30代薬剤師の転職は有利?市場価値と失敗しない職場の選び方
薬剤師としての経験は積んできたものの、年収の伸び方やキャリアの方向性に不安を感じ、転職を考え始める方は少なくありません。一方で「30代の転職は本当に有利なのか」「動かないほうがよいのでは」と決めきれずにいる方も多いはずです。
この記事では、30代薬剤師が転職市場でどう評価されるのかを採用側の視点から整理します。そのうえで、30代前半と後半で何が変わるのかを公的データで比較し、平均年収や主な転職先の特徴を確認していきます。
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30代の薬剤師は転職しやすい?転職市場での評価

30代の薬剤師は転職しやすいといわれます。ただ、大切なのは「しやすい」という結論ではなく、採用側が30代の何を評価しているのかを知ることです。評価されている中身が分かれば、自分の経歴のどこを見せればよいかも決まります。
薬剤師を採用する側が30代に期待しているのは、大きく分けて即戦力性・管理者候補としての将来性・定着の見込みの3つです。それぞれ、どのような事情から生まれている評価なのかを順に見ていきます。
即戦力として評価される
30代の薬剤師は、調剤・服薬指導・在庫管理といった日常業務を一通り任せられる段階に入っています。採用してすぐ現場の戦力になるため、教育にかかる時間と人員を確保しにくい職場ほど、この点を高く評価します。
厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によると、薬剤師の平均勤続年数は30〜34歳で5.6年、35〜39歳で8.6年です。同じ職場で数年から10年近く働いた経験を持つ層であり、腰を据えて働いてきた実績そのものが評価材料になります。
一方で、即戦力という評価は「教えなくても動ける」という期待の裏返しでもあります。応募時には経験年数だけでなく、1日に扱った処方箋の枚数や担当した診療科など、業務量が分かる形で伝えられるようにしておくと、期待とのずれが起きにくくなります。
管理薬剤師・リーダー候補として期待される
30代が評価されるもう一つの理由が、管理薬剤師の候補になり得ることです。これは薬局側の事情というより、法律上の要請から生まれています。
医薬品医療機器等法第7条第2項では、薬局開設者が薬剤師でないときは、その薬局で実務に従事する薬剤師のうちから管理者を指定し、実地に管理させなければならないと定められています。つまりどの薬局にも管理薬剤師が1人必要で、ポストは店舗の数だけ存在します。
さらに同条第4項では、管理者はその薬局以外の場所で業として薬事に関する実務に従事してはならないとされています(都道府県知事の許可を受けた場合を除く)。兼務が原則できないため、店舗が増えれば増えるほど、管理薬剤師として任せられる人材が必要になる構造です。
加えて同条第3項は、管理者を「必要な能力及び経験を有する者」でなければならないと定めています。経験が法律上の要件として書かれている以上、一定年数の実務を積んだ30代は自然に候補に入ります。
長期の定着が見込まれる
採用にはコストがかかるため、採用側は「何年働いてくれそうか」を必ず見ています。この点でも30代は評価されやすい年代です。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査で、前職を辞めた理由を年齢階級別に見ると、女性で「結婚」を挙げた割合は25〜29歳が8.1%であるのに対し、30〜34歳は2.8%、35〜39歳は2.9%まで下がります。ライフイベントを理由とした離職が落ち着く時期であることが、数字にも表れています。
もちろんこれは薬剤師に限った調査ではありませんが、20代と比べて働き方の前提が定まりやすい年代である点は、採用側の見方にも影響します。腰を据えて働ける環境かどうかを応募者の側からも確認しておくと、入職後のミスマッチを減らせます。
参考:政府統計の総合窓口「賃金構造基本統計調査 5 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」 / 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」 / e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」
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30代前半と30代後半で変わる転職の難易度

30代とひとくくりに語られることが多いのですが、30歳と39歳では採用側の見方も、選べる選択肢も同じではありません。年収の水準も、応募できる求人の範囲も変わります。
ここでは前半と後半で何がどう変わるのかを、年収データと年齢制限のルールの両面から整理します。自分がどちら側に立っているかを確認しながら読み進めてください。
30代前半の転職市場での立ち位置
30〜34歳の推計年収は約533万円で、薬剤師全体の平均である約567万円をまだ下回ります。伸びしろが残っている段階であり、転職によって年収を上げる余地が比較的大きい時期です。
