理学療法士は開業できる?法的な線引きと事業形態別の要件
理学療法士として経験を積むうちに、自分の裁量で働きたい、収入の決め方を自分で選びたいと考えて開業を検討する人は少なくありません。
ただ何となくで開業準備を進めると、思わぬ法的リスクを抱えることになります。理学療法士の開業を左右するのは理学療法士及び作業療法士法だけではなく、あはき法や介護保険法、広告に関するルールまで含めた複数の法律だからです。
この記事では条文をもとに「開業できる事業」と「できない事業」の線引きを整理し、事業形態ごとの手続きと要件、開業前に確認しておきたい点をまとめます。
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理学療法士に「開業権」はある?

理学療法士には、医師の指示なく理学療法を提供する事業を自分の判断で開くための、資格上の裏づけがありません。根拠は理学療法士及び作業療法士法の定義規定にあります。「開業権がない」は法律に書かれた用語ではなく、この定義から導かれる実務上の言い方です。
理学療法士及び作業療法士法での位置づけ
同法第2条第3項は、理学療法士を「厚生労働大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者」と定義しています。ここには3つの要素が含まれています。
- 厚生労働大臣の免許を受けていること
- 理学療法士の名称を用いること
- 医師の指示の下に理学療法を行うこと
理学療法そのものの定義は第2条第1項にあり、身体に障害のある人に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行わせ、電気刺激・マッサージ・温熱その他の物理的手段を加えることとされています。
運動指導もマッサージも温熱も、目的が「基本的動作能力の回復」であれば理学療法の枠に入ります。
- 「開業権がない」とは、医師の指示なく理学療法を業として提供できないという意味
- 資格が制限しているのは行為の範囲であって、事業を持つことそのものではない
- 迷ったときは「提供する行為がどの法律にかかるか」から逆算して考える
理学療法は医師の指示の下で行うもの
第15条第1項は、理学療法士が保健師助産師看護師法の規定にかかわらず「診療の補助として」理学療法を行うことを業とできると定めています。診療の補助である以上、医師の診療があって初めて成り立つ行為です。
さらに見落とされやすいのが第15条第2項です。理学療法士が病院もしくは診療所において、または医師の具体的な指示を受けて理学療法として行うマッサージについては、あはき法第1条を適用しないと定めています。裏を返せば、この適用除外が働くのは条文が挙げた2つの場面に限られます。
●第15条第2項の適用除外は「病院・診療所の中」または「医師の具体的な指示」が条件
●自分の施設で医師の関与なく行う手技には、この除外は及ばない
名称独占であること
第17条第1項は、理学療法士でない人が理学療法士という名称や、機能療法士その他まぎらわしい名称を使うことを禁じています。違反した場合は第22条第2号により30万円以下の罰金です。これが名称独占で、「名乗ること」への制限にあたります。
無資格者がその行為をすること自体を禁じる業務独占とは性質が異なります。理学療法士は業務独占資格ではないため、運動指導そのものを無資格者が行っても、それだけで同法違反になるわけではありません。
一方で、理学療法士が自費サービスの看板に「理学療法士」と肩書きを出すこと自体は問題ありません。ただし名乗れることと、医師の指示なく理学療法を業として提供できることは別です。
名称独占 と 業務独占 の違い
行為そのものは資格がなくても禁じられない
名称だけでなく、行為そのものが免許者に限定される
開業できる事業とできない事業

理学療法士が始められる事業は、必要な資格や許認可の有無で3つに分かれます。「他資格の免許がなければできない事業」「行政の許認可・指定が要る事業」「許認可を要しない自費サービス」の3つです。
上位記事で見かける「整体院なら開業できる」という整理は、1つ目の線をまたいでしまう危険があります。
他資格が必要で開業できない事業
あはき法第1条は、医師以外の人があん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅうを業とする場合、それぞれの免許を受けなければならないと定めています。違反すると第13条の7により50万円以下の罰金です。
名称を変えれば回避できる、とも言えません。同法第12条は「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない」と定めており、「整体」「リラクゼーション」といった呼び方であっても、この条文の射程から自動的に外れるわけではないためです。
