治験コーディネーターに医療資格は必要?有利な資格と求められる能力
治験コーディネーター(CRC)への転職を考えたとき、最初に気になるのは「医療資格は必要なのか」という点ではないでしょうか?求人票には看護師・薬剤師・臨床検査技師といった資格名が並ぶことが多く、資格がなければ応募できないように見えることもあります。
結論からお伝えすると、治験コーディネーターになるために必須とされる国家資格はありません。ただし、医療系の資格を持っている人が評価されやすいのは事実で、どの場面で評価されるかは資格ごとに異なります。
この記事では、厚生労働省の職業情報提供サイトやGCP省令、各認定団体が公表している情報をもとに、治験コーディネーターに資格が必要かどうか、資格別に評価される場面、CRCの認定制度の違い、そして資格以外に求められる力までを整理します。
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治験コーディネーターに資格は必要?

治験コーディネーターは、治験が計画どおりに進むように準備・調整・運営を支える職種です。医師や被験者さん、製薬会社、治験事務局といった立場の異なる関係者の間に入るため、医療の知識と調整力の両方が求められます。
まず押さえておきたいのが、この職種には「これがないと働けない」という資格が存在しないという点です。その一方で、実際の採用では医療系の資格を持つ人が多く採用されています。
この2つは矛盾しているようですが、理由を知ると納得できるはずです。
必須とされる資格はない
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、治験コーディネーターについて「入職にあたって、特に学歴や資格は必要とされないが、医学、薬学等の知識があると仕事に役立つ」と記載しています。つまり治験コーディネーターは業務独占資格でも名称独占資格でもなく、法律上、無資格でも従事できる職種です。
法令上の位置づけを確認すると、より輪郭がはっきりします。治験のルールを定めた「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP省令)第2条第18項では、治験協力者を「実施医療機関において、治験責任医師又は治験分担医師の指導の下にこれらの者の治験に係る業務に協力する薬剤師、看護師その他の医療関係者」と定義しています。
治験コーディネーターはこの治験協力者にあたります。条文は「治験コーディネーター」という資格を定めているのではなく、医師の指導の下で治験業務に協力する人という役割を定めているにすぎません。
資格ではなく役割で規定されている点が、この職種の特徴です。
医療系の資格が求められる理由
必須ではないにもかかわらず医療系資格が求められるのは、業務の中身が医療そのものと隣り合っているからです。
GCP省令の条文が例示しているのも「薬剤師、看護師その他の医療関係者」であり、医療関係者が担うことが前提に置かれた書きぶりになっています。治験コーディネーターに求められる力として次の内容が挙げられています。
- 医学、薬学の基礎知識
- 薬事関連法規への理解
- 統計処理や文書作成等を行う事務処理能力
- 医師をはじめとする医療スタッフや被験者さん等、関係者間を調整する能力
- コミュニケーション能力
たとえば併用薬が治験実施計画書(プロトコール)の除外基準に触れないかを確認する、検査値の変動が有害事象にあたるかどうかを医師に相談する、といった判断が日常的に発生します。こうした場面では、医療現場で培った知識がそのまま土台になります。
医療系資格は「応募条件」ではなく「立ち上がりの速さを示す材料」として見られている、と捉えるとイメージしやすいでしょう。
未経験から目指せるか
治験コーディネーターの就業先は、大きくSMO(治験施設支援機関)と医療機関に分かれます。
SMOは新卒の採用も行っている一方、医療機関が新卒で治験コーディネーターを採用することは少なく、看護師・薬剤師・臨床検査技師などが治験コーディネーターを兼務することが多いとされています。
つまり、治験そのものが未経験でも入口はあります。ただし、その入口はSMO側に偏っているのが実情です。医療機関側は、院内の医療職が兼務するか、治験コーディネーター経験者を直接雇用する形が中心になります。
治験未経験でも、医療系の資格と臨床経験があればSMOの採用対象になりやすい傾向があります。医療資格を持たない場合は、新卒採用や事務系からの育成枠を設けているSMOを軸に探すのが現実的です。