応募できる求人の幅にも広さがあります。募集や採用での年齢制限は、労働施策総合推進法第9条により原則として禁止されていますが、省令で例外事由が定められています。そのうちの一つが「長期勤続によるキャリア形成を図る観点から若年者等を募集・採用する場合」で、この事由では上限年齢のみを設定できます。30代前半であれば、この上限に収まる求人が多く残っています。
一方で、この年代特有の悩みもあります。令和6年雇用動向調査で前職を辞めた理由を見ると、男性の30〜34歳は「会社の将来が不安だった」が14.9%と、男性のどの年齢階級よりも高い割合です。目の前の待遇よりも、この職場に10年先があるのかという不安が動機になりやすい時期といえます。
30代後半の転職市場での立ち位置
35〜39歳の推計年収は約598万円で、薬剤師全体の平均を上回ります。年収を下げずに移るには、現職の水準を正確に把握したうえで条件を交渉する必要があります。ここが前半との最も大きな違いです。
応募できる求人の内訳も変わります。前述の「キャリア形成」を理由とした上限年齢の設定に届いてしまう求人が出てくる一方で、30代後半でこそ対象になる募集も存在します。技能・ノウハウの継承を理由とする例外事由は30〜49歳の範囲内で上限と下限の両方を設定する場合に限り認められており、就職氷河期世代を対象とする施策の例外事由は35歳以上55歳未満が対象です。年齢を理由に狭くなるだけでなく、後半だから開く扉もあるということです。
転職後の賃金がどう動いたかを見ると、前半と後半で大きな差はありません。令和6年雇用動向調査によると、転職入職者のうち賃金が増加した人の割合は30〜34歳が46.1%、35〜39歳が45.5%で、全年齢計の40.5%をどちらも上回ります。減少した人の割合も30〜34歳24.2%、35〜39歳24.3%とほぼ同じです。30代後半だから条件が下がりやすい、とは数字の上ではいえません。
| 事由 | 設定できる年齢 | 30代前半(30〜34歳) | 30代後半(35〜39歳) |
|---|---|---|---|
| 原則 | 年齢にかかわりなく均等な機会(制限不可) | ― | ― |
| 第1号 | 定年年齢を上限(上限のみ設定可) | 個別設定による | 個別設定による |
| 第2号 | 法令による年齢制限(下限のみ設定可) | 個別設定による | 個別設定による |
| 第3号イ | 長期勤続によるキャリア形成(上限のみ設定可) | 個別設定による | 個別設定による |
| 第3号ロ | 30〜49歳の範囲内(上限・下限とも設定可) | 該当 | 該当 |
| 第3号ハ | 芸術・芸能分野(上限・下限とも設定可) | 個別設定による | 個別設定による |
| 第3号ニ | 60歳以上の高年齢者/就職氷河期世代(35歳以上55歳未満) | 非該当 | 該当(就職氷河期世代枠) |
参考:政府統計の総合窓口「賃金構造基本統計調査 5 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」 / 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」 / e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」 / 厚生労働省「年齢制限該当事由について」
薬剤師の求人を探す30代薬剤師の平均年収

30代薬剤師の年収を考えるときは、まず公的統計の水準を押さえておくことが出発点になります。ここでは厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査から、職種小分類「薬剤師」の数値を年齢階級別に見ていきます。企業規模計(常用労働者10人以上)・男女計・産業計の値です。
同調査は月額と年間賞与を別々に集計しているため、ここではきまって支給する現金給与額を12倍し、年間賞与その他特別給与額を加えた推計年収で比較します。実際の支給額は勤務先や地域によって上下しますので、あくまで目安として捉えてください。
30〜34歳は、きまって支給する現金給与額が月36.5万円、年間賞与が95.6万円で、推計年収は約533万円です。35〜39歳は月41.1万円、年間賞与105.3万円で、推計年収は約598万円になります。
なお、薬剤師全体の平均は約567万円です。30代前半はこの平均をまだ下回り、30代後半で上回る計算になります。
注目したいのは、30代前半から後半にかけての伸びが約65万円と大きい点です。20代後半から30代前半にかけての伸びと比べても差があり、30代は年収が動きやすい時期だといえます。一方で40代前半はいったん横ばいになり、次に大きく伸びるのは45歳以降です。
自分の現在地を確かめるときは、源泉徴収票の「支払金額」と比べるのが確実です。月給だけで比べると賞与の差が抜け落ちるため、年間の総支給額どうしで比較してください。30代は賞与の額が伸びる時期でもあり、月給が同じでも年収では差がつきます。
なお、この統計は全国・全産業をまとめた値のため、調剤薬局とドラッグストア、病院といった業態ごとの差までは表れません。また男女を合わせた値であり、地域差も反映されていません。業態による違いは、次の章で職場ごとの特徴とあわせて確認していきます。
参考:政府統計の総合窓口「賃金構造基本統計調査 5 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」
