企業内診療所の薬剤師の働き方とは?仕事内容・年収と求人の探し方を解説
「企業内診療所 薬剤師」と検索しても、出てくるのは関係ない求人ばかりで、実際にどんな働き方なのかが見えてこない。そう感じている方は少なくありません。土日祝休みで残業が少なく、大企業の福利厚生も受けられる。そんなイメージが先行しやすい職場です。
しかし実際には、企業に直接雇われるのか、診療所の運営を受託している事業者に雇われるのかによって、年収も福利厚生も、そもそも求人を探す方法まで変わります。
この記事では、企業内診療所がどのような施設なのかを医療法の定義から整理したうえで、薬剤師の仕事内容、雇用形態ごとの違い、年収の決まり方、メリットとデメリット、そして求人の具体的な探し方までを解説します。
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企業内診療所とは?

企業内診療所は、従業員の健康管理のために企業が設けた医療施設です。事業所内診療所と呼ばれることもあります。まずは医療法上どのような位置づけなのか、産業保健の窓口である健康管理室や医務室と何が違うのか、そしてどのくらいの数があるのかを順に確認していきます。
企業内診療所の位置づけ
医療法では、診療所を「医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所」と定義しています。入院設備を持たないか、持つ場合でも19人以下の病床であるものが診療所です。
注目したいのは「特定多数人のため」という部分です。地域の患者さんを広く受け入れていなくても、自社の従業員とその家族だけを対象としていても、医師が医業を行う場所であれば医療法上の診療所にあたります。
開設の手続きは、誰が開設者になるかで変わります。医師が開設する場合は、開設後10日以内に都道府県知事へ届け出れば足ります。一方、会社が開設者となる場合は、届出ではなく都道府県知事の許可が必要です。
また、保険医療機関の指定を受けて保険診療を行う施設もあれば、指定を受けずに企業が費用を負担する形で運営している施設もあります。どちらの形をとるかで、従業員の自己負担や診療報酬の請求業務の有無が変わります。
健康管理室・医務室との違い
求人票では「健康管理室」「医務室」という言葉もよく見かけますが、これらは企業内診療所とは別物として扱われる場合があります。
医療法は、病院でも診療所でもない場所に、診療所・診察所・医院といった紛らわしい名称を付けることを禁じています。産業医や保健師が健康相談や保健指導にあたる部屋を「健康管理室」「医務室」と呼ぶのは、この名称の制限も背景にあります。
違いは名前だけではありません。診療所として開設されていない施設では、医師が診療の結果として処方箋を交付する場面が生じません。処方箋がなければ、薬剤師が調剤を行う業務もそもそも発生しないことになります。健康管理室で薬剤師が担うのは、健康相談や保健指導の補助、市販薬に関する情報提供といった業務が中心です。
| 比較項目 | 企業内診療所 | 健康管理室・医務室 |
| 医療法上の位置づけ | 診療所として開設 | 開設されていない場所 |
| 名称制限 | 医療法3条1項により「診療所」等の名称を使用できる | 「診療所」等の紛らわしい名称は使用できない |
| 処方箋の発行 | 医師の診療行為として発生する | 発生しない |
| 調剤業務の有無 | 院内処方の調剤が発生する | 対象にならない |
| 薬剤師の主な業務 | 調剤・服薬指導 | 健康相談・保健指導の補助 |
求人票の表記だけでは、この区別はつきません。応募前に確認しておきたい点を整理します。
「医務室」の求人で確認したいこと
- 医療法上の診療所として開設されているか
- 常勤の医師が診療を行っているか
- 院内処方を行っており、調剤業務があるか
- 保険医療機関の指定を受けているか
- 薬剤師が調剤以外に担当する業務は何か
企業内診療所を設置している企業
企業内診療所を持つ企業は、どのくらいあるのでしょうか?
