インシデントとアクシデントの違い|レベル分類と事例でみる3a・3bの境目
「これってインシデント?それともアクシデント?」と、報告する際に迷った経験はありませんか?
インシデントとアクシデントの違いは、患者さんに実害が出たかどうか、そしてその実害がどの程度だったかで決まります。
この記事では、影響度分類のレベル0〜5でみた3aと3bの境目、ヒヤリハットや医療事故調査制度の「医療事故」との違い、与薬・転倒・誤嚥・検査の場面ごとの分かれ目を整理します。
お申し込みを受け付けました
以下からひな形と見本をダウンロードできます。
インシデントとアクシデントの違い

インシデントとアクシデントを分けるのは、ミスの大きさではなく「患者さんにどれだけの影響が出たか」です。 同じ誤薬でも、その後の経過によってインシデントにもアクシデントにもなります。
患者への実害の有無による違い
インシデントは、エラーがあっても患者さんに実害がなかった、または一時的で軽い影響にとどまった事象です。
アクシデントは、医療行為や管理に起因して患者さんに実害が生じ、濃厚な治療が必要になった、障害が残った、亡くなったといった事象を指します。
もう一つのポイントは、アクシデントかどうかを「過失があったか」だけで判断しない点です。 国立大学病院の公表指針(2012年改訂版)でも、医療上の事故等は過失の有無を問わないとされ、合併症や医薬品の副作用、医療機器の不具合も含まれます。
ミスの大小じゃなくて、患者さんへの影響で決まるんだね
影響度レベルによる線引きの違い
多くの医療機関は、国立大学附属病院の医療安全管理協議会でまとめられた「インシデントの影響度分類」をベースに、事象をレベル0〜5で判定しています。 このうちレベル3a以下をインシデント、レベル3b以上をアクシデントと呼び分ける施設がよく見られます。
境目になる3bは「濃厚な処置や治療を要した」段階です。 国立大学病院の公表指針でも、死亡や障害が残った事例、濃厚な処置・治療を要した事例は、影響度分類のレベル3b以上にあたると整理されています。
ただし、影響度分類は法律で決められた全国一律の基準ではなく、区切り方や呼び方は施設ごとに異なります。
条件にあった求人を探してもらう報告後の対応の違い
インシデントもアクシデントも、院内ではインシデントレポートなどで報告するのが基本です。 違いが出るのは、報告の急ぎ具合と、その後の検討の重さです。
| インシデント | アクシデント | |
|---|---|---|
| 最初にすること | 患者さんの状態を確認し、上司に報告 | 患者さんの処置を最優先し、医師と上司にすぐ報告 |
| レポート | 施設の規定に沿って提出 | 口頭報告のあとに提出し、経過を追記 |
| 検討の場 | 部署内で共有し、対策を話し合う | 医療安全に関する委員会で検討。事故調査委員会を設けることも |
| 院外への報告 | 院内での共有が中心 | 報告義務のある医療機関は日本医療機能評価機構へ(原則2週間以内) |
アクシデントは院内の医療安全に関する委員会で検討され、必要に応じて院内事故調査委員会が設けられます。 さらに、特定機能病院など医療法施行規則で定められた医療機関は、死亡や障害が残った事例、予期しなかった処置・治療を要した事例などを、日本医療機能評価機構へ報告しなければなりません。
参考:国立大学病院長会議「国立大学附属病院における医療上の事故等の公表に関する指針(改訂版)」 / 日本医療機能評価機構「医療事故情報の入力項目および入力内容(2025年4月版)」
【レベル0〜5】影響度分類でみるインシデントとアクシデントの境目

影響度分類は、2002年に国立大学医学部附属病院医療安全管理協議会の総会で承認された分類です。 患者さんへの影響を「障害の継続性」と「障害の程度」の2つの軸で8段階に分けています。
| 呼び分けの目安 | レベル | 継続性・程度 | 内容 |
|---|---|---|---|
| インシデント | 0 | - | エラーや医薬品・医療用具の不具合があったが、患者さんには実施されなかった |
| 1 | なし | 患者さんへの実害はなかった(何らかの影響を与えた可能性は否定できない) | |
| 2 | 一過性・軽度 | 処置や治療は行わなかった(観察の強化、バイタルサインの軽度変化、安全確認のための検査などは必要になった) | |
| 3a | 一過性・中等度 | 簡単な処置や治療を要した(消毒、湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与など) | |
| アクシデント | 3b | 一過性・高度 | 濃厚な処置や治療を要した(バイタルサインの高度変化、人工呼吸器の装着、手術、入院日数の延長、外来患者さんの入院、骨折など) |
| 4a | 永続的・軽度〜中等度 | 永続的な障害や後遺症が残ったが、有意な機能障害や美容上の問題は伴わない | |
| 4b | 永続的・中等度〜高度 | 永続的な障害や後遺症が残り、有意な機能障害や美容上の問題を伴う | |
