薬剤師の生涯年収はいくら?計算方法と収入を左右する要素
薬剤師の生涯年収を調べると「約2.3億円」と言われています。ところが記事によって幅があり、どれが現実に近いのか判断が難しいところです。
金額が食い違うのは、何歳から働き始めて何歳で辞めるのか、退職金を数に入れるのかといった計算の前提が記事ごとに違うためです。前提が変われば結果は数千万円単位で動きます。
この記事では、薬剤師の生涯年収がどう計算されているのかを分解したうえで、厚生労働省の統計から前提を明示した試算を示します。
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生涯年収はどう計算されている?

生涯年収は、一人の労働者が働いている間に受け取る賃金の総額を指します。過去に実際に受け取った金額を追跡した統計があるわけではなく、今ある賃金統計から推計した数字です。
計算の考え方
一般的なのは、年齢階級ごとの平均年収を、働く年数の分だけ積み上げる方法です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査には、職種別・年齢階級別に「きまって支給する現金給与額(月額)」と「年間賞与その他特別給与額」が載っています。月額を12倍して賞与を足せば、その年齢階級の推計年収が出ます。
注意したいのは、この数字が同じ年に働いている各年代の平均を並べたものだという点です。20代の欄と50代の欄は別人のデータで、今の20代が50代になったときに同じ金額を受け取れるという意味ではありません。
生涯年収は「今の各年代の賃金がこの先も変わらない」と仮定した推計です。物価や賃金水準の変化は織り込まれていません。
前提となる条件
同じ統計を使っても、次の条件をどう置くかで結果は大きく変わります。
- 就業を開始する年齢(薬剤師は6年制課程のため24歳が基準)
- 退職する年齢(60歳・65歳・70歳のどこで区切るか)
- 雇用形態(全期間フルタイムか、非常勤の期間を含めるか)
- 退職金を含むかどうか
- 勤務の中断がないと仮定しているか
- 統計の調査年・企業規模・男女の区分
金額だけが示されていて、これらの条件が書かれていない場合、その数字が自分に当てはまるかどうかは判断できません。
示されている金額がばらつく理由
学校卒業後すぐに就職して60歳まで正社員を続けた場合(退職金を含まない)、大学卒の男性は2億6,280万円です。ここに退職金1,840万円と、60歳以降に非正社員として働いた分5,830万円を足すと3億3,950万円になります。
同じ「大学卒男性の生涯賃金」でも、どこまでを数えるかで7,000万円以上の開きが出ます。
金額の大小を比べる前に、その数字がどの範囲を数えたものかを確かめる。これが生涯年収を読むときの出発点です。
参考:e-Stat「賃金構造基本統計調査 5 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」 / 労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2025 ―労働統計加工指標集―」
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薬剤師の生涯年収の目安

前提を明示したうえで、公的統計から薬剤師の生涯年収を試算します。使うのは令和7年賃金構造基本統計調査の職種「薬剤師」(男女計・企業規模10人以上・一般労働者・全国)です。この職種の集計対象は94,850人でした。
公的統計から試算する方法
20〜24歳の平均年齢は24.5歳となっていて、6年制課程を卒業してすぐ就業した層がここに入ります。年齢階級別の推計年収は20代前半の408.4万円から始まり、45〜49歳の675.8万円が最も高く、その後はゆるやかに下がります。
年齢階級別 推計年収の推移(万円)
24歳から59歳までの36年間、フルタイムの一般労働者として働き続けたと置くと、合計は約2億1,400万円です。60歳から64歳まで同じ職種の平均で5年間働き続けると約2,750万円が加わり、約2億4,100万円になります。いずれも退職金は含みません。
この試算の前提
- 令和7年賃金構造基本統計調査の職種「薬剤師」(男女計・企業規模10人以上)
- 就業開始24歳、勤務の中断なし、全期間フルタイムの一般労働者
- きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額で年収を算出
- 退職金を含まない/今後の賃金水準の変化を織り込まない
退職年齢を60歳で区切るか65歳まで延ばすかだけで、2,750万円の差が出ます。
業種による違い
勤務先ごとの薬剤師の年収を公的に確認できるのは、厚生労働省の医療経済実態調査です。第25回調査(令和7年実施)によると、保険薬局に勤める薬剤師の年収は約479万円、一般病院に勤める薬剤師は約581万円でした。
