薬剤師は麻薬取締官になれる?仕事内容・年収・勤務条件や麻薬取締員との違い
薬剤師の資格を活かす職場といえば、調剤薬局や病院、ドラッグストア、製薬企業を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、薬物犯罪の捜査・摘発を担う「麻薬取締官」も、薬剤師が目指せる進路の一つです。
麻薬取締官は厚生労働省に所属する国家公務員で、薬剤師であれば国家公務員試験を受けずに採用試験へ応募できる仕組みがあります。薬学の専門知識が前提になる仕事のため、薬剤師にとっては珍しい形のキャリアの選択肢といえます。
この記事では、麻薬取締官の仕事内容や麻薬取締員との違い、薬剤師が麻薬取締官になる方法、勤務条件と年収の目安までを、厚生労働省や人事院の公表資料をもとに整理します。調剤や服薬指導とは違う形で薬の知識を活かしたい方は、ぜひ参考にしてください。
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麻薬取締官とは?

麻薬取締官は、厚生労働省の地方支分部局である地方厚生(支)局に設置された「麻薬取締部」に所属する国家公務員です。
薬物犯罪の捜査・取締りのほか、医薬品である麻薬や向精神薬などを扱う病院・薬局・製薬会社への指導監督や立入検査、薬物乱用防止の啓発活動までを担当しています。現場では「麻取(マトリ)」の通称でも知られる存在です。
最大の特徴は、刑事訴訟法に基づく特別司法警察員として捜査を行う権限を持つ点にあります。麻薬及び向精神薬取締法第54条第5項は、麻薬取締官が厚生労働大臣の指揮監督を受けて、薬物関係法令に違反する罪について司法警察員として職務を行うと定めています。捜査や逮捕、捜索・差押えといった強制捜査ができるのは、この規定が根拠です。
取り締まりの対象となるのは、次の法律に定められた禁止事項に違反する「薬物犯罪」です。
- 麻薬及び向精神薬取締法
- 覚醒剤取締法
- 大麻草の栽培の規制に関する法律
- あへん法
- 麻薬特例法(国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律)
- 医薬品医療機器等法(薬機法)
組織は全国に置かれており、北海道・東北・関東信越・東海北陸・近畿・中国四国・四国・九州の8つの麻薬取締部に加え、沖縄麻薬取締支所と横浜・神戸・小倉の3分室で構成されています。
人事院に掲載された関東信越厚生局麻薬取締部の資料によると、全国の定員は296人(令和5年10月1日現在)と、国家公務員のなかでもきわめて少数精鋭の職種です。
麻薬取締部の組織階層
また、薬物の密輸は国境をまたいで行われるため、麻薬取締部は税関や警察、海上保安庁とも連携しています。
麻薬取締部が実施する麻薬取締職員研修には、都道府県の麻薬取締員のほか、聴講生として海上保安官・税関職員・自衛官も参加しており、機関をまたいだ協力体制が採用後の研修段階から組まれています。
参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「麻薬取締部について」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「薬物犯罪捜査」 / e-Gov法令検索「麻薬及び向精神薬取締法」 / 人事院「関東信越厚生局麻薬取締部 業務概要」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「研修制度/人事交流」
薬剤師は麻薬取締官になれる

結論からお伝えすると、薬剤師は麻薬取締官になれます。それどころか、薬剤師には一般の受験者にはない専用の入口が用意されています。
厚生労働省地方厚生局麻薬取締部の採用情報では、「麻薬取締官になるためには、国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)に最終合格した方又は薬剤師の免許を受けた方で、麻薬取締部に採用される必要があります」と説明されています。つまり入口は2つあり、薬剤師(薬剤師国家試験の合格者・合格見込み者を含む)は、国家公務員試験に合格していなくても「薬学系選考採用試験」に応募できます。
国家公務員の多くは、まず国家公務員試験に合格しなければ採用のスタートラインに立てません。その手前をスキップできるのは、薬物や医薬品の専門知識を持つ人材が業務上不可欠だからです。
薬剤師が麻薬取締官を目指せる理由
- 薬剤師には国家公務員試験を経由しない「薬学系選考採用試験」がある
- 押収された薬物の鑑定など、薬学の知識がないと成り立たない業務がある
