理学療法士の開業が失敗する理由|開業形態別のリスクと回避のための準備
理学療法士として経験を積み、「自分の施設を持ちたい」と開業を考え始めたものの、失敗の話ばかり耳に入って踏み切れない人は少なくありません。
理学療法士の開業が失敗しやすいのは、本人の努力では変えられない制度上の制約と、計画しだいで避けられる収支の甘さが重なるためです。
この記事では、理学療法士の開業が失敗する理由を「変えられない制約」と「変えられる計画」に分けて整理し、開業形態ごとの失敗パターンと、在職中に済ませておきたい準備を紹介します。
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理学療法士の開業が失敗しやすい構造的な理由

理学療法士も、整体院やジムなどの事業を起こすこと自体はできます。 ただし、理学療法士及び作業療法士法では、理学療法士は「医師の指示の下に」理学療法を行う職種と定められています。
病院で当たり前だった「医療保険でのリハビリ」「医師からの処方で患者さんが来る流れ」を、開業後はそのまま使えません。
- 医療保険で理学療法を算定できない
- 治療効果を前面に出した集客ができない
- 医師の処方で患者さんが来る流れがない
- 保険が使える整骨院と価格で比べられる
- 回収できない規模の設備投資
- 単価と必要客数の見積もり不足
- 生活費を含めていない運転資金
- 地域の需要を確かめないままの出店
じゃあ理学療法士は開業できないってこと?
開業はできますが、病院と同じことを自分の看板で続けるのは難しい、という意味です。 法的にどこまでできるかの詳しい線引きは、以下の記事で紹介しています。
理学療法の名称を掲げた施術所を開けないため
柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師などには、法律で「施術所」を開設して届け出る仕組みがあります。
一方、理学療法士及び作業療法士法には施術所の規定がなく、理学療法士が単独で「理学療法」を提供する施設を開き、医療保険で算定する道はありません。
そのため、自費の施設で扱えるのは、医師の指示が要らない範囲のサービスが中心です。 厚生労働省の通知では、身体に障害のない人への転倒予防の指導など、診療の補助にあたらない業務なら医師の指示は不要で、「理学療法士」の名称を使ってもよいとされています。
理学療法士が病院・診療所の外でマッサージを業として行う場合、医師の具体的な指示がなければ、あん摩マッサージ指圧師の免許の規定が適用されます。メニュー名や施術内容の決め方には注意しましょう。
効果や治療を広告で訴求できないため
自費の施設は医療機関ではないため、「治療」「〇〇が治る」といった言葉で集客すると、医療行為と誤解させる表示になりかねません。 根拠のない効果をうたう広告は、景品表示法の不当表示(優良誤認)に当たるおそれもあります。
病院勤務の経験が長いほど、「腰痛を改善」「術後のリハビリ」のような医療寄りの言葉で強みを伝えたくなります。 しかし、使える言葉が限られるぶん、理学療法士ならではの価値を別の表現で伝える工夫が必要になり、ここでつまずく人が多いです。
病院と違い集客の導線を自力で作る必要があるため
病院やクリニックでは、医師の診察を経て、リハビリが必要な患者さんが自然に回ってきます。 開業すると、この「医師の処方で患者さんが来る流れ」がなくなり、集客の入口をゼロから作らなければなりません。
- 地図検索・口コミサイトで見つけてもらう
- SNSやホームページで情報を発信する
- 医療機関・ケアマネジャー・地域の団体から紹介を受ける
どの入口も、成果が出るまで数か月から年単位の時間がかかります。 臨床の腕に自信があっても、知ってもらえなければ予約は入らないという点が、勤務時代との大きな違いです。
今のあなたの状況は?
