整骨院の雇われ院長の年収は?柔道整復師が就任前に確認したい条件と注意点
整骨院で「院長を任せたい」と言われたとき、まず気になるのは年収です。
他にも、その年収に対して労働時間は見合っているのか、どこまでの責任が発生するのかなどわからないことが多いと、年収に目がくらんで引き受けた後に後悔してしまうパターンもあります。
この記事では、整骨院の雇われ院長の年収を、公的統計で確認できる範囲、労働基準法上の立場、施術管理者としての責任に分けて整理します。
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雇われ院長とは何を指す?

整骨院の「院長」は、3つの別々の枠組みが重なる場所にあります。柔道整復師法が定める施術所の開設者、療養費の受領委任における施術管理者、そして労働契約上の労働者です。
法律上の呼び名ではない
柔道整復師法には「院長」という言葉が一度も出てきません。同法が定めているのは、柔道整復師の免許、業務の範囲、施術所に関する届出です。
施術所は「柔道整復師が柔道整復の業務を行なう場所」と定義されていますが(第2条第2項)、そこに責任者を置く義務や、責任者の資格要件を決めた条文はありません。 病院や診療所には、医療法で管理者を置く決まりがあります。整骨院にこれに当たる制度はなく、「院長」は院の中で現場を任されている人を指す呼称です。
開設者・管理者・施術管理者との違い
施術所を開設した者は、開設後10日以内に、開設の場所や業務に従事する柔道整復師の氏名などを、施術所の所在地の都道府県知事へ届け出なければなりません(柔道整復師法第19条)。この届出をした人が開設者で、法人が運営していれば法人が開設者になります。
開設者に柔道整復師の資格は求められていません。
施術管理者は、健康保険の療養費を「受領委任」で取り扱うために、施術所ごとに置く立場です。受領委任は、患者さんが窓口で自己負担分だけを支払い、残りを柔道整復師が患者さんに代わって保険者へ請求する方法を指します。
施術管理者になるには実務経験と研修の修了が必要で、地方厚生局長と都道府県知事へ届出をします。
開設者・施術管理者・院長の違い
| 項目 | 開設者 | 施術管理者 | 院長 |
|---|---|---|---|
| 根拠となる制度 | 柔道整復師法第19条(開設後10日以内の届出) | 療養費の受領委任の取扱い | 柔道整復師法上の定義なし(法律上の呼び名ではない) |
| 柔道整復師の資格 | 不要 | 必要(実務経験・研修修了もあわせて必要) | 法令上の定めなし |
| 届出先 | 施術所所在地の都道府県知事 | 地方厚生局長および都道府県知事 | 届出制度なし |
| 負う責任 | 開設に関する届出義務 | 療養費請求の適正な管理責任 | 労働契約に基づき経営者が定める現場管理の範囲の責任 |
雇用契約上は労働者である
雇われ院長は施術所を自分で持たず、法人や開設者と労働契約を結んで働きます。売上目標やシフトの管理を任されていても、賃金を受け取り、経営者の指揮命令のもとで働いている以上は労働基準法上の労働者です。
この点が年収の評価に直接効いてきます。
労働者であれば、労働時間の上限や割増賃金のルールが適用されます。ただし、労働基準法の管理監督者に当たると判断される場合は、労働時間・休憩・休日の規定が適用されません。
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参考:e-Gov法令検索「柔道整復師法」 / 厚生労働省「柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて」
施術管理者の要件

院長就任と同時に「施術管理者になってほしい」と言われることがあります。施術管理者は療養費の請求を管理する立場で、なるための要件が決まっています。
受領委任の仕組み
療養費は本来、患者さんがいったん全額を支払い、自分で保険者へ請求して払い戻しを受ける「償還払い」が原則です。柔道整復については例外として受領委任が認められており、整骨院の窓口が病院と同じように自己負担分だけで済むのは、この取り扱いがあるためです。
請求は施術所単位で行われ、その管理を担うのが施術管理者です。
保険の対象になるのは骨折、脱臼、打撲、捻挫(いわゆる肉ばなれを含む)の施術で、単なる肩こりや筋肉疲労への施術は対象になりません。骨折と脱臼は、応急手当をする場合を除いて医師の同意が必要です。
