薬剤師のカスハラ実態と対応法|応需義務との線引きと職場に求められる対策

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怒鳴られても、何度も謝罪を求められても、「応需義務があるから断れない」と我慢してきた経験がある薬剤師は少なくありません。

2026年7月、厚生労働省は調剤応需義務の考え方を整理し、カスハラで患者さんとの信頼関係が失われた場合は、調剤を拒否できる「正当な理由」になり得ると示しました。同年10月からは、すべての事業主にカスハラ対策が義務づけられています。

この記事では、薬剤師のカスハラの実態、クレームとの線引き、応需義務との関係、受けたときの動き方、職場に求めてよい対策をまとめます。

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    薬剤師が受けるカスハラの実態

    悩んでいる女性の薬剤師

    薬局でのカスハラは、一部の薬剤師だけが経験するものではありません。 東京都薬剤師会と日本薬剤師会がそれぞれ調査を行い、被害の広がりと中身が数字で見えてきています。

    カスハラを受けた薬剤師の割合

    東京都薬剤師会が2025年1月に公表した、都内で働く薬剤師約500人へのアンケートでは、69%がカスハラを受けた経験があると回答しました。

    カスハラを受けたときの心境では、反論できずに我慢した人が最も多く、毅然と対応すると調剤を拒否したと受け取られるのではと不安に思う人もいました。

    カスハラを受けたときの心境(東京都薬剤師会調査)
    47%
    医療従事者として反論できないと考え、我慢した
    17%
    毅然と対応すると、調剤拒否と誤認されるのが不安

    「応需義務があるため、理不尽な要求をする患者にも拒否できない」という声も寄せられています。 被害の多さに加えて、応需義務が薬剤師の口を閉ざさせてきたことが、薬局のカスハラの特徴です。

    言い返せなくて、ひたすら我慢してきた人も多いよね

    薬局で多いカスハラの内容

    東京都薬剤師会の調査(複数回答)で最も多かったのは「暴言」の341件で、「謝罪等の執拗な強要」142件、「金銭を投げ渡すなどの侮辱」106件が続きました。 容姿を非難される、「アイスが溶けるから早くしろ」と騒がれるといった例もあります。

    日本薬剤師会が2025年2〜3月に集めた、調剤の対応が困難だったカスハラ事例1,566件では、行為の種類は次のとおりです。

    カスハラ行為の種類(複数回答)
    大声・暴言・脅迫的言動
    62.2%
    過剰・不当な要求
    42.0%
    不当なクレーム(調剤や販売等)
    31.6%
    長時間の拘束
    27.9%
    人格否定・侮辱的言動
    27.8%
    聞き取り・指導などの対応拒否
    17.4%
    ※ほかに不払い3.4%、待ち伏せ・つきまとい2.2%

    行為者の82.2%は患者さん本人で、性別は男性が71.4%、年代は50〜70代が全体の約7割でした。 被害を受けたのは薬剤師が78.7%ですが、事務スタッフなど薬剤師以外の従業員も14.2%を占めます。

    薬局でカスハラが起きやすい要因

    日本薬剤師会の調査では、カスハラが起きた場面の89.3%が外来の処方箋応需でした。 受付から調剤・監査・服薬指導まで、患者さんが待たされながら対面でやり取りする場面に集中しています。

    カスハラに至った要因(複数回答)
    (%)
    0 20 40 60 48.3 17.0 15.5 15.4 9.5 一方的な感情 待ち時間の長さ 医薬品の在庫不足 従業員の接客応対 金銭的負担
    ※ほかにその他23.4%、不明8.2%

    最も多いのは行為者の一方的な感情ですが、待ち時間や医薬品の在庫不足など、薬局の業務そのものがきっかけになるケースも少なくありません。出荷調整で薬が揃わないことへの不満や、服用歴・体調の聞き取りへの反発も、薬局ならではの火種です。

    その他の回答には、マイナ保険証の操作への戸惑いや、後発医薬品への抵抗感、医師への不満が薬局に向けられるケースもありました。

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    こうした要因の中には、待ち時間の伝え方や在庫状況の説明など、職場の工夫で減らせるものもあります。 一方で、一方的な感情による言動は、どれだけ丁寧に対応しても防ぎきれません。

