訪問マッサージのトラブル事例と防ぎ方|あん摩マッサージ指圧師が注意する点
訪問マッサージの現場で起きるトラブルは、施術の腕前そのものより「料金」「同意書」「担当者」をめぐるやり取りから生まれることが多いといえます。しかも、その多くは施術者の対応が悪かったから起きるわけではありません。
療養費の金額が施術した部位数や訪問の状況で変わること、同意書に有効期間があることを利用者さんやご家族が知らないまま施術が始まることが、行き違いの入り口になっています。
この記事では、訪問マッサージで起こりやすいトラブルを具体的に挙げたうえで、その背景にある制度上の理由を厚生労働省の通知をもとに整理します。
あん摩マッサージ指圧師が明日から実行できる予防策、事業所として整えたい体制、不正請求を疑われないための注意点までを順に解説します。
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訪問マッサージで起こりやすいトラブル

訪問マッサージのトラブルは、施術中ではなく施術の前後に起きます。玄関先での説明、月末の請求、担当変更の連絡といった場面です。
ここではまず、利用者さんやご家族から実際に出やすい不満を挙げていきます。原因の説明と対策は後の章でまとめて扱いますので、まずは「どんな場面で行き違いが起きるのか」を押さえてください。
料金に関するトラブル
もっとも多いのが料金に関する行き違いです。「先月より請求額が上がっている」「最初に聞いた金額と違う」といった申し出は、訪問マッサージの現場では珍しくありません。
背景には、療養費が1回いくらの定額ではないという事情があります。あん摩マッサージ指圧の療養費は、施術した部位の数に応じて積み上がる仕組みです。そのうえで訪問した場合の料金や、温罨法・電気光線器具を使ったときの加算などが加わります。
つまり同じ施術者が同じ時間だけ訪問しても、施術した部位が変われば金額は変わります。この点を初回に伝えていないと、利用者さん側は「毎回同じ金額のはず」と受け取ったまま数か月が過ぎ、あるとき明細を見て驚くことになります。
さらに、年度替わりに窓口負担の割合が変わったり、月の途中で施術回数が増えたりしても金額は動きます。金額そのものではなく、金額が決まる仕組みを説明できているかどうかが分かれ目になります。
同意書の更新に関するトラブル
「同意書が切れていたので今月分は保険が使えません」という連絡は、利用者さんにとってもっとも納得しにくい話のひとつです。「先月まで受けられていたのに、なぜ急に」と受け止められてしまいます。
訪問マッサージで療養費の支給を受けるには医師の同意が必要で、その同意には期限があります。期限を超えて施術を続けるには、改めて医師の診察を受けて再同意をもらわなければなりません。
ここで問題になるのが、医師が診察をせずに同意すること(無診察同意)は認められていないという点です。書類を郵送すれば済むと考えていた利用者さんに「受診が必要です」と伝えると、通院が難しい方ほど負担に感じます。
再同意のタイミングを施術者側が把握しておらず、期限切れが分かってから慌てて受診を依頼すると、その月の施術が保険の対象外になりかねません。日程の余裕がないまま話を切り出すことが、トラブルを大きくします。
施術部位に関するトラブル
「ついでに肩もお願いしたい」「今日は腰だけだったのに料金は同じなの」といった声も、部位をめぐる典型的な行き違いです。
マッサージの療養費の対象になるのは、筋麻痺や関節拘縮などがあり、医療上マッサージを必要とすると認められる症例です。同意書に記載された症状と結びつかない部位を、利用者さんの希望だけで追加することはできません。
一方で、施術した部位の数が料金に反映されるため、部位を減らせば金額も下がります。「今日は調子がいいので腰だけで」と言われた日と、全身を施術した日で金額が同じにならないのは、この仕組みによるものです。
療養費は「時間」ではなく「施術した部位」を単位に積み上がります。20分でも40分でも、施術した部位が同じなら料金は変わりません。
慰安を目的とした部位の追加は保険の対象外です。断る場面では、施術者の判断で断っているのではなく制度上できないことを、根拠とあわせて伝える必要があります。
