看護師の昇給は平均いくら?仕組みと確認方法を解説
昇給額を調べると、「平均5,370円」「年4,000〜6,000円」「クリニックは2,000〜4,000円」といった数字が並びます。ところが、その金額が何を指しているのかはほとんど説明されていません。
基本給が上がった額なのか、手当を含めた総支給額の増加なのか。毎年の定期昇給分だけなのか、賃金表そのものを書き換えたベースアップを含むのか。集計の範囲が違う数字を並べても比較にはならず、自分の昇給額が多いのか少ないのかも判断できません。
この記事では、まず「昇給」という言葉に含まれる2つの意味を分けたうえで、公的な調査で確認できる看護師の昇給額、昇給が決まる仕組み、そして自分の職場の昇給を給与規程と給与明細から確かめる手順まで整理します。
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「昇給」には2つの意味がある

昇給額の数字を読む前に、言葉の整理から始めます。厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」では、賃金の改定を定期昇給・ベースアップ・諸手当の改定に分けて集計しています。このうち前の2つが、一般に「昇給」と呼ばれているものです。
定期昇給
同じ調査の用語定義では、定期昇給とは「あらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給のことで、その時期に毎年到達すること」とされています。年齢や勤続年数による自動的な昇給だけでなく、能力や業績評価に基づく昇給も定期昇給に含まれます。
ポイントは、給与体系そのものは変わらないという点です。あらかじめ決まっている賃金表の中を、自分の位置が1段上に動くイメージです。4月に昇給する職場、誕生月に昇給する職場など時期は職場ごとに違いますが、いずれも「制度として毎年その時期が来る」という構造は共通しています。
医療・福祉分野では、定期昇給制度がある企業が84.2%、ない企業が15.8%でした(常用労働者100人以上の民営企業が対象)。制度の内容を見ると、自動昇給が31.7%、業績評価などによるものが68.8%となっています(複数回答)。
定期昇給制度がある企業の割合
※2025年・常用労働者100人以上の民営企業
ベースアップ
ベースアップは、用語定義では「賃金表の改訂により賃金水準を引き上げること」とされています。賃金表とは、学歴・年齢・勤続年数・職種・職能などによって賃金がどう定まるかを表にしたものです。
つまりベースアップは、表の中を動くのではなく、表そのものを書き換える措置です。自分の位置が変わらなくても金額が上がるため、制度上は在籍している全員に影響します。
ただし、ベースアップは毎年必ず行われるものではありません。医療・福祉分野で定期昇給制度がある企業のうち、ベースアップを行った(行う)割合は38.0%で、行わなかった(行わない)が27.5%でした。全産業の57.8%と比べると、実施した割合は低い水準にとどまっています。
賃金表は変わらず、自分の位置が1段上がる
自分の位置は同じでも、賃金表そのものが上がる
数字を見るときに区別が必要な理由
区別が必要な最大の理由は、医療・福祉では定期昇給とベースアップを区別していない企業が29.6%あることです。区別していない職場では、「今年の昇給は○円」という金額に両方が混ざっています。一方で区別している職場の数字は定期昇給分だけを指している可能性があり、そもそも同じものを数えていません。
さらに、制度があっても実施されない年があります。医療・福祉では定期昇給制度がある企業のうち、定期昇給を行わなかったところが9.1%、延期したところが2.0%でした。全産業ではそれぞれ2.6%、0.1%です。「制度があるから毎年上がる」とは言い切れません。
改定額そのものにも大きな差があります。2025年の1人平均賃金の改定額は、全産業計が13,601円(改定率4.4%)に対し、医療・福祉は5,589円(2.3%)でした。この5,589円は定期昇給・ベースアップ・諸手当の改定を合わせた金額であり、定期昇給分だけを取り出した数字ではありません。
数字を見るときの3点
- 同じ「昇給額」でも、定期昇給分だけか、ベースアップを含むかで中身が変わる
- 基本給の増加額か、手当を含む総支給額の増加かで金額が変わる
- 調査の対象が病院だけか医療・福祉全体かで水準が変わる
お探しの求人は?