    参考:日本薬剤師会「薬局業務におけるカスタマーハラスメント発生時の対応事例に係るアンケート調査について(ご報告と御礼)」 / Medical Tribune「薬剤師「カスハラ」に苦慮、暴言・強要7割が経験…背景に「応需義務」・厚労省は「迷惑行為なら拒否可能」(読売新聞)」

    クレームとカスハラの線引き

    調剤薬局で患者さんに錠剤を説明する薬剤師

    患者さんが怒っているからといって、すべてがカスハラになるわけではありません。 厚生労働省のカスハラ防止指針では、次の3つを全て満たすものをカスハラとしています。

    1. 顧客等(患者さんや家族など)の言動である
    2. 業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えている
    3. その言動によって働く人の就業環境が害される

    判断の分かれ目になるのは2つ目で、指針は「言動の内容」と「手段や態様」の2つの面から見るとしています。 どちらか一方だけが行き過ぎている場合でも、カスハラに当たり得ます。

    「言動の内容」と「手段・態様」の組み合わせ
    内容 / 手段手段・態様は常識的手段・態様が行き過ぎ
    内容に理由がある正当なクレーム薬の数の間違いを落ち着いて指摘カスハラになり得る取り違えを怒鳴って責め、土下座を求める
    内容に無理があるカスハラになり得る処方箋にない薬を出すよう繰り返し求めるカスハラになり得る待たされたと大声で金銭を要求

    正当なクレームにあたる言動

    要求の中身に理由があり、伝え方も常識的な範囲であれば、それは正当な申し入れです。 厚生労働省の7月の通知でも、調剤内容や接遇への合理的な指摘、説明を求める行為、改善を求める意見は、医療の質の向上につながるもので、調剤を断る理由にはならないとしています。

    • 薬の数や種類の間違いを指摘される
    • 待ち時間が長い理由の説明を求められる
    • 服薬指導の説明が分かりにくいと改善を求められる

    指針は、薬局側の不適切な対応が相手の言動の原因になっている場合もあることに気をつけるよう求めています。 また、障害のある人が配慮を求めることはカスハラに当たりません。

    東京都の条例も、消費者の正当なクレームが不当に妨げられてはならないとしています。

    怒っている=カスハラ、ってわけじゃないんだね

    内容が社会通念上許容されない言動

    伝え方が穏やかでも、要求の中身そのものに無理がある場合は、カスハラに当たり得ます。 指針が挙げる例を薬局の場面に置き換えると、次のようになります。

    • 理由がない・サービスと無関係な要求
      処方薬と関係のない個人的な用事を頼む、薬剤師の連絡先を教えろと迫る
    • 想定されるサービスを著しく超える要求
      処方箋にない薬を出せ、自分だけ順番を先にしろと求める
    • 対応が著しく困難・不可能な要求
      出荷調整中で入手できない薬を今すぐ用意しろと迫る
    • 不当な損害賠償の要求
      待たされたことを理由に金銭や商品を求める

    ただし、要求の中身に理由がある場合は、まず事情を確認するのが基本です。 在庫不足への不満でも、説明を尽くして代替案を示したうえで、なお同じ要求が続くかどうかを見ていきます。

    手段や態様が行き過ぎている言動

    要求の中身が正当でも、伝え方が度を越えていればカスハラに当たり得ます。 薬の取り違えを指摘する場面で、怒鳴る、土下座を求めるといった行為がこれに当たります。

    • 身体的な攻撃
      叩く、物を投げつける、つばを吐きかける
    • 精神的な攻撃
      暴言、人格を否定する発言、土下座の強要、お金を投げ渡す
    • 威圧的な言動
      大声をあげて薬剤師や周りの患者さんを威圧する
    • 継続的・執拗な言動
      同じ質問を繰り返す、揚げ足を取って責め立てる
    • 拘束的な言動
      長時間居座る、何時間も電話を切らせない

    SNSに悪評を書き込むとほのめかして脅すことや、対面以外の電話・インターネット上の言動も、カスハラに含まれます。

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    参考:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」 / 東京都産業労働局「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例 Q&A」