担当者の交代に関するトラブル
訪問マッサージは同じ施術者が長く担当することが多いため、担当変更は利用者さんにとって大きな出来事です。「前の先生と力加減が違う」「聞いていた話が伝わっていない」といった不満につながります。
とくに問題が起きやすいのが、事前連絡なしに交代したケースです。訪問先は生活の場であり、家に上がる相手が変わることへの心理的な抵抗は小さくありません。ご家族が不在の時間帯に訪問している場合は、なおさら丁寧な事前説明が求められます。
引き継ぎが不十分だと、痛みの出やすい部位や体位交換の注意点といった情報が抜け落ちます。前任者が口頭でしか把握していなかった内容ほど失われやすく、施術の質そのものが下がったと受け取られます。
施術回数や時間に関するトラブル
「毎日来てほしい」「1回30分では短い」という要望も、説明が難しいテーマです。
療養費は1日につき1回分しか支給されません。また、施術時間の長さで金額が決まる仕組みにもなっていないため、時間を延ばしても療養費は増えません。回数や時間の希望に応えられない理由が制度側にあることを説明できないと、事業所の都合で断っていると受け取られます。
さらに、初療の日から1年以上が経過し、かつ1か月の施術回数が16回以上になる場合は、施術を続ける理由や利用者さんの状態を記入した書類を療養費支給申請書に添付する取り扱いになっています。回数が多い利用者さんほど、書類上の手続きが増える点は先に共有しておきたいところです。
資格に関するトラブル
訪問マッサージの施術は、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を持つ人だけが行えます。医師以外の人があん摩・マッサージ・指圧を業として行うには免許が必要で、これは法律で定められた業務独占です。
無免許で業として行った場合は罰則の対象になります。にもかかわらず、利用者さん側から見ると、リラクゼーション目的の民間サービスと国家資格者による訪問マッサージの区別はつきにくいのが実情です。厚生労働省も、国家資格者と無資格者の判別について注意喚起を行っています。
「以前来ていた人は資格があったのか」「本当に保険が使えるのか」と問われる場面は起こり得ます。名札や施術者証で有資格者であることを示せるようにしておくと、余計な不信を招かずに済みます。
今のあなたの状況は?
参考:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」 / e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」 / 厚生労働省「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師と無資格者との判別について」
トラブルが起きやすい制度上の理由

前の章で挙げたトラブルには、共通する原因があります。療養費の仕組みが、利用者さんの生活実感とずれているという点です。
医療機関の窓口負担のように「受けた行為ごとに決まった額を払う」感覚で訪問マッサージを利用すると、金額の変動も同意書の期限も説明なしには理解できません。
ここでは厚生労働省の通知をもとに、トラブルの発生源になっている3つの仕組みを整理します。
療養費は医師の同意書が前提になる
訪問マッサージで療養費の支給を受けるには、医師の同意書または診断書が必要です。支給対象になるのは、一律に診断名によるのではなく、筋麻痺・関節拘縮などがあって医療上マッサージを必要とすると認められる症例とされています。
さらに、通所が難しい利用者さんの自宅へ赴いて施術する場合には、施術に同意した医師から、訪問して施術することについての同意も得ておく必要があります。施術者が単独で「訪問で行う」と決められる構造にはなっていません。
同意や再同意を求める相手は、緊急などやむを得ない場合を除き、その疾病を現に診察している主治の医師とされています。加えて、医師が診察をせずに同意を行ういわゆる無診察同意は行われないよう徹底すべきものとされ、オンライン診療による同意書の交付もできないと明記されています。