もっとも、第12条の運用には最高裁判所の判断があります。昭和35年1月27日の大法廷判決を受けた厚生省医務局長通知は、禁止処罰の対象が「人の健康に害を及ぼす恐れのある業務に限局される」と判示されたこと、取り締まりにあたっては施術が人体に危害を及ぼすおそれのあることの認定が必要であることを示しています。
●「整体」と名乗れば自由に施術できる、という整理は成り立たない
●適法性の判断は業務内容ごとに分かれるため、開業前に保健所や弁護士へ確認するのが安全
許認可・指定が必要な事業
介護保険や障害福祉のサービスを提供するには、都道府県または市町村から事業所ごとの指定を受ける必要があります。
介護保険法第70条第2項第1号は、申請者が都道府県の条例で定める者でないときは指定をしてはならないと定めており、誰が申請できるかは自治体の条例に委ねられています。あわせて人員・設備・運営の基準を満たすことが求められます。
ここで理学療法士が誤解しやすいのが訪問リハビリテーションです。指定居宅サービス等基準の第77条は、指定訪問リハビリテーション事業所を病院、診療所、介護老人保健施設または介護医療院であるものに限っています。
訪問リハビリは医療機関等に併設される形でしか成り立たないため、理学療法士が単独で「訪問リハビリ事業所」を立ち上げる選択肢は制度上ありません。
許認可を要しない自費サービス
健康増進や運動指導、コンディショニングのように、医療でも介護保険サービスでもない領域は、開業にあたって特別な許認可が要りません。開業のハードルが最も低く、多くの理学療法士が最初に検討する形です。
ただし許認可が不要であることと、何をしてもよいことは別です。あはき法第12条の線引き、後述する広告・表示のルール、消費者保護のルールはそのままかかります。「許認可が要らない」は「規制がない」という意味ではありません。
参考:e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」 / 厚生労働省「いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について」
理学療法士の求人を探す【事業形態別】必要な手続きと要件

同じ「開業」でも、提供できる内容と必要な手続きは形態ごとにまったく違います。ここでは代表的な6つについて、提供できる内容・必要な手続き・注意点を同じ順で整理します。
自費のコンディショニング・運動指導サービス
提供できるのは、運動指導、動作の評価、セルフケアの指導、生活動作や姿勢のアドバイスなどです。保険は使えず、料金は自由に設定できます。
手続きは開業届の提出が基本で、営業許可は不要です。所得税法第229条は開業届の提出期限を事業を開始した日の属する年分の確定申告期限までと定めています。以前の「1か月以内」という説明を載せたままの情報も残っているため、国税庁の案内で最新の扱いを確認しておくと安心です。
注意点は手技の中身です。あん摩・マッサージ・指圧に当たる行為は理学療法士の免許では行えません。疾患名を挙げて治療効果をうたうこともできません。
パーソナルジム
トレーニング指導、体力測定、動作改善のプログラム作成などが中心です。理学療法士の評価スキルは、一般のトレーナーとの差別化につながりやすい領域といえます。
特別な許認可はありませんが、物件を借りる段階で用途・床の耐荷重・防音・シャワー設備の可否を確認しておくと、あとから設備投資が膨らむのを防げます。
注意点は打ち出し方です。「リハビリ」「治療」「施術」という言葉を前面に出すと、医療サービスとの誤認を招きます。運動指導の専門性を示す民間資格を組み合わせて、提供内容を言語化する方法もあります。
通所介護(デイサービス)
介護保険の通所介護として、機能訓練や入浴・食事などのサービスを提供します。利用定員19人以上は都道府県の指定、18人以下の地域密着型通所介護は市町村の指定です。
指定申請では人員・設備・運営の基準を満たす必要があります。指定居宅サービス等基準第93条は、生活相談員・看護職員・介護職員・機能訓練指導員の配置を定めています。
理学療法士にとって有利なのは管理者要件です。同基準第94条は「専らその職務に従事する常勤の管理者」を置くことだけを求めており、資格要件を設けていません。理学療法士が管理者を務めることも、機能訓練指導員として実務に入ることもできます。
通所介護に置くべき職種と配置基準(第93条・第94条)
| 職種・役割 | 配置基準 |
|---|---|
| 生活相談員 | 提供日ごとに、提供時間帯に勤務している時間数の合計を提供時間帯の時間数で除して1以上 |
| 看護職員(看護師・准看護師) | 単位ごとに、専ら提供に当たる者を1以上 |
| 介護職員 | 単位ごとに、利用者15人までは1以上。15人を超える場合は超えた数を5で除した数に1を加えた数以上 |
| 機能訓練指導員 | 1以上(理学療法士は配置できる職種にあたる) |
| 管理者 | 専らその職務に従事する常勤者を配置(管理上支障がない場合は他の職務・他事業所の職務と兼務可)。資格要件の定めはない |