参考:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」
看護師の昇給額の目安

看護師に限定した昇給額を公表している調査は限られています。ここでは日本看護協会の調査と国の賃金統計から、確認できる数字とその読み方を整理します。
公表されている調査データ
日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」には、病院に勤務する看護師の平均基本給与額が示されています。2025年度実績では、勤続10年の看護師(31〜32歳・非管理職)の平均基本給与額が254,286円で、前年度より3,906円(1.6%)増えました。
新卒看護師の初任給は高卒・3年課程卒が216,416円(前年度比6,719円、3.2%増)、大卒が221,883円(同6,269円、2.9%増)です。回答病院数は3,226施設です。
ここで注意したいのが、この「引き上げ率」の定義です。調査では「(今年度平均基本給与額÷前年度平均基本給与額)-1×100」と明記されています。つまり同じ人の昇給額ではなく、その区分にいる人の平均水準が1年で変わった幅です。今年の「勤続10年」と昨年の「勤続10年」は別の人であり、個人の昇給を追った数字ではありません。
そのうえで、同じ年度の新卒と勤続10年を比べると、基本給の差は約3万8,000円です。10年で割ればおおよそ年4,000円弱という計算になりますが、これも別々の人を並べた断面の比較にすぎません。平均値から自分の昇給額を逆算することはできないという前提で見る数字です。
数字がばらつく理由
ばらつきの大きな要因が職場の規模です。賃金構造基本統計調査で看護師の所定内給与額を経験年数と企業規模の両面から見ると、差の生まれ方がはっきりします。
経験年数0年の時点ではほとんど差がありません。ところが経験15年以上になると、386,100円、354,300円、327,500円と開き、最大で月58,600円の差になります。年間賞与はさらに差が大きく、1,057,100円、770,400円、624,200円です。
規模が小さい職場では、途中で伸びが止まる傾向も見られます。10〜99人では経験5〜9年が323,700円、10〜14年が311,200円と逆転しており、経験を積むほど上がるとは限りません。入口の給与はほぼ同じでも、昇給の積み上がり方で差が開く構造です。
設置主体や病床規模、地域によっても給与体系は異なります。数字が調査ごとに食い違うのは、こうした条件の違いと集計範囲の違いが重なっているためです。
経験年数別 所定内給与額(企業規模別)
※看護師・男女計の所定内給与額(2025年)
自分の職場の水準を確かめる方法
平均と比べるより先に確認したいのが、同じ条件の求人がいくらで募集されているかです。求人票の月給欄には基本給と固定手当の内訳が載っていることが多く、自分の基本給と直接比べられます。
あわせて見ておきたいのが、求人票の「昇給」欄です。金額が書かれている場合はもちろん、「昇給あり」とだけ書かれている場合も、面接の場で算定の基準を聞く手がかりになります。
看護師の求人を探す参考:日本看護協会「2025年 病院看護実態調査 結果」 / 政府統計の総合窓口e-Stat「賃金構造基本統計調査」
昇給の仕組み

昇給額が決まる方法は、大きく分けて給料表に基づく仕組みと、査定に基づく仕組みの2つです。どちらを採用しているかで、自分の昇給を見通すときに見るべきものが変わります。
給料表に基づく仕組み
国立病院機構や自治体立の病院などでは、給料表と号給の組み合わせで賃金が決まる仕組みが使われています。国家公務員の看護職員には医療職俸給表(三)が適用され、職務の級と号俸の組み合わせで俸給月額が決まります。
一般職の職員の給与に関する法律では、昇給は人事院規則で定める日に、その日の前の1年間の勤務成績に応じて行うと定められています。良好な成績で勤務した職員の昇給は4号俸を標準とし、級が上がると3号俸に変わります。
この仕組みで見落とされやすいのが、号俸が上がるほど1号俸あたりの金額が小さくなる点です。医療職俸給表(三)の2級を見ると、1号俸から2号俸では2,100円上がりますが、8号俸から9号俸では800円です。さらに同法では、昇給はその級の最高号俸を超えて行うことができないと定められています。
同じ級にとどまり続ければ、いずれ昇給は止まります。
査定に基づく仕組み
給料表のある職場でも、昇給の号俸数は勤務成績で変わります。つまり給料表方式と査定方式は対立するものではなく、表の中のどこまで動くかを評価が決めるという関係です。
民間の医療機関では、評価によって昇給額そのものが変わる職場が多数を占めます。医療・福祉分野で定期昇給制度の内容を見ると、自動昇給は31.7%にとどまり、業績評価などによるものが68.8%でした。勤続年数だけで昇給額が決まる職場は、すでに少数派です。
評価で昇給額が変わる職場では、次の点を確認しておくと見通しが立ちます。目標管理シートや面談の記録が評価に直結している場合もあります。
- 何が評価項目になっているか
- 評価の時期と、年に何回あるか
- 評価結果が昇給額にどう反映されるか