- 医療用麻薬・向精神薬を扱う病院や薬局への立入検査は、医薬品の知識が前提になる
実際、関東信越厚生局麻薬取締部が公表した職員構成では、職種の内訳は技官(薬剤師)が約67%、事務官が約33%となっています。麻薬取締官のおよそ3人に2人が薬剤師という計算で、薬剤師が「例外的に受け入れられている職種」ではなく、組織の中心を担う存在であることが分かります。
なお男女比は男性約80%・女性約20%で、女性職員も部門を問わず勤務しています。
麻薬取締官の職種内訳
※令和5年10月1日現在の職員構成
公務員という働き方そのものが気になる方は、他の公務員薬剤師の選択肢とあわせて比較してみると判断しやすくなります。
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参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「採用情報」 / 人事院「関東信越厚生局麻薬取締部 業務概要」
麻薬取締官と麻薬取締員の違い

「麻薬取締官」とよく似た名前に「麻薬取締員」があります。1文字違いで業務も重なる部分が多いため混同されがちですが、所属する組織と任命の仕方がまったく異なります。
麻薬及び向精神薬取締法第54条第1項は「厚生労働省に麻薬取締官を置き、麻薬取締官は、厚生労働省の職員のうちから、厚生労働大臣が命ずる」と定めています。一方、同条第2項では「都道府県知事は、都道府県の職員のうちから、その者の主たる勤務地を管轄する地方裁判所に対応する検察庁の検事正と協議して麻薬取締員を命ずる」とされています。
つまり麻薬取締官は厚生労働省の職員から厚生労働大臣が命じる国家公務員、麻薬取締員は都道府県の職員から都道府県知事が命じる地方公務員です。麻薬取締員は薬務担当課などに配属された都道府県職員のなかから任命されるため、麻薬取締員を目指す場合は、まず各都道府県の職員採用試験を受けることになります。
権限の面では、同条第5項が麻薬取締官・麻薬取締員のいずれについても、薬物関係法令に違反する罪について司法警察員として職務を行うと定めています。捜査権限を持つ点は共通しており、違いは「誰の指揮監督を受けるか」です。麻薬取締官は厚生労働大臣、麻薬取締員は都道府県知事の指揮監督を受けます。
麻薬取締官 と 麻薬取締員 の違い
| 項目 | 麻薬取締官 | 麻薬取締員 |
|---|---|---|
| 所属 | 厚生労働省(国) | 都道府県 |
| 身分 | 国家公務員 | 地方公務員 |
| 任命者 | 厚生労働大臣が、厚生労働省の職員のうちから命ずる | 都道府県知事が、都道府県の職員のうちから検事正と協議して命ずる |
| 指揮監督 | 厚生労働大臣の指揮監督を受ける | 都道府県知事の指揮監督を受ける |
| 捜査権限 | 司法警察員として職務を行う | 司法警察員として職務を行う |
| 根拠条文 | 麻薬及び向精神薬取締法 第54条第1項・第5項 | 麻薬及び向精神薬取締法 第54条第2項・第5項 |
なお、麻薬取締官の定数は政令で定めると規定されており(同条第3項)、採用も麻薬取締部が行います。都道府県の判断で任命される麻薬取締員とは、人員の決まり方も異なります。
薬剤師が麻薬取締官になる方法

麻薬取締官になるルートは、薬剤師向けの「薬学系選考採用試験」と、国家公務員採用一般職試験を経由するルートの2つです。薬剤師の方は前者を選ぶのが一般的で、試験科目も採用の流れも異なります。
ここでは2026年度の募集要項をもとに、受験資格や試験内容を整理します。募集内容は年度ごとに変わるため、実際に受験する際は必ず最新の募集要項を確認してください。
薬剤師ルート(薬学系選考採用試験)
薬学系選考採用試験は、薬剤師・薬剤師国家試験合格者・薬剤師国家試験合格見込み者を対象とした選考です。2026年度の募集要項では、次の3つをすべて満たす人が受験できるとされています。
- 1996(平成8)年4月2日以降の生まれの者
- 薬剤師、薬剤師国家試験合格者又は薬剤師国家試験合格見込みの者(ただし、薬剤師免許の取得が採用の条件)
- 麻薬取締官として職務執行に支障のない健康状態である者
注意したいのが1つ目です。2026年度試験は1996年4月2日以降に生まれた方が対象で、おおむね29歳以下という年齢の上限があります。日本国籍を有しない人など、受験できない場合も定められています。
試験は1次試験と最終試験の2段階です。1次試験は各麻薬取締部(支所)で行われ、指定された課題について考えを述べる論文試験(30分・400字程度)、マークシート方式の適性検査(制限時間2時間程度)、面接試験(10〜20分程度)で構成されます。