30代薬剤師の主な転職先と特徴

転職先を選ぶときに大切なのは、どこがおすすめかではなく、そこへ移ると何が得られて何を手放すことになるのかを揃った基準で比べることです。ここでは主な4つの転職先について、得られるものと失うものを同じ観点で整理します。
前提として、薬剤師がどこで働いているかを確認しておきます。厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、届出のあった薬剤師は329,045人で、その6割が薬局に勤務しています。次いで病院・診療所などの医療施設が約2割、残りが医薬品関係企業や大学、行政などです。
調剤薬局
薬剤師が最も多く働く場であり、求人数も豊富です。処方箋を通じて幅広い診療科の薬に触れられるほか、在宅訪問やかかりつけ薬剤師としての関わりなど、対人業務の比重が高まっています。
30代で移る場合、管理薬剤師のポストが視野に入る点が大きな魅力です。ただし医薬品医療機器等法第7条第4項により管理者は他店との兼務が原則できないため、1店舗につき1人しか就けません。既にポストが埋まっている店舗では、空きが出るまで待つことになります。
手放しやすいのは、大規模施設ならではの症例の幅です。門前の診療科に偏る店舗では、扱う薬効群が限られる場合があります。応募時には1日平均の処方箋枚数と主な診療科を確認しておくと、入職後のギャップを避けられます。
ドラッグストア
調剤併設型が増え、処方箋調剤とOTC医薬品の相談対応を両方経験できる職場です。給与水準は高めに設定されている求人が多く、店舗数が多いため勤務地の選択肢も広がります。
一方で、営業時間が長くシフト制の勤務になりやすく、レジや品出しなど販売業務が業務時間に含まれる場合があります。調剤に専念したい方にとっては、時間配分が想定と異なることが不満につながりやすい点です。
30代で移る場合は、店長や地区担当といったマネジメント職への道が開けている企業が多い点が強みになります。応募前に、調剤業務と販売業務の時間比率、および昇進の要件を確認しておきましょう。
- 賞与ありは66%、退職金制度ありは57%。30代は差が積み上がる項目です
- 年間休日120日以上は27%。休日数は求人ごとの差が大きいところ
- 時短勤務OKは10%、託児所・保育所完備は7%と少数派です
病院
医師や看護師と連携したチーム医療、注射薬の調製、薬物血中濃度モニタリング、病棟業務など、薬局では経験しにくい領域に関われます。専門・認定薬剤師の取得を目指す方にとって、症例と指導者の両方が揃いやすい環境です。
その代わり、給与水準は調剤薬局より低くなりやすい傾向があります。当直や夜間の呼び出しが発生する施設もあり、生活リズムへの影響も考慮が必要です。
30代からの病院転職では、これまでの経験をどう活かすかが問われます。在宅医療の経験や、特定の疾患領域に強みがある場合は、そこを軸に据えると評価につながりやすくなります。
製薬企業・企業内薬剤師
学術、開発、安全性情報、品質管理、MRなど、職種は多岐にわたります。土日休みが基本の企業が多く、年収の上限も高い傾向があります。
ただし、募集人数が限られ、実務経験や語学力など職種ごとに求められる要件が明確です。また、調剤業務から離れると現場の勘は鈍りやすく、後から薬局や病院へ戻る際にブランクとして扱われることがあります。
30代で挑戦する場合は、なぜその職種なのかを自分の経験と結び付けて説明できるかどうかが分かれ目になります。未経験からの応募も可能ですが、応募条件は求人ごとに確認が必要です。
| 転職先 | 得られるもの | 手放しやすいもの | 30代応募時に確認したいこと |
|---|---|---|---|
| 調剤薬局 | 管理薬剤師のポストが視野に入ること、在宅訪問やかかりつけ薬剤師としての対人業務の経験 | 大規模施設で得られるような症例の幅(門前の診療科に偏る店舗では薬効群が限られる場合がある) | 管理薬剤師のポストが空いているか、門前の診療科と扱う薬効群の幅 |
| ドラッグストア | 店長や地区担当といったマネジメント職への道、勤務地を選べる選択肢の広さ | 調剤業務だけに専念できる働き方(レジや品出しなど販売業務が業務時間に含まれることがある) | マネジメント職への登用実績があるか、販売業務の比重とシフト制勤務の実態 |
| 病院 | チーム医療、注射薬の調製、薬物血中濃度モニタリング、病棟業務など薬局では経験しにくい領域への関わり | 調剤薬局並みの給与水準(病院は低くなりやすい傾向) | 当直や夜間の呼び出しの有無、給与水準の条件 |
| 製薬企業・企業内薬剤師 | 学術・開発・安全性情報・品質管理・MRなど多岐にわたる職種、土日休みが基本の働き方、年収の上限の高さ | 調剤業務から離れることによる現場の勘(後から薬局や病院へ戻る際にブランクとして扱われることがある) | 職種ごとに求められる実務経験や語学力などの要件、募集人数の枠 |
参考:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 / e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」
転職活動するなら?
