理学療法士は飽和状態なのか?需給推計の読み方と個人がとれる対策
理学療法士について調べると、「飽和状態」「供給過多」といった言葉が必ず出てきます。これから理学療法士を目指す方も、すでに現場で働いている方も、将来に不安を感じたことがあるのではないでしょうか。
たしかに有資格者は増え続けており、国が公表した需給推計でも供給が需要を上回る見通しが示されています。ただし、その数字は一定の前提を置いた推計であり、全国どこでも同じ状況というわけではありません。前提を知らないまま数字だけを受け取ると、必要以上に悲観的な判断をしてしまう可能性があります。
この記事では、理学療法士が飽和といわれる背景を公的データで確認したうえで、需給推計の読み方、地域や領域による実態の違い、そして個人が取れる対策を整理します。数字の意味を理解したうえで、ご自身のキャリアを考える材料にしてください。
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理学療法士が飽和といわれる背景

理学療法士が飽和といわれるようになった背景には、有資格者の急増があります。国家試験の合格者が毎年1万人を超える状態が10年以上続いており、資格を持つ人の総数は右肩上がりで増えています。
その増加を支えてきたのが養成校と入学定員の拡大です。1990年代半ばには全国で80校程度だった養成校は、現在は270校を超えています。ここでは「どれだけ増えたのか」を、日本理学療法士協会と厚生労働省が公表しているデータで確認します。
有資格者数の推移
日本理学療法士協会がまとめた国家試験合格者の推移によると、国家試験の累計合格者数は247,546人(令和8年度時点)に達しています。平成7年度の累計は15,607人でしたので、この30年ほどで約16倍に増えた計算です。
年間の合格者数で見ても変化は明らかです。平成7年度の合格者は1,422人でしたが、平成21年度に8,291人、平成24年度に9,850人と伸び、近年は毎年1万1千人前後が新たに資格を取得しています。
理学療法士 国家試験 年間合格者数の推移
H=平成/R=令和(各年度・国家試験合格者数)
一方、日本理学療法士協会の会員数は2026年3月末時点で144,943人です。累計合格者数との差は、退職や他業種への転職、協会に入会していない有資格者などによるものと考えられます。
つまり資格を持つ人の数と、実際に理学療法士として働いている人の数は同じではありません。
この点は、後述する需給推計を読むうえでも重要になります。
養成校と定員の増加
有資格者が増えた直接の要因は、養成校の増加です。日本理学療法士協会の集計では、養成校数と入学定員は次のように推移しています。
この30年ほどで校数は約3.5倍、入学定員は約5.7倍になりました。特に伸びが大きかったのは平成10年代で、平成10年度の104校から平成21年度の246校まで、11年間で2倍以上に増えています。
ただし直近10年の動きは異なります。平成29年度の263校以降は増加ペースが明らかに緩やかになり、定員もほぼ横ばいです。四年制大学が増える一方で専門学校は減っており、令和2年度の148校から令和7年度は140校になっています。養成校の拡大そのものは、すでに一段落した段階といえます。
養成校データの見方
- 校数の増加は1990年代後半から2000年代に集中している
- 直近10年は校数・定員ともほぼ横ばい
- 専門学校は減少し、四年制大学・専門職大学が増えている
1施設あたりの配置人数
有資格者の総数が増えても、働く場所が同じペースで増えなければ、1施設あたりの人数が増えていきます。日本理学療法士協会の「会員の分布」では、施設区分ごとの会員数と施設数の両方が公表されているため、1施設あたりの平均人数を計算できます。
施設区分別・理学療法士会員の「1施設あたり人数」比較
| 順位 | 施設区分 | 会員数 | 施設数 | 1施設あたり平均人数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 回復期リハビリテーション病棟 | 19,102人 | 1,322施設 | |
| 2 | 高度急性期(病院) | 5,602人 | 419施設 | |
| 3 | 急性期(病院) | 24,101人 | 3,008施設 | |
| 4 | 回復期(地域包括ケア病棟) | 3,811人 | 1,249施設 | |
| 5 | 慢性期(療養病棟) | 3,126人 | 1,131施設 | |
| 6 | 診療所(無床) | 9,169人 | 3,448施設 | |
| 7 | 介護老人保健施設 | 5,380人 | 2,263施設 | |
| 8 | 訪問リハビリテーション | 1,142人 | 747事業所 | |
