整骨院の廃業率は本当に高いのか?公的統計で見る実態と廃業の原因
「整骨院の廃業率は95%」という話を聞いて、開業をためらったり、今の職場が続くのか不安になったりしていませんか?
この記事では、厚生労働省の施術所数や柔道整復療養費のデータ、倒産件数から整骨院の廃業の実態を確かめ、廃業に至る原因と、開業する人・勤務する人それぞれが取れる対策を紹介します。
お申し込みを受け付けました
以下からひな形と見本をダウンロードできます。
整骨院の廃業率はどのくらい?

整骨院(接骨院)は、法律上は「柔道整復の施術所」です。 国の統計は施術所の数を2年ごとに数えていますが、何か所が閉院したかという「廃業率」は集計していません。
数字を見る前に、言葉の違いを押さえておきましょう。 「倒産」は借金を返せなくなって法的な手続きなどに入ること、「廃業」は経営者が自分の判断で閉院することまで含む広い言葉です。
| 倒産 | 廃業 | |
|---|---|---|
| 意味 | 支払いができなくなり、破産などの法的手続きや取引停止に至ること | 経営者が事業をやめること全般。自分の判断での閉院も含む |
| 黒字でも起こるか | 起こらない(資金が尽きた結果) | 起こる(後継者不在・院長の体調・移転など) |
| 数字の出どころ | 民間の信用調査会社が件数を集計 | 整骨院単独の公的統計はない |
黒字のまま後継者がいなくて閉める院も「廃業」に含まれるため、廃業は倒産よりずっと広い範囲を指します。
公的統計で確認できる施術所数の推移
厚生労働省の衛生行政報告例によると、2024年末の柔道整復の施術所は50,924か所です。 2022年末は50,916か所だったので、2年間で増えたのはわずか8か所でした。
2014年から2018年までは2年ごとに2,000〜2,500か所ずつ増えていましたが、2020年以降は増加がほぼ止まっています。
新しく開く院と閉じる院の数がほぼ釣り合っている状態で、「どんどん潰れて減っている」わけでも「まだ伸びている」わけでもありません。
ただし、この数字は差し引きの結果です。 開院が1,000か所、閉院が1,000か所でも増減はゼロになるため、入れ替わりの多さまでは分かりません。
倒産件数の推移
東京商工リサーチの調査では、整骨院・接骨院を含む「療術業(マッサージ業)」の2025年度の倒産は108件で、1996年度以降で最も多い件数でした。
この集計には鍼灸院やマッサージ店、カイロプラクティックなども含まれ、整骨院だけの件数ではありません。 また、対象は負債1,000万円以上の倒産だけなので、借金を残さずに閉院したケースは入っていません。
それでも、108件はすべて負債1億円未満で、原因の8割超が販売不振でした。 小さな院が集客に苦しんで行き詰まる流れが、件数の増加にはっきり表れています。
「廃業率95%」という数字の根拠
インターネットでは「整骨院の廃業率は95%」「開業後3年以内に30%が廃業」といった数字が出回っていますが、どれも調査の出どころが示されておらず、公的統計では確認できません。
95%って、結局どこから出てきた数字なの?
