薬剤師が不足している地域はどこ?偏在指標でみる実態と地方転職の選択肢
「薬剤師が不足している地域なら、好条件で働けるかもしれない」と、地方への転職を考え始めた薬剤師もいるのではないでしょうか?
ただ、薬剤師が不足している地域は、人口あたりの人数だけを見ても分かりません。厚生労働省の薬剤師偏在指標で見ると、薬局は全国平均で足りている一方、病院はすべての都道府県で必要な水準を下回っています。
この記事では、都道府県別の薬剤師数と偏在指標、同じ県内での偏り、不足の原因、自治体の支援制度、不足地域で働くときの条件を紹介します。
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薬剤師の人数と地域差の実態

薬剤師の数は全国で増え続けていますが、人口あたりの人数は都道府県によって大きく違います。 厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」では、薬局と病院・診療所で働く薬剤師(薬局・医療施設の従事者)の数を、人口10万人あたりで都道府県別に比べています。
薬剤師の総数と推移
2024年12月末時点で届出のあった薬剤師は329,045人で、2022年より5,355人(1.7%)増えました。 このうち、薬局と病院・診療所で働く人は260,727人です。
2012年からの12年間で、薬局で働く薬剤師は約4.4万人増えた一方、病院・診療所は約1.1万人の増加にとどまっています。 増えた薬剤師の多くは薬局に向かっているため、「全体の人数は増えているのに、病院では人が足りない」というずれが生まれています。
人口10万対薬剤師数が多い都道府県
薬局・医療施設に従事する人口10万対薬剤師数(2024年)は、全国で210.6です。 最も多いのは徳島県の256.6で、兵庫県245.6、東京都240.3が続きます。
東京都は、届出の総数で見ると人口10万対388.1で全国最多ですが、薬局・医療施設に絞ると3位になります。 総数には企業・大学・行政などで働く人や、薬剤師として働いていない人も含まれるためです。 ランキングを見るときは、「総数」と「薬局・医療施設の従事者」のどちらの数値かを確認しておきましょう。
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人口10万対薬剤師数が少ない都道府県
最も少ないのは沖縄県の155.3で、福井県170.4、青森県175.5の順です。 下位には、大都市を抱える愛知県(186.3)も入っており、「地方ほど少ない」とは言い切れません。
人口10万対の数は、住民の数に対する薬剤師の数です。入院患者さんの数や処方箋の枚数といった業務量は反映されていないため、職場ごとの過不足は次の偏在指標で確認するのがおすすめです。
人数が多い県なら、どこの職場も人は足りているの?
参考:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
薬剤師偏在指標でみる不足の実態

薬剤師が足りているかどうかは、「必要な業務量に対して、働いている薬剤師の労働時間が足りているか」で見ると実態に近づきます。 厚生労働省は2023年6月、この考え方で算定した薬剤師偏在指標を、都道府県と二次医療圏ごとに公表しました。
偏在指標とは?
偏在指標は、地域の薬剤師の労働時間(供給)を、その地域で必要とされる業務量(需要)で割った値です。 労働時間は性別・年齢による働き方の違いを調整し、業務量は入院・外来の患者さんの数などから推計しています。
1.0を上回れば業務量に対して薬剤師が足りている、下回れば足りていないという読み方をします。 指標は病院と薬局で別々に算定され、両方を合算した「地域別」の値もあります。
区分を決めるときは、病院と薬局の指標を同じ物差しで並べて順位をつけます。 そのため、指標が低くなりやすい病院の多くが「少数」に入ります。
薬局薬剤師と病院薬剤師の差
全国の値は、薬局薬剤師が1.08、病院薬剤師が0.80です。 薬局は全体として業務量を上回る薬剤師がいる一方、病院は必要な業務量の8割ほどしか労働時間をまかなえていません。
病院薬剤師の指標が1.0を超えた都道府県は1つもなく、最も高い東京都・京都府・徳島県でも0.94です。 「薬剤師が不足している地域」という言葉は、多くの場合、病院薬剤師の不足を指していると考えると整理しやすくなります。
同じ「不足」でも、病院と薬局で話がまったく違うんだね!