- 評価結果を本人に開示しているか
設置主体による違い
昇給の決まり方は、病院の設置主体によって根拠となるルールが変わります。
自治体立の病院で働く地方公務員の場合、給与は地方公務員法により条例で定めることとされています。しかも給与に関する条例には、給料表・等級別基準職務表に加えて昇給の基準に関する事項を規定するものとされています。条例は公開されているため、在職中かどうかに関係なく誰でも内容を確認できます。
国立病院機構などの独立行政法人は法人の給与規程に基づき、医療法人や個人開設のクリニックは労働基準法に基づく就業規則・給与規程で定めます。同じ「病院の看護師」でも、昇給の根拠が条例か規程かで、確認できる場所も変わります。
設置主体別|昇給の規定と確認先
| 設置主体 | 昇給を定めるもの | 定める手続き | 自分で確認できる場所 |
|---|---|---|---|
| 自治体立の病院(地方公務員) | 給与に関する条例(給料表・等級別基準職務表・昇給の基準に関する事項を規定) | 議会が条例で定める | 自治体ウェブサイトの例規集 |
| 独立行政法人の病院(国立病院機構など) | 法人の給与規程 | 法人が定める | 職場での閲覧(就業規則の周知) |
| 医療法人・個人開設のクリニック | 就業規則・給与規程 | 使用者が作成し労働基準監督署へ届け出る(常時10人以上の場合) | 職場での閲覧(掲示・備え付け・書面の交付・機器での確認) |
今のあなたの状況は?
参考:e-Gov法令検索「一般職の職員の給与に関する法律」 / e-Gov法令検索「地方公務員法」
診療報酬による賃上げの仕組み

2024年度の診療報酬改定で、医療従事者の賃上げを目的とした評価が診療報酬に設けられました。2026年度改定でも続いており、看護師の基本給に直接関わる仕組みです。
ベースアップ評価料
ベースアップ評価料には、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)(Ⅱ)、入院ベースアップ評価料、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)(Ⅱ)、調剤ベースアップ評価料などがあります。賃金改善の対象となる「対象職員」は医師及び歯科医師を除く医療従事者で、看護師も含まれます。
この評価料の特徴は、使い道が決められている点です。算定で得た収入は対象職員の基本給等の引上げと、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費の増加分に充てることとされ、賃金改善の合計額の3分の2以上は基本給等の引上げで行う必要があります。基本給等とは、基本給または決まって毎月支払われる手当です。
2026年度改定では、2024年3月時点の給与体系と比べて5分5厘(看護補助者・事務職員は8分)以上のベースアップを行った医療機関を上乗せして評価する仕組みが加わりました。継続的に賃上げを行った医療機関ほど高く評価される構造です。
看護職員だけを対象とする看護職員処遇改善評価料も別にあります。対象は保健師・助産師・看護師・准看護師で、救急搬送の実績が年200件以上あるなどの要件を満たす医療機関が算定できます。区分の算出式には看護職員1人あたり月12,000円という数字が組み込まれており、想定されている賃上げ水準が読み取れます。
賃金に反映される経路
算定した分がそのまま自分の給与に上乗せされるわけではありません。医療機関は賃金改善計画を作って届け出たうえで賃金改善を実施し、毎年8月に賃金改善実績報告書を提出する仕組みになっています。対象職員一人ひとりへの配分は、医療機関の判断に委ねられています。
そのため、同じ評価料を算定している病院同士でも、基本給の上がり方は一致しません。「算定していれば必ず給与が上がる」とは言えないのは、この配分の部分が医療機関ごとに違うためです。
ただし、施設基準の通知では、賃金改善を実施する方法などを対象職員に周知することとされ、職員から照会を受けた場合は、その職員についての賃金改善の内容を書面を用いて説明するなど分かりやすく回答することが求められています。自分の給与にどう反映されたかは、職場に確認できる事柄です。
対象とならない場合
ベースアップ評価料を届け出ていない医療機関では、この仕組みによる賃上げは起こりません。算定にも条件があり、入院ベースアップ評価料は外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)を届け出ていることが前提で、(Ⅰ)だけでは賃金改善に必要な額に届かない場合に算定する構造です。常勤の対象職員が2人以上いることなどの基準もあります。
介護保険のサービスは、診療報酬とは別の制度で処遇改善が行われます。介護職員等処遇改善加算がその仕組みで、2026年度の介護報酬改定では、これまで対象外だった訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援などに新たに加算が設けられました。
ただし加算率には大きな差があります。新設された訪問看護は1.8%、訪問リハビリテーションは1.5%、居宅介護支援・介護予防支援は2.1%で、従来から対象だった訪問介護の27.0%とは水準が違います。