もし95%の院が閉院していたら、施術所数は大きく減っているはずです。 実際には5万か所前後で横ばいが続いており、「ほとんどの院が潰れる」という状態とは合いません。
-
施術所の総数5万か所前後で横ばい(2020〜2024年)
-
倒産件数(療術業全体)2025年度は108件で過去最多
-
廃業率そのもの公的統計はない
一方で、倒産件数が過去最多を更新しているのも事実です。 「95%」は大げさでも、開業すれば安泰という業界ではないと受け止めておくのが現実的です。
柔道整復師の求人を探す参考:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」 / 東京商工リサーチ「「マッサージ業」の倒産が過去30年で最多の108件 大手チェーン、リラクゼーション店と競合激化」
整骨院の廃業が増えている背景

倒産が増えている背景には、院の数が増えたのに保険の療養費は減っているという構造があります。 そこに物価高と人件費の上昇が重なり、小さな院ほど経営が苦しくなっています。
施術所数が人口に対して過剰になっている
柔道整復の施術所は、2014年の45,572か所から2022年には50,916か所まで増えました。 一方で、柔道整復の療養費(保険から支払われる施術費)の総額は同じ時期に減っています。
療養費の総額を施術所数で単純に割ると、療養費は約839万円から約540万円へと3分の2ほどに縮んだ計算です。 院の数は増えたのに、保険から入るお金の総額は減っているため、1院あたりの取り分が小さくなっています。
さらに、整骨院は鍼灸院やリラクゼーション店、低価格の「もみほぐし」チェーンとも患者さんを取り合っています。 同じ商圏に似たような院が並ぶと、値上げもしにくくなります。
院が増えて保険が減ったら、そりゃ苦しくなるよね
柔道整復療養費の支給基準が厳格化した
柔道整復療養費の総額は、2022年度までの8年間で約3割減っています。 減少の背景には、不正請求への対策として、保険者による審査や患者さんへの照会が強化されてきたことがあります。
保険が使えるのは、急性または亜急性の外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫・肉ばなれなどに限られます。 厚生労働省の分析では、療養費の対象となった傷病の99%以上が捻挫と打撲(挫傷を含む)でした。
慢性的な肩こりや疲労回復は対象外で、ここを保険で請求している院は審査で返戻・不支給になるリスクを抱えます。
2026年7月1日の施術分から適用された令和8年度の改定では、初検料や後療料などが引き上げられた一方で、これまで3部位目からだった逓減(減額)が2部位目にも広がり、多部位の請求を前提にした経営には厳しい見直しになりました。
- 引き上げ初検料1,560円・再検料420円・後療料(打撲・捻挫)550円・電療料46円・温罨法料80円
- 引き下げ冷罨法料は85円から80円に
- 逓減の拡大2部位目も所定料金の80%で算定(改定前は3部位目の60%のみ)
家賃・人件費・光熱費が上がっている
整骨院の経費は、家賃・人件費・光熱費といった毎月決まって出ていく固定費が大半を占めます。 物価や最低賃金の上昇でこれらの経費は増えていますが、療養費の料金は国が決めるため、院の判断で値上げできません。
売上が横ばいでも経費だけが増え、利益が削られていく状態に陥りやすいのが整骨院の弱点です。
30秒でかんたん登録!
無料で応募書類テンプレをプレゼント
自費メニューへの転換が進んでいない
保険の療養費が減るなかで、多くの院が自費メニュー(保険を使わない施術)の導入を進めています。 ただ、保険の安い窓口負担に慣れた患者さんに、数千円の自費施術を選んでもらうのは簡単ではありません。
自費メニューを始めても、施術の効果や内容を説明できる体制がないと定着しません。メニューを増やすだけでなく、カウンセリングや説明の時間を確保できるかが分かれ目です。
柔道整復師という職業そのものの将来性や、整骨院以外の働き方は以下の記事で紹介しています。
参考:厚生労働省「柔道整復療養費の令和8年度改定の基本的な考え方(案)について」 / 厚生労働省「「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準」の一部改正について(令和8年6月1日 保発0601第4号)」
廃業に至る整骨院の共通点

整骨院に限った廃業の分析はありませんが、日本政策金融公庫の新規開業パネル調査では、開業後に廃業した企業の特徴が分かっています。 2016年に開業した企業を5年間追った調査では、5年目の年末までに8.9%が廃業していました。