    応需義務があってもカスハラは断れる

    青空の下にある処方箋受付の薬局の看板

    厚生労働省は2026年7月8日、医薬局長通知「薬剤師の調剤応需義務等について」を出し、調剤を断れる「正当な理由」の考え方を整理しました。

    カスハラによって患者さんとの信頼関係が壊れた場合が、新たに正当な理由の例として示されています。

    応需義務と正当な理由の関係

    薬剤師法第21条は、調剤の求めに応じる義務を次のように定めています。

    条文
    薬剤師法 第21条(調剤の求めに応ずる義務)
    調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあつた場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。

    通知では、応需義務は薬剤師が国に対して負う公法上の義務であり、患者さんに対する私法上の義務ではないと明確にしました。 これまでの行政解釈では、正当な理由は疑義照会ができない場合や、急病などで薬剤師が不在の場合、災害で物理的に調剤できない場合などに限られていました。

    正当な理由に当たるかどうかは、個々の事例ごとの総合判断です。 考慮するのは、病状から見た緊急対応の必要性、調剤を求められた時間帯、患者さんと薬局・薬剤師の信頼関係です。

    カスハラが関わるときの「正当な理由」の判断
    1
    カスハラに当たるか
    社会通念上許容される範囲を超えた言動で、就業環境が害されているか
    当たらない正当な申し入れとして対応する
    ▼ 当たる
    2
    信頼関係が既に失われているか
    警告や複数名での説得をしても迷惑行為が続いているか
    失われていない警告・説得を続け、経過を記録する
    ▼ 失われている
    3
    拒否が不当でないといえるか
    病状から見た緊急性、時間帯、精神疾患などの背景を含めて総合判断
    緊急性・背景あり拒否は慎重に。医療機関や行政と連携する
    ▼
    調剤を断れる「正当な理由」に当たり得る

    信頼関係が失われているかどうかの例として、通知は「調剤と関係ないクレームなどが続き、警告書を出したり複数名で説得したりしても改善されない場合」を挙げています。 1回の暴言だけで、すぐに断れると決まっているわけではありません。

    精神疾患などの背景がある場合は、医療機関や行政と確認・連携したうえで判断が必要になることもあります。

    調剤を断れるケース

    通知では、次のような行為で信頼関係が壊れ、適切な医療提供が難しくなった場合は、調剤を断ることが正当化される大きな判断材料になるとしています。

    • 暴力・威嚇行為
      身体的な暴力、物を投げる、机を叩く、大声での恫喝や脅迫的な言動
    • 暴言・人格否定
      侮辱的・人格を否定する発言が繰り返される
    • 執拗な謝罪要求・拘束
      土下座の強要、数時間に及ぶ居座り、執拗な電話
    • 揚げ足取り・不当な追及
      調剤と無関係なクレームを繰り返し、説明を尽くしても言葉尻を捉えて責め立てる
    • 犯罪行為
      暴言などを超えて、刑法上の犯罪に当たる行為

    あわせて、執拗な言動で薬剤師の集中が削がれ調剤過誤を招くおそれがある場合や、薬局内で騒いで他の患者さんの安全やプライバシーが損なわれる場合も、考慮すべき事情とされています。

    カスハラ以外の正当な理由と、理由にならないケース
    断ることが認められる主なケース
    薬剤師の不在・災害病気や冠婚葬祭で薬剤師がいない、災害や事故で物理的に調剤できない
    疑義照会ができない処方内容に疑いがあるが、処方医と連絡が取れない
    調達に時間がかかる早急に薬が必要だが入手に時間を要する(調剤できる薬局を紹介する)
    流通管理制度登録が必要な薬剤で、処方医や薬局がリストに載っていない
    重複投薬等のアラート疑義照会しても処方が変わらず、薬学的に客観的に疑わしい
    開局時間外休日・夜間対応の薬局でない場合に、緊急性のない処方箋を翌開局時に案内する
    悪意ある未払い未払いが続き、再び未払いになる可能性が極めて高い
    断る理由にならないケース
    正当な要求調剤内容や接遇への合理的な指摘、説明の要求、改善を求める意見
    在庫がない処方箋の薬を備蓄していないことだけを理由にする