厚生労働省の医療施設調査によると、令和6年10月1日現在、全国の一般診療所105,207施設のうち、開設者が「会社」となっている施設は1,471施設で、全体の1.4%でした。このほか、健康保険組合およびその連合会が開設する一般診療所が262施設あります。企業に関係する診療所を合わせても、全体の2%に届きません。
しかも、この数は長期的に減り続けています。平成14年には2,550施設あった会社立の一般診療所は、20年あまりで4割以上減少しました。
一方で、労働安全衛生法施行令により、常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医の選任が義務づけられています。産業医がいる企業は数多くありますが、そのうち診療所まで開設している企業はごく一部にとどまる、という関係になります。
参考:e-Gov法令検索「医療法」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」 / 政府統計の総合窓口(e-Stat)「医療施設調査 令和6年医療施設(動態)調査 全国編 第4表 一般診療所数,年次・開設者別」
薬剤師の求人を探す企業内診療所で働く薬剤師の仕事内容

企業内診療所の薬剤師は、調剤室にこもって処方箋をさばく働き方とは少し違います。調剤と服薬指導を軸にしながら、医薬品の管理や従業員の健康管理支援まで担当範囲が広がるのが特徴です。衛生管理者を兼務する求人もあります。
調剤と服薬指導
企業内診療所での調剤は、院内処方が基本になります。これは運用上の慣習ではなく、法律の建て付けから来ています。
薬剤師法は、薬局以外の場所で販売または授与の目的で調剤することを原則として禁じています。例外として認められているのが、病院・診療所の調剤所において、その病院・診療所で診療に従事する医師の処方せんによって調剤する場合です。
つまり企業内診療所の薬剤師が調剤できるのは、その診療所の医師が発行した処方箋に限られます。近隣の医療機関から持ち込まれた処方箋を受けることはできません。診療科は内科を中心とした構成が多いため、扱う医薬品も自然と限られた範囲に落ち着きます。
調剤後の服薬指導は、薬剤師法で定められた義務です。調剤した薬剤の適正な使用のため、必要な情報提供と薬学的知見にもとづく指導を行う必要があります。相手が毎日顔を合わせる同じ会社の従業員である点は、薬局や病院とは異なる部分です。
医薬品の在庫管理
院内で使う医薬品の発注、検収、在庫数の管理、使用期限のチェックまでを担当します。麻薬や向精神薬を扱う場合は、鍵をかけた堅固な設備での保管や帳簿の記録といった法令上の管理も必要です。
薬剤師が一人で勤務している診療所では、これらをすべて自分で回すことになります。処方の傾向を読んで発注量を調整する、期限切れの廃棄を出さないよう回転を管理するといった判断も、相談相手なしで行う場面が出てきます。
従業員の健康管理の支援
企業内診療所の薬剤師は、産業保健の一端を担うこともあります。
労働安全衛生法は、事業者に対して労働者への健康診断の実施を義務づけています。健診の結果に異常の所見があった場合には、医師の意見を聴き、必要に応じて就業場所の変更や労働時間の短縮といった措置を講じることも求められます。
薬剤師が関わるのは、この流れの中の支援業務です。健診結果にもとづく保健指導の補助、生活習慣病の予防に関する情報提供、服薬中の従業員へのフォロー、メンタルヘルスに関する相談の入り口といった場面で、産業医や保健師と連携します。
病気の人を待つのではなく、健康な人に働きかける点が、調剤薬局や病院との大きな違いです。
衛生管理者としての業務
企業内診療所の求人では、衛生管理者との兼務を条件に挙げているものがあります。
労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場は衛生管理者を選任しなければなりません。衛生管理者は、職場の作業環境や労働衛生に関する事項を管理し、少なくとも毎週1回は作業場を巡視する役割を担います。
薬剤師にとって見逃せないのは、労働安全衛生規則の別表第四により、薬剤師免許を持つ人は試験を受けずに第一種衛生管理者免許を取得できる点です。免許申請の手続きだけで済むため、企業側にとっても採用のメリットになります。診療所業務と衛生管理者を兼務する求人が出てくるのは、この背景があるからです。