参考:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「治験コーディネーター – 職業詳細」 / e-Gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」
【資格別】評価される場面の違い

「医療系の資格が有利」という説明はよく見かけますが、そこで止まってしまうと、自分の資格が実際にどう役立つのかが見えません。治験コーディネーターの業務は幅が広く、資格によって強みを発揮できる場面が異なります。
ここでは代表的な資格ごとに、どの局面で経験が生きるのかを整理します。応募書類や面接で自分の経験を伝えるときの材料としても使える部分です。
薬剤師
薬剤師の知識が最も生きるのは、治験薬とほかの薬剤との関係を扱う場面です。被験者さんが服用中の薬が併用禁止薬・併用制限薬にあたらないかの確認、用法用量の逸脱がないかのチェック、服薬状況の聞き取りといった業務は、薬の知識がある人ほど正確に進められます。
治験薬の管理は実施医療機関が定めた管理者が担いますが、薬剤部と連携する場面が多く、院内の流れを理解している薬剤師は調整に入りやすい立場です。プロトコールに書かれた薬事関連の記載を読み解く力も、日常業務で鍛えられている領域といえます。
看護師・保健師
看護師の経験は、被験者さんと直接向き合う場面で強みになります。来院スケジュールの調整、採血やバイタル測定の立ち会い、体調の変化や有害事象の聞き取り、生活面の相談対応など、治験のなかで人に接する業務は少なくありません。
治験は通常の診療より来院回数が多く、検査の手順も細かく決められています。負担を感じている被験者さんの様子を察して医師につなぐ、次回来院までの過ごし方を分かりやすく説明するといった対応は、臨床で患者さんと関わってきた経験がそのまま生きる部分です。
保健師の場合は、健康状態の聞き取りや保健指導で培った面談の進め方、記録の残し方が土台になります。
臨床検査技師
臨床検査技師が力を発揮するのは、検査データを扱う場面です。治験では規定のタイミングで検査を行い、その結果をもとに有効性と安全性を評価します。基準値からの外れ方が臨床的に意味のある変動なのか、測定条件による誤差なのかを見分けられると、医師への確認がスムーズになります。
検体の採取から処理、保存、搬送までの手順が細かく定められている試験も多く、検体の取り扱いに慣れていることは大きな安心材料です。中央測定機関へ送る検体の準備や、機器のメンテナンス記録の確認も担当することがあります。
管理栄養士
管理栄養士は、生活習慣や食事に関わる項目を扱う治験で評価されやすい資格です。糖尿病や脂質異常症などの領域では、食事内容の記録、食生活の聞き取り、栄養指導の実施状況が評価項目に含まれることがあります。
日々の記録を被験者さんに続けてもらうには、負担の少ない記入方法を提案したり、記入漏れに早く気づいたりする工夫が必要です。栄養指導で積んだ面談の経験は、こうした継続支援の場面で生きてきます。
その他の医療系資格
上記以外の資格も、治験の領域によって評価されます。
-
臨床工学技士医療機器の治験や、透析・循環器領域の試験で機器の知識が生きる
-
診療放射線技師画像評価が主要な評価項目となる試験で、撮影条件の管理に強い
-
理学療法士・作業療法士運動機能や日常生活動作を評価指標とする試験で経験が生きる
-
歯科衛生士歯科領域の治験や口腔内の評価がある試験で強みになる
資格別|評価される主な場面
| 資格 | 評価される主な場面 |
|---|---|
| 薬剤師 | 併用禁止薬・用法用量の確認、服薬状況の聞き取り、薬剤部との連携 |
| 看護師・保健師 | 来院調整、採血やバイタル測定の立ち会い、有害事象の聞き取り、生活面の相談対応 |
| 臨床検査技師 | 検査データの評価、基準値からの変動判断、検体の取り扱い |
| 管理栄養士 | 食事内容の記録、食生活の聞き取り、栄養指導が関わる治験での継続支援 |
| その他資格(臨床工学技士等) | 医療機器・透析循環器領域、画像評価、運動機能評価、口腔内評価など領域ごとの専門知識 |
いずれの資格でも共通するのは、「どの資格を持っているか」よりも「その資格でどの評価項目を正確に扱えるか」が見られるという点です。応募時には、担当したい領域と自分の経験の接点を具体的に伝えられると説得力が増します。
参考:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「治験コーディネーター – 職業詳細」
今のあなたの状況は?
