看護師の接遇に必要な言葉遣い|敬語の基本とNG例・場面別の言い換え集
忙しい時間帯に、つい「ちょっと待ってて」と言ってしまい、あとから気になったことはありませんか? 看護師の接遇では、処置の技術と同じくらい言葉遣いが患者さんの安心感を左右します。
この記事では、看護師が患者さんやご家族と話すときの敬語の基本、避けたい言葉遣いのNG例、場面別の言い換え、クッション言葉の使い方、言葉遣いを身につける方法までをまとめています。
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看護師の接遇で使う敬語の基本

看護師の言葉遣いで迷いやすいのは、「誰を立てるか」と「どの敬語を使うか」の2点です。 文化審議会の「敬語の指針」は、敬語を相互尊重の気持ちを基盤にして使うものと位置づけています。
患者さんへの話し言葉では、患者さんの動作には尊敬語、自分や病院側の動作には謙譲語を使う、という原則を押さえておけば大きく外れません。
尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分け
敬語は学校で「尊敬語・謙譲語・丁寧語」の3種類と習いますが、「敬語の指針」では尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ(丁重語)・丁寧語・美化語の5種類に分けて整理しています。
| 種類 | 働き | 看護場面での例 |
|---|---|---|
| 尊敬語従来の尊敬語 | 患者さんの動作や状態を立てる | お待ちになる・召し上がる・おっしゃる |
| 謙譲語Ⅰ従来の謙譲語 | 自分の動作が向かう先の患者さんを立てる | 伺う・ご説明する・お持ちする |
| 謙譲語Ⅱ従来の謙譲語(丁重語) | 自分側の動作を話し相手に丁重に述べる | 参る・申す・いたす |
| 丁寧語従来の丁寧語 | 話し相手に丁寧に述べる | です・ます・ございます |
| 美化語従来の丁寧語 | ものごとを上品に述べる | お薬・お食事・お手洗い |
現場で特に間違えやすいのは、患者さんの動作に謙譲語を使ってしまうケースです。
「受付で伺ってください」の「伺う」は謙譲語Ⅰなので、患者さんではなく受付側を立てる言い方になります。
患者さんの動作は、「受付でお尋ねください」のように尊敬語で表しましょう。
身内に敬称をつけない
敬語には、話し相手を「ソト」、自分の側を「ウチ」と考えて、ウチの人物は立てないという原則があります。 患者さんと話すとき、同じ病院で働く医師・看護師長・他職種のスタッフは「ウチ」の人です。
一般企業で、取引先に「田中部長はいらっしゃいません」と言わないのと同じ考え方です。 病院でも、患者さんの前で上司や同僚の動作に尊敬語を使うと、患者さんより職員を立てる言い方になってしまいます。 医師や他職種について話すときの具体的な言い換えは、後半の「医師や他職種の話をするとき」で紹介します。
二重敬語を避ける
二重敬語とは、1つの語に同じ種類の敬語を重ねた言い方です。 丁寧にしようとするほど増えやすく、「おっしゃられる」は「おっしゃる」に尊敬の「れる」を重ねた形です。
「敬語の指針」は、二重敬語を一般に適切ではないとしています。 ただし「お召し上がりになる」「お伺いする」のように、習慣として定着しているものは使っても問題ありません。
丁寧にしたつもりが二重敬語になってたなんて…
履歴書や病院へのメールなど、書き言葉の敬語は以下の記事でまとめています。
参考:文化庁「敬語の指針(平成19年2月2日 文化審議会答申)」
看護師が避けたい言葉遣い

