抗菌化学療法認定薬剤師の役割は?ASTでの業務と認定の取得要件
抗菌化学療法認定薬剤師の役割は、感染症の患者さんに合った抗菌薬の選び方や使い方を、薬の専門家として医師に提案することです。
この記事では、抗菌化学療法認定薬剤師の役割とAST(抗菌薬適正使用支援チーム)での業務、認定の取得要件・流れ・更新を、日本化学療法学会の公式ページの情報をもとに紹介します。
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抗菌化学療法認定薬剤師が担う役割

抗菌化学療法認定薬剤師は、公益社団法人日本化学療法学会が2008年に始めた認定制度の資格です。 対象は抗菌薬だけでなく、抗ウイルス薬や抗真菌薬を含む抗菌化学療法全般で、2026年3月10日現在の認定者は全国で2,137名です。
学会は制度の狙いとして、薬剤師が医師を後ろから支えるだけでなく、「一緒に治療する立場」でどの抗菌薬をどう使うかまで実践することを挙げています。
ただし、処方を決めるのはあくまで医師です。 薬剤師の提案は医師の処方権の範囲内で、医師と協働して行う業務と考えましょう。
抗菌薬の選択と投与量の提案
抗菌薬の選択では、感染している臓器、想定される原因菌、患者さんの状態を組み合わせて、効果が期待できて副作用の少ない薬を考えます。
培養検査で原因菌と感受性が分かったあとは、より狭い範囲に効く抗菌薬への変更(デ・エスカレーション)を提案する場面もあります。
投与期間が必要以上に長くなっていないかを確認し、終了のタイミングを医師と相談するのも大切な役割です。
薬物血中濃度モニタリング
バンコマイシンやアミノグリコシド系薬など、効果と副作用が出る濃度の幅が狭い抗菌薬では、TDM(治療薬物モニタリング)で血中濃度を確認しながら投与量を調整します。
採血のタイミングがずれると測定値を正しく評価できないため、採血時刻の設定から薬剤師が関わることが多いです。
TDMは抗菌化学療法認定薬剤師の業務の柱の一つですが、学会は認定の症例報告でTDM症例の数に上限を設けています。 TDM以外の場面でも抗菌薬治療に介入できることが、この資格では重視されています。
注射薬から経口薬への切り替えの提案
点滴の抗菌薬で症状が落ち着いてきたら、同じ効果が期待できる飲み薬への切り替えを提案します。 切り替えると、点滴ルートによる感染リスクや患者さんの負担を減らせるうえ、退院の準備も進めやすくなります。
- 熱や炎症反応などの症状が改善してきている
- 口から薬を飲める状態である
- 消化管からの吸収に問題がない
- 経口薬で十分な効果が期待できる抗菌薬がある
切り替えのタイミングは、感染症の種類や重症度によって異なります。 薬剤師はこうした条件がそろっているかを確認し、候補となる経口薬と投与量を添えて医師に提案します。
医師や看護師への情報提供
医師には、施設で使える抗菌薬の特徴や、患者さんの腎機能に合わせた投与量などを伝えます。 看護師には、点滴の投与時間や配合変化、投与後に注意したい副作用など、投与の現場で必要になる情報を届けます。
認定がなくても、処方提案ってできるんじゃないの?