訪問看護ステーション
訪問看護ステーションは、理学療法士が関わりながら経営もできる形態として挙げられることの多い選択肢です。ただし人員基準と管理者要件を正確に押さえておく必要があります。
指定居宅サービス等基準第60条は、看護職員(保健師・看護師・准看護師)を常勤換算方法で2.5以上置き、うち1人は常勤とすることを求めています。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は「事業所の実情に応じた適当数」で、配置の下限は定められていません。つまり看護職員なしでは開設できない仕組みです。
管理者については、第61条第2項が「指定訪問看護ステーションの管理者は、保健師又は看護師でなければならない」と定めています(やむを得ない理由がある場合の例外規定あり)。理学療法士は原則として管理者になれません。
ここで区別したいのが、法人の代表者と事業所の管理者です。理学療法士が代表を務める法人が訪問看護ステーションを運営すること自体は妨げられず、管理者として保健師または看護師を配置すれば要件を満たします。経営することと、事業所を管理することは別の話です。
3つの立場と理学療法士の可否
| 立場 | 関われるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 法人の代表者(経営者) | ◯ | 理学療法士を排除する規定はない |
| 訪問に従事する職員 | ◯ | 実情に応じた適当数として配置できる(配置の下限なし) |
| 事業所の管理者 | △ | 第61条第2項/原則、保健師または看護師に限定 |
△=原則不可(やむを得ない理由がある場合の例外規定あり)
看護職員(保健師・看護師・准看護師)
2.5以上
常勤換算方法/うち1名は常勤(第60条第1項第1号イ・第2項)
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
適当数
指定訪問看護ステーションの実情に応じた人数(第60条第1項第1号ロ)
セミナー・教育・情報発信
研修講師、教材や書籍の制作、オンライン講座、執筆などです。在庫も店舗も不要で、在職中から小さく始めやすい形態です。
手続きは、事業として継続するなら開業届を出す程度です。
注意点は情報の扱いです。理学療法士及び作業療法士法第16条は業務上知り得た秘密を漏らすことを禁じており、違反は第21条で50万円以下の罰金と定められています(親告罪)。勤務先の症例、画像、データを許可なく使うことはできません。勤務先の名称を出す場合も事前の確認が必要です。
福祉用具・インソールなどの物販
インソール、クッション、自主トレ用の道具などの販売です。サービスと組み合わせて客単価を上げやすい一方、在庫リスクが生まれます。
一般的な物販に許認可は要りませんが、扱う商品によって必要な手続きが変わります。
-
介護保険の福祉用具貸与・販売都道府県の指定が必要。福祉用具専門相談員の配置が求められる
-
医療機器に当たる商品薬機法上の販売業の許可または届出が必要になる場合がある
-
一般の健康グッズ許認可は不要だが、効能効果の表示に制限がかかる
参考:e-Gov法令検索「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」 / 国税庁「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など」
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広告・表示で違法になりやすいパターン

開業後に最も現実的なリスクになるのが広告表現です。ホームページ、チラシ、SNS、口コミ依頼まで含めて、問題が起きやすいのは3つのパターンに整理できます。
治療効果をうたう表現
景品表示法第5条第1号の優良誤認表示は、商品やサービスの内容について実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示を指します。「5回で腰痛が治る」「変形性膝関節症が改善します」といった表現は、裏づけとなる合理的な根拠がなければこの類型に当たるおそれがあります。
医療機関ではない施設が疾患名を挙げて治療をうたうことは、医業との線引きの問題にもつながります。改善例を紹介する場合も、施術の効果として断定する書き方は避け、個人の感想であることや条件を明示する形が無難です。
他資格の名称や施術名を使う表現
「マッサージ」「指圧」「はり」「整骨」「接骨」は、いずれも別の国家資格の業務を示す語です。理学療法士の免許だけでこれらを看板やメニュー名に掲げることはできません。
あはき法には広告そのものへの制限もあります。第7条第1項は、あん摩業・マッサージ業・はり業・きゅう業やこれらの施術所について、広告できる事項を次の範囲に限定しています。
