鍼灸院の廃業率は高い?鍼灸師が知るべき主な原因と生き残るための対策を解説
鍼灸院を開業したいものの、「廃業率が高い」と聞いて一歩を踏み出せずにいる鍼灸師の方は少なくありません。
実際、治療院の数は年々増え続け、業界の競争は激しさを増しています。一方で「廃業率が高い」という言葉だけが独り歩きし、正確な実態はあまり知られていないのが現状です。
この記事では、公的データをもとに鍼灸院を取り巻く現状を整理し、廃業に至る主な原因と、生き残るために押さえておきたい対策をわかりやすく解説します。
これから開業を目指す方も、すでに開業している方も、リスクを正しく理解して備えるための参考にしてください。
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鍼灸院の廃業率

結論からお伝えすると、鍼灸院だけを対象にした廃業率を示す公的な統計は存在しません。
インターネット上では「廃業率○%」といった数字を見かけることもありますが、その多くは限られた調査や推計にもとづく参考値です。出典によって数字の幅が大きく、そのまま鵜呑みにはできない点に注意が必要です。
たとえば一部の調査では、鍼灸マッサージ業の廃業率が15〜17%程度、開業から5年以内に閉院するケースが3〜4割にのぼるといった数字が示されています。
ただし、これらは調査対象や集計方法がそれぞれ異なるため、あくまで目安として捉えるのが適切です。
一方で、公的機関に近いデータからは、業界環境が厳しさを増している様子が読み取れます。東京商工リサーチによると、マッサージ業(鍼灸院や接骨院などを含む療術関連業種)の倒産件数は2025年度に108件となり、統計を取り始めた1996年度以降の30年間で最多を記録しました。倒産件数は数年にわたって増加傾向が続いています。
「廃業率が高い」と数字で断定することはできないものの、鍼灸院を取り巻く経営環境が厳しくなっているのは確かといえます。
大切なのは、あいまいな数字に振り回されることではなく、なぜ廃業が起きるのかを理解し、開業前から対策を講じておくことです。
(2025年度・過去30年で最多)
「廃業率が高い」という数字だけを見て、不安になりすぎる必要はありません。大切なのは、なぜ廃業が起きるのかを知り、開業前から備えておくことです。
参考:東京商工リサーチ「マッサージ業の倒産が過去30年で最多108件」
「廃業率が高い」と言われる背景

鍼灸院の廃業がたびたび話題になる背景には、大きく分けて「治療院の急増」と「有資格者の増加」による供給過多があります。開業のハードルが下がった結果、限られた患者さんを多くの治療院で奪い合う構図が生まれているのです。
ここでは、廃業率が高いと言われる背景を3つの視点から見ていきます。
治療院の数が需要を上回っている
厚生労働省の令和6年衛生行政報告例によると、はり・きゅうを行う施術所は全国で35,494か所あります。
これにあん摩マッサージ指圧・はり・きゅうを一体で行う施術所(38,595か所)や、あん摩マッサージ指圧のみの施術所(17,531か所)、接骨院・整骨院にあたる柔道整復の施術所(50,924か所)を合わせると、いわゆる「治療院」の総数は全国で14万か所を超えます。
これは全国のコンビニエンスストアの店舗数を大きく上回る規模です。街を歩けば治療院が目に入るほど身近な存在になった一方で、それだけ患者さんの取り合いが激しくなっているといえます。
人口が減少に向かうなかで施術所だけが増え続ければ、1店舗あたりの来院数は減り、経営が立ち行かなくなる院が出てくるのは避けられません。
はり師・きゅう師の増加で競争が激化
施術所の増加を支えているのが、有資格者そのものの増加です。令和6年末時点で、就業しているはり師は136,736人、きゅう師は134,730人にのぼり、いずれも前回調査から増加を続けています。養成施設が各地で増えたことで、毎年多くの新しい鍼灸師が業界に加わっています。
有資格者が増えること自体は業界の広がりを示す良い面もあります。しかし、需要の伸びが追いつかないまま人数だけが増えれば、1人あたりが担当できる患者さんは相対的に減っていきます。
とくに独立開業では、勤務時代のように施設が集客してくれるわけではありません。数多くの同業者のなかから自院を選んでもらう努力が欠かせず、技術力だけでは差がつきにくくなっているのが現実です。
倒産件数の増加傾向
前述のとおり、東京商工リサーチの調査では、マッサージ業の倒産件数は2025年度に108件と過去30年で最多を更新しました。倒産した事業者は資本金1,000万円未満が96.2%を占め、その多くが個人経営に近い小規模な院です。
倒産の原因では「販売不振」が84.2%と大半を占めています。
ここで押さえておきたいのは、「倒産」と「廃業」は別の概念だという点です。倒産は資金繰りに行き詰まって事業を続けられなくなった状態を指しますが、廃業には自主的な閉院や高齢による引退なども含まれます。