この線引きを日々の請求で守る責任を負うのが施術管理者であり、要件を欠いた場合や不正な請求があった場合には、受領委任の取り扱いが中止されることがあります。
実務経験の要件
施術管理者になるには、柔道整復師として登録施術所で実務に従事した経験が必要です。この期間は段階的に延びており、令和6年4月からは3年以上とされています(このうち保険医療機関で従事した期間として算入できるのは2年までです)。
届出の際は、実務経験期間証明書の写しを添付します。証明するのは、実務に従事していた登録施術所の管理者です。前の勤務先に証明を依頼することになるため、退職の時期や引き継ぎの進め方が手続きに影響します。
施術管理者研修の受講
研修は公益財団法人柔道整復研修試験財団が実施し、土日祝を使った連続した2日間・合計16時間で行われます。費用は25,000円です。2026年度からはオンライン研修が終了し、会場での対面研修に戻りました。
開催は年に数回。申込には受付期間があり、修了証の発行は研修終了後2週間程度かかります。
施術管理者になるまでの3ステップ
院長と施術管理者は別のもの
院長と呼ばれていても施術管理者として届け出られているとは限らず、院長ではない柔道整復師が施術管理者になっていることもあります。
2つは別の枠組みなので、一方から他方を推測できません。 自分がどちらなのかは、施術所の受領委任の届出内容で決まります。就任を打診されたら、施術管理者として届け出るのかどうかを先に確認しましょう。
参考:近畿厚生局「柔道整復施術療養費の受領委任を取り扱う施術管理者の要件について」 / 公益財団法人柔道整復研修試験財団「柔道整復師施術管理者研修」
年収の目安と内訳

雇われ院長の年収を調べると幅の広い数字が並びますが、根拠をたどれるものは多くありません。公的統計で何が分かるのかを確認したうえで、給与の中身を分解します。
公的統計で確認できる範囲
厚生労働省の賃金構造基本統計調査には、柔道整復師という独立した職種区分がありません。柔道整復師は「その他の保健医療従事者」という区分に、臨床工学技士やマッサージ師、はり師・きゅう師とまとめて集計されています。
令和7年調査(産業計・企業規模10人以上)のこの区分から推計すると、年収はおよそ454万円です。
ただしこれは柔道整復師だけの数字ではなく、院長という役職での集計でもありません。この調査の職種分類で院長が独立して扱われているのは医師と歯科医師だけで、整骨院の院長はほかの柔道整復師と同じ区分に入ります。
固定給と歩合の組み合わせ
雇われ院長の給与は、基本給に院長手当などの役職手当を乗せ、さらに院の売上や来院数に連動する部分を加える組み立てが多く見られます。連動部分の呼び方はインセンティブ、歩合、業績給などさまざまです。
医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)の柔道整復師求人3,737件では、インセンティブありが17%、賞与・ボーナスありが64%です。 連動部分がある場合は、何を基準に、どの割合で、いつ支払われるのかを雇用契約書で確認します。
柔道整復師の求人を探す役職手当の位置づけ
院長手当が付く場合、その手当が何に対する対価なのかで意味が変わります。管理業務の責任に対する手当なのか、時間外労働の割増賃金に代わるもの(定額残業代)なのかで、実際に手元に残る額が変わるためです。
定額残業代であれば、何時間分に相当するのかと、その時間を超えた分が別途支払われるのかが決まっていなければなりません。
記事によって金額が食い違う理由
金額がばらつく理由は2つあります。1つは、開業した院長の収入と、雇用されている院長の給与が分けられていないこと。開業した院長が受け取るのは院の利益で、そこからは家賃、人件費、材料費、借入金の返済が引かれます。
もう1つは、根拠となる調査が示されていないことです。出どころのない相場感が、引用を重ねるうちに定着してしまうことがあります。金額を見たときは、誰を対象に、いつ、どうやって集めた数字なのかを確かめましょう。
参考:e-Stat「賃金構造基本統計調査 1 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」
管理監督者に当たるかどうか

提示された年収が高いか低いかは、その額が何時間の労働に対するものかが決まらなければ判断できません。ここを分けるのが、労働基準法の管理監督者に当たるかどうかです。
労働基準法における管理監督者
労働基準法第41条第2号は、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」について、労働時間、休憩および休日に関する規定を適用しないと定めています。
