薬剤師の年収は地方の方が高い?そう言われる理由とデータで見る薬剤師が不足している地域
「薬剤師の年収は地方の方が高い」という話を聞いたことはありませんか?実際に地方の求人で高い年収が提示されているのを見て、移住も含めて考えてみようかと迷っている方もいるでしょう。
ただ、この話には注意したい点があります。地域別の年収を扱った記事の多くは、公的統計の賃金データと転職サイトの掲載求人データを区別せずに並べているためです。この
この記事では、薬剤師の年収が地方の方が高いと言われる理由を、公的統計と偏在指標から整理します。あわせて、高年収の求人で確認しておきたい条件と、年収だけでは見えない生活コストの考え方もお伝えします。
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薬剤師の年収は地方のほうが高い?

結論からいえば、「地方だから高い」と一言でまとめられるほど単純ではありません。参照するデータによって順位も差の大きさも変わりますし、同じデータでも調査年が変わると順位が大きく入れ替わります。
地域別の年収を語るときに使われるデータには、大きく分けて公的統計と求人情報の2種類があります。この2つは調べている対象が違うため、混ぜて一つの主張を作ることはできません。
公的統計で見た都道府県別の年収
厚生労働省の令和7年の賃金構造基本統計調査では、「薬剤師」の全国平均は、きまって支給する現金給与額が月398,700円、年間賞与その他特別給与額が883,500円でした。ここから推計すると、全国平均の年収は約566万円となります。
同じ調査を都道府県別に見ると、推計年収が最も高いのは高知県で、最も低いのは秋田県でした。その差は約225万円です。どちらも一般に「地方」と呼ばれる地域であり、地方のなかにも200万円を超える開きがあります。
注目したいのは、三大都市圏の位置です。東京都は約539万円で47都道府県中39位、大阪府は約533万円で41位、神奈川県は約514万円で44位と、いずれも全国平均を下回っています。少なくともこの単年のデータに限れば、都市部が高いという構図にはなっていません。
ただし、この数字をそのまま「その県の相場」として受け取るのは避けたいところです。都道府県別の集計は、対象となる労働者数が少ない県があります。たとえば島根県は約160人、山形県は約210人、岩手県は約250人の集計結果です。
母数が小さいほど、たまたま集計対象になった人の勤務先や年齢によって数字が動きやすくなります。
求人情報で見た地域別の年収
もう一つよく見かけるのが、転職サイトが自社の掲載求人を集計した地域別ランキングです。「◯県の薬剤師の平均年収は◯万円」といった形で紹介されています。
こちらは公的統計とは性質が異なります。集計されているのは募集時に提示されている条件であって、実際に支払われている賃金ではありません。掲載中の求人だけが対象なので、そのサイトがどの地域・どの業態の求人を多く扱っているかによって数字が変わります。
求人が数件しかない地域でも平均値は算出できてしまうため、順位そのものの信頼性も一定ではありません。
参考までに、医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)で薬剤師の正社員求人を見ると、月給の提示額は下記のように分布しています。
医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)/正社員932件の月給
業態別の月給平均
2つのデータが示すものの違い
公的統計と求人情報は、次のように読み分けます。
-
賃金構造基本統計調査実際に支払われた賃金の集計。すでにその地域で働いている人の平均で、年齢構成や勤続年数の影響を受ける
-
転職サイトの集計募集時に提示された条件の集計。これから採用したい人に向けて示された金額で、採用の難しさが反映される
この違いを踏まえると、求人の提示年収が高い地域は、採用が難しい地域である可能性があるという読み方ができます。高い金額を示さないと応募が集まらない、という事情が背景にあるケースです。つまり、提示年収の順位が高いことは、その地域が働きやすいことを意味しません。
公的統計の側にも読み方の注意があります。都道府県別の順位は、調査年によって大きく入れ替わります。令和6年調査と令和7年調査を比べると、熊本県は1位から36位へ、広島県は2位から38位へ、秋田県は15位から47位へ移動しました。逆に岡山県は46位から2位へ、宮城県は35位から3位へ上がっています。
