麻薬取締官と警察官は何が違う?捜査権限・おとり捜査・階級の6つの違い
ドラマやニュースで「マトリ」と呼ばれる麻薬取締官を見て、警察官とどう違うのか気になったことはありませんか? 麻薬取締官と警察官は、どちらも犯人を逮捕できる捜査のプロですが、所属する省庁や捜査できる事件の範囲、おとり捜査の権限、階級の有無などが異なります。
この記事では、麻薬取締官と警察官の違いを6つの項目で比べたうえで、両者の共通点、麻薬取締官の仕事内容、なるための2つのルートまで紹介します。
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麻薬取締官と警察官の6つの違い

麻薬取締官と警察官の違いは、もとになる法律と所属組織の性質から生まれています。
警察官は警察法にもとづいて、あらゆる犯罪を捜査する一般の司法警察職員です。
一方、麻薬取締官は麻薬及び向精神薬取締法(以下、麻向法)にもとづき、薬物犯罪に絞って捜査する特別司法警察職員です。
| 項目 | 麻薬取締官 | 警察官 |
|---|---|---|
| 1捜査範囲 | 薬物犯罪など法律で決められた罪だけ | 犯罪の種類を問わない |
| 2所属 | 厚生労働省(地方厚生局の麻薬取締部) | 都道府県警察・警察庁 |
| 3麻薬の譲受け | 大臣の許可で可能(麻向法第58条) | 特例の規定なし |
| 4階級 | なし(国家公務員の役職) | 巡査〜警視総監の9階級 |
| 5制服・身分証 | 制服の規則なし・証票 | 制服あり・警察手帳 |
| 6逮捕後の身柄 | 刑事施設が原則(留置施設も可) | 警察の留置施設 |
捜査できる事件の範囲
警察官は、殺人・窃盗・詐欺・交通事故など、犯罪の種類を問わず捜査できます。 刑事訴訟法第189条で、警察官は犯罪があると考えるときに犯人と証拠を捜査すると定められているためです。
麻薬取締官が捜査できるのは、麻向法第54条第5項に挙げられた罪に限られます。
薬物と関係のない窃盗や詐欺などの事件は、麻薬取締官の捜査の対象外です。 その代わり、薬物犯罪だけを専門に扱うため、密売ルートや海外からの密輸など、薬物事件の捜査ノウハウが1つの組織に集まっています。
所属する組織
警察官は、各都道府県に置かれた都道府県警察か、国の機関である警察庁に所属します。 都道府県警察の警察官は多くが地方公務員で、警視正以上の階級になると国家公務員(地方警務官)の扱いになります。 都道府県警察の警察官の定員は、全国で約26万人です。
麻薬取締官は、厚生労働省の職員(国家公務員)です。 全国の地方厚生局に置かれた麻薬取締部に所属し、厚生労働大臣の指揮監督を受けて仕事をします。
名前が似た職に「麻薬取締員」があります。 麻薬取締員は都道府県の職員で、都道府県知事の指揮監督を受けて、麻薬取締官と同じく薬物犯罪を捜査します。
おとり捜査ができるかどうか
麻薬取締官には、麻向法第58条で「麻薬の譲受け」という特別な権限が認められています。 捜査のために、厚生労働大臣の許可を受けて、誰からでも麻薬を譲り受けられるという規定です。
売人から実際に麻薬を買い受ける形の捜査は、この規定があるからこそできます。 同じ特例が認められているのは麻薬取締官と麻薬取締員だけで、警察官にはこの規定はありません。
おとり捜査そのものは、最高裁判所が平成16年7月12日の決定で、通常の捜査方法だけでは摘発が難しい薬物犯罪などで、犯罪を行う意思があると疑われる人を対象にするなら任意捜査として許されると判断しています。第58条は「麻薬を譲り受けてよい」という特例の規定で、警察がおとり捜査をすべて禁じられているという意味ではありません。
階級制度の有無
警察官には、警察法第62条で定められた9つの階級があります。 階級は権限にも関わり、たとえば逮捕状を裁判官に請求できる警察官は、公安委員会が指定する警部以上の人に限られます。
麻薬取締官には、警察のような法律上の階級はありません。 ほかの省庁の職員と同じように、国家公務員としての役職で昇進していきます。
- 1警視総監
- 2警視監
- 3警視長
- 4警視正ここから国家公務員
- 5警視
- 6警部逮捕状の請求は指定の警部以上
- 7警部補
- 8巡査部長
- 9巡査
- 1部長クラス
- 2課長クラス
- 3課長補佐クラス現場指揮・捜査計画
- 4係長クラス現場の班長
- 5係員捜査の班員
制服・装備・身分証
警察官は、国家公安委員会の規則で制服が決められていて、勤務中は制服・制帽の着用と、手錠・階級章などの着装が基本です。 刑事のように私服で働く警察官もいますが、これは規則で私服の着用が認められているためです。 身分証は「警察手帳」で、原則として常に携帯しなければなりません。
麻薬取締官には、警察官や税関職員のような制服を定めた規則(服制)がありません。 立入検査などで身分を示すときは、法令で様式が定められた証票(身分証)を提示します。
-
警察官制服が基本。身分証は警察手帳。拳銃・警棒の着装も規則で定められている
-
麻薬取締官制服の規則はない。身分を示す証票を携帯し、捜査のときは拳銃などの小型武器を持てる
逮捕後に身柄を置く場所
警察官が逮捕した被疑者は、都道府県警察の留置施設(いわゆる留置場)に留置されます。 留置施設は都道府県警察に置く施設で、警察官が逮捕した人を留置するための場所だと法律で定められています。
法律上の留置施設は都道府県警察に置かれるもので、麻薬取締部にはありません。 麻薬取締官が逮捕した被疑者は、法律上は拘置所などの刑事施設に収容するのが原則で、刑事施設の代わりに警察の留置施設に留置することもできます。
同じ「逮捕する人」なのに、ルールがこんなに違うんだね
参考:e-Gov法令検索「麻薬及び向精神薬取締法」 / 警察庁「第1項 警察の体制(令和7年警察白書)」
麻薬取締官と警察官に共通する点