- 施術者である旨、氏名および住所
- あはき法第1条に規定する業務の種類
- 施術所の名称、電話番号、所在の場所を表示する事項
- 施術日または施術時間
- その他厚生労働大臣が指定する事項
同条第2項は、これらを広告する場合でも施術者の技能・施術方法・経歴に関する事項にわたってはならないとしています。違反は第13条の8により30万円以下の罰金です。免許を持つ人でさえこの範囲でしか広告できない以上、免許のない業種がこれらの語を使うことのリスクは小さくありません。
医療機関と誤認させる表現
医療法の広告規制について、適用範囲を正確に押さえておく必要があります。第6条の5が対象としているのは医業・歯科医業または病院・診療所に関する広告であり、自費サービスの施設がそのまま規制を受けるわけではありません。医療広告ガイドラインも、病院や診療所に向けて示された指針です。
ただし別の条文が関わります。医療法第3条第1項は、疾病の治療をする場所であって病院または診療所でないものについて、病院・病院分院・産院・療養所・診療所・診察所・医院その他病院または診療所に紛らわしい名称を付けてはならないと定めています。「クリニック」「〇〇医院」といった呼称は、この規定に触れるおそれがあります。
「治療院」は条文に列挙された語ではありません。ただ、疾病の治療をする場所と受け取られる名称を使えば、医業との線引きの問題を自ら招くことになります。屋号は開業後に変えにくい部分なので、決める段階で慎重に検討しておきたいところです。
| 避けたい表現 | 問題になる理由 | 書き換えの方向 |
|---|---|---|
| 「腰痛が治ります」「変形性膝関節症が改善」など効果を断定する表現 | 合理的な根拠がなければ景品表示法第5条第1号の優良誤認表示に当たるおそれがある。医療機関でない施設が疾患名を挙げて治療をうたう点でも問題になる | 提供する内容(運動指導・動作の評価)を事実として書く。改善例を挙げる場合は条件と個人の感想であることを明示する |
| 「マッサージ」「指圧」「はり」「整骨」「接骨」をメニュー名や看板に使う | いずれも別の国家資格の業務を示す語であり、あはき法第1条で免許が必要とされる業務にあたる | 実際に提供する行為の名称(運動指導、コンディショニング、トレーニング指導)に置き換える |
| 「〇〇クリニック」「〇〇医院」といった屋号 | 医療法第3条第1項が、疾病の治療をする場所で病院・診療所でないものに、病院・診療所と紛らわしい名称を付けることを禁じている | 医療機関と読み取られない屋号にする。屋号は開業後に変えにくいため、決める段階で検討する |
参考:消費者庁「表示規制の概要」 / 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」
開業までの準備の流れ

法的な線引きが整理できたら、実務の準備に入ります。順序を間違えると、物件を借りてから提供内容を変えられない、資金が尽きて広告を打てない、といった詰まり方をしやすくなります。
提供するサービスと対象を決める
誰の、どんな困りごとに、どう応えるのかを先に決めます。ここが曖昧なまま物件や設備を選ぶと、あとから方向転換ができません。
対象を決める際は、勤務先で扱ってきた患者さんの層をそのまま持ち込めるとは限らない点に注意が必要です。医療機関では医師の診断があり、保険で費用の大半が賄われていました。自費サービスでは、診断がない状態の人が、全額自己負担で来店します。
同じ症状でも来店の動機と払える金額が変わるため、提供内容も設計し直すことになります。
事業形態と資金計画を立てる
個人事業か法人か、自費サービスか指定を受ける事業かによって、必要な資金も手続きも変わります。介護保険や障害福祉の事業を選ぶなら、申請者の要件を自治体の条例で確認したうえで法人設立の要否を判断します。
日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査によると、開業費用は平均975万円、中央値600万円でした。全業種を対象にした数値ですが、長期的には少額化が進んでいます。
計画で見落とされやすいのが運転資金です。同調査では現在の採算状況が「赤字基調」の事業者が33.0%を占めています。売上が立つまでの家賃・人件費・生活費を含めて見積もっておく必要があります。
調査対象は公庫融資先・全業種
必要な売上は、単価・件数・稼働日数に分解すると現実味が出ます。たとえば月の固定費が40万円で、自分の生活費に30万円が要るなら、月商70万円が損益の目安です。
単価8,000円なら月88件、月22日稼働で1日4件。この数字を埋められる見込みが立つかどうかが、開業時期の判断材料になります。
物件・設備と届出を進める
提供内容が固まってから物件を探します。指定を受ける事業では設備基準が決まっているため、契約前に指定権者へ図面を持ち込んで相談するのが確実です。自費サービスでも、用途地域・管理規約・原状回復の条件は契約前に確認しておきましょう。