単年の順位を固定的な事実として扱うことはできません。
都道府県順位の入れ替わり(令和6年→令和7年)
順位が動く理由の一つは、集計対象の年齢構成です。令和7年調査で1位だった高知県は平均年齢51.1歳・平均勤続17.5年、44位の神奈川県は平均年齢33.6歳・平均勤続5.1年でした。年齢と勤続年数がこれだけ違えば、平均年収に差が出るのは自然なことです。
地方で薬剤師の年収が高くなる理由

前章のとおり、地方の年収が一律に高いわけではありません。それでも「地方は高い」と語られる背景には、実際に作用しているいくつかの要因があります。
薬剤師が不足している地域があるため
最も大きい要因は、薬剤師の充足状況に地域差があることです。厚生労働省は、地域ごとの薬剤師の過不足を統一的に比べるための薬剤師偏在指標を策定しています。目標となる水準は1.00で、これを下回るほど需要に対して薬剤師が足りていない状態を示します。
この指標は、都道府県や二次医療圏といった地域の単位ごとに、しかも病院と薬局を分けて算定されています。数値の詳しい見方と地域ごとの状況は次の章で扱いますが、ここで押さえておきたいのは、不足の程度は地域によっても業態によっても違うという点です。
人手が足りない地域では、採用条件を引き上げないと人が集まりません。提示年収が高くなる背景には、この需給の差があります。
採用で競合する事業者が少ないため
もう一つは、採用する側の競合関係です。薬局薬剤師偏在指標を都道府県別に見ると、最も高い東京都が1.42、最も低い福井県が0.73で、約1.9倍の開きがあります。指標が高い地域は、それだけ薬剤師が集まっている地域です。
薬剤師が集まっている地域では、求人を出す側から見れば「多少条件を下げても応募がある」状態になります。反対に指標が低い地域では、限られた人材を近隣の事業者と取り合うことになるため、給与や手当で差をつける動きが出やすくなります。
ただし、指標が低い地域のすべてで年収が高いわけではありません。令和7年調査の推計年収と偏在指標を並べると、下記のように順位はばらつきます。
偏在指標が低い地域ほど年収が高いとは限らない
一人あたりが担当する範囲が広くなるため
人員に余裕がない事業所では、一人が担当する業務の幅が広くなります。薬局の人員配置には法令上の基準があり、薬局の業務を行う体制を定めた省令では、1日平均取扱処方箋数を40で割った数以上の薬剤師を置くことが求められています(1未満のときは1、端数は切り上げ)。
この基準はあくまで下限です。基準ぎりぎりの人数で運営している薬局では、調剤・監査・服薬指導に加えて、在庫管理、レセプト業務、施設との連絡、在宅訪問までを少人数でこなすことになります。
担当範囲の広さが給与に反映されている場合、その金額は業務量に対する対価という側面を持ちます。
同じ省令では、薬剤師が薬局にいない時間についても定めがあります。薬剤師不在時間は1日あたり4時間、または開店時間の2分の1のうち短い方を超えてはならないとされ、不在時間中も管理者が従業者と連絡を取れる体制を整えることが求められています。
今のあなたの状況は?
住宅手当や赴任手当が上乗せされるため
地方の求人では、住宅補助や赴任にかかる費用の補助が条件に含まれていることがあります。医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)で薬剤師求人の掲載条件を見ると、住宅関連の補助がある求人の割合は下記のとおりです。
住宅補助・社宅・引越手当がある求人の割合
医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)。3項目はそれぞれ独立の集計のため、重複して該当する求人もある
ここで確認したいのが、提示されている金額の内訳です。同じ「年収600万円」でも、基本給が高いのか、手当が厚いのかで、その後に受け取る金額が変わります。賞与は基本給に月数を掛けて算定する事業所が多く、退職金も基本給や勤続年数をもとに計算されるのが一般的です。
住宅手当については、支給の条件も確認が必要です。単身赴任中のみ、入社から3年間のみ、といった期限付きの制度である場合、その期間が終わったあとの年収は提示額から下がります。
なお、2024年4月から労働条件明示のルールが変わり、就業場所・業務の変更の範囲を書面などで明示することが使用者に義務づけられました。