統計に表れる倒産件数は氷山の一角であり、表面化しない自主閉院まで含めれば、実際に事業をたたむ院はさらに多いと考えられます。
参考:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」 / 東京商工リサーチ「マッサージ業の倒産が過去30年で最多108件」
鍼灸院が廃業する主な原因

治療院の数が多いこと自体は、廃業の直接的な原因ではありません。競争が激しい環境でも生き残る院はあり、逆に立地や技術に恵まれていても閉院する院もあります。
両者を分けるのは、開業前の準備と開業後の経営判断です。
集客・マーケティングの不足
もっとも多い廃業原因が、集客とマーケティングの不足です。「腕が良ければ患者さんは自然に来る」という考え方は、残念ながら現在の市場では通用しにくくなっています。どれほど技術が高くても、その存在を知ってもらえなければ来院にはつながりません。
開業当初は知人や紹介で一定の来院がありますが、それだけでは早い段階で頭打ちになります。ホームページやGoogleマップ、InstagramやTiktokといったSNSによる情報発信の仕組みを持たないまま開業し、新規の患者さんを呼び込めずに資金が尽きてしまうケースは少なくありません。
技術の研鑽と同じくらい、自院を知ってもらう発信への投資が欠かせません。
資金計画の甘さ
開業時の資金計画が甘く、運転資金が底をつくことも典型的な廃業パターンです。鍼灸院の開業には、物件取得費や内装工事費、施術ベッドや鍼などの備品購入費がかかります。
日本政策金融公庫の調査では、全業種平均で開業費用の中央値は約580万円、平均は約985万円とされています。
見落とされがちなのが、開業後すぐには黒字化しないということです。患者さんが定着するまでには時間がかかるため、売上が少ない期間を乗り切るための運転資金(家賃・生活費を含めて3〜6か月分が目安)を確保しておく必要があります。
開業費用をぎりぎりまで使い切ってしまうと、軌道に乗る前に資金が尽きてしまいます。年収や資金の見通しを立てる際は、鍼灸師の収入相場も参考にしながら、余裕を持った計画を立てることが大切です。
経営スキルの不足
鍼灸師の養成課程では、施術技術や医学的な知識は学べますが、経営や会計、集客のノウハウを体系的に学ぶ機会はほとんどありません。優れた施術者であることと、優れた経営者であることは別のスキルです。
この違いを軽視して開業すると、思わぬところでつまずきます。
売上や経費の管理、価格設定、スタッフの採用や育成、税務など、院を運営するには施術以外の判断が数多く求められます。数字を把握しないまま「なんとなく」経営を続けた結果、気づいたときには赤字が膨らんでいた、という事態も起こり得ます。
開業前に経営の基礎知識を身につけ、勤務時代から店舗運営の流れを学んでおくことが、廃業リスクを下げる第一歩になります。
差別化・コンセプトの不明確さ
「近所に鍼灸院ができたけれど、他とどう違うのかわからない」。患者さんにそう思われてしまう院は、価格競争に巻き込まれやすく、経営が安定しません。多くの治療院が乱立するなかで、「何に強い院なのか」というコンセプトが不明確なことは、廃業につながる大きな要因です。
「地域で一番親切」といった漠然とした打ち出しでは、数ある院のなかから選ぶ決め手になりません。不妊治療に強い、スポーツ障害のケアが得意、美容鍼に特化しているなど、ターゲットと提供価値を明確にすることで、はじめて「この症状ならあの院」と選ばれる存在になれます。
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立地選定のミス
立地の見極めを誤ると、集客の努力ではカバーしきれないハンデを背負うことになります。家賃の安さだけで物件を決めた結果、人通りが少なく認知が広がらない、駐車場がなく来院しづらい、といった問題が後から表面化するケースがあります。
ただし、良い立地は家賃も高くなるため、単純に一等地を選べばよいわけではありません。大切なのは、自院のコンセプトやターゲットとする患者さんの層に合った立地かどうかという視点です。
高齢者を主な対象にするなら住宅地や駅から近い場所、働く世代を狙うならオフィス街や夜間も通いやすい場所、というように、狙う客層と立地の相性を見極める必要があります。
廃業を防ぎ生き残るための対策

廃業の原因が分かれば、その裏返しが対策になります。厳しい競争環境のなかでも安定して経営を続けている鍼灸院には、いくつかの共通点があります。
ここでは、廃業を防ぎ長く続けていくために取り組みたい4つの対策を紹介します。
専門分野で差別化する
生き残るための最大のポイントは、専門分野を絞って差別化することです。「何でも診る院」よりも、特定の悩みに特化した院のほうが選ばれやすく、口コミも広がりやすい傾向があります。不妊治療、スポーツ障害、美容鍼、慢性的な肩こり・腰痛など、自分が強みを発揮できる分野を明確にしましょう。