1日8時間・週40時間という上限も、時間外労働に対する割増賃金も、この人には適用されません。
管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者を指し、名称にとらわれず実態に即して判断されます。管理職と呼ばれる地位に就いた人が、そのまま管理監督者に当たるわけではありません。
肩書だけでは判断されないこと
厚生労働省は、管理監督者かどうかの判断基準を3つ示しています。
- 地位、職務内容、責任と権限からみて、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること
- 勤務態様、特に自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を持っていること
- 一般の従業員に比べて、その地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること
チェーン店の店長について、店舗運営に重要な職責を負っていても、権限が店舗内の事項に限られ、勤務態勢上の必要から長時間の時間外労働を余儀なくされていたことから、管理監督者に当たらないと判断された裁判例があります(日本マクドナルド事件・平成20年1月28日東京地裁判決)。
院の売上責任を負い、スタッフのシフトを組んでいても、それだけで管理監督者になるとは限りません。
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該当しない場合に生じること
管理監督者に当たらないのであれば、法定労働時間を超えた時間外労働に対して2割5分以上の割増賃金が支払われなければなりません。
一方で、深夜(午後10時から午前5時まで)の割増賃金は、管理監督者であっても支払われます。第41条第2号で適用が外れるのは労働時間、休憩、休日に関する規定で、深夜業の割増賃金はここに含まれないためです。
夜遅くまで院を開けている場合、この部分が支払われているかは給与明細から確かめられます。
管理監督者に当たる場合/当たらない場合の違い
| 項目 | 当たる場合 | 当たらない場合 |
|---|---|---|
| 法定労働時間の上限 | 適用されない | 1日8時間・週40時間が適用される |
| 時間外労働の割増賃金 | 適用されない | 2割5分以上必要 |
| 法定休日労働の割増賃金 | 適用されない | 3割5分以上必要 |
| 深夜労働の割増賃金 | 支払われる | 支払われる |
第41条第2号の適用除外に深夜業の割増賃金は含まれません。
確認する方法と相談先
管理監督者に当たるかどうかは実態から判断されるため、書類だけで結論が出ないこともあります。それでも、手当の名目と労働時間の扱いは雇用契約書・労働条件通知書・給与明細から読み取れます。
書類で確かめる3点
- 役職手当が定額残業代なのか、管理監督者としての処遇なのかが書かれているか
- 始業・終業の時刻と休憩時間が定められ、実際の労働時間が記録されているか
- 時間外・休日・深夜の割増賃金の扱いが明記されているか
書面の内容と実際の働き方が食い違っているときは、労働基準監督署や総合労働相談コーナーで相談できます(相談先は後述します)。
参考:e-Gov法令検索「労働基準法」 / 厚生労働省「管理監督者|裁判例|確かめよう労働条件」
年収を左右する条件

同じ「院長」でも、条件の組み方と院の状況で受け取る額は変わります。契約で決まる部分と、院の環境で決まる部分を分けて見ると整理しやすくなります。
給与の構成と昇給の仕組み
確かめたいのは、固定給と変動給の比率、変動給の算定基準、そして昇給のタイミングと判断材料です。売上連動の比率が高いほど、院の立地や季節による来院数の波を個人の収入が直接受けます。
昇給については、いつ、誰が、何を見て決めるのかが決まっているかを聞いておきましょう。
「頑張り次第」という説明だけで金額の根拠が示されない場合、後から確認する手段がありません。
院の規模と来院数
1日の来院数、スタッフの人数、保険診療と自費診療の比率は、院長の業務量と評価の前提を決めます。スタッフが少ない院では院長も施術に入りながら管理業務をこなすことになり、拘束時間が伸びやすくなります。
医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)で整・接骨院の正社員月給を見ると、下限と上限で4倍以上の開きがあります。この幅は、院の規模や体制の違いをそのまま映しています。