保険医療機関に入院中の利用者さんへの施術は、その医療機関へ赴いた場合も、利用者さんが施術所に出向いた場合も療養費の支給対象になりません。入院の連絡を受けたら、その期間の施術は保険では扱えないと考えてください。
つまり、療養費が使えるかどうかの入口は医師が握っています。施術者にできるのは、必要な情報を医師に届けて判断してもらうところまでです。この構造を利用者さんと共有できていないと、「事業所が手続きを怠った」という誤解が生まれます。
療養費が使えるようになるまでに医師が関わる場面
料金が施術部位数と往療距離で変わる
あん摩マッサージ指圧の療養費は、頭から尾頭までの躯幹、右上肢、左上肢、右下肢、左下肢をそれぞれ一単位として支給される仕組みです。施術した単位の数だけ積み上がるため、施術範囲が変われば金額も変わります。
これに温罨法の加算、温罨法とあわせて電気光線器具を使用した場合の加算などが加わります。関節拘縮などに対して行う変形徒手矯正術は、肩・肘・手首・股関節・膝・足首の6大関節を対象として1肢ごとに支給される加算で、温罨法との併施は認められていません。なお施術料は、疾病の種類や数、局所数にかかわらず1日1回に限られます。
訪問して施術した場合の料金は、同一日に同一の建築物で施術を行った患者さんの人数によって区分が分かれます。1人の場合、2人の場合、3人以上9人以下、10人以上19人以下、20人以上という区分が設けられており、同じ建物で何人に施術したかによって1人あたりの単価が変わります。集合住宅や施設への訪問で金額の説明が複雑になるのは、この区分があるためです。
距離の扱いも重要です。片道16kmを超える訪問や往療は、施術所の所在地や届け出た住所地から赴く絶対的な理由がある場合に限って認められます。理由がなく利用者さんの希望で16kmを超えて訪問した場合、超えた分だけでなく全額が認められません。また、訪問や往療に要したバス・タクシー・鉄道などの交通費は実費で患家の負担とされています。
| 同一日・同一建築物での患者数 | 区分 | 訪問先のイメージ |
|---|---|---|
| 1人 | 訪問施術料1 | 戸建てや単身のご自宅へ1件だけ訪問した日 |
| 2人 | 訪問施術料2 | 同じお宅でご夫婦2人を続けて施術した日 |
| 3〜9人 | 訪問施術料3 | 同じ集合住宅や施設で数人をまとめて施術した日 |
| 10〜19人 | 訪問施術料4 | 規模の大きい施設をまわった日 |
| 20人以上 | 訪問施術料5 | 大規模な施設で一日かけて施術した日 |
同意書に有効期間がある
同意書は一度もらえば使い続けられるものではありません。初療の日または医師による再同意の日から起算して6か月が、療養費を支給できる期間の上限です。
期間の数え方には決まりがあり、初療または再同意の日が月の15日以前であればその月の5か月後の月末まで、16日以降であれば6か月後の月末までとなります。同意を受けた日から単純に6か月後の同じ日ではなく、月末で区切られる点が見落とされやすいところです。
さらに、関節拘縮などに対する変形徒手矯正術については、初療または再同意の日から起算して1か月と、期間が大きく異なります。マッサージと変形徒手矯正術を併せて行っている利用者さんでは、更新のサイクルが2本走ることになります。
再同意にあたっては、医師が施術者の作成した施術報告書で施術の内容や利用者さんの状態を確認したうえで、直近の診察に基づいて同意すべきものとされています。施術報告書を用意しないまま受診を促すと、医師の判断材料が不足し、再同意が滞る原因になります。
同意書の有効期間はどう決まるか
参考:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」 / 厚生労働省「はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」
施術者側でできる予防策

制度の仕組みが分かれば、どこで説明を挟めばトラブルを防げるかが見えてきます。ここでは最初の章で挙げたトラブルに一対一で対応する形で、施術者が自分の業務のなかで実行できる予防策を挙げます。
心構えの話ではなく、いつ・誰に・何を渡すかという具体的な行動に落とすことが大切です。ひとつひとつは数分で終わる作業ですが、後から関係を修復する手間に比べればはるかに軽く済みます。