参考:厚生労働省「薬剤師確保対策」 / 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 / e-Gov法令検索「薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令」 / 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
【データで見る】薬剤師が不足している地域

「地方は薬剤師が足りない」という説明は広く見かけますが、どこがどの程度足りていないのかまで示している記事は多くありません。ここでは公的な指標をもとに、不足の状況を具体的に見ていきます。
薬剤師偏在指標の見方
これまで、地域ごとの薬剤師数の比較には人口10万人対薬剤師数が使われてきました。ただしこの数え方は、その地域の医療需要の大きさを考慮していません。高齢化率や患者さんの受療状況が違えば、必要な薬剤師の数も変わります。
薬剤師偏在指標は、地域の薬剤師業務に係る医療需要(推計業務量)に対して、実際の薬剤師の労働時間がどれだけあるかを比で表したものです。全国共通の目標偏在指標は1.00で、これに届いていない地域ほど需要に対する供給が不足していることを示します。
指標は都道府県と二次医療圏の2つの単位で算定されており、病院薬剤師と薬局薬剤師で別々に出されています。目標偏在指標を上回る地域を薬剤師多数区域、下回る地域のうち下位2分の1を薬剤師少数区域と設定します。必要に応じて、二次医療圏より小さい市町村単位で薬剤師少数スポットを設定することもできます。
薬剤師確保計画は原則3年ごとに見直され、2036年までに偏在の是正を達成することが長期的な目標に据えられています。
薬局と病院で異なる不足の状況
偏在指標を見て最初に気づくのは、業態による差の大きさです。
薬局薬剤師偏在指標は全国値が1.08で、目標の1.00を上回っています。都道府県別では19都道府県が1.00以上でした。最も高いのは東京都の1.42、次いで神奈川県1.25、兵庫県1.19と続きます。
一方の病院薬剤師偏在指標は全国値が0.80です。都道府県別に見ると、1.00以上の都道府県は1つもありません。最も高い東京都・京都府・徳島県でも0.94にとどまり、最も低い青森県は0.55、秋田県は0.56でした。
二次医療圏の単位で見ると、この差はさらにはっきりします。全国335の二次医療圏のうち、薬局薬剤師偏在指標が1.00以上なのは109圏域ですが、病院薬剤師偏在指標が1.00以上なのは18圏域のみです。
偏在指標で見る 病院薬剤師 と 薬局薬剤師 の差
つまり、病院薬剤師の不足は地方に限った話ではなく、都市部を含めて広く生じています。「地方だから高い」ではなく「どの業態が不足しているか」で見た方が、実態に近い判断ができます。
都道府県内の地域差
都道府県別のランキングだけを見て転職先を決めると、想定と現実がずれることがあります。同じ県のなかでも、地域によって状況がまったく違うためです。
薬局薬剤師偏在指標を二次医療圏の単位で見ると、県内の差が数字で確認できます。
| 都道府県 | 指標が高い圏域 | 指標が低い圏域 | 格差 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 区中央部3.08 | 島しょ0.43 | 7.2倍 |
| 北海道 | 札幌1.19 | 南檜山0.51 | 2.3倍 |
| 福岡県 | 福岡・糸島1.46 | 直方・鞍手0.83 | 1.8倍 |
| 熊本県 | 熊本・上益城1.12 | 鹿本0.48 | 2.3倍 |
目標値は1.00
東京都は都道府県別では最も指標が高い一方、同じ都内でも7倍以上の開きがあります。北海道や熊本県のように、県庁所在地を含む圏域は目標の1.00を超えているのに、同じ県内の別の圏域は0.5前後という例も少なくありません。
求人を検討するときは、都道府県ではなく通勤圏で状況を見ることをおすすめします。
薬剤師の求人を探す高年収の薬剤師求人で確認したい条件

ここまで地域全体の話を見てきましたが、実際に判断するのは目の前の一つの求人です。提示年収が高い求人には理由があり、その理由が自分に合うかどうかが分かれ目になります。
多くの記事は「事前に条件をしっかり調べましょう」で終わっていますが、何を調べるのかが分からないと確認のしようがありません。ここでは、求人票と面接で確認できる項目に分けて整理します。
管理薬剤師が前提になっていないか
高い年収が提示されている求人では、管理薬剤師手当を含んだ金額になっていることがあります。
