わっても続けやすい
助産師の就業者数は平成26年の33,956人から令和6年の38,721人まで、10年で約4,800人増えました。年齢構成を見ると、40歳以上が20,996人と全体の54.2%を占め、50歳以上も29.9%にのぼります。長く続けている人が多い職種です。
背景には働き方の選択肢の幅があります。分娩の現場を離れても、妊婦健診や産後ケア、市区町村の母子保健、教育機関と、資格を活かせる場が残ります。夜勤やオンコールが難しくなった時期に、分娩を扱わない職場へ移るという道筋があるということです。
雇用形態は正規雇用が80.2%、非正規雇用が19.6%で、常勤で働き続ける人が多数派です。
参考:e-Gov法令検索「保健師助産師看護師法」 / 厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」 / 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
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やりがいの裏側にある、正直なところ

助産師の負担は、感動的な場面と同じ現場から生まれます。切り離して考えることはできません。
母子の命を預かる責任の重さ
責任の重さは、精神論ではなく法律の構造から来ています。保健師助産師看護師法第38条が求めているのは異常があると認めたときの対応であり、異常かどうかを最初に判断するのは、その場にいる助産師です。
胎児心拍の変化、出血量、産婦さんの顔色。正常の範囲内なのか、医師を呼ぶべきなのか。判断が遅れれば結果が変わりうる場面で、その判断を求められ続けます。呼ぶ基準を持っていても、迷いがなくなるわけではありません。
- 異常の判断基準やドクターコールの基準が施設として明文化されているか
- 判断に迷ったときにすぐ相談できる先輩や医師がいるか
- インシデントの後に、個人の責任追及で終わらせない振り返りの場があるか
同じ資格でも、こうした仕組みの有無で心理的な負担はかなり変わります。
夜中でも呼び出される生活
お産は時間を選びません。分娩を扱う施設は24時間対応できる体制が必要で、夜勤やオンコールは避けて通れません。
前述のとおり、1施設あたりの分娩対応助産師は病院で20.2人、診療所で6.5人です。少人数の施設ほど、一人あたりのオンコール回数は増えます。呼び出されない日でも、電話が鳴るかもしれないと思いながら過ごす時間そのものが負担になるという声もあります。
同じ助産師でも、勤務先の規模によってこの部分の重さは大きく変わります。
望まない結果に向き合う場面
すべてのお産が無事に終わるわけではありません。流産や死産、新生児の重い状態に向き合う場面は現実に起こります。
保健師助産師看護師法第41条は、妊娠4か月以上の死産児を検案して異常を認めたときは24時間以内に所轄警察署へ届け出ることを助産師に義務づけており、法的な手続きも助産師の業務に含まれます。
こうした場面の後に必要なのは、担当した助産師自身へのケアです。振り返りの場が用意されているか、家族対応を組織として引き受ける体制があるか。施設の支援体制は、就職前に確認しておく価値のある項目です。
勉強を続けなければならないプレッシャー
分娩の場面は、いつでも繰り返し経験できるものではありません。令和6年の出生数は686,173人で、前年より41,115人減りました。分娩を実施した施設も令和5年で1,766施設と、平成23年の2,378施設から600以上減っています。一施設あたり、一人あたりで経験できる分娩の数は確実に減っています。
新生児蘇生や異常出血への対応は、経験の少なさをそのままにしておける領域ではありません。
埋められない部分はシミュレーション研修や学会、院内の勉強会で補うことになりますが、子育てや介護と重なる時期には、この時間の確保自体が難しくなります。
参考:e-Gov法令検索「保健師助産師看護師法」 / 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」 / 厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」
助産師の求人を探すやりがいを感じにくくなったときに考えたいこと

やりがいを感じられなくなったからといって、この仕事が向いていないと結論づける必要はありません。
原因が仕事そのものにあるのか、今いる環境にあるのかで、取るべき対応が変わります。
仕事内容の問題か、職場の問題かを分ける
ここまで見てきたように、助産師の働き方は勤務先によって大きく違います。分娩対応の助産師数は病院で20.2人、診療所で6.5人。院内助産所がある病院は16.9%にとどまります。同じ資格でも、任される範囲も体制も同じではありません。
分娩そのものへの恐怖や、母子に関わること自体への疲弊であれば、仕事内容側の問題です。
一方、人員不足によるオンコールの多さ、判断を相談できない環境、産婦さんと向き合う時間が取れない忙しさであれば、環境側の問題である可能性が高くなります。どちらなのかを分けないまま辞める判断をすると、次の職場でも同じことで悩んでしまう可能性があります。
勤務先を変えることで変わること・変わらないこと
環境側の問題であれば、勤務先を変えることで解決に近づきます。オンコールの頻度、一人あたりの受け持ち数、妊娠期から産後まで継続して関われるかは、施設によって大きく異なります。
分娩から離れるという選択もあります。市区町村や保健センターには1,689人、教育機関には1,534人の助産師が就業しています。夜勤やオンコールのない働き方に移っても、資格を手放すことにはなりません。
一方で、変わらないものもあります。異常を最初に判断する責任は、分娩を扱う限りどの施設でも同じです。学び続ける必要も、勤務先を変えてなくなるものではありません。
- 夜勤・オンコールの頻度
- 一人あたりの受け持ち数
- 妊娠期から産後まで継続して関われるか
- 分娩に関わる働き方かどうか
- 異常の判断基準や相談体制の整い方
- 異常を最初に判断し、医師につなぐ責任保健師助産師看護師法 第38条
- 助産師でなければ行えない業務の範囲保健師助産師看護師法 第3条・第30条
- 助産の求めを正当な事由なく拒めないこと保健師助産師看護師法 第39条
- 知識と技術を更新し続ける必要
一人で抱え込まないための相談先
職場の上司や先輩に相談しづらいときは、外部の窓口を使う方法もあります。
都道府県のナースセンターは看護職の無料職業紹介と就業相談を行っており、助産師も対象です。日本助産師会や各都道府県の助産師会も、会員向けの相談窓口を設けています。
結論を急がず、1か月ほど「どんな場面でその気持ちが強くなるか」を書き留めてみるのがおすすめです。特定の勤務帯や特定の業務に偏っていれば、体制側に原因がある可能性が高くなります。誰かに話すだけで整理がつくこともあるので、外部の窓口も遠慮せず使ってみてください。
労働時間や休憩、時間外手当など労働条件に関する内容であれば、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーが窓口になります。
参考:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」 / 厚生労働省「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」
まとめ
助産師のやりがいは、分娩の瞬間だけにあるものではありません。保健師助産師看護師法第3条が定める業務は助産と保健指導の両方を含んでおり、妊娠期の伴走も、産後ケアも、地域の訪問も、すべてこの仕事の中心にあります。
そのうえで、どの場面に多く関われるかは勤務先で決まります。就業助産師38,721人のうち、病院が59.5%、診療所が22.4%、助産所が7.5%、市区町村が4.4%、教育機関が4.0%。体制も、任される範囲も、施設ごとに違います。
正常分娩を自律的に扱える権限と、異常を認めたら医師につなぐ義務は表裏一体です。責任の重さも、夜間の呼び出しも、学び続ける必要も、この仕事に含まれています。
やりがいを感じにくくなったときは、仕事内容の問題なのか環境の問題なのかを分けてみましょう。環境側であれば、分娩を扱わない職場も含めて選択肢は残っています。40歳以上が54.2%を占める職種であることは、続け方が一つではないことの表れでもあります。