整骨院・整体院と価格で比較されるため
利用者さんから見ると、理学療法士の自費施設は、近くの整骨院や整体院と同じ「体をみてもらう場所」の一つです。 整骨院(接骨院)は、骨折・脱臼・打撲・捻挫などの施術なら健康保険の療養費の対象になるため、窓口の負担が小さくなります。
一方、理学療法士の自費サービスは全額が利用者さんの負担です。 資格を持たない整体院の中には低価格のところもあり、「なぜこの価格なのか」を説明できないと、価格だけで比べられて選ばれにくくなります。
参考:e-Gov法令検索「理学療法士及び作業療法士法」 / 厚生労働省「理学療法士の名称の使用等について(通知)」
【開業形態別】理学療法士が陥りやすい失敗パターン

理学療法士の開業形態は、自費サービスと、介護保険・医療保険の指定を受ける事業に大きく分かれます。 どの形態を選ぶかで、使える保険、必要な人材、初期費用の重さが変わり、失敗しやすいポイントも違います。
| 開業形態 | 保険での算定 | 法人の設立 | 店舗・設備 | 他職種の採用 |
|---|---|---|---|---|
| 整体院・自費リハビリ | できない | 不要 | 必要 | 不要 |
| パーソナルジム | できない | 不要 | 必要 | 不要 |
| 訪問・出張型 | できない | 不要 | ほぼ不要移動手段は必要 | 不要 |
| デイサービス | 介護保険 | 必要 | 必要 | 必要看護・介護職など |
| 訪問看護ステーション | 介護・医療保険 | 必要 | 事務室が必要 | 必要看護職員が中心 |
| セミナー・オンライン | できない | 不要 | 不要 | 不要 |
整体院・自費リハビリ施設
自費リハビリ施設は、脳卒中の後遺症や術後など、医療保険のリハビリが終わった人を対象にすることが多い形態です。 よくある失敗は、対象者をしぼり込みすぎて、地域に見込み客が足りないケースです。
また、病気やけがの治療として関わる場合は、主治医との連携や医師の指示の扱いを整理しておかないと、提供できる内容があいまいになります。 リスク管理のために、主治医や医療機関とどう情報を共有するかを、開業前に決めておきましょう。
パーソナルジム
パーソナルジムは、健康な人や運動習慣をつけたい人が相手なので、医師の指示が要らない範囲で事業を組み立てやすい形態です。 その反面、大手のフィットネスジムやトレーナーの個人ジムと同じ土俵に立つことになります。
失敗しやすいのは、「理学療法士が教える」という点だけを強みにしてしまうケースです。 利用者さんが知りたいのは資格名よりも「自分の悩みがどう変わるか」なので、腰痛予防、産後の体づくり、高齢者の転倒予防など、誰のためのジムかを具体的にしておくと選ばれやすくなります。
訪問・出張型サービス
訪問・出張型は、店舗を借りないので初期費用をおさえやすい形態です。 ただし、自宅でのリハビリを必要とする人の多くは、介護保険の訪問リハビリや訪問看護を1〜3割の負担で利用できます。
保険サービスと比べて「全額自費でも頼みたい理由」を示せないと、依頼が続きません。 移動時間も売上にならないため、1日に回れる件数が想定より少なくなりがちな点にも気をつけましょう。 なお、介護保険の訪問リハビリテーション事業所は常勤の医師が必要なため、理学療法士が単独で開設することはできません。
訪問リハビリの働き方を勤務の立場で経験しておきたい人は、以下の記事も参考になります。
デイサービス・訪問看護ステーション
デイサービス(通所介護)や訪問看護ステーションは、理学療法士が法人を設立すれば経営者として開設できる形態です。 介護保険の指定を受けるには法人であることが条件で、保険収入が見込めるぶん、自費サービスより収益の見通しを立てやすい面があります。
一方で、理学療法士だけでは人員基準を満たせない点が大きな落とし穴です。 デイサービスでは生活相談員・看護職員・介護職員・機能訓練指導員を、訪問看護ステーションでは看護職員を中心に配置しなければなりません。
看護師の採用が思うように進まず、指定を受けられない、または退職で基準を満たせなくなる、という失敗が起こりやすい形態です。 介護報酬・診療報酬の改定で収入が変わる点も、事業計画に織り込んでおきましょう。
理学療法士の求人を探すセミナー・オンライン事業
セミナーやオンライン指導は、施設を持たずに始められるため、最も小さく始めやすい形態です。 ただし、1回ごとの売上で終わりやすく、集客をSNSなどに頼るため、発信を止めると売上もすぐに落ちる構造になりがちです。
臨床から離れるほど、話せる内容の新しさや説得力が薄れていく点にも注意が必要です。 オンラインで体の不調について助言する場合も、店舗と同じように、治療効果を約束するような表現は避けましょう。
形態ごとに、落とし穴のある場所が違うんだね!