不足が大きい都道府県
病院薬剤師の指標が最も低いのは青森県で、秋田県・山形県が続き、東北の県が下位に多く入っています。 薬局薬剤師で「少数都道府県」になったのは、福井県と富山県の2県だけです。
| 病院薬剤師 | |
|---|---|
| 青森県 | 0.55少数 |
| 秋田県 | 0.56少数 |
| 山形県 | 0.60少数 |
| 三重県 | 0.63少数 |
| 岩手県 | 0.64少数 |
| 福島県・宮崎県 | 0.65少数 |
| 薬局薬剤師 | |
|---|---|
| 福井県 | 0.73少数 |
| 富山県 | 0.82少数 |
| 鹿児島県 | 0.86 |
| 大分県・和歌山県 | 0.87 |
| 青森県 | 0.88 |
| 三重県・沖縄県 | 0.90 |
人口10万対薬剤師数が全国で最も少ない沖縄県は、偏在指標では病院0.91・薬局0.90で、どちらも少数都道府県に入っていません。 人口あたりの人数と、業務量に対する充足度は一致しないことが分かります。
薬剤師の求人を探す将来の推計
ガイドラインは2036年を目標年次とし、その時点の偏在指標も推計しています。 全国では、薬局薬剤師が1.22まで上がる一方、病院薬剤師は0.82とほぼ横ばいです。
| 都道府県 | 病院薬剤師 | 薬局薬剤師 |
|---|---|---|
| 青森県 | 0.55→0.62 | 0.88→1.15 |
| 秋田県 | 0.56→0.66 | 0.96→1.32 |
| 福井県 | 0.75→0.82 | 0.73→0.87 |
| 沖縄県 | 0.91→0.85 | 0.90→0.89 |
| 東京都 | 0.94→0.91 | 1.42→1.43 |
| 徳島県 | 0.94→1.07 | 1.03→1.29 |
薬局では、薬剤師の労働時間の伸びが業務量の伸びを大きく上回るため、ほぼ全ての県で1.0を超える見込みです。
病院は労働時間も増えるものの業務量も増え、2036年に1.0を超えるのは徳島県だけと推計されています。 病院薬剤師の不足は、地方を中心に長く続くと見込まれています。
業務の効率化やAIの活用で、薬剤師の仕事がどう変わるかは以下の記事で紹介しています。
参考:厚生労働省「薬剤師確保対策」 / 厚生労働省「薬剤師確保計画ガイドライン」
同じ都道府県内でも生じる偏在

県全体の値が平均的でも、県内の地域によって状況は大きく変わります。 偏在指標は、二次医療圏(入院医療を地域で完結させる単位として、県内をいくつかに分けた区域)ごとにも算定されています。
都市部への集中
県庁所在地や大学病院がある圏域に薬剤師が集まり、周辺の圏域で指標が低くなる傾向がはっきり出ています。 宮城県は、県全体の薬局薬剤師の指標が1.16で多数都道府県ですが、仙台圏域を除くと薬局でも1.0を下回ります。
県の値が「多数」でも、都市部を離れると不足していることは珍しくありません。 転職先を考えるときは、県単位ではなく、勤務地がある圏域の値まで確認しておくと安心です。
二次医療圏による差
全国335の二次医療圏のうち、病院薬剤師の少数区域は204で、約6割が病院薬剤師の少数区域に当たります。 薬局薬剤師の少数区域は69で、約2割です。