麻薬取締官の採用試験の流れと1次試験の内容
30分・400字程度
制限時間2時間程度
一般的な公務員試験のような専門科目の筆記試験がない点は、働きながら受験を考える方にとって現実的なつくりといえます。
応募先は在学中の大学の所在地にこだわる必要はなく、現在の住居(居所)を管轄する最寄りの麻薬取締部(支所)に申し込む形です。申込みはメール登録が原則で、1次試験当日には採用面接カードと成績証明書を持参します。
国家公務員試験ルート
もう一方は、国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)に最終合格したうえで、麻薬取締部へ官庁訪問を行うルートです。こちらは薬剤師免許の有無を問わず応募できます。
関東信越厚生局麻薬取締部の職員構成では事務官が約33%を占めており、薬剤師以外の職員も一定数が活躍しています。行政職として採用され、捜査や調査総務の業務に携わる形です。
ただし国家公務員採用一般職試験にも受験可能な年齢が定められており、試験区分ごとに専門科目の筆記試験もあります。薬剤師免許を持っている方であれば、負担の少ない薬学系選考採用試験を選ぶのが基本と考えてよいでしょう。
採用までの流れ
2026年度の薬学系選考採用試験は、6月8日から6月21日までが応募受付期間で、1次試験は7月8日から7月29日の間に各麻薬取締部が指定する日に実施されます。合格発表は実施日から2週間以内です。
最終試験は1次試験合格者を対象に、関東信越厚生局麻薬取締部で8月17日から8月19日に実施される面接試験(20〜30分程度)で、合格発表は実施日から1週間以内とされています。採用予定年月日は2027(令和9)年4月1日又は5月1日で、応募から採用までおよそ10か月かかる計算です。なお、採用時の配属地区は1次試験を受けた地区に限られません。
2026年度 薬学系選考採用試験のスケジュール
採用後は、まず新規採用職員研修を受けたうえで捜査・調査総務・国際・鑑定のいずれかの部門に配属されます。麻薬取締部の説明では、採用された人のほとんどが捜査部門に配属されるとされています。その後、麻薬取締職員研修や任官前職員研修を経て麻薬取締官に任官する流れです。
大学を卒業した人は、通算して1年以上麻薬取締りに関する事務に従事すると麻薬取締官となることができるとされています。
薬剤師の求人を探す参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「募集要項」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「キャリアステップ」 / 人事院「関東信越厚生局麻薬取締部 業務概要」
麻薬取締官の仕事内容

麻薬取締官の業務は捜査だけではありません。医薬品として流通する麻薬・向精神薬が正しく使われているかを監督する行政業務や、押収物の鑑定、薬物乱用を防ぐ啓発活動まで、薬物に関わる幅広い領域をカバーしています。
ここでは代表的な3つの柱を見ていきます。
薬物犯罪の捜査・摘発
麻薬取締官の中心業務が、規制薬物の輸出入・製造・栽培・所持・譲渡し・使用などに関する犯罪の捜査です。麻薬取締部の説明では、麻薬取締官はこれらの禁止事項に違反した薬物犯罪について、刑事訴訟法に基づく特別司法警察員として捜査・情報収集活動を行うとされています。
厚生労働省が公表する薬物事犯の検挙状況を見ると、令和6年の全薬物事犯検挙人員は14,040人で、内訳は大麻6,342人、覚醒剤6,306人、麻薬・向精神薬1,382人などとなっています。
大麻事犯が覚醒剤事犯を上回る状態が続いており、取り締まりの対象は年々変化しています。
大麻は令和5年以降、覚醒剤を上回る。合計はあへん事犯を含む
捜査は尾行や張り込みを含む地道な作業の積み重ねで、夜間に及ぶ長時間の捜査が発生することもあります。
また、薬物は海外から国内に持ち込まれるものが多いため、麻薬取締部は各国の捜査関係機関と連携するほか、国連麻薬委員会(CND)やアジア太平洋地域薬物取締機関長会議(HONLEA)などの国際会合にも参加しています。
医療機関・製薬企業への立入検査
医薬品である麻薬や向精神薬は、がん性疼痛の緩和など傷病の治療に欠かせないものです。その一方で、正規の流通経路から横流しされれば乱用につながります。
そこで麻薬取締部は、麻薬や向精神薬を取り扱う病院・薬局・製薬会社などに対して立入検査を行い、不正使用や横流しが生じないよう監督・指導を行っています。あわせて、麻薬や向精神薬を医薬品として取り扱うために必要な厚生労働大臣・都道府県知事の免許や許可に関する業務も担当します。