処方提案そのものは認定がなくてもできますが、認定は抗菌化学療法の知識と経験を学会が認めた証明になります。
薬剤師の求人を探す参考:日本化学療法学会「抗菌化学療法認定薬剤師制度 制度概要・申請方法」 / 日本化学療法学会「各種制度認定者一覧」
抗菌薬適正使用支援チームでの業務

AST(抗菌薬適正使用支援チーム)は、抗菌薬を適切に使えるよう院内の診療を支援するチームです。 令和8年度診療報酬改定(2026年6月1日適用)でも、感染対策向上加算1の施設基準にASTの設置が含まれています。
なお、感染対策向上加算2・3の施設基準にはASTの設置は含まれていません。
外来で使う抗菌薬の内容を評価する「抗菌薬適正使用体制加算」もありますが、こちらの要件はサーベイランスへの参加とAccess抗菌薬の使用比率で、ASTの設置や薬剤師の配置は含まれていません。
ASTの構成と薬剤師の位置づけ
感染対策向上加算1のASTは、医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師の4職種で組織します。 このうち薬剤師に求められるのは、3年以上の病院勤務経験を持つ、感染症診療にかかわる専任の薬剤師であることです。
施設基準には、抗菌化学療法認定薬剤師の資格は要件として書かれていません。 認定は、ASTの中で抗菌薬治療の専門性を示し、提案の説得力を高めるための資格と考えるのが自然です。
届出や介入の実務
薬剤師は、届出・許可の状況を確認し、使用が長引いている患者さんや投与量が合っていない患者さんを見つける役目を担いやすい立場です。
主治医へのフィードバックは、「変更してください」と伝えるのではなく、根拠を添えた提案として届けます。 主治医にフィードバックした内容を記録することも施設基準に含まれており、この記録は認定の症例報告の材料にもなります。
院内の耐性菌対策との関わり
ASTの業務には、抗菌薬の使い方と耐性菌の発生状況を定期的に評価することも含まれます。 評価には、診療の進め方を見る「プロセス指標」と、結果を見る「アウトカム指標」の2種類があります。
日々の介入の記録が、そのまま病院の評価にもつながるんだね!
指標のほかにも、施設で分離された菌の感受性をまとめたアンチバイオグラムの作成や、採用している抗菌薬の見直しなどがASTの業務です。
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参考:厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和8年3月5日保医発0305第7号)」
感染領域のほかの認定資格との違い

感染領域の薬剤師の認定には、抗菌化学療法認定薬剤師のほかに、日本病院薬剤師会(日病薬)の感染制御認定薬剤師があります。
感染制御認定薬剤師との違い
感染制御認定薬剤師は日病薬が認定する資格で、院内感染の予防や拡大防止など感染制御の活動を中心に評価します。 抗菌化学療法認定薬剤師は、個々の患者さんへの抗菌薬治療への介入を中心に評価する点が異なります。
| 抗菌化学療法認定薬剤師 | 感染制御認定薬剤師 | |
|---|---|---|
| 認定団体 | 日本化学療法学会 | 日本病院薬剤師会 |
| 実務の条件 | 抗菌化学療法への従事5年以上 | 実務経験3年以上+施設内の感染制御活動3年以上 |
| 症例報告 | 15症例 | 20例以上 |
| 単位・講習 | 指定セミナーなどで60単位 | 感染制御領域の講習20時間・10単位以上 |
| 前提資格 | なし | 日病薬病院薬学認定薬剤師など |
| 会員の条件 | 日本化学療法学会の正会員 | 日病薬などの会員+指定学会の会員 |
大きな違いは前提資格で、感染制御認定薬剤師を目指す場合は、先に日病薬病院薬学認定薬剤師を取っておく必要があります。
抗菌化学療法認定薬剤師は前提資格がないぶん、抗菌化学療法への従事期間と症例の積み上げが準備の中心です。
薬剤師の求人を探す両方の資格を取得して、ICT(感染制御チーム)とASTの両方に関わる道もあります。
研修認定薬剤師との関係
研修認定薬剤師は、公益財団法人日本薬剤師研修センターが認定する資格で、薬剤師が生涯学習を続けていることを証明するものです。 新規認定には申請日から遡って4年以内に40単位以上、更新には3年間で30単位以上(各年5単位以上)の研修単位が必要です。