薬剤師が最も多い東京都でも、圏域ごとに見ると差があります。 都心の区中央部は病院・薬局とも指標が全国最高水準ですが、区東北部や多摩地域、島しょ部では病院薬剤師の少数区域になっています。
| 圏域 | 病院薬剤師 | 薬局薬剤師 |
|---|---|---|
| 東京都全体 | 0.94 | 1.42 |
| 区中央部 | 1.74 | 3.08 |
| 区東北部 | 0.68少数 | 1.24 |
| 南多摩 | 0.58少数 | 1.21 |
| 西多摩 | 0.49少数 | 0.95 |
| 島しょ | 0.04少数 | 0.43少数 |
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離島や無薬局町村
薬局は全国に63,203か所(2024年度末)ありますが、薬局が1つもない「無薬局町村」が140あります。 北海道が26で最も多く、長野県13、福島県・奈良県12、沖縄県10が続きます。
離島の圏域は、病院・薬局とも指標が低い傾向があります。 東京都の島しょ圏域は病院0.04・薬局0.43、島根県の隠岐圏域は病院0.37・薬局0.56です。
離島や山間部では、1つの病院や薬局が広い地域を受け持つことも多く、1人が辞めると地域の医薬品提供に直接影響します。
「県内なら大丈夫」とは限らないんだね
参考:厚生労働省「薬剤師確保対策」 / 厚生労働省「厚生統計要覧(令和7年度)第2編 保健衛生 第4章 薬事」
薬剤師不足が起きる原因

薬剤師の総数は増えているのに不足が解消しないのは、増えた人が特定の職場や地域に集まっているためです。 厚生労働省のガイドラインも、地域による偏りに加えて、病院と薬局の間の「業態偏在」を課題に挙げています。
薬局数の増加
病院や診療所で処方箋を受け取り、院外の薬局で薬を受け取る「医薬分業」が広がったことで、薬局の数と薬局で働く薬剤師が大きく増えました。 前述のとおり、薬局で働く薬剤師は12年間で約4.4万人増えています。
薬局は人口が多く、医療機関が集まる地域に出店しやすいため、薬剤師も都市部の薬局に集まりやすくなります。 新卒や若手の薬剤師が薬局を選ぶ割合が高いと、病院や地方の職場には人が回りにくくなります。
薬剤師の求人を探す病院薬剤師の待遇との差
ガイドラインによると、病院と薬局の平均的な生涯年収は同程度と予測される一方、20〜40代の給与水準は病院の方が薬局より低いという分析結果があります。 50代では病院の方が高くなりますが、若手のうちの差が、就職先を選ぶときの判断に影響しやすくなります。
- 正社員の月給中央値は調剤薬局36.5万円
- 病院の正社員は月給中央値30.05万円
- 掲載求人の大半は首都圏の求人
病院では当直や病棟業務があり、勤務の負担と給与のバランスから薬局を選ぶ人もいます。 病院・薬局・ドラッグストアなど、職場ごとの仕事内容や年収の違いは以下の記事で比較しています。
免許を使わない就業や離職
薬剤師の資格を持っていても、全員が薬局や医療機関で働いているわけではありません。 企業や行政で働く人のほか、出産・育児などで仕事を離れている人もいます。
仕事をしていない「潜在薬剤師」は、2024年の届出で1万人を超えています。 女性が6割を占める職種のため、ライフイベントで離職した人が復職しやすいかどうかも、地域の薬剤師数を左右します。
資格があっても、働く場所はいろいろなんだね!