全業種の数字ですが、5年で9割近くが続いており、「95%が廃業する」という話とは大きな開きがあります。 そのうえで、閉院する院に多いパターンを4つ紹介します。
保険診療の収入だけに依存している
整骨院の施術は正確には「診療」ではなく「施術」で、保険分は療養費として支払われます。 売上のほとんどを療養費に頼っている院は、料金改定や審査の強化があるたびに収入が直接減ります。
さらに、前述のとおり保険の対象はケガに限られるため、ケガが治れば通院も終わります。 新しい患者さんが入り続けないと売上が保てないため、集客が少し落ちただけで経営が揺らぎます。
商圏調査をせずに立地を決めている
「家賃が手ごろ」「自宅から近い」という理由だけで場所を決めると、開業後に近くの競合の多さに気づくことがあります。 整骨院の患者さんは近所の人が中心なので、立地はあとから変えにくい最大の要素です。
- 半径1〜2km以内にある整骨院・鍼灸院・リラクゼーション店の数
- 周辺の人口と年齢層(学生・働く世代・高齢者のどれが多いか)
- 駅や商業施設からの人の流れと、看板が目に入るか
院長1人に業務が集中している
開業当初は、施術・受付・保険請求・集客まで院長が1人で抱えることが多くなります。 1人で施術できる人数には上限があるため、売上を伸ばそうとしても限界にぶつかります。
公庫の調査では、廃業企業は存続企業に比べて開業準備の期間が短く、その業界での経験(斯業経験)が少ない傾向がありました。 施術の腕はあっても、経営や保険請求の実務に慣れないまま開業すると、院長の負担がさらに重くなります。
柔道整復師の求人を探す開業資金の借入が過大
公庫の調査では、廃業企業は存続企業より自己資金が少ない傾向がありました(平均282.7万円、存続企業は320.7万円)。 自己資金が少ないと借入に頼る割合が高くなり、毎月の返済が固定費に上乗せされます。
- その業界での経験が少ない
- 開業時に30歳代が少ない
- 自己資金が少ない
- 開業準備の期間が短い
- 開業費用が少ない
- 前職を辞めずに開業している
- 経営者の週の就業時間が短い
準備不足のまま開業すると、あとから苦しくなるんだね
内装や物療機器にお金をかけすぎると、返済が重くなって広告や人材への投資に回すお金が残りません。 開業資金の内訳や資金の集め方は、以下の記事で詳しく紹介しています。
参考:日本政策金融公庫総合研究所「2016年に開業した企業の5年間の動向 ―「新規開業パネル調査(第4コーホート)」結果から―」
開業後に廃業を避けるための対策

廃業を避けるには、「収入源を療養費だけにしない」「毎月いくら売れば赤字にならないかを知る」の2つが土台になります。
自費診療の比率を上げる
保険の料金改定に左右されない収入を作るには、自費メニューの比率を少しずつ上げていくのが近道です。 いきなり保険をやめるのではなく、ケガが治った患者さんに「再発予防」「姿勢改善」などの自費メニューを提案するところから始めると、無理なく移行できます。
慢性的な痛みや疲れの施術は、もともと保険の対象外です。 自費メニューを整えることは、保険請求のルールを守るうえでも欠かせません。
損益分岐点を把握する
損益分岐点とは、売上と経費がちょうど同じになり、赤字でも黒字でもない売上のことです。 1日に何人来れば赤字にならないかを数字で知っておくと、集客や値上げの判断がしやすくなります。
自費の割合が上がると、1回あたりの売上が増え、同じ固定費でも必要な来院数を減らせます。 1日の来院数が多いか少ないかの目安は、以下の記事も参考になります。
訪問施術や交通事故対応で収入源を分ける
収入源が1つだけだと、その柱が揺らいだときに院全体が傾きます。 訪問施術や交通事故のケガへの対応を加えると、来院する患者さんとは別の収入を持てます。
| 収入源 | 強み | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 保険施術(療養費) | 患者さんの窓口負担が軽く、来院のハードルが低い | 料金は国が決める。対象はケガに限られ、改定や審査の影響を受ける |
| 自費施術 | 料金を院が自由に決められる | 効果や内容を説明し、納得してもらう力が必要 |
| 訪問施術 | 通院できない高齢の患者さんにも施術を届けられる | 保険で算定できる条件が決まっている。移動時間がかかる |
| 交通事故のケガ | 自賠責保険などで施術費が支払われ、患者さんの負担が少ない | 保険会社とのやり取りや書類の手間が増える |
柱が何本かあれば、どれかが細っても倒れにくいね!