転職すべきか今の職場に残るべきかの判断基準

転職に関する記事の多くは、動くことを前提に進み方を説明しています。しかし実際に検索する方の多くは、まだ動くかどうかを決めていません。ここでは、自分の状況に当てはめて判断できる形で基準を示します。
参考になるのが、厚生労働省の令和2年転職者実態調査です。転職した人のうち現在の勤め先に満足と答えたのは53.4%、不満足は11.4%、どちらでもないが34.5%でした。半数以上が満足している一方、3人に1人はどちらともいえないと答えています。転職すれば必ず良くなるわけではない、という前提で読み進めてください。
転職を検討したほうがよいケース
まず、今の不満が「今の職場にいる限り解消しない種類のものか」を切り分けます。以下に当てはまる項目が多いほど、転職を検討する意味があります。
- 年収が同年代の水準(30代前半約533万円・30代後半約598万円)を明確に下回っている
- 昇給の仕組みがなく、今後3年間で年収が上がる見込みが説明されない
- 管理薬剤師などのポストが埋まっており、空く時期の見通しも立たない
- 経験できる業務が固定され、在宅や病棟など新しい領域に関われない
- 勤務時間や勤務地が、育児や介護などの事情と両立できなくなった
- 教育研修の体制がなく、専門性を高める機会が職場の外にしかない
とくに注意したいのが、キャリアの伸びしろに関する項目です。医薬品医療機器等法第7条第4項により管理薬剤師は他店と兼務できないため、1店舗にポストは1つしかありません。現職でポストが埋まっている場合、努力だけでは順番が回ってこない構造だという点は押さえておきたいところです。
会社の先行きに対する不安も、動く理由として軽視できません。令和6年雇用動向調査では、男性の30〜34歳が前職を辞めた理由の第1位が「会社の将来が不安だった」で14.9%でした。処方箋の枚数が減っている、近隣の医療機関が移転を予定しているといった具体的な兆しがある場合は、早めに情報を集める価値があります。
今の職場に残ったほうがよいケース
一方で、動かないほうがよい場合もあります。次に挙げるケースに当てはまるときは、まず現職の中で解決できないかを試してみてください。
- 不満の原因が特定の店舗や人間関係にあり、異動の希望をまだ出していない
- 勤務時間や担当業務について、上司に条件変更を相談したことがない
- 入職から1年未満で、任される業務がまだ広がる途中にある
- 転職の目的が「今がつらい」だけで、次に何を得たいかが決まっていない
- 資格取得や認定の要件を満たす途中で、あと数か月で条件を満たす
- 待遇に不満はあるが、同年代の水準と比べたことがない
労働時間についても確認が必要です。令和2年転職者実態調査によると、転職によって労働時間が増加した人は26.3%、変わらないが33.6%、減少が39.3%でした。時間を減らす目的での転職は約4割で実現していますが、4人に1人は逆に増えています。時短勤務や残業の実態は、求人票の記載だけでなく面接で必ず確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」 / 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」 / e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」
薬剤師の求人を探す30代薬剤師が転職を成功させるポイント

転職すると決めたら、次は進め方です。30代の転職は選択肢が多い分、軸を決めないまま動くと判断がぶれやすくなります。ここでは順番に沿って4つのポイントを解説します。
転職の目的と譲れない条件を決める
最初に決めるのは、何を得るための転職なのかという目的です。年収なのか、業務内容なのか、働く時間なのか。すべてを満たす求人はほとんどないため、優先順位をつける作業が欠かせません。
参考になるのが、実際に転職した人が勤め先を選んだ理由です。令和2年転職者実態調査(3つまでの複数回答)では、「仕事の内容・職種に満足がいくから」が41.0%で最も多く、「自分の技能・能力が活かせるから」が36.0%と続きます。「賃金が高いから」は15.1%にとどまりました。
もちろん賃金が重要でないわけではありません。ただ、決め手として挙げられた項目の上位が仕事の中身に関するものだった点は、条件の優先順位を考えるうえで参考になります。譲れない条件は3つ程度に絞り、それ以外は交渉の余地があるものとして扱うと、比較がしやすくなります。