所属先によって求められるものが変わる

治験コーディネーターは、どこに所属するかで働き方も求められる要素も変わります。
同じ職名でも、担当する医療機関の数、扱う疾患領域の幅、未経験者の受け入れ方針は大きく違います。求人を探す前に、この違いを押さえておくと選択の軸がはっきりします。
SMOに所属する場合
SMOは、製薬会社と医療機関の間に入って治験の実施を支援する会社です。所属する治験コーディネーターは、複数の医療機関を担当することがあるのが大きな特徴で、施設間の移動が発生します。
日本SMO協会がまとめた「JASMOデータ2026(2025年度版)」によると、2025年度の加盟企業数は23社、業界全体の治験コーディネーターは3,369人となっています。所属先を法人として選べるだけの規模がある一方、担当施設や領域は会社の受託状況によって決まります。
SMO業界の規模(2025年度)
未経験者への教育体制が整っている点もSMOの特徴です。協会が定めるCRC導入教育研修が用意されており、入職後に体系的に学ぶ流れが作られています。
医療機関に所属する場合
医療機関に所属する場合は、自院の治験だけを担当します。院内の医師や看護師、薬剤部、検査部との関係ができているため、日々の調整は進めやすい環境といえます。
一方で、job tagが指摘するとおり医療機関が新卒で治験コーディネーターを採用することは少なく、院内の看護師・薬剤師・臨床検査技師が兼務する形が多いのが実情です。大きな医療機関では、治験事務局に医療従事者や治験コーディネーター経験者が直接雇用されることもあります。
兼務の場合、通常業務と治験業務の時間配分が課題になりやすい点は知っておきたいところです。専任として治験に集中したいのか、臨床と両立したいのかで、選ぶ所属先は変わってきます。
参考:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「治験コーディネーター – 職業詳細」 / 日本SMO協会「自主基準」
CRCの認定資格

治験コーディネーターには国家資格がない代わりに、複数の団体が認定制度を設けています。求人票や転職記事では制度名が並べて紹介されることが多いのですが、制度ごとに受験できる条件が異なり、誰でも今すぐ挑戦できるわけではありません。
ここでは主な認定制度について、要件・試験方式・更新の有無を確認していきます。なお制度の内容は改定されることがあるため、実際に申請する際は各団体の最新の要項で確認してください。
認定制度の種類
治験コーディネーターに関係する主な認定制度は、次の3団体が運営しています。
-
日本臨床薬理学会 認定CRC2003年に制定された制度。CRCとしての実務・活動・教育の実績を積んだ人が対象
-
日本SMO協会 公認CRC2005年から実施。協会が定める導入教育研修の修了が前提となる
-
日本臨床試験学会(JSCTR)の認定制度GCPパスポート、GCPエキスパート、がん臨床研究専門職など複数の制度がある
job tagの「関連する資格」欄に挙げられているのは、このうち日本SMO協会公認CRCと日本臨床薬理学会認定CRCの2つです。同サイトには「治験コーディネーターとして働きながら2〜3年で取得を目指すのが一般的である」との記載もあります。
受験の要件と必要な実務経験
いずれの制度も、共通しているのは「まず治験コーディネーターとして働くことが先」という点です。転職前に取得して有利にする資格ではなく、就業後にキャリアを裏づけるための資格と位置づけられます。
日本臨床薬理学会の認定CRCは、専任として2年以上の実務経験に加えて、担当したプロトコール数5つ以上、担当症例数10症例以上という活動実績が求められます。
さらに指定の学術集会や研修会への参加による教育受講実績が合計50点以上、所属長または責任医師からの推薦状も必要です。試験はCBT方式で、受験料は2万円、認定料は3万円となっています。
日本SMO協会の公認CRCは、協会が定めるCRC導入教育研修を修了し、その修了日から2年以上のCRC実務経験があること、所定の継続教育基準に適合していることが受験資格です。試験はCBT方式で受験料は12,000円、公認証の発行手数料が5,000円かかります。
日本臨床試験学会のGCPパスポートは、GCP関連業務の経験1年以上が目安とされる入門的な位置づけの制度です。上位にあたるGCPエキスパートは経験5年以上が目安とされ、指導的な立場を想定した内容になっています。
更新の有無
認定を取った後に何が必要かも、制度を選ぶうえで見落とせない点です。
日本臨床薬理学会の認定CRCは有効期間が5年で、更新時には担当プロトコール数10以上、担当症例数30症例以上と教育受講実績が求められます。継続して治験に関わり続けていないと更新要件を満たせない設計になっている点は理解しておきたいところです。