専門特化には、価格競争から抜け出せるという利点もあります。「その症状ならあの先生」と認識されれば、多少距離が遠くても、料金が周辺より高くても通ってもらえます。
自分のこれまでの経験や得意な施術を棚卸しし、地域のニーズと重なる分野を見つけることが、差別化の出発点です。
口コミ・Web集客を強化する
新規の患者さんに来院してもらうには、Web上での情報発信が欠かせません。とくにGoogleマップの口コミ評価(MEO対策)は、地域の患者さんが院を選ぶ際の重要な判断材料になります。施術後に満足いただいた患者さんへ口コミ投稿を丁寧にお願いするだけでも、少しずつ評価が積み上がっていきます。
あわせて、ホームページで施術内容や料金、院の雰囲気をわかりやすく伝えること、InstagramなどのSNSで日々の発信を続けることも効果的です。広告に多額の費用をかけなくても、地道な発信と既存患者さんの満足度向上を通じて、紹介と再来院の好循環を作ることができます。
運転資金を十分に確保する
前述のとおり、開業後すぐに黒字化する院は多くありません。だからこそ、売上が安定するまでの期間を耐えられるだけの運転資金を、開業時にしっかり確保しておくことが重要です。目安として、家賃や生活費を含めた3〜6か月分の資金を手元に残しておくと安心です。
自己資金だけでまかなおうとせず、日本政策金融公庫の創業融資などを上手に活用するのも一つの方法です。融資を受ける際には事業計画書の作成が必要になりますが、この計画づくりを通じて、収支の見通しや資金繰りを客観的に把握できるという副次的なメリットもあります。
無理のない返済計画とあわせて、余裕を持った資金設計を心がけましょう。
業務を仕組み化する
院が軌道に乗り始めると、施術・受付・会計・予約管理・情報発信まで、すべてを一人でこなすのが難しくなります。属人的な運営のままでは、体調を崩した途端に院が回らなくなり、経営が不安定になりがちです。そこで役立つのが、業務の仕組み化です。
予約管理システムや会計ソフト(freeeなど)を導入して事務作業を効率化すれば、施術や患者さんとの向き合いに時間を割けるようになります。再来院を促す仕組みや、施術内容を記録・共有する仕組みを整えておくことは、スタッフを雇う段階になったときにも大きな力を発揮します。
開業当初からできる範囲で仕組み化を進めておくと、長く安定した運営につながります。
鍼灸師の求人を探す開業前に準備しておきたいこと

鍼灸院の開業を成功させるには、施術技術だけでなく、経営・集客の知識、十分な開業資金、そして患者さんとの信頼関係を築く力が必要です。これらは一朝一夕には身につきません。だからこそ、開業前の準備期間をどう過ごすかが、その後の明暗を分けます。
おすすめなのは、まず勤務鍼灸師としてしっかり経験を積むことです。実際の院で働きながら、経営の仕組みや集客の方法、患者さんとの接し方を間近で学び、開業資金を計画的に蓄えていくことが、廃業リスクを下げる近道になります。
自分がどの分野を得意とするのか、どんな院を作りたいのかを見極める時間にもなります。
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1勤務鍼灸師として実務を積む
施術技術だけでなく、集客・予約管理・患者対応など院の運営全体を現場で学ぶ。経営の流れを肌で知ることが独立後の土台になる。
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2得意分野と院のコンセプトを定める
スポーツ・美容鍼・腰痛特化など、自分が強みを発揮できる施術領域を絞り込む。コンセプトが明確なほど集客戦略とのズレが起きにくい。
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3開業資金と運転資金を計画的に蓄える
内装・備品・初期広告費の開業資金に加え、売上が安定するまでの運転資金(最低でも数ヶ月分)をあらかじめ確保しておく。
資金計画は事業計画書と並行して作成すると融資審査でも活用できる -
4訪問鍼灸など低リスク形態で試運転する
店舗を持たず、訪問施術や間借り施術から始める方法はリスクが小さい。集客力・単価・リピート率を実際の数字で検証できる。
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5手応えをつかんで店舗を開業する
固定客の見込みと収支の見通しが立ったタイミングで店舗への移行を検討する。施術所開設届の提出など、開業直前の手続きも事前に確認しておく。
どのような職場で経験を積めるのかは、鍼灸師の代表的な就職先をまとめた記事も参考にしてください。
また、いきなり店舗を構えるのではなく、店舗を持たずに始められる訪問鍼灸のような低リスクな形態からスタートする選択肢もあります。
医療キャリアナビでは、開業前に経験を積める鍼灸院や訪問鍼灸などの求人を多数掲載しています。自分に合った職場で力をつけることが、将来の独立に向けた準備になります。
今のあなたの状況は?