初回に費用の決まり方を説明する
料金トラブルの予防は、金額を伝えることではなく、金額が決まる仕組みを伝えることです。施術した部位の数で積み上がること、加算があること、訪問した先で同じ日に何人に施術したかで区分が変わることを、初回に口頭と書面の両方で共有します。
受領委任の取り扱いを行う施術管理者は、利用者さんから一部負担金の支払いを受けるときに、正当な理由がない限り領収証と施術の内容が分かる明細書を無償で交付することとされています。あわせて、一部負担金を減額したり、規定を超えて多く受け取ったりすることも認められていません。
明細書を1か月単位でまとめて交付する運用にする場合は、利用者さんの意向をあらかじめ文書で確認する取り扱いになっています。「毎回はいらないと言われたので」と口頭の記憶だけで運用を変えると、後から食い違いが生じます。
- 初回訪問時に料金の決まり方を書面で説明し、控えを渡す
- 毎回の施術後に領収証と明細書を無償で交付する
- 明細書を月単位でまとめる場合は、意向を文書で確認する
- 金額が変わった月は、変わった理由を先に口頭で伝える
同意書の期限を管理する
同意書の期限切れは、期限そのものではなく「逆算していない」ことが原因で起きます。有効期間は月末で区切られるため、施術者の側で満了月を一覧にしておけば、期限切れは事実上防げます。
具体的には、初療または再同意の日から満了月を割り出し、その1〜2か月前を受診勧奨のタイミングとして設定します。通院に介助が必要な利用者さんの場合は、ご家族やケアマネジャーの都合も絡むため、さらに前倒しが必要です。
再同意を得る際は施術報告書を用意します。施術報告書には施術の内容、施術の頻度、利用者さんの状態や経過を記入することとされており、月平均の施術回数を明記する取り扱いです。医師が判断できる材料を揃えることが、結果として更新の遅れを防ぎます。
なお、変形徒手矯正術を行っている場合は期間が1か月と短いため、マッサージとは別の管理表を持つほうが確実です。
施術した部位と内容を記録に残す
部位や回数をめぐる行き違いは、記録があれば事実で解決できます。施術録には、受給資格の確認内容、同意した医師の氏名と同意年月日、同意疾病名、初療年月日、施術回数、施術の内容と経過などを記載することとされています。
施術明細としては、訪問施術料または往療料のほか、マッサージの局所数、温罨法、電気光線器具、変形徒手矯正術の数について、施術後その都度、必要事項と金額を記入する取り扱いです。「後でまとめて書く」運用にすると、部位の記憶があいまいになり、請求内容の根拠を失います。
保存期間にも決まりがあります。受領委任に係る施術録は、同意書等の写しとあわせて施術が完結した日から5年間保存することとされています。利用者さんからの問い合わせだけでなく、保険者からの確認に応じるためにも、取り出せる形で整理しておく必要があります。
担当を変更するときに引き継ぎを行う
担当変更は、変更そのものより伝え方で印象が決まります。最低限、変更の理由・時期・後任者の氏名を事前に伝え、可能であれば初回は前任者が同行します。
引き継ぐ情報は、施術内容だけではありません。痛みが出やすい部位、体位交換の注意点、訪問時の動線や鍵の扱い、ご家族の在宅時間帯といった生活面の情報も含めて共有します。前任者の頭のなかにしかない情報を、書面に落とす作業が引き継ぎの実体です。
なお、同一月内に複数の施術者が施術を行った場合は、療養費支給申請書の摘要欄などに、それぞれの施術者の氏名とその施術日を記入する取り扱いになっています。書類上も誰がいつ施術したかを明らかにする必要がある以上、現場の引き継ぎ記録と申請内容は一致していなければなりません。
- 金額そのものではなく、金額が動く条件を伝える
- 控えを手元に残してもらい、ご家族も読める形にする
- 施術した部位と加算を施術録にその都度書く
- 領収証と明細書を無償で交付する
- 利用者さんごとの満了月を一覧にしておく
- 受診を依頼する前に施術報告書を用意する
- 理由・時期・後任者名を事前に伝える
- 痛みの出やすい部位や訪問時の動線を引き継ぐ
お探しの求人は?