参考:e-Gov法令検索「薬剤師法」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生法」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
企業内診療所で働く薬剤師の雇用形態

企業内診療所を探すときに最初につまずくのが、ここです。「大企業の社員として働ける」と考えて企業の採用ページを見に行っても、募集が見つからないことがあります。
同じ企業内診療所で働いていても、雇用主は一通りではありません。企業に直接雇われる形、診療所の運営を受託している事業者に雇われる形、派遣やパートで勤務する形があります。誰に雇われるかで、年収も福利厚生も、求人の探し場所も変わります。
| 企業の直接雇用 | 運営受託事業者 | 派遣・パート | |
|---|---|---|---|
| 雇用主 | 企業本体 | 医療法人等の受託事業者 | 派遣元 |
| 給与の決まり方 | 会社の給与テーブル | 受託事業者の給与規程 | 時給ベースが中心 |
| 福利厚生 | 健康保険組合・社宅・企業年金など他の社員と同じ制度 | 受託事業者の制度(企業の社宅・企業年金は対象外) | 派遣元の制度 |
| 求人の出どころ | 会社の採用サイト・一般求人媒体に単発掲載 | 受託事業者側の採用ページ | 紹介予定派遣かパート募集が中心 |
企業に直接雇用される場合
会社が開設者となって診療所を運営し、薬剤師もその会社の従業員として採用される形です。
この場合、給与は会社の給与テーブルにもとづいて決まり、福利厚生も他の社員と同じ制度が適用されます。健康保険組合、社宅や住宅補助、財形貯蓄、企業年金といった制度をそのまま使えるのが利点です。
一方で、募集は会社の採用サイトや一般の求人媒体に「専門職」として出ることが多く、薬剤師専門の転職サイトには載らない場合があります。診療所の薬剤師が退職しない限り欠員が出ないため、募集はあっても1名という単発の求人になりがちです。
診療所の運営受託事業者に雇用される場合
企業が診療所の運営を外部に委託しているケースもあります。医療法人や、企業内診療所の運営を専門に手がける事業者が受託し、そこに所属する医師や薬剤師が実際の診療所で勤務する形です。
この形では、勤務地は企業のオフィスや工場の中でも、雇用主・給与・評価制度・福利厚生はすべて受託事業者のものになります。企業の社宅や企業年金は使えません。反面、受託事業者が複数の診療所を運営していれば、勤務先を変えながらキャリアを続けられる可能性があります。
企業の採用ページを見ても募集が見つからないのは、募集主体が受託事業者側になっているためかもしれません。
派遣やパートで勤務する場合
「派遣で企業内診療所へ」という選択肢を挙げる記事もありますが、ここには法令上の制約があります。
労働者派遣法とその施行令は、薬剤師法第19条に規定する調剤の業務のうち、病院等または介護医療院で行われるものへの労働者派遣を禁じています。ここでいう「病院等」は、医療法上の病院と診療所を指します。同法の施行規則は「病院等」から除かれる施設を列挙していますが、その中に企業内診療所は含まれていません。
したがって、医療法上の診療所として開設されている企業内診療所で、調剤業務を派遣として行うことは原則としてできません。例外は、紹介予定派遣として行う場合と、就業場所がへき地にある場合に限られます。
「派遣」と書かれた求人を見かけた場合は、診療所ではない健康管理室の業務なのか、紹介予定派遣なのかを確認しておくと安心です。
短時間勤務やパートの募集は実際に存在します。診療所の開所時間が企業の就業時間や昼休みに合わせて短く設定されていると、常勤枠を置きにくいためです。働き方の自由度は高くなる一方、勤務時間が短いぶん収入の見込みは常勤と大きく変わります。
参考:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令」 / e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則」
今のあなたの状況は?