| 9 | 通所リハビリテーション | 1,629人 | 1,148事業所 |
※協会会員数をもとにした数値であり、就業者全体の数値ではない
計算してみると、施設によって配置人数が大きく異なることが分かります。最も厚いのは回復期リハビリテーション病棟の1施設あたり約14人で、限られた施設数に会員が集中している構図です。
これに対し、地域包括ケア病棟や無床診療所、介護老人保健施設は3人前後にとどまります。訪問リハビリテーション事業所にいたっては1事業所あたり約1.5人で、少人数で運営されている実態がうかがえます。
「飽和」という言葉から連想されるのは大人数が集まる職場ですが、実際には人数が多い職場と少ない職場がはっきり分かれています。どの施設で働くかによって、感じる混雑感はまったく違うということです。
参考:公益社団法人 日本理学療法士協会「統計情報」 / 厚生労働省「第61回理学療法士国家試験及び第61回作業療法士国家試験の合格発表について」
需給推計をどう読むか

理学療法士の飽和を語るとき、必ず引用されるのが国の需給推計です。「2040年には供給が需要の1.5倍になる」という数字を目にしたことがある方も多いでしょう。
ただし、この数字は結論ではなく推計です。どんな前提を置いて計算したのかを知らないまま受け取ると、実態とかけ離れた理解になってしまいます。ここでは推計の中身と前提条件、そして現場の実感とずれる理由を整理します。
公表されている推計の内容
理学療法士・作業療法士の需給推計は、厚生労働省の医療従事者の需給に関する検討会に設置された理学療法士・作業療法士需給分科会で検討されてきました。同分科会は2016年4月に第1回、同年8月に第2回が開かれ、推計結果が示されたのは2019年4月5日の第3回です。
そこで示されたのが、「理学療法士・作業療法士の供給数は現時点で需要数を上回っており、2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍になる」という結果です。理学療法士だけでなく、作業療法士と合わせた推計である点に注意が必要です。
ここで押さえておきたいのは、この推計が公表されたのが2019年だという点です。記事執筆時点から見ると7年前の資料であり、現在の状況をそのまま反映したものではありません。数字を引用している記事の多くは公表年に触れていませんが、推計は公表年とセットで読む必要があります。
推計が置いている前提条件
推計は将来を言い当てるものではなく、いくつかの仮定を置いて計算した結果です。この推計が置いている主な前提は次のとおりです。
2011年〜2017年の実績データをもとに計算され、2019年4月に公表された推計です。
+1,360人
医療分野と介護分野、それぞれのサービス提供体制をもとに需要が算出されています。
102,603人
まず、推計の土台となったのは2011年から2017年までの実績データです。この期間の就業状況や供給の伸び方をもとに、将来の値が算出されています。
次に供給側の前提として、養成施設の入学定員が理学療法士13,629人・作業療法士7,285人のまま続くという仮定が置かれています。日本理学療法士協会の集計では令和7年度の入学定員は14,989人ですので、実際の定員は推計の前提を上回っています。
需要側は、医療分野と介護分野それぞれのサービス提供体制をもとに算出されています。将来の人口構成や利用者数の見込みが変われば、需要の数字も変わる構造です。
推計は「このまま推移すれば」という条件付きの計算結果です
前提が変われば結果も変わります
公表年と前提条件を確認せずに数字だけを引用しないようにしましょう
推計と現場の実感がずれる理由
「供給が1.5倍」と聞くと就職できないような印象を受けますが、現場で人手が足りないと感じる職場も存在します。このずれには、いくつか理由があります。
ひとつは、供給数が有資格者を基礎に算出されている点です。前述のとおり、累計合格者247,546人に対して協会会員は144,943人であり、資格を持っていても理学療法士として働いていない人が一定数います。有資格者の増加が、そのまま働き手の増加になるとは限りません。
もうひとつは、全国平均が地域差を覆い隠すことです。全国では供給過多でも、地域単位では過不足の状況が異なります。この点は次の章で具体的な数字を見ていきます。
さらに、需要と供給の「量」は一致していても、働きたい職場と人手が必要な職場が一致しているとは限りません。人気の高い領域に応募が集中する一方、担い手が集まりにくい領域が残るという構造は、量の推計では表れにくい部分です。
参考:厚生労働省「理学療法士・作業療法士需給分科会」 / 公益社団法人 日本理学療法士協会「統計情報」
今のあなたの状況は?
