看護師は転職で給料が下がる?|現職と転職先の年収を正しく比べる方法
転職を考えたときに気になるのが、「今より給料が下がってしまうのではないか」という不安ではないでしょうか。看護師の給与は基本給・夜勤手当・時間外手当・賞与などが積み重なってできており、そのうちどれが変わるかで年収は数十万円単位で動きます。
求人票の月給に何が含まれているかを確認しないまま応募すると、入職後に「思っていた額と違う」ということが起こります。
この記事では、求人票の給与欄を分解して読む方法と、現職と転職先を同じ条件で比べる手順を、公的データをもとに解説します。
気になることを
キャリアパートナーに相談できます
気になる内容をお選びください(複数選択可)
看護師は転職で給料が上がる?下がる?

厚生労働省の令和7年雇用動向調査によると、転職した人のうち前職より賃金が増加した人は40.8%、減少した人は31.0%、変わらない人は25.5%でした。全産業を対象とした調査ですが、転職すれば必ず上がるわけでも、必ず下がるわけでもないことが分かります。
分かれ目になるのは、給与の内訳のどこが変わるかです。看護師の給与は固定的な部分と変動する部分に分かれており、それぞれ動き方が違います。
上がるケース
給料が上がるのは、基本給そのものが上がるか、変動部分が増えるかのどちらかです。
令和7年賃金構造基本統計調査では、看護師の「きまって支給する現金給与額」は月365,900円、そのうち残業や夜勤を含まない「所定内給与額」は333,200円でした。差額の32,700円が時間外・深夜・休日労働に対する手当で、年間では約39万円になります。夜勤の回数が増える職場や、夜勤手当の単価が高い職場に移ると、この部分が伸びます。
基本給側では、法人ごとの給与規程の差が効きます。同じ経験年数でも初任給の設定や昇給幅は法人によって異なり、賞与の月数にも差があります。前職の経験年数を評価してもらえた場合も、スタート時点の基本給が上がります。
下がるケース
下がるケースで多いのは、基本給は同水準なのに変動部分が減るパターンです。夜勤のある病棟から日勤のみのクリニックや健診センターに移れば、前述の変動部分はほぼゼロに近づきます。基本給が多少上がっても、この差を埋めきれないことがあります。
日本看護協会の2025年病院看護実態調査では、夜勤に対して深夜時間帯の割増賃金だけを支給し、夜勤手当は支給していない病院が4.5%ありました。夜勤があっても手当の付き方は職場によって違います。
もうひとつは、前職の経験年数が引き継がれないケースです。前職での経験を何年分として評価し、どの号俸や等級に当てはめるかは法人の規程によります。実務経験が長くても新卒に近い水準からのスタートになることがあるため、応募前に確認しておきたい点です。
額面が上がっても手取りが減ることがある理由
提示された月給が今より高くても、手取りが同じように増えるとは限りません。社会保険料は標準報酬月額の等級で決まるため、額面が上がって等級が変わると、保険料の負担も一段上がります。
健康保険料率は都道府県ごとに違う点も見落とされがちです。令和8年度の協会けんぽの保険料率は、最も高い佐賀県が10.55%、最も低い沖縄県が9.44%で、東京都は9.85%です。県をまたぐ転職では、同じ月給でも保険料の負担が変わります。
また、通勤手当は税金の面では一定額まで非課税ですが、社会保険料を計算するときの報酬には含まれます。通勤手当が増えると、課税所得は増えないまま保険料だけが上がることもあります。額面の増加分がそのまま手取りに乗るわけではない、と考えておくと見誤りません。
参考:厚生労働省「令和7年 雇用動向調査結果の概要」 / e-Stat「賃金構造基本統計調査 1 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」 /全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」
求人票の給与欄の読み方