敬語の文法が合っていても、患者さんに不快感や不安を与える言葉遣いがあります。 日本看護協会の「看護職の倫理綱領」は、人間としての尊厳及び権利を尊重することを看護職の行動指針の最初に掲げており、言葉遣いもその実践の1つです。
タメ口と幼児語
「お薬飲んだ?」「おててを出してね」のようなタメ口や幼児語は、大人の患者さんにとって子ども扱いされたように感じやすい言い方です。 親しみを込めたつもりでも、相手によっては尊厳を傷つけるきっかけになります。
ただ、一律に禁止すればよいわけではありません。 小児の患者さんには年齢に合った言葉が必要ですし、認知症の方の中には、なじみのある話し方のほうが落ち着いて受け答えできる人もいます。 基準は「看護師が話しやすいか」ではなく「その人に伝わり、安心できるか」です。
高齢の患者さんには、丁寧さと分かりやすさが両立しない場面があります。
「お召し上がりになりましたか?」が聞き取りにくそうなら、「お昼ごはん、食べられましたか?」のように「です・ます」は残したまま、短く具体的な言葉に変えるのが無難です。
敬語を減らしても、名前の呼び方と語尾の丁寧さを保てば、子ども扱いにはなりません。
指示や命令に聞こえる言い方
「〜してください」は丁寧語ですが、続けて使うと命令のように聞こえます。
「動かないでください」「ここに座ってください」が重なると、患者さんは指示されている感覚になりやすくなります。
依頼の形(「〜していただけますか?」)にすると、患者さんが自分で動く余地が生まれます。
安全のために動いてほしくない場面では、「針が入っているので、少しの間だけ」のように理由を添えると協力を得やすくなります。
専門用語と略語
「バイタル」「ルート」「NPO」のような言葉は、看護師同士では当たり前でも、患者さんには伝わりません。 国立国語研究所の「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」でも、医療者の説明に出てくる言葉の分かりにくさが、患者さんの理解と判断の妨げになると指摘されています。
| 現場の言葉 | 患者さんへの言い方 |
|---|---|
| バイタル | 体温や血圧、脈を測ること |
| ルート | 点滴の管 |
| NPO(絶飲食) | お食事も飲み物も控えていただくこと |
| 安静度 | どこまで動いてよいかの目安 |
| 離床 | ベッドから起きて過ごすこと |
| 清拭 | お体を温かいタオルでふくこと |
| 頓服 | 症状が出たときだけ飲むお薬 |
ナースステーションでの会話がそのまま聞こえることもあるので、患者さんの近くでは略語を使わないことも接遇の1つです。
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あいまいな時間の表現
「少々お待ちください」「後で来ますね」は、看護師にとっては数分のつもりでも、患者さんには長く感じられることがあります。 来なかった場合に「忘れられた」と受け取られやすいのも、あいまいな表現の難点です。
「すぐ」「少し」「後で」は人によって長さの感じ方が違います。「10分ほど」「お昼の配膳の前に」など、時間か目印になる出来事で伝えましょう。
忙しいと「ちょっと待ってて」が出ちゃうよね
参考:日本看護協会「看護職の倫理綱領」 / 国立国語研究所「『病院の言葉』を分かりやすくする提案」
【場面別】言い換えの例

厚生労働省の「令和5年受療行動調査」で外来患者さんの満足度を見ると、「医師以外の病院スタッフの対応」に満足している人は63.9%で、不満は3.9%でした。 一方、「診察までの待ち時間」は不満が25.5%と項目の中で最も高くなっています。
スタッフの対応への評価は高めでも、待ち時間のように看護師だけでは変えられない不満もあります。 そうした場面ほど、伝え方ひとつで受け止め方が変わります。
患者を呼ぶとき
患者さんを呼ぶときは、名字に「さん」を付けるのが基本です。 「おばあちゃん」「お父さん」といった呼び方は、家族のような親しみを込めたつもりでも、一人の大人として扱われていないと感じる人がいます。
処置や与薬の前の本人確認では、看護師が名前を読み上げるのではなく、患者さんご本人にフルネームを名乗っていただく方法があります。 「お名前を教えていただけますか?」と、理由が分かる一言を添えると、何度も聞かれる患者さんの負担感が和らぎます。
訪問看護で利用者さんの自宅を訪ねるときの挨拶や立ち振る舞いは、以下の記事が参考になります。
処置やケアをお願いするとき
処置やケアのお願いは、「何をするか」と「なぜするか」をセットで伝えると協力を得やすくなります。 患者さんの体に触れる前には、ひと声かけてから触れましょう。
痛みを伴う処置では、「痛くないですよ」と言い切るより、「少しチクッとします」と正直に伝えるほうが信頼につながります。
看護師の求人を探す待ち時間を伝えるとき
待ち時間の不満は、待つ長さだけでなく「あとどれくらいか分からない」ことからも生まれます。 目安を伝え、遅れるときは途中で声をかけるだけでも受け止め方は変わります。
目安の時間を過ぎそうなときは、患者さんに聞かれる前にこちらから伝えるのが大切です。
医師や他職種の話をするとき
患者さんの前で医師や他職種の話をするときも、前述の「ウチの人物は立てない」が原則です。 「先生がおっしゃっていました」は、医師の動作に尊敬語を使っているため、患者さんより医師を立てる形になります。
| 場面 | 避けたい言い方 | 言い換え |
|---|---|---|
| 医師の説明を伝える | 先生がおっしゃっていました | 担当医の〇〇が申しておりました |
| 医師が来ることを伝える | 先生がもうすぐいらっしゃいます | 担当医がまもなく参ります |
| 上司の不在を伝える | 〇〇師長さんはいらっしゃいません | 師長の〇〇は、ただいま席を外しております |
| 他職種が来ることを伝える | リハビリの先生が来られます | 理学療法士の〇〇が伺います |
なお、「敬語の指針」では、学校の教員が保護者に同僚を「田中先生」と呼ぶ言い方について、生徒を基準にする考え方から支持する人が多いと解説しています。 病院で患者さんに「〇〇先生」と呼ぶのも同じように受け入れられやすい言い方ですが、敬称は付けても、医師の動作まで尊敬語にしないのが無難です。 迷ったときは「担当医の〇〇」「主治医の〇〇」のように職名で示すと、中立的な言い方になります。
紹介状や他院の医師に宛てた手紙の敬称は、以下の記事で紹介しています。
断るときや謝るとき
患者さんの要望に応えられないときは、断るだけで終わらせず、代わりにできることを添えるのが基本です。 謝るときは、何に対して謝っているのかを具体的に言いましょう。
「私には分かりません」で会話を終えると、患者さんは誰に聞けばよいのか分からなくなります。 自分で答えられないときも、「確認してお伝えします」と次の行動まで伝えると安心してもらえます。
「何を・なぜ・いつ」をセットで伝えるのがコツだね
参考:厚生労働省「令和5(2023)年受療行動調査(確定数)の概況」 / 文化庁「敬語の指針(平成19年2月2日 文化審議会答申)」
クッション言葉の使い方