飽和の実態は一律ではない

飽和という言葉は全国一律の現象のように聞こえますが、実際に読者の方が直面するのは全国平均ではありません。就職や転職を考えている地域、働きたい領域、選ぼうとしている施設の種類によって、状況は大きく変わります。
ここでは公的データと医療キャリアナビの掲載求人データを使い、どこにどれだけの違いがあるのかを具体的に確認します。
地域による違い
日本理学療法士協会は都道府県ごとの会員数を公表しています。会員数そのものは人口の多い都市部が上位ですが、人口あたりで見ると順位は大きく入れ替わります。
総務省統計局の人口推計(2024年10月1日現在)を使い、人口10万人あたりの協会会員数を計算した結果が次のグラフです。
全国平均は約117人ですが、最も多い高知県は約252人、最も少ない神奈川県は約80人でした。上位と下位では約3.1倍の開きがあります。
注目したいのは、人口あたりの理学療法士が多いのが西日本や地方だという点です。関東圏は軒並み下位に位置します。「地方は人手不足で都市部は飽和」という一般的なイメージとは逆の結果です。
- 会員数の多さと「密度」は別物。人口で割って比べましょう
- 関東圏は人口あたりでは理学療法士が少なめです
- 密度が低い地域ほど、求人が出るタイミングは多くなります
ただし、この数字は協会会員をもとにした試算である点にご注意ください。協会に入会していない理学療法士は含まれていないため、実際の就業者数とは差があります。それでも、地域によって密度が大きく異なることは読み取れます。
領域による違い
働く領域によっても状況は異なります。日本理学療法士協会の会員の分布を見ると、急性期の病院に24,101人が所属している一方、訪問リハビリテーション事業所は1,142人にとどまります。会員がどこに集まっているかが分かる数字です。
一方、求人側の状況は逆の傾向を示します。医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)では、理学療法士の求人6,409件のうち訪問リハビリが1,983件と最も多く、病院は819件でした。
理学療法士の求人 施設種別の内訳
求人全6,409件のうち、どの施設で募集されているか
各件数・割合は求人全6,409件の内訳(合計6,409件)
つまり、会員が多く集まっている領域と、求人が多く出ている領域は一致していません。病院で働きたい人が多ければ競争は激しくなり、在宅領域では担い手が求められている、という構図が見えてきます。
飽和かどうかを判断するときは、全体の人数ではなく「自分が働きたい領域で、どれだけ人が求められているか」を見る必要があります。
施設の種類による違い
施設の種類は、配置人数だけでなく給与にも影響します。医療キャリアナビ掲載求人データで理学療法士の正社員求人の月給中央値を施設別に見ると、次のようになります。
最も高いのは訪問リハビリの月給中央値30.0万円で、最も低い病院とは約5万円の差があります。人が集まりやすい病院よりも、担い手が求められている在宅領域のほうが給与水準は高い傾向にあります。
配置人数と合わせて考えると、施設ごとの違いはより鮮明です。回復期リハビリテーション病棟は1施設あたり約14人と厚く配置される一方、訪問リハビリは約1.5人です。人数が多い職場は教育体制が整いやすく、少人数の職場は裁量が大きくなるなど、働き方そのものが変わってきます。
参考:公益社団法人 日本理学療法士協会「統計情報」 / 総務省統計局「人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)」
理学療法士の求人を探す飽和が進むと起きること

供給が増えた状態が続くと、働く側にはどのような影響があるのでしょうか。ここでは、就職先の選択肢・給与・求められる役割の3つの観点から整理します。
いずれも「必ずこうなる」という話ではありません。ただし、公的データから読み取れる傾向を知っておくと、早めに準備できることが見えてきます。
希望する職場に入りにくくなる
有資格者が増えると、人気の高い職場では応募が集中しやすくなります。前章で見たとおり、会員が多い領域と求人が多い領域はずれています。急性期や回復期の病院に希望が集まる一方、求人数では在宅領域が上回っている状況です。
医療キャリアナビ掲載求人データでも、理学療法士の求人6,409件のうち病院は819件で全体の約13%にとどまります。病院を第一希望にする場合、選択肢が限られる可能性は考えておいたほうがよいでしょう。
また、回復期リハビリテーション病棟のように1施設あたり14人前後が配置されている職場では、欠員が出たときにしか募集が発生しません。配置人数が多い職場ほど、求人のタイミングが限られるという側面もあります。