企業内診療所で働く薬剤師の年収と勤務条件

企業内診療所の薬剤師に限定した公的な給与統計は存在しません。ネット上には「年収500万円程度」「時給2,000円程度」といった数字が並んでいますが、出典が確認できないものがほとんどです。
雇用形態と勤務時間で前提がまったく変わる以上、単一の金額を目安にするのは避けたほうが安全です。ここでは薬剤師全体の水準を押さえたうえで、年収がどう決まるのかを見ていきます。
年収の目安と決まり方
まず基準になる数字を確認します。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によると、薬剤師(全国・男女計)のきまって支給する現金給与額は月額398,700円、年間賞与その他特別給与額は883,500円でした。集計対象の平均年齢は40.1歳、平均勤続年数は8.6年です。
これはあくまで薬剤師全体の平均で、企業内診療所に限った数値ではありません。実際の年収は、次の3つで決まります。
- 誰に雇われるか|企業の直接雇用なら企業の給与テーブル、受託事業者なら受託側の給与規程が適用される
- 常勤か短時間勤務か|パート・短時間の募集が中心の職場では、年収の総額は常勤前提の相場と一致しない
- 兼務や手当があるか|衛生管理者や管理者を兼務する場合、手当が加算されることがある
求人票を見るときは、金額そのものより募集主体がどこで、どの雇用形態の金額なのかを先に確認したほうが、ずれが起きにくくなります。
- 正社員932件の月給は中央値35万円。21.5万円から55万円まで幅があります
- 業態別の月給中央値は調剤薬局36.5万円、病院30.1万円です
- パート・アルバイトの募集は518件。求人の3分の1超が短時間の枠です
勤務時間と休日
企業内診療所は、その企業の就業時間に合わせて開所します。オフィスや工場が動いていない時間帯に診療所だけ開ける必要がないためです。結果として、始業・終業が企業の勤務時間と同じになり、土日祝が休みになる職場が多い傾向があります。
ただし、これは企業の稼働状況によります。交替勤務で工場が動いている事業所や、土曜出勤のある企業では、診療所も同じスケジュールで動く場合があります。企業内診療所なら必ず土日祝休み、とはいえません。
参考までに、医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)では、薬剤師求人1,450件のうち土日祝休みの求人は3%、日祝休みは53%でした。薬剤師の求人全体で見ると、土日祝休みはかなり少数派です。企業内診療所がこの条件を満たしやすいことは、応募が集まりやすい理由にもなっています。
福利厚生
福利厚生は、雇用形態と直結します。
企業に直接雇用される場合は、その企業の制度がそのまま適用されます。健康保険組合、社宅・住宅補助、企業年金、持株会など、規模の大きい企業ほど制度は手厚くなります。企業内診療所を持てる規模の企業であれば、この点は期待できる部分です。
一方、受託事業者に雇用される場合や派遣の場合は、雇用元の制度が適用されます。勤務先が大企業のオフィスでも、その企業の社宅や企業年金を使えるわけではありません。求人票に書かれた福利厚生が誰の制度なのかは、確認しておきたいところです。
企業内診療所で働くメリット

企業内診療所が薬剤師に選ばれる理由は、働き方の安定性と、産業保健に関われる点に集約されます。ここでは4つの側面から見ていきます。
勤務時間が読みやすい
診療所の開所時間が企業の就業時間と連動しているため、終業時刻が読みやすくなります。夕方以降に患者さんが集中する調剤薬局や、緊急入院に対応する病院と比べると、想定外の残業が発生しにくい環境です。
来院するのは同じ建物や敷地内で働く従業員で、その多くは始業前、昼休み、就業後に立ち寄ります。来院のタイミングがある程度読めるため、1日の業務量を自分で組み立てやすい点も特徴です。
夜勤や日曜出勤が発生しにくい
企業が稼働していない時間帯に診療所を開ける必要がないため、夜勤やオンコールは基本的にありません。日曜出勤も、企業自体が休みであれば発生しません。
ほかの職場と比べると、生活リズムを一定に保ちやすい職場です。夜勤手当がないぶん収入面では差が出ますが、体調管理や家庭との両立を優先したい段階では、選択肢に入ってきます。
- 企業の休業日に連動して休みやすい
- 来院タイミングが読みやすい
- 緊急対応で勤務が不規則になりやすい
- 店舗によっては休日出勤が発生する
- 営業時間が長く不規則になりやすい
健康な人と関わる産業保健に携われる
企業内診療所を訪れる従業員の多くは、日常的に働いている健康な人です。軽い体調不良の相談、健診結果についての質問、常用薬の確認といった内容が中心になります。
治療から一歩手前の予防や健康の維持に関わる点が、この職場の特徴です。同じ人と長く関わるため、生活習慣の変化や服薬状況を継続的に把握できます。産業医や保健師とチームを組んで働く経験は、他の職場では得にくいものです。
通勤環境が整いやすい
企業内診療所は、企業の本社や主要な事業所の中に置かれます。本社であれば主要駅の近く、工場であれば通勤バスや駐車場が整備されているなど、通勤の負担が読みやすい立地になりやすい傾向があります。
社員食堂や休憩スペースといった施設を使える職場もあります。診療所そのものの設備は小規模でも、建物全体の環境は整っているというのが、一般的な診療所との違いです。
お探しの求人は?