参考:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 / 厚生労働省「薬剤師確保計画ガイドライン」
国や自治体の取り組み

厚生労働省のガイドラインは、確保策の例として、奨学金の貸与、薬学部の地域枠、医療機関への薬剤師派遣、潜在薬剤師の復職支援などを挙げています。 こうした取り組みには、国の財源も使って都道府県が設けている「地域医療介護総合確保基金」を活用できます。
修学資金の貸与
自治体の支援は、大きく分けて次の2つです。
-
修学資金の貸与薬学部の在学中に学費などを貸与し、卒業後に県内の指定施設で一定期間働くと返還が免除される
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奨学金の返還支援日本学生支援機構などの奨学金を返している人に、県内で働く期間の返還額を貸与・補助する
制度の名前や金額、対象の施設は県ごとに異なり、同じ県でも年度によって変わります。 多くの制度で、県内の指定された病院・薬局に一定期間勤めることが返還免除や補助の条件です。
募集期間が決まっていて、就職後や勤務開始後には申請できない制度もあります。 地方で働くことを考えているなら、希望する都道府県の薬務担当課のページを、就職活動の前に確認しておきましょう。
病院薬剤師の確保策
ガイドラインでは、病院薬剤師を確保するために次のような取り組みが例示されています。
- 若手の給与を上げるための昇給カーブの見直しや手当の支給
- 産休・育休や介護に合わせた勤務制度の見直し
- 自動調剤機器やICTの活用、薬剤師以外の職員との業務分担
- 病院の魅力や採用情報の発信、就職説明会やインターンシップ
奨学金返還支援の対象を病院に絞ったり、病院勤務者に研修プログラムの受講を求めたりする県もあります。 病院薬剤師として地方で働く場合、給与だけでなく研修や教育の体制がどこまで整っているかも比べてみましょう。
オンライン服薬指導の活用
オンライン服薬指導は、映像と音声で患者さんの様子を確かめながら、離れた場所から服薬指導をする方法です。 2022年9月のルール見直しで、患者さんの求めに応じて、薬剤師の判断と責任のもとでその都度実施できるようになりました。
近くに薬局がない地域や、通院の負担が大きい患者さんにとっては、薬を受け取る手段の1つになります。 ただし、調剤や薬の管理をする薬剤師がいなくなるわけではなく、地域で働く薬剤師の確保は引き続き必要です。
奨学金の返還を助けてもらえるなら、地方も選びやすくなるね!
参考:福井県「令和9年度福井県薬剤師確保奨学金返還資金貸与者および令和8年度福井県薬剤師確保修学資金貸与者の募集について」 / 山口県「山口県内の病院・薬局就職後の奨学金の返還補助制度について」
不足している地域で働く場合の条件

薬剤師が不足している地域では採用されやすい一方で、給与・生活・キャリアの面で都市部とは違う条件があります。 転職してから戸惑わないよう、応募の前に3つの点を確かめておきましょう。
給与の水準
不足している地域の求人では、都市部より高めの給与や住宅手当を提示している例があります。 ただし、これは求人情報から見える傾向で、地域ごとの給与を比べた公的な統計で裏づけられたものではありません。
同じ地域でも、病院と薬局では給与の水準が違います。 提示額だけでなく、手当の内訳や昇給の仕組み、家賃などの生活費まで含めて比べると、実際に手元に残る金額が見えてきます。
地方転職で年収が上がりやすい地域や、生活費を含めた比べ方は以下の記事で紹介しています。
生活環境と移動手段
地方では、通勤や日常の買い物に車が欠かせない地域が多くあります。 都市部から移る場合は、車の購入費や維持費、冬の雪道の運転まで考えておくと安心です。
家族と一緒に移る場合は、配偶者の仕事や子どもの学校、親の介護など、家族の生活もあわせて考える必要があります。
求人の種類が限られること
不足している地域でも、求人の件数そのものは都市部より少なく、選べる職場の種類は限られます。 病院を希望していても近くに病院の求人がなく、薬局やドラッグストアが中心になる地域もあります。
選べる職場が少ないと、次の転職も気になるよね
がんや感染制御などの専門・認定資格を目指す場合は、研修施設の要件を満たす病院が近くにあるかも確認しておきましょう。 一度地方に移ると次の転職先も限られるため、数年後のキャリアまで見据えて職場を選ぶのがおすすめです。
まとめ
薬剤師が不足している地域を探すときは、人口10万対の人数だけでなく、偏在指標で病院と薬局を分けて見ることが大切です。 薬局は全国平均で足りている一方、病院薬剤師はすべての都道府県で不足しており、同じ県内でも都市部と周辺部で差があります。
この記事のポイント
- 人口10万対薬剤師数は徳島県が最多、沖縄県が最少
- 偏在指標の全国値は病院0.80、薬局1.08
- 病院薬剤師は約6割の二次医療圏で少数区域
- 奨学金の返還支援など自治体ごとの制度がある
- 給与は手当や生活費まで含めて比べる
地方への転職を考えるなら、希望する地域の偏在指標と自治体の支援制度を確認したうえで、求人を比べてみましょう。 病院か薬局か、どの地域で働くかによって条件は大きく変わるため、転職エージェントに相談すると、地域の求人事情や手当の中身まで確認しやすくなります。