また、認定に必要な単位は日本化学療法学会が指定するセミナーや学術集会で取得するもので、研修認定薬剤師の単位とは別に積み上げる必要があります。
研修認定薬剤師は幅広い分野の学習を続けていることの証明、抗菌化学療法認定薬剤師は感染症治療という特定の領域の知識と実績の証明、と役割が分かれています。
参考:日本病院薬剤師会「感染制御認定薬剤師認定申請資格」 / 日本薬剤師研修センター「研修認定薬剤師になるには」
認定を受けるための要件

抗菌化学療法認定薬剤師の申請基準は、日本化学療法学会の制度規則と施行細則に定められています(2026年10月20日確認)。
このほか、薬剤師免許があること、施設長または学会評議員の推薦状があることも申請の条件です。
抗菌化学療法への従事期間
申請時に、薬剤師として抗菌化学療法に5年以上かかわっていることを、所属施設の施設長または感染対策委員長に証明してもらう必要があります。
-
通算でよい連続していなくても、複数施設の証明を合算して5年以上あれば申請できる
-
休職期間は除く病気療養や産休などで空白がある場合は、従事した期間ごとに証明が必要
学会のQ&Aでは、保険薬局での期間も通算に入れられるとしています。ただし、その期間に応じた薬局での症例を症例一覧に含める必要があり、病院3年+薬局2年の例では15例中6例以上が求められています。
学会の正会員であること
申請時に、日本化学療法学会の正会員であることが必要です。 認定を受けたあとも、正会員でなくなると資格を失うと規則に定められています。
更新の条件にも「引き続き正会員であること」が含まれているため、年会費の支払いを含めて会員資格を保ち続けることが前提になります。 入会や会費の手続きは、学会の公式サイトの「入退会・住所変更」のページで確認できます。
申請のときだけじゃなく、ずっと会員でいる必要があるんだね
症例報告の件数と内容
医療機関で、病棟薬剤業務・TDM・DI(医薬品情報)などの業務を通じて、感染症の患者さんの治療に自ら参加した15症例を報告する必要があります。 症例は書類審査の対象で、内容が足りないと受験資格を得られません。
症例の対象は感染症治療全般で、真菌や抗酸菌、ウイルス、寄生虫による感染症の治療も含まれます。 一方で、院内の委員会報告、治験、調剤時の疑義解釈は症例に含まれません。
学会のQ&Aでは、MRSAや真菌感染症ばかりのように症例の種類が偏ると、審査で指摘される場合があるとしています。
同じ症例を複数の申請者が使うことは禁止されていて、使った場合は失格となり、以後5年間は申請できません。
取得が必要な単位
学会が主催するセミナーや学術集会などに参加し、合計60単位以上を取得する必要があります。 60単位のうち、次の2つは必須です。
- 抗菌薬適正使用生涯教育セミナーまたは抗菌化学療法認定薬剤師講習会のいずれかで15単位分の参加
- 日本化学療法学会が主催する学術集会への1回以上の参加
| プログラム | 単位 |
|---|---|
| 日本化学療法学会・認定委員会の主催 | |
| 抗菌薬適正使用生涯教育セミナー 1日コース必須の対象 | 30 |
| 抗菌薬適正使用生涯教育セミナー 半日コース必須の対象 | 15 |
| 抗菌薬適正使用生涯教育セミナー eラーニング必須の対象 | 20または30 |
| 抗菌化学療法認定薬剤師講習会必須の対象 | 15 |
| 本学会の学術集会で委員会が指定するプログラム | 10 |
| 学術集会への参加 | |
| 日本化学療法学会の学術集会必須 | 5 |
| 指定の関連学会(日本TDM学会・日本医療薬学会・日本環境感染学会)の学術集会 | 2 |
| ほかの学会・団体の主催 | |
| 他学会の学術集会で委員会が指定するプログラム | 5 |
| 認定学術集会 | 2 |
2026年度から、抗菌化学療法認定薬剤師講習会が必須項目の対象に加わり、付与される単位も10単位から15単位に変わりました。
学術集会の参加記録は、新規申請では制度ができた2008年6月7日以降のものが有効です。
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参考:日本化学療法学会「抗菌化学療法認定薬剤師制度 認定制度規則・施行細則」 / 日本化学療法学会「抗菌化学療法認定薬剤師制度 制度概要・申請方法 よくあるご質問(Q&A)」