届出は事業形態ごとに異なります。
- 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を税務署へ提出する
- 青色申告を選ぶなら所得税の青色申告承認申請書を出す
- 法人を設立するなら定款作成・登記を行う
- 介護保険・障害福祉の事業なら指定申請を行う
- 人を雇うなら労働保険・社会保険の手続きを行う
集客の導線をつくる
前述の新規開業実態調査では、開業時に苦労したこととして最も多く挙がるのは「資金繰り、資金調達」ですが、開業後に苦労していることでは「顧客・販路の開拓」が最多に入れ替わります。
資金は開業前に片がつくのに対し、集客は開業後もずっと続く課題という構図です。
開業時と現在で苦労していることの変化
三つまでの複数回答のため、各回答の合計は100%にならない
導線は開業前から動かしておくと立ち上がりが変わります。勤務先の利用者さんを引き抜く形は、就業規則や信義則の問題になるため避けたいところです。
代わりに、地域の医療機関やスポーツクラブとの関係づくり、体験会や講座の開催、SNSでの情報発信など、自分の名前で人が集まる状態を先につくっておく方法があります。
理学療法士の求人を探す開業前に確認しておくこと

開業の可否そのものとは別に、在職中の立場、事故が起きたときの備え、社会保険と税の切り替えは、後回しにすると取り返しがつきにくい部分です。
在職中の副業規定
会社員の副業は法律で一律に禁じられているわけではなく、勤務先の就業規則で定められます。届出制か許可制か、競業避止の条項があるか、開業届を出す行為自体が対象になるかを確認しましょう。
公務員は扱いが異なります。国家公務員法第103条第1項は、営利企業を営むことを目的とする会社等の役員を兼ねること、および自ら営利企業を営むことを禁じています。第104条は、報酬を得て事業に従事する場合に内閣総理大臣および所轄庁の長の許可を要すると定めています。
地方公務員法第38条第1項も同様に、任命権者の許可なく営利企業を営むこと、報酬を得ていかなる事業にも従事することを禁じています(非常勤職員は除く)。
在職中の副業・開業準備における立場別の制限
| 立場 | 根拠 | 必要な手続き |
|---|---|---|
| 民間の医療機関・企業に勤務 | 法律による一律の禁止はなく、勤務先の就業規則による | 就業規則で届出制か許可制か、競業避止の条項があるかを確認する |
| 国家公務員 | 国家公務員法第103条第1項(営利企業の役員・顧問・評議員を兼ねること、自ら営利企業を営むことの禁止)、第104条(報酬を得て事業に従事する場合の許可) | 第103条は所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合に適用しない。第104条は内閣総理大臣および所轄庁の長の許可が必要 |
| 地方公務員 | 地方公務員法第38条第1項(任命権者の許可なく、営利企業の役員等を兼ね、自ら営利企業を営み、または報酬を得て事業・事務に従事することを禁止。非常勤職員は除く) | 任命権者の許可が必要 |
損害賠償への備え
施術中の転倒や、運動指導中の受傷は、自費サービスでも起こり得ます。事業者として賠償責任を負う場面に備えて、保険の内容を確認しておきましょう。
日本理学療法士協会の理学療法士賠償責任保険は、会費を納めた会員に自動付与される基本プランと、任意加入の上乗せ補償プランで構成されています。基本プランの身体賠償の支払限度額は1事故300万円です。ただし対象となる業務の範囲や、個人事業として提供する自費サービスが補償に含まれるかは、加入時の条件によって変わります。
開業を前提にするなら、補償範囲を個別に確認したうえで、必要に応じて事業者向けの保険を検討する形になります。
賠償責任保険は「加入しているか」より「その事業形態が対象か」を確認する
施設の設備が原因の事故は、施術の賠償とは別の補償区分になることがある
社会保険と税の切り替え
退職して開業すると、健康保険と年金は自分で切り替えることになります。
健康保険は協会けんぽの任意継続か国民健康保険のいずれかを選び、年金は厚生年金から国民年金の第1号被保険者に切り替えます。どちらにも申請期限があり、過ぎると選べる幅が狭まります。
任意継続と国民健康保険は、保険料の計算方法が違います。任意継続は退職時の標準報酬月額(上限あり)をもとに全額自己負担、国民健康保険は前年所得と自治体ごとの保険料率で決まります。
どちらが安いかは人によって逆転するため、退職前に市区町村の窓口で国民健康保険の試算を取り、任意継続の保険料と比べておくと判断できます。任意継続は20日という期限が短いので、退職日が決まった時点で動き始めるのが無難です。
退職・開業にともなう手続き期限
参考:全国健康保険協会「任意継続」 / 日本年金機構「国民年金に加入するための手続き」
転職活動するなら?