| 5 | 死亡 | 死亡(原疾患の自然経過によるものを除く) |
レベルは、エラーの種類ではなくその後に患者さんへ何が必要になったかで決まります。
3aと3bの間が、いちばん迷いやすい分かれ目だよ
レベル0〜2に該当する事象
レベル0は、エラーに気づき、患者さんに実施する前に止められたケースです。 別の患者さんの点滴を準備してしまったものの、ダブルチェックで気づいて投与しなかった場合などがあたります。
レベル1は、実施してしまったものの患者さんへの実害がなかったケースです。 レベル2は、処置や治療は必要なかったものの、観察の強化や安全確認のための検査が必要になったケースを指します。
「念のためバイタルサインの測定回数を増やした」「安全確認のために検査をした」など、患者さんのための追加対応が生じたらレベル2が目安です。
レベル3aに該当する事象
レベル3aは、消毒や湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与など、簡単な処置や治療が必要になったケースです。 転倒して擦りむいた傷を消毒した、ベッド柵で皮膚が裂けて縫合した、といった事象がこれにあたります。
3aは患者さんに影響は出たものの、一時的で簡単な処置で済んだ段階です。 3b以上をアクシデントとする施設では、インシデントとして扱われる最も重いレベルになります。
お探しの求人は?
レベル3bに該当する事象
レベル3bは、処置や治療が「簡単」では済まず、濃厚になったケースです。 予定外の手術や人工呼吸器の装着だけでなく、入院日数の延長や外来患者さんの入院、骨折も3bの例に挙げられています。
見落としやすいのは、治療の内容そのものより「入院の予定が変わったか」という視点です。 退院が延びたり、帰宅予定だった外来患者さんが入院になったりした時点で、3bとして扱うのが目安です。
レベル4〜5に該当する事象
レベル4は、永続的な障害や後遺症が残ったケースです。 有意な機能障害や美容上の問題を伴わない場合は4a、伴う場合は4bに分かれます。 レベル5は死亡ですが、原疾患の自然経過による死亡は含まれません。
4aと4bを分けずに「レベル4」とまとめる施設もあります。 たとえば藤田医科大学病院は、レベル0・1・2・3a・3b・4・5の7段階で患者影響度を判定しています。
参考:国立大学病院長会議「インシデントの影響度分類」 / 藤田医科大学病院「医療事故レベルの分類」
ヒヤリハット・医療事故との用語の違い

インシデントの周りには、ヒヤリハット、医療事故、有害事象など似た言葉がたくさんあります。 同じ言葉でも、定義している組織や制度によって範囲が違うことが、混乱のもとになっています。
ヒヤリハットとインシデントの関係
ヒヤリハットは、患者さんに被害はなかったものの、現場で「ヒヤリ」「ハッ」とした出来事を指す言葉です。 国立大学病院の公表指針では、患者さんに実施される前に気づいた事例と、実施されたが被害がなく、その後の観察も不要だった事例をヒヤリ・ハットとしています。 影響度分類でいえば、レベル0〜1が目安です。
一方、日本医療機能評価機構のヒヤリ・ハット事例収集では、消毒・湿布・鎮痛剤投与などの軽微な処置・治療を要した事例も報告範囲に入ります。 こちらはレベル3a相当までを含む考え方で、インシデントとほぼ重なります。 現場では「ヒヤリハット」と「インシデント」を同じ意味で使う施設もあり、どちらの言葉を使うかは施設のルールしだいです。
アクシデントと医療事故調査制度の「医療事故」の違い
医療事故調査制度の「医療事故」は医療法で定義された言葉で、アクシデントよりずっと範囲が狭いものです。
対象は死亡と死産に限られるため、骨折や後遺症が残ったアクシデントは、どれほど重くてもこの制度の対象にはなりません。 反対に、明らかなミスがない合併症による死亡でも、管理者が予期していなかったものであれば対象になり得ます。
「医療事故」にあたるかどうかの判断と、医療事故調査・支援センターへの報告は、医療機関の管理者が行うと医療法で定められています。 現場のスタッフが「制度の対象かどうか」を判断する必要はなく、アクシデントが起きたら院内の報告ルートにのせることが先決です。
条件にあった求人を探してもらう施設ごとに呼び方や報告範囲が変わる理由
影響度分類やインシデント・アクシデントの呼び分けは、法律で決められたものではありません。 各医療機関が自院の医療安全管理の指針やマニュアルで定義を決めているため、呼び方や区切りに違いが出ます。
-
アクシデントを使わない施設藤田医科大学病院は、レベル0〜5をすべてインシデントとし、3b〜5を「有害事象」と呼んでいる
-
レベルの段階数4aと4bを分ける8段階と、分けない7段階がある
-
報告の範囲過誤がなくても患者さんから苦情が出た「クレーム」を、インシデントに含める施設もある
転職や異動で職場が変わったら、新しい職場の医療安全マニュアルで区切りと報告範囲を確認しておくと安心です。
前の職場の「当たり前」が、次の職場では違うこともあるよ!