申請から認定までの流れと更新

新規申請の受付は毎年4月1日〜8月31日(必着)で、書類審査、認定試験を経て翌年3月1日付で認定されます。 2026年度は、2027年1月31日(日)に認定試験が予定されています。
申請から認定までにかかる費用は、次の2つです。
-
申請料11,000円(税込)。申請時に振り込み、控えのコピーを同封する
-
認定料22,000円(税込)。試験に合格したあと、合格通知に同封される払込取扱票で振り込む
単位の取得計画
単位は、必須の2項目を先に押さえてから、残りを選択項目で埋めると計画が立てやすくなります。 抗菌薬適正使用生涯教育セミナーの1日コースは1回で30単位になるため、ここを軸にすると60単位に届きやすくなります。
セミナーや学術集会は開催回数が限られるため、年度の初めに学会の開催案内を確認しておくと安心です。 参加証は申請時にコピーを提出するため、ネームカードは名前と参加証明の部分を含む全体をコピーする必要があります。
症例報告の作成
症例一覧は、学会がダウンロード用に用意しているワード書式に入力して作成します。 記載する項目や文字数の目安、菌名・薬剤名の表記方法は、学会の「症例一覧の記載上の注意事項」とサンプルに従いましょう。
学会は、書類審査で不合格になる場合がある例として、次のような記載を挙げています。
- 菌名の表記が誤っている
- 原因菌欄や感染症名が空欄になっている
- 測定結果のみで、薬剤師の介入状況が分からない
- 用法・用量や治療期間の記載がない
- 診断・薬剤選択の根拠や、変更後の経過が分かりにくい
書類審査に通らなかった場合は、翌年に限り、追加・修正した症例を含む15症例で再申請できます。 再審査でも通らなかったときは、前回の単位取得証明や症例一覧は使えず、翌年度以降に改めて申請し直すことになります。
- 転職する前に、前職で従事期間の証明を依頼する
- 介入した症例は検査値と用量の推移ごと残す
- 薬局の期間を数えるなら薬局の症例も用意する
認定試験
認定試験は年1回で、出題数は50題です。 出題範囲は特に決められておらず、抗菌化学療法に関する領域から広く出題されます。
学会は、出題の参考として「抗菌化学療法認定薬剤師テキスト」「抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン」、抗菌化学療法認定薬剤師講習会の内容などを挙げています。 不合格だった場合は、改めて申請しなくても翌年に1回だけ再試験を受けられます。
不合格でも翌年に再挑戦できるなら、気持ちが少し楽になるね!
更新の周期と要件
抗菌化学療法認定薬剤師の認定は、5年ごとの更新です。 更新には、認定後も正会員であり続けることと、認定を受けてから5年間に学会が指定する60単位を取得することが必要です。
更新申請の受付は毎年4月1日〜12月20日(必着)で、更新料は11,000円(税込)です。
単位不足などで申請できない場合は最長2年間の猶予がありますが、認定期間は本来の更新認定日から5年間で数えます。 留学などで長期間海外に住んでいた場合は、その期間に相当する分、最長5年まで認定期間を延長できます。
参考:日本化学療法学会「抗菌化学療法認定薬剤師制度 認定薬剤師制度試験」 / 日本化学療法学会「抗菌化学療法認定薬剤師制度 認定制度規則・施行細則」
まとめ
抗菌化学療法認定薬剤師は、抗菌薬の選択・投与量・TDM・経口薬への切り替えなどを通じて、感染症の患者さんの治療に医師と一緒に関わる資格です。
ASTの施設基準で資格そのものは求められていませんが、チームの中で抗菌薬治療の専門性を示す裏付けになります。
この記事のポイント
- 抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬の治療に介入する資格
- ASTは感染対策向上加算1の施設基準で、資格は要件外
- 申請には抗菌化学療法への従事5年以上と正会員が必要
- 症例は15例。TDM症例は3例までで偏りにも注意
- 60単位は必須2項目を先に。認定は5年ごとに更新
従事期間と15症例がそろうまでには、どうしても時間がかかります。 今の職場で抗菌薬治療への介入やASTの活動に関われるかを確認し、難しい場合はASTが活動している病院への転職も選択肢に入れてみましょう。