第25回医療経済実態調査によると、保険薬局に勤務する薬剤師の年収は平均約479万円、管理薬剤師は平均約725万円でした。その差は約246万円です。提示額が600万円を超えている求人では、管理薬剤師としての就任が前提になっている可能性を考えた方がよいでしょう。
管理薬剤師は、医薬品医療機器等法(薬機法)にもとづき、薬局の構造設備や医薬品の管理、従業者の監督を担う立場です。法律上、管理者は必要な能力及び経験を有する者でなければならないと定められています。
同じ調査では、保険薬局1施設あたりの延べ人員数は管理薬剤師11.7人月、薬剤師24.1人月でした。1つの薬局に管理薬剤師はおおむね1人という計算になり、ポストが限られていることが分かります。
一人薬剤師の体制ではないか
年収差の理由が勤務体制にある場合もあります。常時一人での勤務は、休みの取りにくさや調剤過誤のリスクに直結します。
前章で触れたとおり、薬局には開店時間内は常時薬剤師が勤務していること、1日平均取扱処方箋数を40で割った数以上の薬剤師を置くことが求められています。薬剤師が一人の薬局では、この常時勤務の要件を一人で満たすことになります。
処方箋40枚の基準は下限であり、1日30枚の薬局でも1人で基準を満たします。ただし実際の業務量は、処方内容や在宅対応の有無によって変わります。求人票の処方箋枚数だけでなく、監査を誰が行うのか、昼休みや急な体調不良のときにどう回すのかを確認しておくと、体制の実態が見えてきます。
薬剤師不在時間の上限が1日4時間または開店時間の2分の1と定められているのは、一人体制の薬局を想定した規定でもあります。
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複数店舗の兼務や応援勤務がないか
広域を移動する働き方が前提になっている求人もあります。移動時間が長くなれば、実質的な拘束時間は提示された勤務時間より長くなります。
なお、薬局の管理者については法令上の制限があります。薬機法第7条第4項では、薬局の管理者はその薬局以外の場所で業として薬事に関する実務に従事してはならないと定められており、他店との兼務は原則としてできません。ただし、都道府県知事の許可を受けた場合は例外となります。
厚生労働省の通知では、許可され得る例として、非常勤の学校薬剤師を務める場合、営業時間外の夜間・休日に地域の輪番制の調剤を担う場合、へき地で管理者の確保が困難な地域において営業時間外に他の薬局に勤務する場合が挙げられています。そのうえでこの通知は、兼務許可は例外的な取扱いとすべきと明記しています(通知では改正前の条番号である第7条第3項として記載されています)。
管理者ではない薬剤師の応援勤務はこの制限の対象外ですが、移動時間が労働時間に含まれるかどうかは別途確認しておきたい点です。
在宅対応や時間外の呼び出しが含まれていないか
在宅医療への対応は、地方の薬局ほど求められる場面が増えます。提示年収に、在宅対応にかかる手当が含まれていることもあります。
在宅患者訪問薬剤管理指導料は、診療報酬上、同じ建物に住む対象患者さんが1人の場合は650点、2人から9人の場合は320点、それ以外は290点と定められています。算定は原則として月4回までですが、末期の悪性腫瘍の患者さんなどは週2回かつ月8回まで算定できます。
| 同一建物の対象患者 | 点数 |
|---|---|
| 1人 | 650点 |
| 2人から9人 | 320点 |
| それ以外 | 290点 |
| 対象 | 算定できる回数 |
|---|---|
| 原則 | 月4回まで |
| 末期の悪性腫瘍の患者など | 週2回かつ月8回まで |
在宅対応がある職場では、訪問のための移動時間が業務時間に加わります。緊急時の対応が求められる場合、時間外の連絡や訪問が発生することもあります。
手当や賞与を含んだ想定額の表示ではないか
求人票の「年収600万円」が、どこまでを含んだ金額なのかも確認が必要です。賞与を含む想定額なのか、固定残業代が含まれているのかで、毎月受け取る金額は変わります。
固定残業代が含まれている場合は、何時間分の残業に相当する金額なのかを確認します。時間外労働には割増賃金が発生し、法定労働時間を超えた時間外労働は25%以上、月60時間を超える部分は50%以上、深夜労働(午後10時から午前5時)は25%以上、法定休日の労働は35%以上の割増率が定められています。想定されている残業時間が実際の労働時間より短ければ、超えた分は別途支払われる必要があります。
賞与についても、支給実績なのか支給予定なのかで意味が違います。「賞与年2回(前年度実績4か月)」のように実績が書かれている場合と、「賞与あり」だけの場合とでは、確認すべきことが変わります。