柔道整復師の求人を探す勤務時間と休日
整骨院は夕方から夜にかけて来院が集中するため、勤務時間が遅くまで伸びやすい職場です。院長になると、開院前の準備や閉院後の集計、療養費支給申請書の作成が加わります。
法定休日は毎週1回、または4週間を通じて4日以上と決まっています。休憩は労働時間が6時間を超える場合に45分以上、8時間を超える場合に1時間以上を、労働時間の途中に与えなければなりません。
休憩中も電話や来客の対応を指示されていれば、それは休憩時間ではなく労働時間として扱われます。
法定休日に働かせた場合の割増賃金は3割5分以上です。 求人条件を見ると、完全週休2日や年間休日120日以上は多数派ではありません。
分院展開している法人の場合
複数の院を持つ法人では、異動の可能性と、本部と院の役割分担が条件に関わります。仕入れや広告、採用、シフトの承認をどこまで本部が握っているかで、院長の裁量の範囲が決まります。
裁量の範囲は、管理監督者に当たるかどうかの判断にも関わる部分です。
異動の有無、勤務地の範囲、院長を外れた場合の待遇は、就任前に聞いておくと後の見通しが立てやすくなります。
参考:厚生労働省スタートアップ労働条件「しっかり学ぼう!働くときの基礎知識」
就任前に確認したいこと

打診を受けてから就任するまでの間にできることは、書類を読むことと質問することの2つです。院長という肩書ではなく、実際に負う責任と受け取る条件を言葉にしてもらいます。
労働条件通知書で確認する項目
労働契約を結ぶとき、使用者は労働条件を明示しなければなりません。始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払いの方法などは、必ず明示される事項です。
- 職務の内容と、院長として決められること・決められないこと
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日
- 賃金の内訳(基本給、役職手当、変動給)と、それぞれの算定方法
- 時間外労働と休日労働の有無、割増賃金の扱い
- 管理監督者として扱われるのかどうか
説明で聞いた条件が書面に書かれていないこともあります。後から確認できるのは書面に残った内容なので、気になる点は記載してもらえるか聞いておきましょう。
- 口頭で聞いた条件は、その場でメモして日付を残しておく
- 実務経験期間証明書は前の勤務先に依頼するので、退職の進め方まで含めて考えておく
- 就任時期を先に決めず、要件と条件が揃ってから返事をする
施術管理者になるかどうか
施術管理者として届け出るのかどうかは、就任の条件として最初に確かめたい項目です。届け出るなら、実務経験の要件を満たしているか、研修を修了しているか、まだならいつ受講するのかを決めておきます。
研修は開催回数が限られ、申込にも受付期間があります。
判断に迷うときの相談先
労働条件や割増賃金について疑問があるときは、勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署に相談できます。各都道府県労働局と主要な労働基準監督署には総合労働相談コーナーが置かれ、労働問題全般の相談を無料で受け付けています。
療養費の請求や施術管理者の要件については、管轄の地方厚生局が窓口です。所属する柔道整復師の団体に相談窓口がある場合もあります。
請求の内容に納得できないまま進めず、まず管轄の窓口で事実を確認するところから始められます。
参考:厚生労働省スタートアップ労働条件「労働条件の明示」 / 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
まとめ
整骨院の雇われ院長の年収は、金額だけを取り出しても評価できません。
公的統計に柔道整復師単独の区分はなく、院長という役職で分けた平均値もないため、出回っている相場は開業した院長の収入と混ざっている可能性があります。
院長手当が定額残業代なのか管理監督者としての処遇なのか、管理監督者に当たる実態があるのか、施術管理者として療養費の請求責任まで負うのか。この3つが決まって初めて、提示された金額を自分の働き方と比べられます。
打診を受けたら、労働条件通知書で職務の内容・労働時間・賃金の内訳・時間外労働の扱いを確かめ、施術管理者として届け出るのかを聞いてみましょう。
判断がつかない部分は、労働基準監督署や地方厚生局に事実を確認できます。