参考:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」 / 厚生労働省「はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」
事業所として整えておきたい体制

個々の施術者が気をつけるだけでは、トラブルの再発は止まりません。説明の内容が担当者ごとに違えば、それ自体が新しい行き違いの原因になります。事業所として仕組みを持つことで、誰が担当しても同じ説明ができる状態をつくります。
ここでは、書面・情報共有・苦情対応という3つの側面から、整えておきたい体制を挙げます。
説明用の書面を用意する
初回訪問で伝える内容を書面にまとめ、全施術者が同じものを使う形にします。盛り込みたいのは、療養費の対象になる症例の考え方、料金が施術部位数などで変わること、同意書に有効期間があること、更新には医師の受診が必要であることの4点です。
あわせて、領収証と明細書の交付方法、一部負担金の扱い、担当変更時の連絡方法も記載しておくと、後の説明が省けます。利用者さんが高齢の場合はご家族が金額を確認することも多いため、控えを手元に残せる形にしておくと問い合わせが減ります。
書面は制度改正のたびに見直しが必要です。療養費の算定要件や同意書の取り扱いは改定されるため、参照した通知の時点を書面に記載し、更新の担当者を決めておくと管理が続きます。
ケアマネジャーや主治医と情報を共有する
訪問マッサージの利用者さんの多くは、介護保険のサービスも併用しています。ケアマネジャーが状況を把握していないと、利用者さんが相談する先がなく、不満が事業所に届かないまま蓄積します。
主治医との連携では施術報告書が中心になります。医師の再同意は、施術報告書と直近の診察に基づいて判断されるべきものとされており、施術に当たって注意すべき事項がある場合は同意書等を通じて医師から施術者へ連絡されることになっています。報告書を出す習慣があるかどうかで、更新時の手間が変わります。
一方で、連携を金銭のやり取りに変えてはいけません。施術所が集合住宅・施設・医療機関やその関係者などに金品を提供して患者さんの紹介を受けた場合、その紹介の結果行われた施術は療養費の支給対象外とされています。医師に金品を提供して同意書の交付を受けた場合も同様です。紹介料という形での連携は、事業所そのものを危うくします。
- 連携の窓口は「誰が」ではなく「何を渡すか」で決める
- 主治医には施術報告書、ケアマネジャーには状態の変化を定期的に
- 紹介料など金品のやり取りは、療養費そのものが支給対象外
苦情を受けたときの対応手順を決める
苦情は、受けた本人が抱え込むと悪化します。次の3点をあらかじめ決めておくだけで、担当者による対応のばらつきがなくなります。
- 一次対応を誰が行うか
- どの時点で管理者に引き上げるか
- 聞き取った内容をどこに記録するか
対応手順としては、受付時に事実を聞き取って記録し、施術録や明細書と照合して事実関係を確認し、回答期限を伝えたうえで折り返す流れが基本です。その場で即答して誤った説明をするより、確認して正確に返すほうが結果的に早く収まります。
料金や請求に関する苦情は、保険者や地方厚生局への相談につながる可能性があります。事業所として何を根拠に算定したのかを説明できる状態にしておくことが、対応の前提になります。
あん摩マッサージ指圧師の求人を探す参考:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」
不正請求を疑われないための注意点

あはき療養費については、社会保障審議会の医療保険部会に専門委員会が設けられ、適正化の在り方が継続的に議論されています。訪問や往療の取り扱いは、そのなかでも重点的に検討されてきたテーマです。
不正請求は、意図的に行う場合だけが問題になるのではありません。算定ルールの理解が古いまま運用を続けた結果、不適切な請求とみなされることもあります。ここでは、訪問マッサージで特に注意したい3点を挙げます。
| 確認ポイント | 往療料の誤算定 | 未施術請求 | 無資格者施術 |
|---|---|---|---|
| 該当条件 | 突発的な往療を行った日の翌日から14日以内に再び往療料を算定している/片道16kmを超える往療で、絶対的な理由がないのに全額を請求している | 施術録・施術報告書に記録した施術の内容や頻度と、来院簿など通院・訪問・往療の履歴が一致していない | あん摩マッサージ指圧師の免許を受けていない人が業として施術し、その分を療養費として請求している |