労働条件明示のルールでは、賃金や労働時間などの基本的な条件は書面などで明示することが義務づけられています。
医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)/薬剤師求人1,450件
- 賞与・ボーナスあり 66%
- 退職金制度あり 57%
- 年間休日120日以上 27%
- 車・バイク通勤可 42%
参考:厚生労働省「第25回医療経済実態調査の報告(令和7年実施)」 / e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」 / 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第7条第3項に規定する薬局の管理者の兼務許可の考え方について」
年収だけでは分からない地方の生活コスト

地方への転職を検討するときによく言われるのが「支出が少ないから、年収が同じでも手元に残る額は多い」という説明です。ただ、この一言で片づけてしまうと判断を誤ることがあります。
総務省の消費者物価地域差指数によると、2024年の「総合」で最も物価水準が高いのは東京都の104.0、最も低いのは群馬県の96.2でした。都道府県間の比率は1.08倍で、全体で見れば地域差は8%程度にとどまります。一方で前章までに見た年収の地域差は、令和7年調査の最高と最低で1.48倍でした。総額で比べると、物価差より年収差の方が大きく動きます。
ただし、これは10大費目を合計した「総合」の話です。費目ごとに見ると、地域差の大きさはまったく違います。ここからは費目別に、確認しておきたい観点を整理します。
費目別に見る、都道府県間の物価差(倍率)
消費者物価地域差指数(全国平均=100)の、最も高い都道府県と最も低い都道府県の比率
住居費
地域差が最も大きく出るのが住居費です。消費者物価地域差指数の「住居」を都道府県別に見ると、東京都が127.2で最も高く、次いで千葉県114.4、神奈川県112.9と続きます。最も低いのは岐阜県の81.3で、岡山県82.0、石川県82.8がこれに続きます。最高と最低で約1.56倍の開きがあり、10大費目のなかでも特に差が大きい費目です。
家計調査(2025年)では、二人以上の世帯の住居費は1か月あたり平均18,678円でした。ただしこの金額は持ち家世帯を含む平均のため、賃貸で暮らす場合の家賃はこれより高くなります。実際の負担額は、住宅手当の有無と支給額によって大きく変わります。
自動車の維持費
地方で暮らす場合に見落とされやすいのが、自動車にかかる費用です。公共交通機関の便が限られる地域では、通勤や買い物に自家用車が必要になり、世帯によっては一人一台が前提になります。
自動車には、車両の購入費のほかに、自動車税、自賠責保険と任意保険の保険料、車検費用、ガソリン代、駐車場代が継続的にかかります。積雪のある地域では、冬用タイヤの購入と年2回の交換費用も加わります。
消費者物価地域差指数で見ると、「交通・通信」の都道府県間比率は1.06倍(東京都÷岡山県)で、10大費目のなかで最も差が小さい費目でした。価格そのものには地域差がほとんどないということです。裏を返せば、地方で自動車費用が増えるとしても、それは価格が高いからではなく、保有台数や走行距離が増えるためです。
家計調査(2025年)では、二人以上の世帯の「交通・通信」は1か月あたり平均45,730円で、食料に次ぐ規模の費目です。年収差が数十万円であっても、車を1台増やすかどうかで手元に残る額は変わります。
移住先を比べるときは、年収の差額を12で割って「月いくら増えるか」に直してみてください。そのうえで、車の維持費や家賃の差を月額で並べると、増えた分が残るのか消えるのかが見えてきます。求人票の年収だけを見比べていると、この計算が抜けやすいです。
日用品や交通費
食料品や日用品については、地域差はそれほど大きくありません。消費者物価地域差指数の「食料」は、最も高い沖縄県が106.7、最も低い長野県が95.8で、比率にすると1.11倍です。家計調査(2025年)では二人以上の世帯の食料費は1か月あたり平均94,895円と最大の費目ですが、地域による差は1割前後にとどまります。
むしろ注意したいのが光熱・水道費です。「光熱・水道」の指数は北海道が119.6で最も高く、岩手県112.1、山形県と島根県が111.2と続きます。最も低いのは大阪府の87.0で、兵庫県92.8、和歌山県94.2がこれに続きました。最高と最低で約1.37倍の差があり、寒冷地では暖房にかかる費用が上乗せされます。家計調査での「光熱・水道」は1か月あたり平均24,547円です。