差を生んでいるのは賞与です。給料年額そのものの差は約40万円ですが、賞与は一般病院が約116万円、保険薬局が約55万円と2倍以上の開きがあります。
保険薬局 と 一般病院 の年収内訳
| 項目 | 保険薬局 | 一般病院 |
|---|---|---|
| 給料年額 | 4,245,802円 | 4,654,030円 |
| 賞与 | 548,881円 | 1,157,216円 |
| 年収 | 約479万円 | 約581万円 |
医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)では、調剤薬局の求人1,124件の月給中央値が36万5,000円、病院の求人289件が30万500円と、月給だけを見ると順位が逆になります。月給で比べるか、賞与まで含めて年収で比べるかで結論が変わるため、業種別のランキングは何を比べた順位なのかを確かめてから読むのが無難です。
なお、ドラッグストアや製薬企業については、業種を切り分けた公的な年収データが見当たりません。これらを含む「業種別ランキング」を見かけたときは、出典の範囲を確認してみてください。
雇用形態による違い
短時間労働者として働く薬剤師のデータも同じ賃金構造基本統計調査にあります。令和7年の1時間当たり所定内給与額は2,540円で、平均年齢52.5歳、1か月の実労働日数14.4日、1日当たり所定内実労働時間5.8時間でした。この条件のまま1年働くと、賞与9万5,900円を含めて年収は約264万円です。
ここで見落とされやすいのが時間当たりの水準です。フルタイムの薬剤師は所定内給与36万9,700円を月157時間で割ると時給換算2,355円となり、所定内の時給だけなら短時間労働者のほうが高くなります。
ただし賞与まで含めて計算し直すとフルタイムが2,823円、短時間が2,635円となり、順位が入れ替わります。
所定内のみ/賞与込みの時給換算
参考:厚生労働省「第25回医療経済実態調査の報告(令和7年実施)」 / e-Stat「賃金構造基本統計調査 1 短時間労働者の職種(小分類)別1時間当たり所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」
薬剤師の求人を探す他職種との比較で注意すること

「薬剤師の生涯年収は一般労働者より高い」「思ったより低い」といった意見をよく聞きますが、実際にはどうなのでしょうか?
比較対象の条件をそろえる
60歳まで正社員を続けた場合(退職金を含まない)の生涯賃金は、男性が高校卒2億1,560万円・大学卒2億6,280万円、女性が高校卒1億5,790万円・大学卒2億990万円です。
前述の薬剤師の試算(約2億1,400万円)は男女を合わせた数字です。これを男性大学卒の2億6,280万円と比べて「薬剤師のほうが低い」と結論づけることはできません。性別の区分、学歴、就業年数、退職金の有無をそろえた数字どうしでなければ、高いか低いかの判断材料になりません。
就業開始年齢の違い
薬剤師国家試験を受けるには6年制課程を修める必要があり、早くても就業開始は24歳が基準になります。4年制の学部を卒業して22歳から働く人と比べると、働ける期間が2年短くなります。賃金構造基本統計調査の薬剤師20〜24歳の推計年収は408.4万円ですから、2年分でおよそ820万円の差です。
さらに、在学期間が2年長い分の学費がかかります。私立大学の薬学部は、令和7年度の初年度納付金が218万1,184円でした(授業料141万8,656円・入学料32万6,148円・施設設備費33万8,340円ほか)。2年目以降を入学料を除いた額で見積もると、6年間の総額はおよそ1,100万〜1,200万円になります。
一方、国立大学は省令で入学料28万2,000円・授業料年53万5,800円が標準額と定められていて、6年間ではおよそ350万円です。
私立と国立で3倍以上の開きがあります。奨学金を使う場合も、借入額と返還期間は進学先によってまったく違う数字になります。
生涯の収支を考えるなら、この在学期間のコストと就業開始の遅れは片側に置いておく必要があります。とはいえ、それをもって薬学部が損だという話にはなりません。
退職金を含むかどうか
前述の退職金1,840万円は大学卒の場合で、高校卒では1,440万円と見積もられています。どちらも金額として無視できる大きさではなく、含めるか含めないかで比較の結果は変わります。
退職金そのものの実態については、記事後半の試算手順であらためて取り上げます。
参考:文部科学省「私立大学等の入学者に係る学生納付金等調査結果について」 / e-Gov法令検索「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」