スタッフを採用して稼働枠を増やす
院長1人の院は、院長が休めば売上がゼロになります。 柔道整復師を採用して施術枠を増やせば、売上の上限が上がるだけでなく、院長が経営や集客に時間を使えるようになります。
ただし、人件費は固定費として毎月かかるため、採用の前に損益分岐点を計算し直しておきましょう。
分院展開を考える場合、保険を扱う施術所の責任者(施術管理者)には実務経験などの要件があるため、任せられる人材を育てる期間も見込んでおく必要があります。
30秒でかんたん登録!
無料で応募書類テンプレをプレゼント
勤務先の整骨院が経営難かを見分けるポイント

勤務している院が閉院すると、給与の未払いや急な失職につながることがあります。 転職先を選ぶときも、今の職場を見直すときも、次の4つのサインに注目しましょう。
職場が潰れないか心配なまま働くのはつらいよね
同じ求人が長期間出続けている
同じ院の求人が何か月も掲載され続けている場合、人が定着していない可能性があります。 スタッフの入れ替わりが激しい院は、患者さんとの関係が途切れやすく、売上も不安定になりがちです。
一方で、分院を増やしている院は常に人を募集していることもあります。 「なぜ募集しているのか」を面接で聞いてみると、増員なのか欠員なのかが分かります。
保険請求に偏った収益構造になっている
自費メニューがほとんどなく、売上の大半を療養費に頼っている院は、料金改定や審査強化の影響を受けやすい状態です。
慢性的な症状まで保険で請求するよう指示される院は、不正請求のリスクもあり、柔道整復師本人の責任が問われることもあります。
受療理由と違う負傷名で請求する、施術していない部位を請求するといった行為は不正請求にあたります。院の指示であっても、施術録に名前が残る柔道整復師が責任を問われる可能性があります。
機器や内装の更新が止まっている
壊れた物療機器が放置されている、待合室の傷みが直されていないといった状態は、設備に回すお金がないサインかもしれません。
見学のときは、施術室だけでなく受付まわりや備品の状態も見ておきましょう。
給与や残業代の支払いが不安定
給与の支払日が遅れる、残業代が出なくなった、賞与が急に減ったといった変化は、資金繰りが苦しくなっている可能性があります。 給与の遅配は、経営難のなかでも特に深刻なサインです。
- 柔整求人3,737件のうち整・接骨院は2,075件
- 整・接骨院の月給の中央値は約27万円
- 退職金制度ありの柔整求人は全体の21%
給与明細や雇用契約書は保管しておき、未払いが続く場合は労働基準監督署に相談できます。 不安を感じたら、閉院の連絡が来る前に転職先を探し始めておくと、条件を比べて選ぶ余裕が持てます。
まとめ
整骨院の廃業率を示す公的統計はなく、「廃業率95%」も根拠が確認できない数字です。 ただし、施術所数は横ばいのまま療養費は減り、療術業の倒産は過去最多を更新しており、経営環境が厳しくなっているのは確かです。
この記事のポイント
- 整骨院の廃業率そのものの公的統計はない
- 施術所数は5万か所前後で横ばい、療養費は減少
- 療術業の倒産は2025年度に過去最多の108件
- 保険頼み・立地・院長1人体制・借入過多に注意
- 勤務先は求人・収益構造・設備・給与の変化で見極める
開業を考えている人は、損益分岐点と収入源の分け方を開業前に固めておきましょう。 勤務先の経営に不安がある人は、経営が安定した院や整骨院以外の職場も含めて、早めに選択肢を広げておくと安心です。