この分野は、調剤薬局や病院で麻薬帳簿や施用記録に触れてきた薬剤師の実務がそのまま活きる領域です。捜査というイメージが先行しがちですが、行政・許認可の仕事も麻薬取締官の重要な役割です。
薬物鑑定・乱用防止の啓発
麻薬取締部には、捜査部門とは別に鑑定部門が設置されています。鑑定部門では最新の分析機器を駆使し、薬物犯罪の立証に不可欠な鑑定を行うほか、薬物使用歴を知るための毛髪分析や、薬物使用者などの特定を目的としたDNA型鑑定にも取り組んでいます。
啓発活動も大きな柱です。麻薬取締官が各種学校に赴いて薬物乱用防止講演を行うほか、麻薬・覚せい剤乱用防止センターや都道府県、薬物乱用防止指導員と協力して街頭キャンペーンや「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」を全国で開催しています。
さらに、保護観察が付かない執行猶予判決を受けた方などを対象とした再乱用防止の支援も行っており、ここでは公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士といった専門職員が対応にあたります。取り締まって終わりではなく、乱用の入口と再発の両方に働きかけるのが麻薬取締部の特徴です。
転職活動するなら?
参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「薬物犯罪捜査」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「正規流通麻薬等の監督と指導」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「鑑定」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「薬物乱用防止のための啓発活動」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「再乱用防止」 / 厚生労働省「現在の薬物乱用の状況」
麻薬取締官で薬剤師の資格・知識が活きる場面

麻薬取締官の業務のなかには、薬学の知識がなければ成立しない仕事がいくつもあります。薬剤師が3人に2人を占めるのは、それだけ専門性が求められるためです。
まず鑑定です。押収された物質が規制薬物に当たるかどうかを分析機器で特定する作業は、化学構造や分析法の理解が前提になります。毛髪分析やDNA型鑑定といった手法も扱うため、薬学部で学んだ分析化学や薬物動態の知識が直接的に活きます。
次に、医療機関・製薬企業への立入検査です。麻薬及び向精神薬取締法は、麻薬を扱う事業者を「麻薬取扱者」として区分し、麻薬輸入業者・麻薬製造業者などの免許は厚生労働大臣が、麻薬卸売業者・麻薬小売業者・麻薬施用者・麻薬管理者などの免許は都道府県知事が与えると定めています。
このうち麻薬小売業者の免許は薬局開設の許可を受けている者、麻薬管理者の免許は医師・歯科医師・獣医師又は薬剤師でなければ受けられません(同法第3条)。薬局や病院で麻薬小売業者・麻薬管理者の実務に関わってきた経験がある方なら、検査を受ける側の帳簿・保管・記録の実情を理解したうえで指導ができます。
| 免許を出す人 | 免許区分 | 免許を受けられる者 |
|---|---|---|
| 厚生労働大臣 | 麻薬輸入業者/輸出業者/製造業者/製剤業者/家庭麻薬製造業者/元卸売業者 | 医薬品の製造販売業・製造業・販売業などの許可を受けている者(輸出業者・元卸売業者は薬剤師であるか薬剤師を使用していることも必要) |
| 都道府県知事 | 麻薬卸売業者 | 薬局開設又は医薬品販売業の許可を受け、自ら薬剤師であるか薬剤師を使用している者 |
| 麻薬小売業者 | 薬局開設の許可を受けている者 | |
| 麻薬施用者 | 医師・歯科医師又は獣医師 | |
| 麻薬管理者 | 医師・歯科医師・獣医師又は薬剤師 | |
| 麻薬研究者 | 学術研究上、麻薬の製造・使用などを必要とする者 |
※色付きが薬剤師の関わる区分。立入検査では相手の免許区分ごとに確認事項が変わる
-
鑑定分析機器による薬物の同定、毛髪分析、DNA型鑑定など化学の知識が必須
-
立入検査・指導医療用麻薬や向精神薬の管理実務を知っていることが前提になる
-
免許・許可業務麻薬取扱者の免許制度を理解したうえで審査・指導を行う
-
捜査押収物や使用薬物の性質を判断する場面で薬学知識が役立つ
調剤薬局や病院で医療用麻薬の管理に携わった経験は、そのままキャリアの土台になります。薬剤師のキャリアを「調剤か企業か」で考えていた方にとって、麻薬取締官は薬学の専門性を公共の安全に振り向ける第三の道といえます。