スキルと経験を棚卸しする
30代の応募では、経験年数だけでは差がつきません。何をどれだけやってきたかを、数と事実で示せる形に整理しておきます。
有効なのが業務量を数字で表すことです。薬局の人員配置は、薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令で1日平均取扱処方箋数を40で除して得た数以上の薬剤師を置くことと定められています。つまり処方箋枚数と薬剤師の人数は、業務量を測る共通のものさしとして採用側にも通じます。
「1日平均◯枚を薬剤師◯名で対応」と書ければ、忙しさが具体的に伝わります。あわせて、次のような項目を一覧にしておきましょう。
- 在宅訪問の実施件数と、担当した患者さんの人数
- 無菌製剤処理や一包化など、特殊な調剤の経験
- 後発医薬品の変更率と、その改善に向けて取り組んだこと
- 実務実習生や新人の指導を担当した期間と人数
- レセプト業務・在庫管理・発注など調剤以外の担当範囲
- かかりつけ薬剤師や認定資格の取得状況
履歴書や職務経歴書の基本的な書き方は、ハローワークインターネットサービスでも公開されています。書式そのものより、上に挙げた項目を数字で書けているかどうかが差になります。
| 1日平均取扱処方箋数 | 必要な薬剤師数 |
|---|---|
| 40枚以下 | 1人 |
| 41〜80枚 | 2人 |
| 81〜120枚 | 3人 |
| 121〜160枚 | 4人 |
| 161〜200枚 | 5人 |
| 201〜240枚 | 6人 |
40代以降を見据えたキャリアプランを立てる
30代の転職は、40代以降の働き方を左右します。年収の推移を見ると、45〜49歳の推計年収は約676万円で、30代後半から先にもう一段の上昇があります。この上昇に乗れるかどうかは、30代でどんな経験を積んだかに左右されます。
考え方は大きく2つあります。管理薬剤師やエリアマネージャーとしてマネジメントの経験を積む道と、専門・認定薬剤師や在宅、無菌調剤といった専門性で差をつける道です。どちらを選ぶかによって、次に選ぶべき職場の条件が変わります。
マネジメントを目指すなら、複数店舗を持ち昇進の要件が明示されている企業が向いています。専門性を高めるなら、症例の幅と学会・研修への支援体制がある職場を選ぶことになります。求人票の待遇欄だけでなく、教育研修の体制を面接で確認しておきましょう。
在職中に転職活動を進める
30代は生活の基盤があるため、収入が途切れるリスクを避ける意味でも在職中の活動が基本になります。退職の申し出から実際に辞めるまでには時間がかかる点も、あらかじめ見込んでおきましょう。
期間の定めのない雇用契約では、民法第627条第1項により解約の申入れの日から2週間を経過することで契約が終了します。ただし就業規則で1〜2か月前の申し出を求めている職場が多く、実務上はそちらに合わせるのが円満です。管理薬剤師を務めている場合は後任の指定が必要になるため、さらに余裕を見ておきます。
活動の手段も複数を組み合わせるのが一般的です。令和2年転職者実態調査(複数回答)では、求人サイトなどが39.4%、ハローワーク等の公的機関が34.3%、縁故が26.8%、企業のホームページが15.1%、民間の職業紹介機関が14.8%でした。合計が100%を超えていることから、複数の手段を併用している人が多いことが分かります。
参考:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」 / 政府統計の総合窓口「賃金構造基本統計調査 5 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」 / e-Gov法令検索「薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令」 / e-Gov法令検索「民法」 / 厚生労働省「履歴書・職務経歴書の書き方」
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30代薬剤師の転職で失敗しやすいパターン

うまくいかなかった転職には、共通する経過があります。前の章の裏返しではなく、実際にどのような順序で失敗が起きるのかという流れで見ていきます。
目先の年収や勤務地だけで決める