企業内診療所で働くデメリット

働きやすさが目立つ職場ですが、キャリアの観点では慎重に考えたい点もあります。応募を決める前に、次の4つは押さえておきたいところです。
求人の絶対数が少ない
前述のとおり、会社が開設者となっている一般診療所は全国で1,471施設です。1施設あたりの薬剤師は1名から数名で、欠員が出なければ募集は発生しません。
厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、届出薬剤師329,045人のうち診療所に従事しているのは5,695人で、全体の1.7%にとどまります。薬局の197,437人(60.0%)、病院の57,595人(17.5%)と比べると、その差は明らかです。
この統計には地域の一般診療所も含まれているため、企業内診療所だけを取り出せばさらに少なくなります。求人が出るまで待つのではなく、出たときに動ける準備をしておく必要がある職場です。
薬剤師が一人体制になりやすい
診療所の規模から、薬剤師は1名という体制が一般的です。
判断に迷う処方があっても、その場で相談できる同僚がいません。疑義照会は自分で医師に確認し、在庫管理も自分で完結させることになります。休暇を取るときの代替要員が確保しにくく、長期の休みを取りづらいという声もあります。
新人教育や研修の仕組みが職場内にないため、知識のアップデートは自分で計画して進める必要があります。学会や研修会の参加費を会社が負担してくれるかどうかは、応募前に確認しておきたい点です。
扱う医薬品の範囲が限られる
前述のとおり、企業内診療所で調剤できるのは、その診療所の医師が発行した処方箋に限られます。診療科は内科を中心とした構成が多いため、扱う医薬品も限られた範囲に収まります。
これは業務の負担が軽いという意味では利点ですが、キャリアの面では別の見方が必要です。抗がん剤の調製、無菌製剤処理、小児や高齢者への複雑な用量調整といった経験は積みにくく、数年勤めても調剤スキルの幅が広がりにくい可能性があります。
臨床経験を厚くしたい段階の人や、認定・専門薬剤師の取得を目指している人にとっては、慎重に考えたい選択です。認定資格の中には、病院での症例経験を要件にしているものもあります。
収入が下がる場合がある
企業内診療所への転職で年収が下がるケースは珍しくありません。理由は主に3つあります。
- 病院からの転職では、夜勤手当・当直手当がなくなる
- 調剤薬局の給与水準と比べると、企業の給与テーブルのほうが低くなることがある
- 短時間勤務やパートの募集が中心の職場では、勤務時間そのものが減る
一方で、企業の福利厚生や退職金制度、賞与の水準まで含めると、額面の月給だけでは比較できません。月給・賞与・退職金・福利厚生を合わせた総額で判断することをおすすめします。
参考:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
薬剤師の求人を探す企業内診療所の薬剤師求人の探し方

ここでは4つの方法を並べて紹介します。
転職エージェントに相談する
企業内診療所の求人は、非公開で扱われやすい性質があります。募集人数が1名と少ないため公募すると応募が集中しやすいこと、企業名を伏せたまま探したいという事情があることが理由です。
エージェントを使う場合は、条件を具体的に伝えるほど紹介の精度が上がります。次のような形で伝えておくと、企業内診療所以外の選択肢まで含めて提案を受けられます。
- 企業内診療所・事業所内診療所を希望していること