参考:厚生労働省「医療事故調査制度に関するQ&A(Q2)」 / 日本医療機能評価機構「ヒヤリ・ハット事例の入力項目および入力内容(2025年4月版)」
【場面別】インシデントとアクシデントの分かれ目

同じ場面で起きたエラーでも、患者さんへの影響しだいでレベルは変わります。 以下は国立大学病院の影響度分類に当てはめた目安で、実際の判定は勤務先の基準に沿って行います。
与薬・投薬での分かれ目
与薬のエラーには、患者さん・薬剤・量・時間・投与経路の間違いや、投与忘れなどがあります。 投与前に気づけばレベル0で止まり、投与後に患者さんへ何が必要になったかでレベルが上がっていきます。
与薬のエラーは、投与直後に症状がなくても、薬の作用が出るまで時間がかかることがあります。 「今は変化がないからレベル1」と決めつけず、観察を強化した時点でレベル2、症状への治療が必要になれば3a以上と、経過に合わせて判断しましょう。
投与してすぐは元気でも、あとで変わることもあるよね?
調剤の段階でのミスが気になる薬剤師の方は、原因と対策を以下の記事で紹介しています。
転倒・転落での分かれ目
転倒・転落は、骨折があるかどうかが3aと3bの大きな分かれ目です。 影響度分類では骨折が3bの例に挙げられているため、手術をしない保存的な治療でも3bにあたります。
転倒の直後は痛みがなくても、後日の検査で骨折がわかることがあります。 その場合は、判明した時点でレベルを3bに見直し、報告内容を追記しましょう。
転職活動するなら?
誤嚥・食事介助での分かれ目
誤嚥・食事介助のインシデントは、食形態の指示違い、姿勢の調整不足、見守りの不足などから起こります。 むせ込みがあっても、呼吸状態の観察だけで済めばレベル2まで、濃厚な治療が必要になれば3b以上です。
-
レベル0嚥下調整食の指示と違う食事を配膳しかけ、介助前に気づいた
-
レベル1指示と違う食形態の食事を食べたが、むせや呼吸状態の変化はなかった
-
レベル2むせ込みがあり、SpO2や呼吸音の観察を強化した
-
レベル3b誤嚥性肺炎の治療で入院期間が延びた、窒息で人工呼吸器を装着した
-
レベル4〜5窒息による低酸素状態で後遺症が残った、または亡くなった
検査・処置での分かれ目
検査・処置のエラーでは、患者誤認、検体の取り違え、処置中の損傷などが代表的です。 取り違えは、誤った結果をもとに治療が行われたかどうかで重さが大きく変わります。
-
レベル0検体ラベルの貼り間違いに、提出前に気づいた
-
レベル1取り違えた検体で検査したが、治療に使われる前に判明した
-
レベル3a処置中に皮膚を傷つけ、縫合が必要になった
-
レベル3b処置中の損傷で予定外の手術が必要になった、誤った検査結果で治療が行われ入院期間が延びた
- レベルに迷ったら、判定より先に報告
- 後から症状が出たらレベルを見直す
- 区切りと呼び方は職場のマニュアルで確認
インシデントの段階で報告が集まるほど、同じ場面でのアクシデントを防ぐ対策につながります。 レベルの判断に迷っても、まずは上司や医療安全の担当者に相談しましょう。
まとめ
インシデントとアクシデントは、エラーの有無や過失ではなく、患者さんへの影響の大きさで分かれます。 影響度分類の3aと3bの間を境目とする施設が多いものの、呼び方や区切りは施設によって違います。
この記事のポイント
- 3a以下をインシデント、3b以上をアクシデントとする施設が多い
- 3bは濃厚な処置・治療、入院延長、骨折が目安
- ヒヤリハットの範囲は定義する組織によって異なる
- 医療事故調査制度の対象は予期しなかった死亡・死産だけ
- 区切りと報告範囲は勤務先のマニュアルで確認する
判断に迷う事象こそ、早めに報告して職場で共有することが次のアクシデントを防ぎます。 報告しやすい雰囲気や医療安全の体制も、職場によって差があります。 働く環境を見直したいときは、転職エージェントに相談して、職場ごとの体制まで確認してもらう方法もあります。