給与が上がりにくくなる
給与の傾向は、賃金構造基本統計調査で確認できます。この調査では理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士が同じ職種区分にまとめられているため、リハビリ職全体の傾向として読む必要があります。
令和6年の調査では、この区分の平均年齢は35.5歳、平均勤続年数は7.8年でした。きまって支給する現金給与額は月31万1,400円、年間賞与その他特別給与額は70万4,700円です。単純に計算すると年収は約444万円になります。
年齢階級別に見ると、上がり方に特徴があります。
理学療法士等の年齢階級別 月額給与カーブ
「理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,視能訓練士」を同一区分として集計した数値です
20代前半から40代後半までは順調に伸びますが、45〜49歳と50〜54歳はほぼ横ばいで、月給ベースではわずかに下がっています。年収換算すると、40代後半で約530万円、50代前半で約536万円とほぼ同水準です。55歳以降は再び上がりますが、そこまで在職している人自体が多くありません。
もうひとつ注目したいのが労働者数の分布です。同調査では25〜29歳が約5万1,600人と最も多く、55〜59歳は約5,300人にとどまります。年齢が上がるほど人数が急減する構造で、資格取得者が急増した時期を反映していると考えられます。ベテラン層のポストが少ないことは、給与が伸びにくい一因といえます。
求められる役割が変わる
供給が増えると、資格を持っているだけでは差がつきにくくなります。リハビリテーションを取り巻く制度も、単独での機能訓練から他職種との連携へと軸足を移しています。
令和6年度介護報酬改定では、リハビリテーション・口腔・栄養の一体的な取組が推進されました。実施計画書の様式も一体化され、リハビリだけを単独で提供する形から、栄養や口腔の状態も含めて評価する形へと変わっています。
こうした流れのなかでは、評価や計画立案、他職種への説明といった業務の比重が高まります。個別の訓練技術に加えて、チームのなかで役割を果たせるかどうかが問われる場面が増えていくと考えられます。
参考:政府統計の総合窓口(e-Stat)「賃金構造基本統計調査 令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」 / 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」
転職活動するなら?
個人が取れる対策

飽和という状況そのものは、個人の努力で変えられるものではありません。変えられるのは、自分がどこで、どの領域で、どんな役割で働くかという選択です。
ここでは「専門性を高める」といった抽象的な話ではなく、変えられる要素を軸に4つの方向を整理します。すべてを実行する必要はなく、自分の状況に合うものを選んでいただければ十分です。
領域を移す
最も現実的な選択肢が、働く領域を変えることです。前章で見たとおり、会員が集中している急性期・回復期と、求人が多く出ている在宅・生活期では状況が異なります。
医療キャリアナビ掲載求人データでは、訪問リハビリの求人が1,983件で最多、月給中央値も30.0万円と最も高くなっています。病院から在宅領域への移動は、求人数・給与の両面で選択肢が広いといえます。
一方、領域を変えると求められる知識も変わります。在宅では生活環境の評価や家族への指導、他事業所との連携が中心になり、病院とは業務の組み立てが異なる点は理解しておきましょう。
理学療法士が働く4つの領域を比較
| 働く領域 | 求人の多さ | 月給水準 | 教育体制の手厚さ | 一人で判断する場面 |
|---|---|---|---|---|
| 病院(急性期・回復期) | ✕819件 |
✕251,425円 |
◯8.0〜14.4人 |
✕ |
| クリニック | △999件 |
△285,000円 |
△2.7人 |
△ |
| 介護老人保健施設・通所 | △1,335件 |
△260,000〜262,750円 |
✕1.4〜2.4人 |
◯ |
| 訪問リハビリ | ◯1,983件 |
◯300,000円 |
✕1.5人 |
◯ |
※「教育体制」「一人で判断する場面」は1施設あたりの会員数の傾向から評価した目安
地域を移す
人口10万人あたりの理学療法士数は、上位と下位で約3.1倍の差がありました。この差は、就職や転職のしやすさに直結します。