参考:e-Gov法令検索「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」 / 関東信越厚生局「指定訪問看護事業者の指定申請」
開業資金と収支計画で起こる失敗

ここからは、自分の計画しだいで避けられる失敗です。 日本政策金融公庫の調査では、融資を受けて2016年に開業した企業のうち、2020年末までに廃業したのは8.9%でした。 「開業するとほとんどが廃業する」わけではありませんが、資金と収支の見込み違いが続くと、事業を続けられなくなります。
回収できない規模の設備投資
2025年度の調査では、開業費用の平均と中央値に大きな開きがあります。 一部の高額な開業が平均を押し上げているためで、実際には少ない費用で始める開業者も多いです。
理学療法士の開業で多いのは、高額な運動機器や物理療法機器、広い店舗を最初からそろえてしまう失敗です。 機器のリース料や家賃は、利用者さんが少ない月も同じ額がかかります。 「その機器がないと提供できないサービスか」「何人分の売上で回収できるか」を、購入前に計算しておきましょう。
自費単価と必要客数の見積もり不足
自費サービスの単価や必要な客数は、地域や内容で大きく変わるため、決まった相場はありません。 大切なのは、「月にいくら必要か」から逆算して、1日あたりの必要人数を出すことです。
計算してみると、「1日に何人みれば黒字になるか」が具体的になり、1人で対応できる上限を超えていないかも確認できます。
新規の利用者さんだけで埋めるのは難しいため、何割の人が2回目以降も通ってくれるかを、低めに見積もっておくと安心です。
転職活動するなら?
生活費を含めていない運転資金
開業時の資金計画で見落としやすいのが、事業が軌道に乗るまでの自分の生活費です。 2025年度の調査では、事業からの収入が本人の収入のすべて(ほかの収入はない)という開業者が53.3%にのぼります。
売上は開業直後から計画どおりに立つとは限りません。 同じ調査で、開業時に苦労したことの1位は「資金繰り、資金調達」(56.9%)でした。 予想していた月商に届かなかった開業者も41.3%います(いずれも理学療法士に限らない全業種の開業者の回答)。
売上が計画に届かない月が続くと、焦っちゃうよね
運転資金には、家賃やリース料だけでなく、生活費・社会保険料・借入の返済を含めて考えましょう。 売上が計画の半分だった場合に何か月もつかを試算しておくと、撤退や方針転換を判断する目安にもなります。
参考:日本政策金融公庫「2025年度新規開業実態調査~アンケート結果の概要~」 / 日本政策金融公庫「新規開業パネル調査~アンケート結果の概要~」
失敗を避けるために在職中に済ませる準備

開業の失敗の多くは、勤めているうちに準備しておけば防げるものです。 収入が安定している在職中は、調査や計画づくりに時間をかけられる貴重な期間です。
地域の競合と需要の調査
開業する地域に、どんな人がどれくらい住んでいて、同じようなサービスがいくつあるかを確かめましょう。 競合が多い地域でも、対象者や時間帯をずらせば入り込めることがあり、逆に競合がいない地域は需要そのものがない場合もあります。
| 調べること | 調べ方 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 人口と年齢構成 | e-Statや市区町村の統計 | 対象にしたい年代がどれくらい住んでいるか |
| 競合する施設 | 地図検索・口コミサイト・現地確認 | 整骨院・整体院・ジムの数、価格、営業時間、得意分野 |
| 医療機関 | 地図検索・医療機関の検索サイト | 整形外科やリハビリ科の数、保険のリハビリが終わった人の受け皿があるか |
| 介護サービス | 市区町村の介護保険事業計画 | デイサービスや訪問看護が足りている地域か |
| 通いやすさ | 候補地を実際に歩く | 駐車場の有無、駅からの距離、高齢者が通える道か |
調べた結果は、次の事業計画書で「なぜこの場所で開業するのか」を説明する材料になります。
事業計画書の作成
事業計画書は、融資を受けるためだけでなく、自分の計画の甘さに気づくための道具です。 日本政策金融公庫の創業計画書の書式を使うと、書くべき項目を漏れなく洗い出せます。
書いてみると、売上の根拠を数字で説明できない部分が見つかりやすくなります。 税理士や商工会議所、日本政策金融公庫の窓口など、第三者に一度見てもらうのもおすすめです。