求人票の給与欄は、書かれている金額よりも「その金額が何でできているか」を読むところです。
確認する順番は、月給の中身、固定残業代、夜勤手当、賞与の4つです。
月給に何が含まれているかを確認する
日本看護協会の2025年病院看護実態調査では、勤続10年・31〜32歳・非管理職の看護師の平均基本給与額は254,286円、平均税込給与総額は340,278円でした。
新卒(高卒+3年課程)では基本給与額216,416円に対して税込給与総額285,078円です。
この差にあたる7万〜9万円が、通勤手当・住宅手当・家族手当・夜勤手当・当直手当・看護職員処遇改善に係る手当などの合計です(時間外勤務の手当は含まれていません)。つまり、求人票に「月給28万円」と書かれていても、それが基本給なのか手当込みの総額なのかで、まったく違う条件になります。
手当込みの総額で書かれている場合は、夜勤や住宅補助の条件が変われば実際の支給額も変わります。基本給がいくらなのかを分けて確認することが、比較の出発点です。
固定残業代の有無と時間数を確認する
固定残業代(みなし残業代)を採用する場合、募集する側は職業安定法にもとづき、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代の計算方法(時間数と金額)、設定時間を超えた分は追加で支給することの3点を明示する必要があります。
金額だけが書かれていて時間数の記載がない求人は、応募前に確認したほうがよい求人です。
求人票で明示が必要な固定残業代の3点
時間数が分かったら、実際の残業時間と見比べます。
同じ2025年の調査では、正規雇用看護職員1人あたりの月平均超過勤務時間は4.8時間(2025年9月)でした。仮に「20時間分の固定残業代」が設定されていれば、その多くは実質的に固定給として受け取ることになります。
逆に、超過勤務が常態化している職場では、設定時間を超えた分が正しく追加支給されているかが問題になります。
月平均超過勤務時間の分布(正規雇用看護職員)
n=3,502。無回答2.4%を除く
なお、固定残業代を支払っていれば残業代を別途支払わなくてよい、ということにはなりません。
実際の割増賃金が固定残業代を上回れば、差額の支払いが必要です。
夜勤手当の単価と想定回数を確認する
夜勤手当は職場ごとの差が大きく、年収を左右します。同調査では、定額の夜勤手当を支給している病院の1回あたりの平均額は、三交代制の準夜勤4,300円、深夜勤5,211円、二交代制の夜勤11,470円でした。
中央値はそれぞれ3,800円、4,500円、11,200円です。
金額と同じくらい重要なのが、その手当が何を含んでいるかです。
支給の形は、深夜時間帯(22時から5時)の割増賃金を含む定額の夜勤手当が52.0%、割増賃金とは別に定額の夜勤手当を支給しているのが31.2%と分かれています。
同じ「夜勤手当1回10,000円」でも、深夜割増が別に付くかどうかで実際の支給額は変わります。
さらに、月の想定夜勤回数も確認します。二交代で月4回か3回かの違いは、上記の平均額なら月1万円強、年間で13万円ほどの差になります。
求人票の「月給」に夜勤手当が含まれている場合は、何回分で計算されているかまで見ておくと、入職後のずれを防げます。
賞与の記載が実績か見込みかを確認する
賞与は、労働基準法上は「相対的明示事項」にあたります。制度としての定めがなければ明示する義務はない項目です。求人票に「賞与年2回」とだけ書かれている場合、月数や算定方法までは決まっていないこともあります。
見るべきは、記載されている月数が前年度の支給実績か、給与規程で定められた額かです。
実績であれば経営状況によって変わり、規程であれば下限の目安になります。「4.0ヶ月(前年度実績)」と「4.0ヶ月(規程)」は、意味が違います。
参考までに、令和7年賃金構造基本統計調査での看護師の年間賞与その他特別給与額は856,400円でした。所定内給与額333,200円で割ると約2.6ヶ月分にあたります。
今のあなたの状況は?