人口あたりの理学療法士が少ない地域は、関東圏や東北の一部です。神奈川県・東京都・埼玉県・宮城県・栃木県は下位に並びます。都市部は競争が激しいというイメージとは異なり、人口あたりでは理学療法士が少ない地域でもあるということです。
ただし、地域を移すことは生活そのものを変える判断です。給与水準や生活費、家族の事情を含めて検討する必要があります。すぐに動けなくても、自分が働きたい地域の密度を把握しておくことには意味があります。
理学療法士の求人を探す役割を変える
同じ職場にいながら役割を変える方法もあります。臨床業務に加えて、後輩の教育、実習指導、リハビリ部門の管理、地域の介護予防事業への参加といった選択肢です。
令和6年度介護報酬改定でリハビリ・口腔・栄養の一体的な取組が進められたように、制度の側も多職種連携を前提とした運用に変わっています。計画立案や他職種との調整を担える人材は、施設側にとっても必要性が高くなります。
臨床以外に広げられる役割
- 後輩指導・臨床実習指導者
- リハビリ部門のマネジメント
- 介護予防事業や地域ケア会議への参画
- リハビリテーション計画の立案・他職種との調整
関連する資格を取得する
日本理学療法士協会は2022年度から新しい生涯学習制度を運用しています。卒後5年間を前期研修・後期研修の期間と位置づけ、修了すると登録理学療法士となり、その後は5年ごとの更新制です。
さらに専門性を高める仕組みとして、登録理学療法士を基盤とした認定理学療法士・専門理学療法士の制度があります。認定理学療法士は臨床実践分野のスペシャリストと位置づけられ、取得には試験が必要です。
理学療法士の生涯学習制度によるキャリアパス
職域を広げる方向では、介護支援専門員(ケアマネジャー)という選択肢もあります。介護支援専門員実務研修受講試験の受験資格には理学療法士が含まれており、その資格に基づく業務に通算5年以上、かつ従事日数900日以上という要件を満たせば受験できます。
参考:公益社団法人 日本理学療法士協会「生涯学習制度について」 / 厚生労働省「介護支援専門員実務研修受講試験の実施について」
需要が続くと考えられる分野

需給推計は全体の量を示すものですが、分野ごとの動きまでは表していません。高齢化の進行や制度の方向性を踏まえると、当面は需要が続くと考えられる分野があります。
ここでは公的統計から読み取れる3つの分野を取り上げます。いずれも共通しているのは、病院の中ではなく生活の場に近い領域だという点です。
内閣府の令和7年版高齢社会白書によると、要介護(要支援)認定を受けている人は令和4年度末で681万4千人です。平成24年度末の545万7千人から、10年間で135万7千人増えました。第1号被保険者に占める割合は19.0%です。
年齢階級別 要介護・要支援認定率
※「認定なし」は要支援・要介護の合計を100%から差し引いた値
訪問リハビリテーション
訪問リハビリテーションは、利用者さんの自宅に出向いてリハビリを提供するサービスです。日本理学療法士協会の会員分布では、訪問リハビリ事業所で働く会員は1,142人・747事業所で、1事業所あたり約1.5人という少人数体制です。
医療キャリアナビ掲載求人データでは、訪問リハビリの求人が1,983件と理学療法士求人のなかで最多を占めます。月給中央値も30.0万円と施設種別のなかで最高でした。求人数・給与ともに、担い手が求められている状況がうかがえます。
ただし、単独で判断する場面が多く、移動時間の管理や記録業務の負担もあります。病院のようにすぐ相談できる先輩がいない環境である点は、事前に理解しておきたいところです。
介護予防や通所系のサービス
要介護状態になる前の段階を支える介護予防も、理学療法士が関わる分野です。日本理学療法士協会の会員分布では、通所リハビリテーションに1,629人、通所介護に1,495人、地域密着型通所介護に358人が所属しています。
高齢社会白書によると、要介護認定率は年齢によって大きく異なります。前掲の図のとおり85歳以上では要介護認定率が44.5%まで上昇するのに対し、65〜74歳では数%にとどまります。認定を受ける前の年代に働きかける意味は小さくありません。
通所系サービスは日中の勤務が中心で、夜勤がない職場が多い点も特徴です。医療キャリアナビ掲載求人データでは、デイケア・デイサービスの理学療法士求人は777件、月給中央値は26.3万円でした。
生活期リハビリテーション
生活期リハビリテーションは、急性期・回復期を経たあと、自宅や施設での生活を続けるために行うリハビリです。介護老人保健施設や通所・訪問サービスがその舞台になります。
令和6年度介護報酬改定では、リハビリテーション・口腔・栄養の一体的な取組が推進されました。実施計画書の様式も一体化されており、リハビリ単独ではなく生活全体を評価する方向に制度が動いています。