クッション言葉は、お願いやお断りの前に添えて、言葉の印象をやわらげる前置きです。 同じ内容でも、「恐れ入りますが」の一言があるだけで、患者さんの受け止め方は変わります。
お願いするときに添える言葉
お願いの場面では、患者さんに手間や負担をかけることへの気遣いを表す言葉を添えます。
クッション言葉のあとは、「〜していただけますか?」のような依頼の形で締めると、全体がやわらかくまとまります。
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断るときに添える言葉
断る場面では、相手の気持ちを受け止める言葉を先に置きます。
患者さんやご家族から差し入れやお礼の品を差し出されたときも、「せっかくですが」と受け止めてから断ると、相手の気持ちを否定せずに済みます。
使いすぎないための目安
クッション言葉は、重ねすぎると何を言いたいのかが伝わりにくくなります。 「敬語の指針」も、敬語はたくさん使えば丁寧になるわけではなく、適度に使うものとしています。
目安は1つのお願いにクッション言葉は1つです。 急変時や転倒しそうなときなど、安全を優先する場面では「止まってください」と短く伝えるほうが確実です。
毎回完璧じゃなくて大丈夫。1つ添えるだけで変わるよ
参考:文化庁「敬語の指針(平成19年2月2日 文化審議会答申)」
言葉遣いを定着させる方法

言葉遣いは、知識として覚えても、忙しい場面ではいつもの口癖が出やすいものです。 自分の言い方を知り、良い言い方をまねて、チームで共有するという3つの方法で、少しずつ定着させましょう。
自分の言い回しを振り返るチェック項目
勤務の終わりに、その日の声かけを思い出して振り返るのが手軽な方法です。 全部を毎日見直す必要はなく、気になる項目を1つ決めて意識するだけでも変わります。
先輩の言い方を記録する
患者さんへの声かけが上手な先輩の言い方は、そのまま使える教材です。 聞いて「いいな」と思った言い回しは、その場でメモしておきましょう。
- どの場面だったか(処置前、待ち時間、お断りなど)
- 先輩が実際に使った言い方
- 患者さんの反応
- 自分ならどこで使えそうか
メモがたまったら、場面ごとに並べ替えておくと、自分用の言い換え集になります。
良い言い方はどんどんまねして、自分のものにしちゃおう
直接聞けるときは、「さっきの声かけ、どうしてあの言い方にしたんですか?」と理由まで聞いておくと応用しやすくなります。
- 口癖は1つずつ言い換えると定着しやすい
- 上手な声かけは理由まで聞いておく
- 迷ったら「その人に伝わるか」を優先
病棟や外来の申し送りで共有する
言葉遣いは、一人が気をつけるより、チームで共有したほうが定着します。 申し送りやカンファレンスで、声かけの工夫を短く共有するのも1つの方法です。
- 認知症の患者さんに伝わりやすかった声かけ
- クレームにつながりかけた言い方と、その後の対応
- 患者さんやご家族から「うれしかった」と言われた言葉
特に、認知症の方への呼びかけ方など、その人に合った声かけはチームで統一すると、患者さんが混乱しにくくなります。 看護記録や看護計画に「〇〇さんとお呼びすると反応が良い」と残しておけば、勤務帯が変わっても同じ対応ができます。
まとめ
看護師の接遇で使う言葉遣いは、敬語の文法、避けたい表現、場面別の言い換え、クッション言葉の4つを押さえると整理しやすくなります。 どれも「患者さんを一人の大人として尊重し、伝わる言葉を選ぶ」という考え方が土台です。
この記事のポイント
- 患者さんの動作は尊敬語、病院側の動作は謙譲語
- 医師や同僚の動作に尊敬語を使わない
- タメ口・幼児語は相手に合わせて判断する
- 時間は「すぐ」ではなく具体的な目安で伝える
- クッション言葉は1つのお願いに1つ
まずは今日の勤務で、気になる言い方を1つだけ言い換えてみましょう。 患者さんへの接し方や職場の雰囲気が合わないと感じるときは、教育体制や接遇への考え方が自分に合う職場を探すのも1つの選択肢です。