参考:日本看護協会「日本看護協会調査研究報告シリーズ」 / 厚生労働省「固定残業代を支払うこととすれば、残業や休日勤務をさせても別途に残業代を支払わなくてよいでしょうか?」 / 厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」 / e-Stat「賃金構造基本統計調査 1 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」
現職と転職先の年収を同じ条件で比較する手順

統計の平均年収と自分の年収を比べても、上がるか下がるかは分かりません。判断できるのは、現職を項目ごとに分解し、転職先を同じ項目で見積もって並べたときです。ここでは3つのステップに分けて進めます。
現職の年収を項目ごとに分解する
材料は、源泉徴収票1枚と給与明細12か月分です。源泉徴収票の「支払金額」が1年間の課税対象の支給額にあたります。非課税分の通勤手当は含まれていないため、通勤手当を比較に入れる場合は明細から別に拾います。
そのうえで、給与明細を次の項目に分解します。
- 基本給
- 夜勤手当(回数と単価も控える)
- 時間外手当・深夜手当
- 住宅手当・家族手当・処遇改善手当などの固定手当
- 通勤手当
- 賞与(年間の合計と月数)
ここまで出せば、「年収のうちいくらが夜勤と残業で成り立っているか」が分かります。
変動部分の割合が大きい人ほど、働き方が変わったときの下がり幅も大きくなります。
転職先の年収を同じ項目で見積もる
転職先は、求人票の月給から固定残業代を差し引いて基本給を出すところから始めます。
夜勤手当は「単価×想定回数」で計算し、賞与は実績ではなく下限の月数で見積もると、後から下振れしません。
固定手当は支給条件(住宅手当なら世帯主要件など)を満たすかどうかも確認します。
- 正看護師の求人9,633件の月給中央値は292,000円です
- サービス種別では訪問看護320,000円、病院298,000円、クリニック286,000円と幅があります
- 賞与・ボーナスありの記載は63%、退職金制度ありの記載は44%でした
あわせて見ておきたいのが、初年度ではなく数年後の差です。
令和7年賃金構造基本統計調査で看護師の所定内給与額を経験年数別にみると、1〜4年で304,700円、5〜9年で314,800円、10〜14年で326,500円、15年以上で358,600円でした。
5年働いても月1万円ほどしか伸びない区間があり、スタート時点でついた差は昇給だけでは埋まりにくいことが分かります。
退職金の有無も長期の差になります。令和5年就労条件総合調査では、退職給付制度がある企業は74.9%で、従業員1,000人以上では90.1%、30〜99人では70.1%と規模による差がありました(常用労働者30人以上の企業が対象)。
制度がなければ、勤続年数が伸びるほど総額の差は開きます。
夜勤回数と通勤費の差を金額に置き換える
条件の違いは、必ず金額に直してから比べます。
夜勤は前述の平均額で計算すると、二交代で月4回なら45,880円、三交代で準夜4回・深夜4回なら38,044円です。年間ではそれぞれ55万円、45万円ほどになります。
二交代夜勤の月間回数別 年間手当額(試算)
夜勤手当単価11,470円(二交代・平均)で試算した年額
通勤費は、支給の有無だけでなく上限額を確認します。
電車・バス通勤の通勤手当は月15万円までが非課税、マイカー通勤は片道の距離に応じて非課税の限度額が決まっており、片道2km以上10km未満なら月4,200円です。限度額を超えて支給された分は課税対象になります。上限を超える通勤費が自己負担になる求人では、その分を実質的な減収として計算に入れます。
もうひとつ効くのが所定労働時間です。看護職員の1週間あたりの所定労働時間は平均38.7時間で、40時間としている病院が34.4%、38〜39時間未満が28.6%でした。
同じ月給でも、週の所定労働時間が1時間違えば時間あたりの単価は変わります。年間の所定労働日数とあわせて確認しておくと、条件の比較がより正確になります。
看護師の求人を探す参考:日本看護協会「日本看護協会調査研究報告シリーズ」 / e-Stat「賃金構造基本統計調査 10 職種(小分類)、年齢階級、経験年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」 / 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」 / 国税庁「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」
給与交渉と内定後の条件確認

見積もりができたら、次は条件をすり合わせる段階です。給与交渉は必ずしなければならないものではありませんが、交渉の余地があるかどうかは職場によって違います。
最後に労働条件通知書で書面を確認するところまでが一連の流れです。
交渉しやすい職場と難しい職場
公立病院や規模の大きい医療法人では、給与規程で号俸や等級が定められており、個別の交渉で金額が動く余地は小さいのが一般的です。この場合、交渉できるとすれば前職の経験年数を何年分として換算するかという部分になります。
一方、中小規模の医療法人やクリニックでは、経験や保有資格を見て個別に決めることがあります。厚生労働省の令和2年転職者実態調査によると、事業所が転職者の処遇を決める際に考慮した要素は「これまでの経験・能力・知識」が74.7%、「年齢」が45.2%、「免許・資格」が37.3%でした。このうち最も重視した要素は「これまでの経験・能力・知識」が53.7%で、年齢の11.9%を大きく上回っています。
医療・福祉では「免許・資格」を考慮する事業所が62.9%と産業別で最も高く、認定看護師などの資格が処遇に反映される余地があります。
ただし、交渉の内容や伝え方によっては選考に影響することもあります。
給与テーブルが固定されている職場では交渉自体が難しいため、まず募集要項や面接で決定方法を確認したうえで判断するのがおすすめです。
お探しの求人は?