薬剤師の求人を探す参考:e-Gov法令検索「麻薬及び向精神薬取締法」 / 人事院「関東信越厚生局麻薬取締部 業務概要」
麻薬取締官の勤務条件・年収

国家公務員である麻薬取締官の勤務条件は、一般の行政官と同じ枠組みが基本です。ただし捜査という業務の性質上、時間が不規則になる場面もあります。
勤務時間・休日・転勤
麻薬取締部の採用に関するQ&Aによると、勤務時間は原則として1日7時間45分ですが、日々の業務内容によって変動するとされています。休日は原則として土・日曜日および祝日等の休日が休みで、年間20日間の年次休暇があります。
一方で、捜査の状況によっては夜間や休日の勤務が発生します。尾行や張り込みは相手の動きに合わせるため、勤務時間が読みにくい日もあると考えておくとよいでしょう。
転勤についても押さえておきたいポイントがあります。Q&Aでは「麻薬取締官は、原則として全国転勤です」と明記されています。勤務地は全国8つの麻薬取締部と沖縄の支所、横浜・神戸・小倉の3分室で、採用時の配属地区も1次試験を受けた地区に限られません。生活の拠点を長く固定したい方にとっては、事前に検討しておきたい条件です。
なお、勤務場所に応じて単身向け・世帯向けの公務員宿舎があり、希望者は入居することもできます。採用にあたって必要な資格は特にありませんが、仕事で普通自動車運転免許が役立つこともあるとされています。
年収の目安
Q&Aによると、麻薬取締官の給与は国家公務員として行政職俸給表(一)の俸給に調整額が付与された金額と、該当する各種手当が支給される仕組みです。麻薬取締官だけの平均年収は公表されていないため、行政職俸給表(一)の統計から目安を考えます。
人事院の「令和7年国家公務員給与等実態調査報告書」によると、行政職俸給表(一)が適用される職員は139,580人、平均年齢41.9歳、平均給与月額は414,480円(うち俸給332,237円)です。
この平均給与月額を12か月分とし、期末手当・勤勉手当を年間4.65月分(令和7年人事院勧告)として俸給をもとに単純計算すると、年収はおよそ650万円前後になります。
ただしこれは行政職俸給表(一)全体の平均を用いた試算です。実際の給与は年齢・経験年数・役職・勤務地の地域手当によって変わり、麻薬取締官には俸給の調整額も加算されます。あくまで目安として捉えてください。
- 正社員求人932件の月給中央値は350,000円
- 調剤薬局は365,000円、病院は300,500円と職場で差がある
- 賞与・ボーナスありは66%、退職金制度ありは57%
新卒で薬剤師として調剤薬局や病院に就職した場合と比べると、初任給の水準では民間の薬剤師求人が上回るケースが少なくありません。一方で公務員は年功的に昇給し、退職金や共済制度も整っています。短期の月収ではなく、生涯の働き方全体で比較する視点が欠かせません。
参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「採用に関するQ&A」 / 人事院「令和7年国家公務員給与等実態調査報告書」 / 人事院「令和7年人事院勧告」
麻薬取締官に向いている人

麻薬取締官は少数精鋭の職種で、採用後は多くの人が捜査部門に配属されます。業務の性質を踏まえると、次のような資質が求められる仕事です。
まず、薬物犯罪をなくしたいという強い正義感です。麻薬取締部の業務は、乱用による保健衛生上の危害を防ぎ、公共の福祉を増進することを目的としています。取り締まりの先に「守るべき人がいる」と実感できる方は、やりがいを持って続けやすいでしょう。
次に、粘り強さと体力です。捜査は尾行や張り込みなど時間のかかる作業が中心で、成果がすぐには見えません。夜間に及ぶ長時間の捜査が発生する日もあります。麻薬取締部のキャリアステップでも、新任者から係員の段階で「体力、知力の向上」が期待される項目として挙げられています。
3つ目は、高い倫理観です。麻薬取締官は捜査権限を持ち、押収された規制薬物そのものを扱います。強い権限を公正に行使できることが、この仕事の前提条件です。
4つ目はチームで動く協調性です。捜査は班単位で行われ、キャリアステップでも係長クラスは「捜査(現場班長)」、補佐クラスは「捜査(現場指揮)」と役割が定められています。また、税関や警察、海上保安庁など他機関との連携も日常的に発生します。単独で完結する仕事ではありません。
全国転勤が原則で、採用時の配属地区も選べない
捜査の状況により夜間・休日勤務が発生する
年齢要件があり、募集内容は年度ごとに変わる
分析や研究の方向で専門性を深めたい方は、鑑定部門のような分析職に近い働き方も含めて、他の進路と比べてみると自分の適性が見えやすくなります。
今のあなたの状況は?