介護保険の訪問看護で働く場合、処遇改善の原資は医療保険の訪問看護とは別枠になると理解しておくと混乱しません。
看護師の求人を探す参考:厚生労働省「ベースアップ評価料等について」 / 厚生労働省「介護職員の処遇改善:TOP・制度概要」
自分の昇給を確認する方法

統計を読んでも、自分の昇給がいくらになるかは分かりません。ここからは、手元の資料だけで確認できる手順を3段階で整理します。
就業規則・給与規程を確認する
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と行政官庁への届出を義務づけています。記載しなければならない事項には、賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、そして昇給に関する事項が含まれます。
同法は使用者に就業規則の周知も義務づけており、その方法は施行規則で3つに限定されています。常時見やすい場所への掲示または備え付け、書面の交付、職場に置かれた機器でいつでも内容を確認できる状態にすること、のいずれかです。周知されていること自体が法律上の義務なので、閲覧を求めるのは特別な申し出ではありません。
ここで知っておきたいのが、労働条件の明示との関係です。昇給に関する事項は入職時に明示すべき労働条件に含まれますが、書面で交付しなければならない事項からは除かれています。労働条件通知書に昇給額が書かれていないことがあるのは、このためです。詳しい内容は、就業規則や給与規程で確認することになります。
- 1常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
- 2書面を労働者に交付すること
- 3職場に置いた機器で労働者がいつでも内容を確認できる状態にすること
給与明細で推移を追う
給与明細(支払明細書)の交付は、所得税法で定められた義務です。電子交付も認められていますが、請求があれば書面で交付しなければならないとされています。
見るべきは基本給の欄を年ごとに並べることです。総支給額は夜勤回数や残業時間で毎月変わるため、総額の増減を見ても昇給があったかは分かりません。4月または自分の昇給月の明細を数年分並べ、基本給だけを比べると、上がった幅がそのまま見えます。
手当の増減と区別することも大切です。賃金構造基本統計調査の看護師は、きまって支給する現金給与額が365,900円、所定内給与額が333,200円で、差額の32,700円が時間外・深夜・休日勤務の分にあたります。夜勤が減れば総支給額は下がりますが、それは昇給とは別の話です。
確認しても分からない場合
規程を読んでも算定の基準が分からないときは、人事・総務に確認するのが早道です。
ベースアップ評価料による賃金改善については、前述のとおり職員からの照会に書面などで回答することが求められています。聞いてよい事柄だと理解しておくと、質問しやすくなります。
自治体立の病院で働いている場合は、給与条例を自分で調べられます。条例には昇給の基準に関する事項を規定するものとされているため、自治体のウェブサイトの例規集で昇給の時期や基準を確認できます。
職場に聞きにくい、あるいは説明に納得できないときは、外部の相談窓口があります。各都道府県労働局や労働基準監督署内などに設置された総合労働相談コーナーは全国378か所で、労働条件に関する相談を無料で受け付けています。専門の相談員が電話または面談で対応します。
昇給がわからないときの確認先
- 求人票の「昇給」欄に金額が無いときは、面接で算定の基準を聞いておく
- 明細は昇給月の分を数年分保存し、基本給の欄だけを並べる
- ベースアップ評価料による賃金改善の内容は、職場に納々してもよい
参考:e-Gov法令検索「労働基準法」 / 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
まとめ
看護師の昇給を考えるとき、最初に必要なのは平均額ではなく言葉の整理でした。
定期昇給は決められた賃金表の中を1段上がること、ベースアップは賃金表そのものを書き換えることで、性質が違います。医療・福祉では両者を区別していない企業が29.6%あり、同じ「昇給額」でも中身が一致しません。
看護師に限った数字では、日本看護協会の調査で勤続10年の平均基本給与額が254,286円、前年度比3,906円の増加でした。ただしこれは同じ人の昇給ではなく、その区分の平均水準が動いた幅です。経験15年以上では企業規模によって月58,600円の差があり、平均から自分の昇給額を逆算することはできません。
だからこそ有効なのは、自分の職場の仕組みを確認することです。就業規則・給与規程で昇給の時期と算定の基準を確認し、給与明細の基本給の欄を数年分並べて推移を追う。分からなければ人事・総務に、それでも解決しなければ総合労働相談コーナーという道もあります。
平均と比べて落ち込むより、まず自分の昇給がどう決まっているかを1つ確かめてみてください。転職を考えるとしても、現在の仕組みを把握してからのほうが、次の職場の条件を正しく比べられます。