日本SMO協会の公認CRCも公認証の発行日から5年で更新となります。更新試験に合格する方法と、5年以内に指定の研修などで合計10ポイント以上を取得して無試験で更新する方法の2通りが用意されています。
日本臨床試験学会のGCPパスポートにも更新制度があり、対象となる試験回の合格者に向けて年度ごとに更新の案内が出されます。更新にはセミナー参加などで得たポイントと、参加証や修了証といった証明書類の提出が必要です。
| 項目 | 日本臨床薬理学会 認定CRC |
日本SMO協会 公認CRC |
日本臨床試験学会 GCPパスポート |
|---|---|---|---|
| 実務経験要件 | 専任2年以上、担当プロトコール5つ以上、担当症例10症例以上、教育受講実績50点以上、推薦状が必要 | CRC導入教育研修を修了し、修了日から2年以上の実務経験、継続教育基準への適合 | GCP関連業務の経験1年以上が目安 |
| 試験方式 | CBT方式 | CBT方式 | – |
| 受験料・認定料 | 受験料2万円/認定料3万円 | 受験料12,000円/公認証発行手数料5,000円 | – |
| 有効期間 | 5年 | 公認証発行日から5年 | – |
| 更新要件 | 担当プロトコール10以上、担当症例30症例以上と教育受講実績 | 更新試験に合格、または5年以内に指定研修等で合計10ポイント以上取得し無試験で更新 | 対象試験回の合格者に年度ごとの更新案内、セミナー参加等のポイントと証明書類の提出 |
※「−」は今回参照した公表情報で確認できなかった項目です
どの認定制度を選ぶか
制度が複数あると迷いますが、選び方の基準はそれほど複雑ではありません。
- SMOに所属している、または所属予定なら、導入教育研修とつながる日本SMO協会の公認CRCが取り組みやすい
- 医療機関所属で学会活動にも関わるなら、日本臨床薬理学会の認定CRCが実績を示しやすい
- まだ実務経験が浅い段階なら、経験1年以上が目安のJSCTR認定GCPパスポートから始める選択肢がある
- がん領域を専門にしたいなら、JSCTRの認定がん臨床研究専門職のような領域別の制度も検討対象になる
日本SMO協会のデータでは、調査対象となった治験コーディネーターのうち、同協会の公認CRCを持つ人が最も多く、日本臨床薬理学会の認定CRCを持つ人を大きく上回っています(2025年度)。
所属先によって取得しやすい制度が分かれている状況が数字にも表れています。
- まずは実務を積める職場かどうかで選びましょう
- 面接では「どの制度をいつ受けたいか」まで話せると、意欲が伝わります
- 受験料や研修費を会社が負担してくれる場合もあります
参考:日本臨床薬理学会「認定CRC制度」 / 日本SMO協会「公認CRC・SMA制度」 / 日本臨床試験学会「認定・検定制度」 / 日本SMO協会「自主基準」 / 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「治験コーディネーター – 職業詳細」
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資格以外に求められる力

治験コーディネーターの評価は資格の有無だけで決まるわけではありません。実務では、決められた手順を正確に守りながら、人と人の間を調整する力が問われます。
ここで挙げる3つの力は、面接でも確認されやすい部分です。今の職場でどう積み上げられるかという視点で読み進めてみてください。
説明と調整の力
治験に参加してもらうには、被験者さんに内容を理解してもらう必要があります。ここで押さえておきたいのが、説明と同意の取得を行う主体は治験責任医師または治験分担医師であり、治験コーディネーターではないという点です。
GCP省令第50条は、被験者となるべき人を治験に参加させるときは、あらかじめ文書により適切な説明を行い、文書により同意を得なければならないと定めています。この主語は治験責任医師等であり、治験協力者は含まれていません。さらに第52条第4項では、説明文書を読めない人への説明に立ち会う立会人について、治験責任医師等および治験協力者であってはならないと定められています。
治験コーディネーターに求められるのは、医師の説明を代わりに行うことではなく、被験者さんが理解しやすい状況を整えること、疑問が残っていないかを確認して医師につなぐこと、来院日程や検査の流れを補足して不安を減らすことです。境界線を理解したうえで動けるかどうかが、実務での信頼につながります。
説明・同意取得の主体と支援業務の境界線