    年齢やアレルギー、併用薬などの情報提供を一切拒まれたり、必要な服薬指導を拒まれたりして、薬を適正に使えるか確認できないときは、薬機法上、薬を販売・授与してはいけないと整理されています。

    断るときの手順

    調剤を断るかどうかは、薬剤師個人がその場で決めるものではなく、薬局として判断するのが安全です。 通知の考え方に沿うと、次のような順で進めるのが無難です。

    調剤を断るまでの流れ
    1
    複数名で対応する
    言動・時間を記録しながら、説明を尽くす
    2
    警告する
    やめてほしい言動を伝え、続けば対応できないと示す。書面も検討
    3
    薬局として判断する
    管理薬剤師・本部が、緊急性や背景も含めて判断
    4
    理由を伝えて断る
    判断の根拠と経緯を記録に残す

    断る判断をした場合でも、薬が途切れると病状に影響する患者さんでは、処方医への連絡など、薬を受け取れる手段を一緒に考えておくと安心です。

    指針も、サービスが途絶えると相手の生命や健康に重大な影響が出る場合への配慮を求めています。

    「次に同じことをしたら調剤できません」と、その場で個人の判断で告げるのは避けましょう。薬局としての判断と食い違うと、かえってトラブルが大きくなるおそれがあります。

    何でも我慢しなきゃいけないわけじゃないって、はっきりしたね!

    参考:厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について(令和8年7月8日付け医薬発0708第1号)」 / 厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について(カスタマーハラスメントの防止対策の推進に係る関係省庁連携会議資料)」

    カスハラを受けたときの対応

    調剤室で笑顔を見せるベテランの管理薬剤師

    カスハラを受けたときは、その場を一人で収めようとせず、職場のルールに沿って動くのが基本です。 厚生労働省の指針とカスハラ対策企業マニュアルでは、現場での動き方として次のような例を示しています。

    一人で対応しない

    威圧的な言動など、明らかにカスハラと思われる行為を受けたら、すぐに管理職などに相談して一人で対応しないようにしましょう。 悪質性が高いと感じる場合は、最初から複数名で対応します。

    調剤室の中から別の薬剤師や事務スタッフに声をかけて、隣に立ってもらうだけでも、相手の態度が変わることがあります。 「困ったらこの合図」と職場で決めておくと、声をあげにくい場面でも助けを呼べます。

    怖いときは、すぐ周りに声をかけて大丈夫だよ

    やり取りの記録を残す

    カスハラが疑われるときは、録音・録画、対応記録、時間の計測など、第三者が後から確かめられる形で記録を残すことがマニュアルで勧められています。

    記録は、薬局が調剤を断るかどうかを判断する材料にもなり、相談窓口や警察に状況を伝えるときにも役立ちます。

    記録しておきたい項目と書き方の例
    日時・場所
    10月20日 15:10〜15:55、投薬カウンター
    相手
    患者さん本人か家族か、来局回数
    言動
    言われた言葉はそのまま「」で書く
    要求内容
    何を求められ、何に応じられなかったか
    対応者
    対応した人、同席・目撃した人
    結果
    退店・通報・本部報告など、その後の対応

    録音・録画をするときは、個人情報保護法などのルールを守る必要があります。 録音できる機器や記録の様式は職場ごとに違うため、どこに何を残すかを事前に確認しておきましょう。

    管理薬剤師に引き継ぐ

    自分で対応しきれないと感じたら、早めに管理薬剤師に引き継ぎます。

    指針でも、必要に応じて管理監督者が本人に代わって対応すること、現場で対応が難しい場合は本社・本部へ情報共有して指示を仰ぐことが、対処の例として挙げられています。

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    長時間の居座りや電話について、マニュアルでは、応じられない理由を説明したうえで膠着状態が30分程度を超えたら、お引き取りを願う・電話を切るという対応例を示しています。 この時間はあくまで一例で、実際の目安は各職場で決めるものとされています。