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生涯年収を左右する要素

同じ薬剤師でも、生涯年収には差が生まれます。どこで差がつくのかを要素に分けると、自分の見通しを立てやすくなります。
昇給の幅
年齢階級別の推計年収を並べると、平均は一直線に上がるわけではないことが分かります。25〜29歳から30〜34歳へは38.4万円、30〜34歳から35〜39歳へは64.8万円増えますが、35〜39歳から40〜44歳へはほぼ横ばいで、40〜44歳から45〜49歳で80.6万円増えます。
このうねりは、定期昇給だけでは説明がつきません。役職に就いた人とそうでない人が同じ平均に混ざっているためです。自分の職場の昇給額がこの平均どおりに動くとは限らないので、実際の試算では勤務先の実績を使うほうが精度が上がります。
役職への就任
医療経済実態調査では、保険薬局の管理薬剤師の年収は約725万円と集計されています。一般の薬剤師との差は約246万円です。仮に20年間この差が続くとすれば、単純計算で4,900万円ほどの違いになります。
ただし、ポストは限られています。同じ調査の延べ人員数を見ると、保険薬局1施設あたり管理薬剤師は11.7人月、薬剤師は24.1人月で、管理薬剤師はおおむね1薬局に1人という配置です。役職を生涯年収の前提に組み込むなら、就任できる時期の想定を控えめに置いておくほうが安全です。
保険薬局1施設あたりの人員配置(人月)
勤続年数と転職回数
退職金は勤続年数をもとに算定されるのが一般的です。転職すると、その年数がいったん区切られます。同じ年数を働いても、1社で通して勤めた場合と複数社に分かれた場合では、受け取る退職金の合計が変わることがあります。
一方で、転職が収入を下げるとも限りません。令和6年の雇用動向調査では、転職入職者のうち前職より賃金が増加した人が40.5%、変わらなかった人が28.4%、減少した人が29.4%でした。月々の収入と退職金は別の話なので、転職を検討するときは両方を分けて見積もる必要があります。
なお、薬剤師の平均勤続年数は8.6年です。45〜49歳で13.5年、50〜54歳で16.8年となっていて、一つの職場で長く勤め上げる人ばかりではないことがうかがえます。
勤務の中断と復職
離職して復職するまでの期間は、収入が入らないだけでなく、勤続年数の計算もそこで止まります。中断が長いほど、退職金と昇給の両方に影響します。
復職そのものの間口は狭くありません。医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)では、薬剤師求人1,450件のうちブランクOKの求人が145件、時短勤務OKの求人が149件ありました。ただし、いずれも全体の1割程度です
薬剤師求人1,450件のうちの該当件数
働き方の変更が与える影響

生涯年収の試算は、フルタイムで働き続ける前提で組み立てられています。実際には途中で働き方が変わることがあり、そのとき金額がどう動くかは前提の外側の話です。
正社員から非常勤への変更
非常勤に変えると、月々の収入が減るだけでなく賞与の扱いも変わります。フルタイムの薬剤師の年間賞与は88万3,500円、短時間労働者は9万5,900円で、前述の時給差よりもこちらの開きのほうが年収に効いてきます。
退職金も同じです。非常勤の期間を退職金の算定にどう反映するかは職場ごとの規程によるため、変更を検討する段階で確認しておきたい点です。
医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)では、薬剤師求人のうちパート・アルバイトが518件と全体の3分の1を超えています。募集自体は多く、選び方次第で条件は変わります。
時短勤務の期間
育児・介護休業法は、3歳に満たない子を養育する労働者について、所定労働時間の短縮措置(1日原則6時間)を設けることを事業主の義務としています。1日8時間を6時間にすると、所定内給与はおおむね4分の3になります。
この期間の減収をやわらげる制度として、令和7年4月に育児時短就業給付金が創設されました。2歳に満たない子を養育するために時短勤務をして賃金が下がった場合に、雇用保険から賃金額の10%相当が支給されます。
時短勤務の期間を賞与と退職金の算定にどう反映するかは、法律ではなく職場の規程で決まります。就業規則と退職金規程の該当箇所を、制度を使う前に見ておきましょう。
復職後の水準
時短勤務や非常勤から通常勤務に戻したあと、給与がどの水準から再スタートするかも規程次第です。中断前の等級に戻る職場もあれば、在籍年数の計算が変わる職場もあります。
生涯年収への影響を見積もるときは、減った期間の金額だけでなく、その後の昇給がどこから積み上がるかまで含めて考えると実態に近づきます。
参考:厚生労働省「育児・介護休業法について」 / 厚生労働省「育児休業等給付について」
今のあなたの状況は?