求人票の月給や通勤時間は数字で比べやすいため、判断の軸になりやすい項目です。しかし、そこだけで決めると入職後に別の負担が現れます。
令和2年転職者実態調査では、転職によって賃金が増加した人が39.0%、減少した人が40.1%、変わらないが20.2%でした。増えた人と減った人がほぼ同数という結果です。同じ調査で労働時間は、増加26.3%・変わらない33.6%・減少39.3%でした。
つまり、賃金と労働時間はセットで動きます。年収が上がった求人で残業や当直が増えていないか、勤務地が近い求人で人員が薄くなっていないかを、必ず両面で確認してください。月給に固定残業代が含まれていないか、賞与の支給実績はどうかも、面接の場で聞いておきたい項目です。
短期間で転職を繰り返す
在籍期間が短い転職が続くと、次の応募で「またすぐ辞めるのではないか」と見られやすくなります。何回までなら問題ないという公的な基準はありませんが、採用側が定着の見込みを重視していることは変わりません。
先に触れたとおり、令和7年賃金構造基本統計調査における薬剤師の平均勤続年数は30〜34歳で5.6年、35〜39歳で8.6年です。同年代の平均像から大きく外れる場合、その理由を説明できる準備が必要になります。
一般に、転職回数の多さそのものより、辞めた理由に一貫性があるかどうかが見られます。回数が増えている場合は、これまでの経験がどうつながって次の職場に活きるのかを、時系列で説明できるよう整理しておきましょう。
準備なく未経験分野へ移る
調剤薬局から病院へ、あるいは企業へと分野をまたぐ転職では、業務の進め方も評価のされ方も変わります。事前の確認が足りないまま移ると、想定と違う業務に時間を取られることになりがちです。
ここで押さえておきたいのが、労働条件の確認方法です。労働基準法第15条第1項により、使用者は労働契約の締結に際して賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければなりません。さらに同条第2項では、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定められています。
また2024年4月からは、明示すべき事項に就業場所と業務の「変更の範囲」が加わりました。異動や職種変更がどこまで想定されているかが、書面で確認できるようになったということです。未経験分野へ移るときほど、この欄を読み込んでおく価値があります。
未経験分野へ移る前に確認したいこと
- 入職後に担当する業務の範囲と、そこに至るまでの教育期間
- 就業場所と業務の「変更の範囲」の記載内容
- 固定残業代の有無と、含まれる時間数
- これまでの経験のうち、新しい職場で活かせる部分
参考:厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」 / 政府統計の総合窓口「賃金構造基本統計調査 5 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」 / e-Gov法令検索「労働基準法」 / 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
まとめ
30代薬剤師が転職市場で評価されるのは、即戦力であること、管理薬剤師の候補になり得ること、定着が見込まれることの3点です。医薬品医療機器等法により管理薬剤師は各薬局に必要で兼務もできないため、経験を積んだ30代にはポストの機会が開かれています。
30代前半と後半では立ち位置が変わります。前半は推計年収約533万円と平均を下回り伸びしろが大きい時期、後半は約598万円と平均を上回る一方、技能・ノウハウの継承や就職氷河期世代を対象とした募集など、後半だからこそ対象になる求人もあります。転職後に賃金が増加した割合は30〜34歳46.1%、35〜39歳45.5%とほぼ同水準で、後半が不利とはいえません。
大切なのは、動くかどうかを自分の基準で決めることです。不満の原因が人にあるなら異動で解決できる可能性があり、制度や仕組みにあるなら現職では変わりにくいといえます。転職すると決めたら、目的と譲れない条件を3つに絞り、処方箋枚数などの数字で経験を示し、在職中に複数の手段で情報を集めてください。
まずは、同年代の年収水準と今の待遇を比べるところから始めてみましょう。比べた結果が「今のままでよい」であれば、それも十分に意味のある結論です。