| なぜ問題か | 往療料は「やむを得ない理由が突発的に発生」して通所困難になった場合に限られる(定期的・計画的な訪問は訪問施術料が対象)。16km超は絶対的な理由がない限り、超えた分だけでなく全額が支給対象外になる | 保険者・審査会は、領収証や明細書の発行履歴、来院簿など訪問・往療の履歴が分かる資料の提示・閲覧を求めることができ、施術管理者はこれに応じる義務を負う | あん摩・マッサージ・指圧を業として行うには免許が必要とされている。無免許で業として行った場合は50万円以下の罰金の対象となる |
| 発覚時の帰結 | 施術管理者・施術所・開設者が療養費相当額の返還義務を負う。取扱いを中止されると、原則5年を経過するまで受領委任は再び認められない | 療養費相当額の返還に加え、受領委任の取扱いが中止される。中止を受けた施術者には国家資格についての行政処分が行われる場合もある | 療養費の支給対象外となり返還義務が生じる。施術者本人だけでなく、施術管理者と開設者の責任も問われる |
往療料の算定
まず押さえたいのが、定期的・計画的に訪問して施術する場合と、突発的な事情で赴く場合とで、算定する項目が違うという点です。
歩行困難などにより通所が難しい利用者さんの求めに応じ、患家に赴いて定期的ないし計画的に施術を行った場合は訪問施術料の対象になります。一方、往療料は、そうしたやむを得ない理由が突発的に発生したことで通所が困難になった場合に、患家の求めに応じて赴いて施術したときに支給されるものです。
往療料は、その突発的に発生した往療を行った日の翌日から起算して14日以内については支給できないこととされています。また、往療料を算定する場合には、同意医師へ報告を行うなど連携した旨を施術録に記載し、療養費支給申請書の摘要欄に連携した医師の氏名と保険医療機関名などの記入を受ける取り扱いです。
さらに、治療上真に必要と認められない場合や、単に患家の求めに応じただけの場合には往療料は支給できません。前述のとおり、片道16kmを超える往療も絶対的な理由がなければ全額が認められません。距離と理由の記録は、後から説明できる形で残しておく必要があります。
施術していない日の請求
実際には施術していない日を請求に含めることは、明確な不正請求です。故意でなくても、まとめ書きの習慣があると起こり得ます。
保険者や審査会は、請求内容に不正または著しい不当があるかどうかを確認するため、施術管理者に対して領収証および明細書の発行履歴や、来院簿その他の訪問・往療の履歴が分かる資料の提示や閲覧を求めることができ、求められた施術管理者はこれに応じる義務を負います。
不正または不当な請求により療養費が支給されていた場合、施術管理者・施術所・開設者は、保険者等に対してその全部または一部を返還する義務を負います。加えて、受領委任の取り扱いを認めることが不適当と判断された施術所の施術者はその取り扱いを中止され、中止を受けてから原則5年を経過しないうちは、再び受領委任の取り扱いが認められません。中止を受けた施術者に対して、国家資格についての行政処分が行われる場合もあります。
なお、不正請求などが行われた場合の取り扱いや公表の考え方は、各地方厚生局が公開しています。自分の管轄局の情報を一度確認しておくと、リスクの大きさが具体的に見えます。
無資格者による施術
訪問マッサージの施術は、あん摩マッサージ指圧師の免許を持つ人が自ら行うものです。免許を持たない従業員や、資格取得前の実習生に施術を任せることはできません。
医師以外の人があん摩・マッサージ・指圧を業として行うには免許が必要であり、無免許で業として行った者には罰則が定められています。無資格者が行った施術を有資格者の名義で請求すれば、不正請求にも該当します。
また、施術者自身に対する施術や、家族・関連施術所の開設者や従業員に対する施術は、療養費の支給対象外とされています。身内への施術を通常の請求に混ぜると、指摘を受ける原因になります。
疑われないために最低限そろえておくもの
- 訪問した日・施術した部位・加算の内容が毎回記入された施術録
- 同意書等の写し(施術録とあわせて5年間保存)
- 領収証・明細書の発行履歴と、訪問の履歴が分かる資料
- 往療を算定した日の、突発的な事情と医師との連携の記録
転職活動するなら?