| 場面 | 治験責任医師等 | 治験コーディネーター |
|---|---|---|
| 説明文書の内容を説明する | ◯ | - |
| 同意文書への署名を得る | ◯ | - |
| 理解しやすい状況を整える | - | ◯ |
| 疑問点を確認し医師につなぐ | - | ◯ |
| 来院日程・検査の流れを補足する | - | ◯ |
| 読めない人への立会人になる | ✕ | ✕ |
※◯は主体として行う場面、-は主に担当しない場面、✕は法令上どちらも担えない場面です
記録と期限の管理
治験の業務は、記録によって成り立っています。症例報告書について、GCP省令第47条は治験実施計画書に従って正確に作成し、氏名を記載しなければならないと定めており、作成の責任は治験責任医師等にあります。治験コーディネーターは原資料との整合を確認し、必要な情報が漏れていないかを点検する役割を担います。
記録の保存についても期限が定められています。GCP省令第41条では、実施医療機関の長は記録保存責任者を置き、原資料、同意文書および説明文書、治験実施計画書、治験に係る業務の記録などを保存しなければならないとされています。保存期間は、被験薬の製造販売承認を受ける日、または治験の中止・終了後3年を経過した日のいずれか遅い日までです。
記録の保存期間はいつまで?
※保存を担うのは実施医療機関の長が置く記録保存責任者
来院日の管理、検査のタイミング、書類の提出期限など、期限を伴う作業が同時並行で進みます。複数の治験を担当すれば、その分だけ管理する軸が増えます。スケジュール管理の習慣がある人ほど負担を感じにくい仕事です。
GCPの理解
治験は「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP省令)にもとづいて行われます。この省令には、治験の依頼から実施、記録の保存までの手順が定められており、治験コーディネーターの業務のほぼすべてが関係します。
押さえておきたいGCP省令の条文
- 第2条第18項:治験協力者の定義(医師の指導の下で治験業務に協力する医療関係者)
- 第43条:治験責任医師は分担業務の一覧表を作成し、治験分担医師と治験協力者に必要な情報を提供する
- 第50条〜第55条:文書による説明と同意の取得、説明文書の記載事項、同意文書への署名
- 第47条:症例報告書の作成と修正の手続き
- 第41条:記録の保存責任者と保存期間
条文をすべて暗記する必要はありませんが、自分の作業がどの条文にもとづくのかを説明できる状態が理想です。
GCPの理解は認定資格の試験範囲にも含まれるため、学んだことがそのまま次のステップにつながります。
参考:e-Gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」 / 厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「治験コーディネーター – 職業詳細」
治験コーディネーターの仕事内容

資格の要否を考えるうえで、実際の業務の流れを知っておくと判断がしやすくなります。治験コーディネーターの仕事は、治験の準備段階から終了後まで続きます。
治験コーディネーターの仕事を、治験が円滑に行われるよう準備、調整、運営の支援を行うことです。ここでは時期ごとに分けて見ていきます。
治験の準備
治験を始める前の段階では、実施体制を整える業務が中心です。治験実施計画書を読み込み、自院で実施できるかどうかを検討するところから始まります。
医師や看護師、薬剤部、検査部といった関係部署への説明、来院時の動線や検査の手順の確認、必要な書類の準備などを進めます。治験審査委員会(IRB)に提出する資料の準備を支援することもあります。
被験者さんの候補を探す作業もこの段階です。選択基準と除外基準に照らして該当しそうな方を抽出し、医師に情報を提供します。
治験の実施中
治験が始まると、来院ごとの対応が業務の中心になります。来院日の調整と連絡、検査や診察の準備、同意取得への同席、被験者さんからの聞き取りなどを担当します。
服薬状況や体調の変化を確認し、有害事象が疑われる場合には速やかに医師へ報告します。原資料の記載内容を確認し、症例報告書との整合を点検する作業も並行して進みます。
製薬会社から派遣されるモニター(CRA)による訪問(モニタリング)への対応もこの時期の業務です。指摘事項があれば内容を確認し、必要な対応を関係者と調整します。
治験の終了後
治験が終わっても業務はすぐには終わりません。残りの検査や観察期間の対応、症例報告書の最終確認、未解決の照会事項への回答などが続きます。
