アドヒアランス
医療従事者と患者の相互理解を基にした関係
コンプライアンス
医療従事者から患者への一方的な指導関係
医療や看護の現場ではアドヒアランスという言葉をしばしば耳にする機会があります。
アドヒアランスとはどのような意味なのか、コンプライアンスとの違いなどを具体例を交えて詳しくお伝えいたします。
世界保健機関(WHO)は2003年の報告書「Adherence to Long-term Therapies: Evidence for Action」において、アドヒアランスを「医療提供者との合意に基づいた推奨される保健医療行動に従う程度」と定義しています。
つまり、医師や看護師から言われたことを単に「はい」と聞くだけでなく、患者さん自身が「どうして自分にこの治療が必要なのか」「どうやって続けていけばいいのか」を理解し、自分の意見も伝えながら治療に取り組むことを大切にする考え方です。
患者さん自身が理解し、主体的に治療に取り組むことで、高い治療効果が得られることが期待されます。
参考:世界保健機関 Adherence to Long-term Therapies: Evidence for Action
医療や看護の場面でよく使われるアドヒアランスとコンプライアンスですが、両者の違いを知っていますか?
日本ジェネリック製薬協会によると、以下のような違いが示されています。
アドヒアランス
医療従事者と患者の相互理解を基にした関係
コンプライアンス
医療従事者から患者への一方的な指導関係
つまり、アドヒアランスとは、患者さんと医療者が対話を通じて一緒に治療方法を考え、進めていく姿勢を意味します。
一方、コンプライアンスは「お医者さんの指示通りに治療を守れているか」を重視する考え方です。
アドヒアランスとコンプライアンスは、どちらか一方がいいという考え方ではありません。
患者さんの状態によって適切なアプローチを選ぶ必要性があります。
●糖尿病の自己管理
食事、運動、服薬など、患者さんの生活に沿った実行可能な方法を考えます。
●高血圧の生活習慣改善
塩分制限や運動習慣など、無理なく続けられる方法を見つけていきます。
●慢性腎臓病の食事管理
患者さんの好みや生活習慣を考慮しながら、継続できる管理方法を考えます。
自己管理能力が高く、生活習慣の調整に意欲的な方には、一緒に治療方針を考えていく協働的なアプローチ(アドヒアランス)が効果的です。
●救急医療や手術後
安静度の指示や服薬時間の厳守が、命を守り、合併症を防ぐために必要です。
●感染症の治療
抗生物質の服用期間や時間を守ることで、確実な治療効果を得られます。
●検査前
正確な検査結果を得るための「絶食」「運動制限」などの指示を守る場合です。
認知機能の低下がある場合や専門的な医療管理が必要な状況では、医療者からの具体的な指示(コンプライアンス)が安全な治療につながります。
ただし、これは固定的なものではありません。同じ患者さんでも、体調や治療段階によって適切なアプローチは変化します。大切なのは、患者さんの状態や意向に合わせて、柔軟に支援方法を選択していくことです。
医学的な説明だけでなく、患者さんの理解度に合わせた説明を心がけます。
例えば、糖尿病の患者さんには、血糖値の変化を図や資料を用いて説明し、日常生活での具体的な工夫を一緒に考えます。
このことは患者のエンパワメントを高めることにつながります。
患者さんが自分の健康管理に必要な知識や技術を身につけ、主体的に意思決定できる力をつけていく過程をエンパワメントといいます。
患者さんの意向や生活スタイルを考慮しながら、実現可能な治療計画を立てます。
例えば、減量が必要な患者さんの「いきなり運動習慣を持つのは難しい」という状況を理解したうえで、「まずは1日10分の散歩から始めてみませんか?」という形で患者さんと一緒に実行可能な方法を見つけていきます。
この意思決定までの過程自体はコンコーダンスと呼ばれます。
コンコーダンスは「どのように合意形成するか」というプロセスに重点を置き、アドヒアランスは「合意した内容をどの程度実行できているか」という結果に重点を置いた概念を指します。
厚生労働省の高齢者の安全な薬物療法ガイドラインでは、定期的な確認と支援の重要性が強調されています。
例えば、お薬の管理アプリを使って服薬状況を確認、家族の支援状況の聴取、診察時に困っていることを引き出し、必要に応じて計画を見直します。
アドヒアランスとは医療者と患者さんが一緒に治療に臨む協同的なアプローチを意味し、看護師として患者さんに関わる上で大切な考え方です。
患者さんが治療に主体的に参加することは、治療効果を最大限に高めるために重要なことなので、ぜひアドヒアランスの定義、使う場面は覚えておきましょう!
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