参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「キャリアステップ」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「採用に関するQ&A」
麻薬取締官(薬剤師)に関するよくある質問

麻薬取締官を目指す薬剤師の方から寄せられやすい疑問をまとめました。
薬剤師なら国家公務員試験は不要?
薬学系選考採用試験を受ける場合、国家公務員採用一般職試験に合格している必要はありません。麻薬取締部の採用情報でも、麻薬取締官になるには「国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)に最終合格した方又は薬剤師の免許を受けた方」と説明されており、薬剤師は独立したルートとして位置づけられています。
ただし試験が免除されるわけではありません。1次試験として論文試験・適性検査・面接試験があり、最終試験の面接も控えています。専門科目の筆記試験がない点が、一般的な公務員試験との大きな違いです。
調剤薬局や病院で働いてからでも目指せる?
年齢要件を満たしていれば、社会人として働いた後でも受験できます。2026年度試験の受験資格は1996(平成8)年4月2日以降の生まれの者とされており、既卒であること自体は制限になりません。応募時の登録内容にも「在学中・既卒の別」を記載する欄が設けられています。
むしろ、医療用麻薬の管理や麻薬帳簿の実務を経験している薬剤師は、立入検査や指導の場面で現場感覚を活かせます。ただし年齢の上限があるため、実務経験を積んでから挑戦する場合は、いつまでに受験するかを逆算しておくことが大切です。
麻薬取締官の採用倍率は高い?
採用倍率は公表されていないため、正確な数字はお伝えできません。ただし規模から推測することはできます。
関東信越厚生局麻薬取締部の資料によると、全国の定員は296人(令和5年10月1日現在)で、採用内定者数は令和3年度18人、令和4年度19人、令和5年度22人と、年間20人前後で推移しています。この人数を全国から募集していることを踏まえると、狭き門であることは間違いありません。
募集は年度ごとに実施され、日程や採用予定時期も変わります。志望する場合は、麻薬取締官のホームページで最新の採用情報を定期的に確認することがすすめられています。
参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「募集要項」 / 人事院「関東信越厚生局麻薬取締部 業務概要」
まとめ
薬剤師は麻薬取締官になれます。麻薬取締官は厚生労働省の地方厚生(支)局に置かれた麻薬取締部に所属する国家公務員で、刑事訴訟法に基づく特別司法警察員として薬物犯罪の捜査を行う権限を持ちます。都道府県の職員から任命される麻薬取締員とは、所属と任命の仕方が異なります。
薬剤師には「薬学系選考採用試験」という専用ルートがあり、国家公務員試験に合格していなくても応募できます。1次試験は論文・適性検査・面接で構成され、専門科目の筆記試験はありません。ただし2026年度試験は1996年4月2日以降の生まれが対象という年齢要件があり、採用内定者数は年間20人前後と狭き門です。
仕事内容は薬物犯罪の捜査だけでなく、病院・薬局・製薬会社への立入検査、押収薬物の鑑定、薬物乱用防止の啓発まで幅広く、薬学の専門知識が活きる場面が多くあります。勤務時間は原則1日7時間45分・土日祝休みですが、捜査によっては夜間や休日の勤務が発生し、全国転勤も原則です。
薬剤師のキャリアは調剤薬局や病院だけではありません。まずは麻薬取締官のホームページで最新の募集要項を確認し、そのうえで他の進路とも比較しながら、自分に合う働き方を選んでいきましょう。