交渉のタイミングと希望額の伝え方
希望条件を伝える機会は、応募書類の希望欄、面接での条件確認、内定後の条件提示のタイミングの3つです。
内定後の提示額に対して伝えるのが一般的ですが、選考の早い段階で希望額の幅を共有しておくほうが、双方のずれが小さくなります。
伝えるときは、分解した現職の数字を根拠にします。「年収を上げたい」ではなく、「現職は基本給○○円、夜勤手当が月○回で○円、賞与が年○ヶ月で年収○○円です」と具体的に示すと、経験年数の換算という形で調整してもらえる場合があります。
希望額を伝えるときの3点
- 現職の年収を項目ごとに分解した金額で示す
- 希望額は幅で伝え、譲れない条件を1つに絞る
- 金額が動かない場合は、夜勤回数や勤務形態など他の条件で調整できないか確認する
労働条件通知書で確認する項目
内定後は、口頭の説明ではなく書面で確認します。
労働基準法第15条第1項により、使用者は労働契約の締結時に労働条件を明示しなければならず、契約期間・就業の場所と業務・始業終業の時刻と休憩休日・賃金の決定と支払方法・退職に関する事項などは、原則として書面での明示が必要です。
一方、賞与と退職手当は「相対的明示事項」で、制度としての定めがある場合に明示すればよい項目です。通知書に記載がないときは、規程の有無そのものを確認します。
なお、令和6年4月から募集時等に明示すべき事項として、従事すべき業務の変更の範囲、就業の場所の変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準の3つが追加されました。
配置転換で夜勤の有無が変わる可能性がある場合は、この「変更の範囲」が判断材料になります。
- 基本給と各手当の内訳が金額で書かれているか
- 固定残業代の時間数と金額、超過分の取扱いが書かれているか
- 夜勤手当の単価と、深夜割増を含むかどうか
- 賞与・退職手当の規程の有無
- 所定労働時間と年間休日数
- 従事すべき業務・就業の場所の変更の範囲
明示された労働条件が事実と違っていた場合、労働者は即時に労働契約を解除できます(労働基準法第15条第2項)。
入職前に書面で確認しておくことが、結果的に自分を守ることにつながります。
参考:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」 / 栃木労働局「労働条件の明示(第15条)」 / 厚生労働省「職業安定法施行規則改正」 / 厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」
まとめ
看護師の転職で給料が下がるかどうかは、求人票の月給を単体で見ている限り判断できません。月給に何が含まれているか、固定残業代は何時間分か、夜勤手当は1回いくらで深夜割増を含むのか、賞与は実績か規程か。この4点を分解すれば、提示された金額の中身が見えてきます。
そのうえで、源泉徴収票と給与明細から現職を同じ項目に分け、夜勤回数や通勤費の差を金額に置き換えて並べます。統計の平均値ではなく自分の数字で比べることで、上がるか下がるかがはじめて判断できます。
さらに、初年度の年収だけでなく、昇給の幅や退職金制度の有無といった数年後に効いてくる差も見ておくと、選択の精度が上がります。条件が固まったら、口頭の説明で終わらせず労働条件通知書で確認するところまでを一連の流れにしておくと安心です。