理学療法士の求人を探す医療機関やケアマネジャーとの関係づくり
開業後に紹介を受けられる関係は、開業してから作り始めると時間がかかります。 在職中から地域の勉強会や多職種の集まりに参加し、顔と得意分野を知ってもらっておくと、開業後の集客の入口が一つ増えます。
自費リハビリで医療的な配慮が必要な利用者さんを受ける場合は、主治医と情報をやり取りできる関係も欠かせません。 介護保険の事業を考えているなら、ケアマネジャーが事業所に何を求めているかを、現場で聞いておくと計画に生かせます。
勤めているうちにできる準備って、意外と多いんだね
小さく始める形での検証
いきなり店舗を借りる前に、小さな形で「お金を払ってでも頼みたい人がいるか」を試す方法があります。
- 勤務先の就業規則を確認し、副業が認められていれば休日に出張サービスを試す
- レンタルスペースや時間貸しの施設で、少人数の教室を開く
- 常勤を非常勤に切り替え、収入を確保しながら開業準備を進める
小さく試して反応が薄ければ、サービス内容や対象者を見直せます。 在宅の現場を知るために、訪問リハビリなどで非常勤として働きながら準備を進める人もいます。
- PT求人6,409件のうち訪問リハは1,983件
- パート・アルバイトの求人は1,790件
- 非常勤で在宅経験を積みながら準備できる
開業に向く理学療法士と向かない理学療法士の違い

開業に向いているかどうかは、臨床の腕だけでは決まりません。 「何のために開業するのか」「お金の流れを見た経験があるか」「生活を支える余裕があるか」の3つで考えると、自分の状況を整理しやすくなります。
| 開業に進みやすい状態 | もう少し準備したい状態 |
|---|---|
| 目的誰の、どんな困りごとを解決するか言える | 目的今の職場を離れることが一番の理由 |
| お金の経験部門の売上や人件費の数字を見たことがある | お金の経験給与明細以外の数字に触れたことがない |
| 生活収入が減る期間を家族と話し合えている | 生活大きな支出が近く、収入減に耐える余裕が少ない |
開業で解決したい課題の有無
開業に向いているのは、「保険のリハビリが終わった人の受け皿がない」「地域に産後の体づくりを相談できる場所がない」など、開業でしか解決できない課題を具体的に持っている人です。
反対に、「今の職場の人間関係がつらい」「給料が上がらない」といった理由が中心なら、転職や働き方の見直しで解決できることもあります。 開業は手段の一つなので、目的に合う方法を比べてから選ぶのが無難です。
現職での売上・経費への関与経験
勤務先でリハビリ部門の収支や、稼働率・人員配置の管理に関わった経験は、開業後の経営にそのまま生きます。 単価×人数で売上を考え、人件費や家賃との関係を意識したことがあるかは、大きな差になります。
経験がない場合も、部門の数字に関わる役割を引き受けたり、経営の基礎を学んだりしてから開業する方法があります。
家族の理解と生活資金の余裕
開業直後は収入が不安定になりやすく、労働時間も長くなりがちです。 家族が収入の変化や働き方の変化に納得しているかは、事業を続けられるかどうかに直結します。
住宅ローンや教育費など、今後大きな支出が控えている時期は、開業の時期をずらすのも一つの選択肢です。
今すぐ開業しなくても、準備を続けるのも立派な選択だよ
開業以外の道も含めて、これからの働き方を考えたい人は、以下の記事も参考になります。
どの道を選ぶ場合も、家族と数字を共有しながら決めると、後悔の少ない判断につながります。
まとめ
理学療法士の開業が失敗しやすいのは、医療保険で理学療法を算定できないという変えられない制約と、資金や収支の見込み違いという変えられる要因が重なるためです。 制約は開業形態の選び方で向き合い、収支の失敗は在職中の準備で減らせます。
この記事のポイント
- 医療保険の理学療法を単独で算定する開業はできない
- 自費施設は医師の指示が要らない範囲が中心になる
- デイサービス・訪問看護は法人設立と人員確保が前提
- 必要客数は月の必要額から逆算して見積もる
- 運転資金には事業が軌道に乗るまでの生活費も含める
まずは在職中に、地域の調査と事業計画書づくりから始めてみましょう。 開業までの間に経験の幅を広げたい場合は、訪問リハビリや自費リハビリなど、開業後に生かせる職場への転職も選択肢になります。