開業以外に収入や裁量を広げる選択肢

開業は、裁量と収入の上限を広げる手段の一つであって、唯一の答えではありません。資金や法令のリスクを負わずに近い目的を達成する道もあります。
管理職・事業運営に関わる
リハビリテーション科の主任や科長、事業所の管理者になると、人員配置、サービス内容、採用、収支に関わる判断を任されます。通所介護のように管理者に資格要件がない事業では、理学療法士が管理者に就くことも十分にあり得ます。
経営の経験を組織の中で積めるため、将来的に開業を考えている人にとっては準備期間としても機能します。事業所の収支構造を把握し、指定基準の運用を実務として理解できる立場は、外からは得にくいものです。
業務委託で働く
雇用契約ではなく業務委託として、訪問リハビリや自費サービス、企業の健康支援などに関わる形です。単価が時給換算で高く設定されることがあり、複数の依頼先を組み合わせて働く人もいます。
一方で、社会保険は自分で加入し、有給休暇や雇用保険の保護は受けられません。仕事が途切れれば収入も止まります。医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)では、理学療法士(PT)の求人6,409件のうち業務委託は1件で、求人として公開される機会は限られています。
関係先からの紹介や直接の依頼で成立することが多い働き方といえます。
| 雇用契約正社員・パート | 業務委託 | |
|---|---|---|
| 社会保険 | 勤務先の健康保険・厚生年金に加入する。保険料は労使折半 | 国民健康保険・国民年金に自分で加入する。保険料は全額自己負担 |
| 雇用保険 | 加入する。失業時の給付の対象になる | 対象外 |
| 有給休暇 | 労働基準法に基づき付与される | 制度としてない |
| 労災 | 労働者災害補償保険の対象 | 原則として対象外。特別加入の制度はある |
| 収入 | 勤務先から定期的に支払われる | 契約が終われば途切れる。複数の依頼先を組み合わせる働き方もできる |
| 働き方の裁量 | 勤務先の指揮命令に従う | 契約した業務の範囲で自分の裁量が大きい |
副業から小さく始める
いきなり退職せず、勤務を続けながらセミナー講師や執筆、週末の自費セッションから試す方法です。固定費を抱えずに需要を確かめられるため、判断を誤ったときの損失を抑えられます。
ただし前提となるのが勤務先の副業規定です。同じ求人データで「副業・WワークOK」の条件が付いた理学療法士(PT)求人は100件、全体の2%にとどまります。副業を前提にするなら、転職の段階で副業可の職場を選んでおくという順序も選択肢になります。
まとめ
理学療法士の開業は、「できる・できない」の二択ではなく、事業内容ごとに適用される法律が変わる話です。理学療法士及び作業療法士法が定めるのは医師の指示の下で理学療法を行う立場であり、あん摩・マッサージ・指圧などは別の免許が必要な業務です。
事業形態ごとの要件も一律ではありません。通所介護は管理者に資格要件がない一方、訪問看護ステーションの管理者は保健師または看護師に限られ、訪問リハビリ事業所は医療機関等でなければ開設できません。
開業後は広告表現が現実的なリスクになり、治療効果の標榜、他資格の業務を示す語の使用、医療機関と紛らわしい名称の3点が特に問題になりやすい部分です。
進めるなら、提供内容を決めてから資金計画を立て、物件と届出を進める順序が安全です。判断に迷う部分は保健所や指定権者、弁護士へ確認しましょう。