治験薬の返却や未使用分の処理、関係書類の整理も必要です。前述のとおりGCP省令第41条で保存期間が定められているため、記録は決められた期間まで確実に保存する必要があります。
終了報告に関する書類の準備を支援し、治験審査委員会や実施医療機関の長への報告が滞りなく進むよう調整します。
治験コーディネーターの業務の流れ
参考:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「治験コーディネーター – 職業詳細」 / e-Gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」
治験コーディネーターを目指す方法

ここまで見てきたとおり、治験コーディネーターは資格よりも経験と学ぶ姿勢が問われる職種です。最後に、今の職場にいるうちにできる準備と、応募前後に確認しておきたい点を整理します。
医療現場で働いている人ほど、日々の業務のなかに治験コーディネーターにつながる経験が眠っています。転職活動を始める前に、自分の経験を棚卸ししてみてください。
今の職場で積める経験
自院で治験や臨床研究を実施している場合は、関わる機会がないかを確認してみるのが近道です。治験に協力する立場で参加した経験があれば、応募時に具体的に語れる材料になります。
治験そのものに関わる機会がなくても、次のような経験は評価の対象になります。
- 患者さんへの説明や同意書の取得に立ち会った経験
- 検査や処置のスケジュールを組み立て、複数部署と調整した経験
- 記録の正確さを求められる業務(カルテ記載、検査記録、薬歴管理など)
- 院内の委員会やマニュアル作成など、文書を扱う業務
いずれも治験コーディネーターの業務に直結する要素です。担当した件数や役割まで整理しておくと、書類にも面接にも使えます。
応募前に確認したいこと
求人を比較するときは、給与や勤務地だけでなく、働き方に直結する条件を確認しておくと入職後のギャップを防げます。
- 所属がSMOか医療機関か(担当する施設数と移動の有無が変わる)
- 担当する疾患領域(自分の経験が生きる領域かどうか)
- 未経験者への教育体制と、入職後の研修の内容
- 担当する治験の本数と、同時進行する件数の目安
- 出張や施設間移動の頻度、直行直帰の可否
とくに担当施設数と移動の頻度は、SMOと医療機関で大きく異なる部分です。求人票だけで分からない場合は、面接の場で確認しておくと安心です。
入職後の研修の進み方
治験コーディネーターは、入職後に学ぶことを前提とした職種です。SMOの場合、日本SMO協会が定めるCRC導入教育研修が用意されており、修了すると修了証が発行されます。この修了が同協会の公認CRC試験の受験前提になっています。
研修を修了した後は、先輩の治験コーディネーターに同行しながら実務を覚え、少しずつ担当を持つ流れが一般的です。job tagは、関連する認定試験について治験コーディネーターとして働きながら2〜3年で取得を目指すのが一般的と説明しています。
認定資格の要件を見ても、実務経験2年以上を求める制度が中心です。入職してすぐに資格を取るのではなく、担当したプロトコールと症例を積み重ねた先に認定があると考えておくとよいでしょう。
入職後のステップ
※期間や進み方は所属先によって異なります
参考:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「治験コーディネーター – 職業詳細」 / 日本SMO協会「公認CRC・SMA制度」
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まとめ
治験コーディネーターに必須の国家資格はありません。GCP省令では、医師の指導の下で治験業務に協力する医療関係者として位置づけられており、資格ではなく役割で規定されている職種です。
一方で、医療系の資格を持つ人が評価されやすいのは事実です。薬剤師なら併用薬や治験薬に関する確認、看護師なら被験者さんへの対応、臨床検査技師なら検査データの扱いというように、生きる場面は資格ごとに異なります。自分の資格がどの局面で強みになるかを整理できれば、応募時に伝えるべき内容も見えてきます。
認定資格については、日本臨床薬理学会・日本SMO協会・日本臨床試験学会がそれぞれ制度を設けています。ただし多くが実務経験2年以上を要件としており、転職前に取得して有利にするものではなく、就業後にキャリアを裏づける資格です。所属先や経験年数によって受けられる制度が変わるため、まずは自分が今どの制度の対象になるかを確認するところから始めてみてください。
なお制度の要件や更新条件は改定されることがあります。実際に申請する際は、各団体の公式サイトで最新の要項を確認するようにしましょう。