子どもの教育に関わる費用
教育費は、10大費目のなかで地域差が最も大きい費目です。消費者物価地域差指数の「教育」の都道府県間比率は1.59倍(大阪府÷富山県)で、住居の1.56倍を上回りました。授業料や学習塾の料金に地域差があるためです。
家計調査(2025年)では、二人以上の世帯の教育費は1か月あたり平均11,939円でした。ただしこれは子どもがいない世帯を含む平均であり、就学中の子どもがいる世帯の負担はこれより大きくなります。
地方で暮らす場合に考えておきたいのが、進学時の負担です。自宅から通える範囲に希望する学校がない場合、下宿や仕送りの費用が発生します。教育費の単価が安い地域であっても、進学のタイミングで自宅外通学の費用が加わると、総額では逆転することがあります。
参考:総務省統計局「小売物価統計調査(構造編)調査結果」 / 総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2025年(令和7年)」
地方で働くときにキャリア面で確認したいこと

年収と生活コストの計算がついたとしても、もう一つ確認しておきたいのがキャリア面です。数年後に別の職場へ移る可能性や、資格取得を考えている場合は、勤務地によって選択肢が変わることがあります。
ここでは、地方勤務を選ぶ前に確認しておきたい3つの観点を整理します。いずれも、入職後に変えることが難しい部分です。
研修や学会への参加のしやすさ
薬剤師の認定制度の多くは、講習会や学会への参加で単位を取得する仕組みになっています。開催地が都市部に集中している場合、参加のたびに移動時間と交通費が発生します。
たとえば日本病院薬剤師会のがん薬物療法認定薬剤師の申請資格では、認定された講習会を40時間・20単位以上履修することが求められ、そのうち日本病院薬剤師会が主催するがん専門薬剤師に関する講習会を12時間・6単位以上取得する必要があります。
がん薬物療法認定薬剤師の講習要件の内訳
近年はオンライン開催も増えていますが、実技を伴う研修は現地参加が前提になります。確認しておきたいのは、参加費や交通費の補助があるか、平日開催の研修に業務として参加できるかという運用面です。制度としては認められていても、人員に余裕がなく実際には出られない、という状況は起こり得ます。
認定・専門薬剤師の取得環境
資格によっては、勤務先そのものが要件になっているものがあります。前述のがん薬物療法認定薬剤師の申請資格を例に見てみます。
- 薬剤師としての実務経験を3年以上有していること
- 申請時において病院または診療所に勤務し、がん薬物療法に3年以上従事していること
- 日本病院薬剤師会が認定する研修施設で実技研修を履修、または研修施設で3年以上がん薬物療法に従事していること
- がん患者さんへの薬剤管理指導の実績が複数の癌種で50症例以上あること
- 病院長あるいは施設長等の推薦があること
注目したいのは、勤務先が日本病院薬剤師会の認定研修施設であるかどうかが要件に入っている点です。研修施設でない病院に勤務している場合、実技研修を履修するために外部の研修施設へ通う必要があります。
もう一つは症例数です。複数の癌種で50症例以上という条件は、がん薬物療法を実施している症例数が一定以上ある施設でないと満たしにくくなります。がん診療の実施状況は施設によって差があるため、応募先がどの程度の症例を扱っているかは、面接で確認しておきたい点です。
なお、この要件は病院・診療所での勤務が前提です。薬局に勤務している場合は、この資格の申請対象になりません。取得したい資格がある場合は、その要件が勤務先の業態や施設要件を含んでいないかを、応募前に確認しておくことをおすすめします。
薬剤師の求人を探す将来の転職先の選択肢
その地域で何年働くかによって、確認すべきことが変わります。数年で戻る前提なら影響は小さいですが、長く働く可能性がある場合は、次の転職先の選択肢も見ておきたいところです。
薬剤師の就業先は薬局に集中しています。令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、届出薬剤師は329,045人で、薬局の従事者が197,437人(60.0%)、医療施設の従事者が19.2%(病院17.5%、診療所1.7%)でした。製薬企業や行政に移りたい場合、選択肢がある地域は限られます。