自分の生涯年収を試算する手順

ここまでに出てきた前提を、自分の数字に置き換える手順をまとめます。用意するものは源泉徴収票と給与明細、それに就業規則です。
現在の年収を項目に分ける
源泉徴収票の「支払金額」が、1年間に受け取った給与の総額です。まずはこの金額を、給与明細を見ながら基本給・手当・賞与の3つに分けます。
分ける理由は、伸び方が違うからです。基本給は昇給で積み上がり、賞与は基本給に月数を掛けて決まる職場が多く、手当は役職や勤務地が変われば増減します。3つを合算したまま将来に引き延ばすと、実態からずれた金額になります。
昇給の実績を確認する
過去3〜5年分の給与明細から、基本給がいくらずつ増えてきたかを並べます。毎年ほぼ同額なら定期昇給が機能している職場、増減がばらつくなら業績や評価の比重が大きい職場と見当がつきます。
賞与は「基本給の何か月分だったか」に換算しておくと、基本給が上がったときの伸びを見積もりやすくなります。就業規則や賃金規程に昇給の時期と査定方法が書かれているので、あわせて目を通しておくと数字の根拠がはっきりします。
- 出てきた金額は「今の職場に居続けた場合」の見通しです
- 他の職場と比べるときは、転職先の想定も同じ前提で作ります
- 金額より先に、昇給が止まっている年がないかを見てみましょう
働く年数と働き方を置く
何歳まで働くかを決めて、年数を出します。ここは正解のある項目ではないので、60歳までと65歳までの2通りを計算して幅で持っておくと使いやすくなります。
途中で時短勤務や非常勤の期間を見込むなら、その年数と減り幅も置きます。前述のとおり、非常勤期間は賞与の有無で差が大きくなるため、月給だけでなく賞与込みで置き換えてみてください。
退職金制度を確認する
退職金は、そもそも制度がない職場もあります。令和5年就労条件総合調査によると、退職給付制度がある企業の割合は74.9%でした。企業規模別では1,000人以上が90.1%、30〜99人が70.1%と差があります。医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)でも、薬剤師求人1,450件のうち退職金制度ありは827件(57%)です。
金額の目安としては、同じ調査で大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職者の退職給付額が1,896万円(勤続20年以上かつ45歳以上)と集計されています。ただし、これは制度がある企業の定年退職者の平均です。
労働基準法は、退職手当の定めをする場合には、適用される労働者の範囲・決定方法・支払の時期などを就業規則に記載しなければならないと定めています。制度の有無と算定方法は、就業規則か退職金規程を見れば確認できます。
- 退職金制度があるか(就業規則・退職金規程)
- 算定の基礎になるのは基本給か、別の基準額か
- 勤続何年から支給対象になるか
- 自己都合退職と会社都合退職で支給率が違うか
ここまでの4項目を埋めれば、平均値ではなく自分の条件に沿った金額が出ます。出てきた数字は、転職や働き方の変更を考えるときの比較の土台になります。
参考:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」 / e-Gov法令検索「労働基準法」
まとめ
薬剤師の生涯年収として出回る金額は、計算の前提が書かれていなければ読みようがありません。令和7年賃金構造基本統計調査をもとに、就業開始24歳・勤務の中断なし・退職金を含まないという前提で試算すると、退職年齢をどこに置くかだけで金額は次のように動きます。
退職年齢で変わる生涯年収
金額を左右するのは、退職年齢、業種、役職、勤続年数、そして途中で働き方を変えるかどうかです。
まずは源泉徴収票と給与明細を用意して、基本給・手当・賞与に分けるところから始めてみてください。自分の数字が見えてくると、平均値との差がどこから生まれているのかも分かります。