参考:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」 / 厚生労働省「社会保障審議会 (医療保険部会 あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会)」 / 関東信越厚生局「保険医療機関等、訪問看護ステーション及び柔道整復師等において不正請求等が行われた場合の取扱いについて」
トラブルが起きたときの対応

予防策を整えていても、行き違いをゼロにはできません。起きたときにどう動くかで、その後の関係が決まります。
大切なのは、謝罪や弁明を先に出さないことです。事実を確認し、必要な相談先につなぎ、同じことが起きない形に直す。この順番を崩さなければ、多くのトラブルは大きくならずに収まります。
まず事実関係を確認する
最初にやることは、記録との照合です。次の資料を突き合わせ、いつ・誰が・どの部位に・何を行ったのかを時系列で並べます。
- 施術録
- 同意書等の写し
- 交付した領収証と明細書
- 訪問した日が分かる履歴
このとき、担当した施術者の記憶だけで話を進めないことが重要です。記憶に頼った説明が後から記録と食い違うと、それまで問題になっていなかった部分まで疑われます。記録が残っていない場合は、残っていないという事実をそのまま把握します。
そのうえで、利用者さんやご家族の言い分がどの時点のどの出来事を指しているのかを特定します。料金の話に見えて実は説明不足への不満だった、というケースは少なくありません。何に納得できていないのかを取り違えると、対応そのものが的外れになります。
保険者や関係機関に相談する
事実関係が整理できたら、内容に応じて相談先を選びます。療養費の算定や請求の解釈が問題になっている場合は、加入している保険者への確認が先になります。
受領委任の取り扱いに関わる事柄や、指導・監査に関する事柄は、施術所を管轄する地方厚生局と都道府県が窓口です。開設者・施術管理者・勤務する施術者は、厚生局長および都道府県知事が必要と認めて行う指導や監査、帳簿・書類の検査、報告の求めに応じることとされています。
施術所の構造設備や届出に関する事柄であれば保健所が窓口になります。どこに聞けばよいか分からないまま自己判断で対応すると、後から取り返しがつかないことがあります。判断に迷う段階で公的な窓口に確認するほうが安全です。
| 相談内容 | 相談先 | 対応・求められること |
|---|---|---|
| 算定・請求の解釈(療養費の単位、加算の算定可否など) | 保険者 加入先 |
療養費支給申請書の内容をもとに算定・請求の可否を確認する |
| 受領委任の取扱い、指導・監査に関わる事柄 | 地方厚生局・都道府県 施術所の管轄 |
開設者・施術管理者・勤務する施術者は、指導監査、帳簿書類の検査、報告の求めに応じることとされている |
| 施術所の構造設備、開設の届出 | 保健所 | 開設後10日以内に届け出る |
再発防止策を共有する
対応が終わったら、そこで終わりにせず仕組みに反映します。説明用の書面に不足があったのか、同意書の管理表が機能していなかったのか、引き継ぎの様式に項目が足りなかったのか、原因を1つに特定します。
そのうえで、個人への注意喚起ではなく手順の変更として全員に共有します。「気をつける」で終わらせると、担当者が変わった時点で同じことが起こります。
共有の場は、朝礼でも月1回のミーティングでも構いません。重要なのは、変更後の手順が書面に反映され、新しく入った施術者にも同じ形で伝わることです。トラブル対応の記録を残しておけば、次に似た申し出があったときの判断材料にもなります。
参考:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」 / e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」
まとめ
訪問マッサージのトラブルは、料金・同意書・施術部位・担当者・回数・資格という、ほぼ決まった場所で起きます。そしてその多くは、施術者の対応の巧拙ではなく、療養費が施術部位数などで積み上がる仕組みや、同意書に有効期間があるという制度に由来しています。
だからこそ、対策も制度に沿った形になります。初回に料金の決まり方を書面で説明する、同意書の満了月を逆算して受診を勧める、施術した部位と内容をその都度記録する、担当変更は事前に伝えて引き継ぎ書を残す。この4つを回すだけで、最初の章で挙げたトラブルの大半は入口でふさげます。
事業所としては、説明用の書面をそろえ、ケアマネジャーや主治医と情報を共有し、苦情対応の手順を決めておくことが土台になります。往療料の算定や施術録の保存といった請求まわりのルールを正しく運用することは、利用者さんとの信頼だけでなく、自分の資格を守ることにも直結します。
療養費の算定要件や同意書の取り扱いは改定されます。厚生労働省の最新の通知を定期的に確認し、参照した時点とあわせて事業所内で共有する習慣をつけておくと安心です。