また、前述のとおり二次医療圏によって薬剤師の充足状況は大きく異なります。指標が低い圏域は求人が出やすい一方で、その圏域内の事業所数自体が少なければ、同じ通勤圏で転職先を探せる範囲は狭くなります。
参考:日本病院薬剤師会「専門薬剤師・認定薬剤師 制度」 / 厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
地方で薬剤師の年収を上げる働き方

ここまでの内容を踏まえて、地方で年収を上げるために取れる選択肢を整理します。
自分の希望する働き方と照らし合わせながら、どれが現実的かを考える材料にしてください。
期間を区切って派遣で働く
移住を伴う転職に踏み切る前に、期間を区切って働いてみる方法があります。派遣であれば、契約期間を定めたうえでその地域の職場を経験できます。
ただし、薬剤師の派遣には法令上の制限があります。労働者派遣法施行令第2条第1項第3号では、薬剤師法第19条に規定する調剤の業務のうち、病院等または介護医療院において行われるものが派遣禁止業務と定められています。つまり、病院での調剤業務を派遣として行うことは原則としてできません。派遣で働ける場所は、薬局やドラッグストアが中心になります。
期間を区切って働く場合は、その間に生活コストの実感を掴んでおくと、その後の判断がしやすくなります。
広域エリアの勤務に応じる
複数店舗をカバーする働き方や、応援勤務に応じる働き方は、条件面で優遇されることがあります。移動を引き受ける分が待遇に反映される形です。
前章で触れたとおり、管理薬剤師については他店との兼務が原則としてできません。広域勤務の話が出た場合は、自分が管理者になるのか、管理者ではない薬剤師として応援に入るのかを確認する必要があります。
転職活動するなら?
不足している業態を選ぶ
年収を上げる観点だけで見れば、不足している業態を選ぶという考え方があります。前述のとおり、病院薬剤師の偏在指標は全国のどの都道府県でも目標の1.00に届いていません。
ただし、賃金の面では単純ではありません。第25回医療経済実態調査によると、一般病院に勤務する薬剤師の年収は平均約581万円、保険薬局に勤務する薬剤師は約479万円でした。給料年額の差は約40万円ですが、賞与が約116万円と約55万円で2倍以上の開きがあり、これが年収差の主な要因になっています。ただし医療法人立の病院に限ると約540万円で、開設者によって差があります。
一般病院と保険薬局の年収内訳(給料・賞与)
給料465万円/賞与116万円
給料425万円/賞与55万円
業態を選ぶ判断は、年収だけでなく、前章で見た認定資格の要件や、その後の転職先の選択肢とあわせて考えたいところです。
管理薬剤師や在宅対応の手当を得る
同じ職場で年収を上げる方法としては、管理薬剤師への就任と、在宅対応への従事があります。
管理薬剤師の年収が一般の薬剤師より高いことは前述のとおりです。ただし1つの薬局に管理薬剤師はおおむね1人であり、ポストが空くタイミングは限られます。また、他店との兼務が原則としてできないという制約もついてきます。
在宅対応については、薬局にとって在宅患者訪問薬剤管理指導料などの算定につながるため、対応できる薬剤師を評価する事業所があります。手当として支給されるのか、担当件数に応じるのかは事業所によって異なるため、条件を確認したうえで判断することをおすすめします。
いずれの方法も、業務量や責任の増加を伴います。提示された金額が何に対する対価なのかを確認しておくと、入職後のずれを防ぎやすくなります。
参考:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令」 / 厚生労働省「第25回医療経済実態調査の報告(令和7年実施)」 / 厚生労働省「薬剤師確保対策」
まとめ
薬剤師の年収が地方の方が高いかどうかは、どのデータを見るかで答えが変わります。令和7年賃金構造基本統計調査では東京都が39位、大阪府が41位と三大都市圏が下位に並びましたが、秋田県が47位である一方で高知県が1位というように、地方のなかでも差は大きく出ています。
生活コストについては、住居費の地域差は約1.56倍と大きい一方、総合では1.08倍にとどまります。寒冷地では光熱・水道費が上乗せされ、自動車が必要な地域では保有台数の分だけ費用が増えます。年収の差だけで判断せず、手元に残る金額で比較することをおすすめします。
まずは、気になる地域の求人を実際に見て、提示条件の内訳を確認するところから始めてみてください。