鍼灸院の廃業率に関するよくある質問

最後に、鍼灸院の廃業率に関して多く寄せられる質問にお答えします。開業を検討している方が抱きやすい疑問を中心にまとめました。
鍼灸院の廃業率の正確なデータはある?
鍼灸院だけを対象にした正確な廃業率のデータは、公的には公表されていません。国が発表しているのは施術所の数や就業者数などで、そこから廃業率を直接算出することはできません。ネット上の「廃業率○%」という数字は、民間の推計や限られた調査にもとづくものが多く、参考程度に捉えるのが適切です。
より信頼できる指標としては、東京商工リサーチが公表するマッサージ業(療術関連業種)の倒産件数があります。この件数が近年増加傾向にあることから、業界全体の経営環境が厳しくなっていることは客観的に読み取れます。
開業して何年で廃業するケースが多い?
一般的に、独立開業したビジネスは開業から数年以内に廃業するケースが多いとされ、鍼灸院も例外ではありません。一部の調査では、開業から5年以内に閉院する鍼灸院が3〜4割程度にのぼるとも言われています。ただし、これも公的統計ではなく参考値です。
早期の廃業が多い最大の理由は、開業後すぐに黒字化せず、患者さんが定着する前に運転資金が尽きてしまうことにあります。逆に言えば、開業から2〜3年を乗り切るだけの資金と集客の仕組みを準備できれば、廃業リスクは大きく下げられます。開業当初の資金計画が、その後の存続を大きく左右します。
廃業しやすい鍼灸院の特徴は?
廃業しやすい院には、共通する特徴があります。集客の仕組みを持たない、運転資金の余裕がない、他院との違いが不明確、数字を把握せず経営している、といった点です。これらはいずれも、この記事で紹介した廃業原因の裏返しにあたります。
反対に、長く続く院は専門分野が明確で、Web集客に取り組み、余裕を持った資金計画を立てている傾向があります。「腕さえ良ければ大丈夫」と考えず、経営者としての視点を持って準備を進めることが、廃業を避ける最大のポイントといえます。
| 観点 | 廃業しやすい院 | 長く続く院 |
|---|---|---|
| 集客 | 仕組みがなく紹介頼み | Web・口コミ集客に取り組む |
| 資金 | 運転資金に余裕がない | 3〜6か月分を確保 |
| 差別化 | 他院との違いが不明確 | 専門分野が明確 |
| 経営 | 数字を把握せず運営 | 売上・経費を管理 |
まとめ
鍼灸院だけの廃業率を示す公的な統計は存在しませんが、治療院の数が全国で14万か所を超え、有資格者も増え続けるなかで、経営環境が厳しさを増しているのは確かです。東京商工リサーチの調査でも、マッサージ業の倒産件数は2025年度に過去30年で最多を更新しました。
廃業の主な原因は、集客・マーケティングの不足、資金計画の甘さ、経営スキルの不足、差別化の弱さ、立地選定のミスにあります。裏を返せば、専門分野での差別化、Web集客の強化、十分な運転資金の確保、業務の仕組み化に取り組むことで、生き残る可能性は大きく高まります。
そして何より、開業前に勤務鍼灸師として経験を積み、経営と集客の知識、資金、得意分野を準備しておくことが、廃業リスクを下げる最も確実な近道です。焦らず土台を固めることが、長く愛される鍼灸院づくりの第一歩になります。
まずは自分に合った職場で経験を重ねることから始めてみてください。