    警察に通報する

    暴行、傷害、脅迫など、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報します。 身の危険を感じたときは、職場で決めた対応時間に達していなくても、ためらわず通報してよいとマニュアルにも明記されています。

    物を投げつけられた、胸ぐらをつかまれた、「ただじゃおかない」と脅されたといった場面は、我慢して収める問題ではありません。 通報した事実と経緯も、記録に残しておきましょう。

    カスハラが続いて心身の負担が大きいときは、職場環境そのものを見直すきっかけにもなります。

    参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」 / 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」

    2026年10月から義務化された薬局のカスハラ対策

    研修会でメモを取る薬剤師たち

    2025年6月11日に改正労働施策総合推進法が公布され、2026年10月1日から、カスハラ対策がすべての事業主の義務になりました。 業種や規模を問わないため、個人経営の薬局も大手チェーンも対象です。

    カスハラ対策をめぐる主な動き
    • 2025年4月1日
      東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が施行事業者の取組は努力義務
    • 2025年6月11日
      改正労働施策総合推進法が公布令和7年法律第63号
    • 2026年2月26日
      カスハラ防止指針が公布令和8年厚生労働省告示第51号
    • 2026年7月8日
      調剤応需義務の考え方を整理する医薬局長通知
    • 2026年10月1日
      全事業主にカスハラ対策が義務化

    東京都では、これに先立つ2025年4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されています。 条例は、誰であってもカスハラを行ってはならないと定め、事業者には体制整備やマニュアル作成などの努力義務を課しています(罰則はありません)。

    義務を負うのは事業主ですが、働く薬剤師にとっては「職場に何を求めてよいか」の基準にもなります。

    方針の明確化と周知

    事業主は、カスハラには毅然と対応し、働く人を守るという方針を明確にして、管理職を含む全員に伝える必要があります。 あわせて、どんな言動がカスハラに当たるか、起きたときにどう対処するかをあらかじめ決めて周知しなければなりません。

    指針が挙げる対処の内容の例には、次のようなものがあります。

    • すぐ管理監督者に報告し、その場の対応の指示を受ける
    • 可能な限り一人で対応させない
    • やり取りを録音・録画する
    • 説明を尽くしても要求が続くときは、一定時間で退店を求める・電話を切る
    • 犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する

    薬局では、待合室へのポスター掲示や、就業規則・対応マニュアルへの記載などで方針が示されます。

    法律で決まったことだから、職場に求めていいんだね!

    相談体制の整備

    事業主は相談窓口をあらかじめ決めて、働く人に知らせる必要があります。 窓口はパワハラなど他のハラスメントの窓口と一緒でもよく、上司にあたる管理者を担当者にすることも考えられるとされています。

    窓口は、カスハラが実際に起きた場合だけでなく、起きそうな場合や、カスハラか判断に迷う場合も広く相談に応じることが求められています。 相談したことを理由に解雇などの不利益な扱いをされないと定めて、働く人に伝えることも事業主の義務です。

    職場で解決しないときは、都道府県労働局に相談したり、紛争解決の援助を求めたりすることもできます。

    発生後の対応と被害者への配慮

    相談を受けた事業主は、事実関係をすばやく正確に確認し、被害を受けた人への配慮をしなければなりません。 配慮の例として、管理監督者が代わって対応する、相手と引き離す、担当者を替える・複数人で対応する、メンタルヘルス不調の相談に応じるといった措置が挙げられています。

    再発防止の措置も義務です。 指針は、カスハラの背景にサービスや接客の問題、コミュニケーション不足がある場合は、その改善もあわせて進めるよう求めています。 待ち時間の目安を伝える、在庫がない理由を説明する流れを決めておくといった見直しも、これに当たります。

    抑止のための措置

    過度な要求を繰り返すなど、特に悪質なカスハラにどう対処するかの方針を事前に決め、実際に対処できる体制を整えることも義務になりました。 指針が挙げる対処の例は、警察への通報、警告文の発出、法令の範囲内でサービスを提供しないこと、出入り禁止、仮処分の申し立てなどです。