日本理学療法士協会の会員分布では、介護老人保健施設に5,380人・2,263施設、介護医療院に116人・75施設が所属しています。1施設あたりの人数は少なく、幅広い業務を担う働き方になりやすい分野です。
参考:内閣府「令和7年版高齢社会白書(全体版)」 / 公益社団法人 日本理学療法士協会「統計情報」 / 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」
これから目指す人が確認したいこと

これから理学療法士を目指す方にとって、飽和という言葉は進路を考えるうえで気になる材料でしょう。ただし、判断材料にすべきは全国の平均値ではなく、自分が働くことになる地域と領域の状況です。
進学を決める前に確認しておきたい3つのポイントを整理します。いずれも、養成校のパンフレットや公的統計で調べられる内容です。
就職したい地域の求人状況
まず確認したいのは、卒業後に働きたい地域の求人状況です。人口10万人あたりの理学療法士数には約3.1倍の差があり、地域によって就職環境は大きく異なります。
日本理学療法士協会の都道府県別会員数と、総務省統計局の人口推計を組み合わせれば、密度は自分でも計算できます。会員数が多い都道府県でも、人口で割ると全国平均を下回る地域があります。
求人サイトで実際の募集数を見ておくことも有効です。医療キャリアナビ掲載求人データでも、掲載エリアごとに求人数は大きく異なります。養成校の所在地と就職したい地域が違う場合は、早めに調べておくことをおすすめします。
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養成校の就職実績
養成校を選ぶときは、就職率だけでなく就職先の内訳を確認しましょう。就職率が高くても、就職先が特定の領域や地域に偏っている場合があります。
あわせて見ておきたいのが国家試験の合格状況です。第61回理学療法士国家試験(令和8年2月23日実施)の結果は、受験者12,436人に対して合格者11,156人で、合格率は89.7%でした。
ただし、この数字は新卒者と既卒者を合わせたものです。全体から新卒者を差し引いて計算すると、既卒者の合格率は約35%まで下がります。
在学中に合格できるかどうかが、その後の進路に大きく影響するということです。養成校ごとの国家試験合格率は必ず確認しておきたい項目といえます。
資格取得後のキャリアの見通し
資格を取ったあとの働き方も、進学前にイメージしておきたい部分です。賃金構造基本統計調査では、理学療法士を含む職種区分の平均年齢は35.5歳、平均勤続年数は7.8年でした。
同調査の年齢階級別データでは、25〜29歳が約5万1,600人と最も多く、55〜59歳は約5,300人です。長く働き続けている人が相対的に少ない職種である点は、キャリアを考えるうえで押さえておきたい事実です。
一方で、日本理学療法士協会の生涯学習制度のように、卒後の学びを体系化する仕組みも整えられています。臨床を続ける道だけでなく、教育・管理・地域活動といった選択肢もあることを知っておくと、進路の幅は広がります。
進学を決める前に確認しておきたいチェックリスト
「なんとなく調べた」で終わらせないための、具体的な調べ先と見るポイント
参考:厚生労働省「第61回理学療法士国家試験及び第61回作業療法士国家試験の合格発表について」 / 政府統計の総合窓口(e-Stat)「賃金構造基本統計調査 令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種」
まとめ
理学療法士の有資格者は増え続けており、国家試験の累計合格者は247,546人に達しました。養成校も平成7年度の80校から令和7年度は278校へと拡大しています。飽和といわれる背景には、こうした数字の裏付けがあります。
一方、よく引用される「2040年頃に供給が需要の約1.5倍」という推計は、2019年4月に公表されたものです。2011年から2017年の実績をもとに、養成施設の定員が理学療法士13,629人のまま続くという前提で計算されています。前提が変われば結果も変わるため、数字だけを切り取って進路を決めるのは避けたいところです。
実態も一律ではありません。人口10万人あたりの理学療法士数は上位と下位で約3.1倍の差があり、会員が集まる領域と求人が多い領域も一致していません。飽和かどうかは、自分が働きたい地域と領域で判断する必要があります。
取れる対策は、領域を移す・地域を移す・役割を変える・関連資格を取得する、の4つです。まずはご自身が希望する地域と領域の求人状況を確認するところから始めてみてください。数字の意味を理解したうえで動けば、選べる道は思っているより広いはずです。