- 勤務地の範囲(沿線・通勤時間の上限)
- 希望する雇用形態(常勤・短時間・パート)
- 衛生管理者などの兼務が可能かどうか
- 希望条件に合う求人が出た際に連絡してほしいこと
診療所の運営受託事業者の採用ページを見る
前述のとおり、企業内診療所の運営を外部の事業者が受託しているケースがあります。この場合、募集は受託事業者側から出るため、企業の採用ページをいくら見ても求人は見つかりません。
企業内診療所の運営受託を手がける事業者や、産業保健サービスを提供する事業者、医療法人の採用情報を直接確認する方法があります。募集の主体が企業だけではないと知っているかどうかで、探せる範囲が変わります。
事業者のサイトでは「産業保健」「健康管理室運営」「事業所内診療所」といった言葉でサービスを説明していることが多いため、その語で検索すると候補が見つかりやすくなります。
転職活動するなら?
求人サイトで検索条件を絞り込む
求人サイトでは、「企業内診療所」という言葉で検索しても該当件数が伸びないことがあります。掲載側が別の表記を使っているためです。
検索に使う語を広げるだけで、たどり着ける求人の範囲は変わります。
- 企業内診療所
- 事業所内診療所
- 健康管理室
- 医務室
- 健康管理センター
- 産業保健
このうち健康管理室・医務室は、前述のとおり診療所として開設されていない場合があります。ヒットした求人については、業務内容に調剤が含まれているかを個別に確認してください。勤務地を都道府県ではなく沿線や市区町村で絞ると、通勤圏の求人を見落としにくくなります。
応募条件を確認する
企業内診療所の求人は、未経験可の募集が多い職場ではありません。薬剤師が一人体制になりやすく、指導役がいない前提で採用するためです。
一定年数以上の調剤経験を求める募集が中心で、即戦力であることが前提になりやすい傾向があります。衛生管理者免許の取得を条件や歓迎要件に挙げる求人もあります。薬剤師であれば試験なしで第一種衛生管理者免許を申請できるため、応募前に取得しておくと選択肢が広がります。
そのほか、求人票では次の点を確認しておくと、入職後のずれを防げます。
- 雇用主が企業本体か、運営受託事業者か
- 医療法上の診療所か、健康管理室・医務室か
- 薬剤師の配置人数と、休暇取得時の代替体制
- 調剤以外に担当する業務(衛生管理者・健診事務など)
- 研修費用や学会参加費の補助があるか
まとめ
企業内診療所は、医療法上の診療所として開設された、従業員のための医療施設です。会社が開設者となっている一般診療所は全国で1,471施設、全体の1.4%にとどまり、診療所に従事する薬剤師も全体の1.7%という規模感の職場になります。
働き方の面では、勤務時間が読みやすく夜勤がない点、健康な人と関わる産業保健に携われる点が魅力です。一方で、求人の絶対数が少ないこと、一人体制になりやすいこと、扱う医薬品の範囲が限られることは、キャリアの段階によって評価が分かれます。
探すうえで最も大事なのは、雇用主が誰なのかを見極めることです。企業の直接雇用か、運営受託事業者か、短時間勤務かによって、年収も福利厚生も、求人が掲載される場所も変わります。企業の採用ページだけを見ていて募集が見つからないのは、探す場所が違っているだけかもしれません。
検索に使う語を「事業所内診療所」「健康管理室」「医務室」まで広げ、運営受託事業者の採用情報も確認しながら、条件に合う求人が出たときに動けるよう準備しておくことをおすすめします。まずは自分の希望条件を整理するところから始めてみてください。