    薬局の場合、「サービスを提供しない」は応需義務との関係で判断が必要です。 前述の7月の通知に沿って、どのような場合に誰が調剤を断る判断をするのかまで決めている職場なら、現場の薬剤師も安心して動けます。

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    参考:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」 / TOKYOはたらくネット「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」

    カスハラ対策が整っている薬局の見極め方

    チェックリストと書かれた紙とペン

    義務化されたとはいえ、対策の中身や浸透の度合いは職場によって差があります。

    整っている薬局のサインと聞き方の例
    確認ポイント整っている薬局のサイン聞き方の例
    対応マニュアル調剤を断る判断者や、居座りへの対応時間の目安まで書かれている「カスハラが起きたときの対応は、どのように決まっていますか?」
    相談窓口と報告ライン窓口の連絡先が掲示され、本部へすぐ報告できる「店舗で判断できないときは、どこに相談しますか?」
    一人勤務体制一人の時間帯にも、すぐ連絡・通報できる手順がある「薬剤師が一人になる時間帯はありますか?」

    対応マニュアルの有無

    指針では、カスハラの内容と対処の内容を、顧客対応のマニュアルなどに書いて周知する方法が例として示されています。 確認したいのは、マニュアルがあるかどうかだけでなく、薬局の業務に合わせて具体的に書かれているかです。

    一般的なカスハラの説明だけでは、現場で迷ったときに頼れません。 研修や朝礼などで内容を共有しているかどうかも、運用されているかを見分けるポイントです。

    相談窓口と報告ラインの整備状況

    相談窓口が決まっていても、誰がどこにあるのかを知らなければ使えません。 今の職場では、窓口の連絡先と、カスハラが起きたときに誰へ報告し、誰が判断するのかを確認しておきましょう。

    チェーン薬局なら、店舗の管理薬剤師で判断できないときに、エリアマネージャーや本部にすぐつながるルートがあるかが大切です。 相談したことで評価が下がらないと明示されているかも、相談しやすさを左右します。

    一人勤務体制の有無

    指針は「可能な限り一人で対応させない」ことを対処の例に挙げていますが、薬剤師が一人の時間帯がある薬局では、これを守るのが難しくなります。 一人薬剤師の時間帯があるかどうかと、その時間にカスハラが起きたときの対応を確認しておきましょう。

    事務スタッフとの連携や、本部・近隣店舗へすぐ電話できる体制、通報の手順が決まっていれば、一人の時間帯でも孤立せずに済みます。

    編集部アドバイス
    • カスハラ時の流れを面接で聞いてみる
    • 一人薬剤師の時間帯と連絡手段を確認する
    • 見学時は待合室の掲示や人員配置を見る
    キャリアパートナー

    カスハラ対策の中身は求人票には書かれにくいため、転職先を比べるときは転職エージェントを通じて確認してもらう方法もあります。 質問への答えが具体的な職場ほど、日頃から対策を運用していると考えられます。

    参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」

    まとめ

    薬局のカスハラは多くの薬剤師が経験しており、応需義務を理由に我慢してきた人が少なくありません。 2026年7月の厚生労働省の通知で、カスハラによって信頼関係が壊れた場合は、調剤を断れる正当な理由になり得ることが示されました。

    この記事のポイント


    • 都内の薬剤師の69%がカスハラを経験している
    • 内容か手段の一方が行き過ぎていればカスハラになり得る
    • 応需義務は国に対する義務で、信頼関係が壊れれば拒否できる場合がある
    • 断るかどうかは個人でなく薬局として判断する
    • 2026年10月から、すべての事業主にカスハラ対策が義務化された

    カスハラを受けたら、一人で抱えず、記録を残して管理薬剤師や本部につなぎましょう。 まずは今の職場のマニュアルと相談窓口を確かめ、足りない点があれば改善を求めることから始めてみましょう。

    それでも守ってもらえる体制がないと感じたときは、対策の整った職場を探すのも一つの選択肢です。

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    ※調査方法:アンケート/対象者:サービス利用による内定者288名/集計期間:2025年1月1日~2025年8月31日

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    この記事を書いた人
    医療キャリアナビ編集部

    医療キャリアナビ編集部

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