違いが多い一方で、麻薬取締官と警察官は、どちらも刑事訴訟法でいう司法警察職員です。 捜査の進め方の基本ルールは同じで、麻向法でも麻薬取締官とほかの司法警察職員は「互いに協力しなければならない」と定められています。
令状にもとづく逮捕・捜索ができる
麻薬取締官も警察官も、裁判官が出す逮捕状によって被疑者を逮捕できます。 刑事訴訟法第199条では、逮捕状で逮捕できる人として「司法警察職員」が挙げられていて、麻薬取締官もここに含まれます。
同じように、裁判官の令状があれば、家や車の捜索、証拠品の差押えもできます。 逮捕した被疑者を取り調べて、事件を検察官に送る流れも警察と変わりません。
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拳銃の携帯が認められている
麻薬取締官は、司法警察員として仕事をするときに拳銃などの小型武器を携帯できます。 警察官も、警察法第67条で小型武器の所持が認められています。
| 麻薬取締官 | 警察官 | |
|---|---|---|
| 持てる場面 | 司法警察員として職務を行うとき麻向法 第54条第7項 | 職務の遂行のため警察法 第67条 |
| 使うときの基準 | 警察官と同じ基準を準用麻向法 第54条第8項 | 警察官職務執行法の基準警察官職務執行法 第7条 |
麻薬取締官が武器を使うときのルールは、警察官職務執行法の規定を準用しています。 武器の使い方の基準は、麻薬取締官と警察官で共通です。
拳銃を持てるのは、警察官だけじゃないんだよ。
参考:e-Gov法令検索「刑事訴訟法」 / e-Gov法令検索「警察法」
麻薬取締官の仕事内容

麻薬取締官の仕事は、薬物事件の捜査だけではありません。 麻薬取締部は「捜査」「調査総務」「鑑定」の3つの部門に分かれていて、医療用の麻薬の監督や、薬物乱用を防ぐ活動も担っています。
- 内偵捜査・逮捕・捜索
- 密輸事件で税関や海外機関と連携
- 麻薬の輸出入などの許認可
- 病院・薬局などの立入検査
- 人事・会計・庶務
- 押収品・尿・毛髪の化学鑑定
- DNA型鑑定
違法薬物事件の捜査
中心となる仕事は、覚醒剤や大麻、麻薬などの違法薬物を売ったり使ったりした人の捜査です。 情報を集めて売人や密売組織を割り出す内偵捜査を重ね、証拠がそろった段階で逮捕や捜索に踏み切ります。
海外から日本に密輸される薬物も多いため、各国の捜査機関と連携して、薬物の流入を食い止める捜査にも取り組んでいます。
医療用麻薬・向精神薬の監督指導
医療用の麻薬や向精神薬は、患者さんの治療に欠かせない医薬品です。 麻薬取締部は、これらを扱う病院・薬局・製薬会社などへの立入検査をして、横流しや不正使用が起きていないかを確認しています。
麻薬を医薬品として扱うための免許や許可の手続きも、麻薬取締部の仕事です。 警察にはない行政の仕事で、医療現場と接点が多いのが麻薬取締官の特徴です。
条件にあった求人を探してもらう押収した薬物の鑑定
麻薬取締部には、捜査部門とは別に鑑定部門があります。 押収した薬物が違法なものかどうかを分析機器で調べるほか、逮捕した人の尿や毛髪を分析して薬物を使った形跡を明らかにします。
薬物を使った人を特定するためのDNA型鑑定も行っていて、分析化学や薬学の専門知識が生きる仕事です。
薬物乱用防止の啓発と相談対応
麻薬取締官は、学校などで薬物乱用防止の講演をしたり、街頭キャンペーンに参加したりして、薬物の正しい知識を広めています。 各地の麻薬取締部には、薬物犯罪に関する相談電話もあります。
薬物をやめ続けたい人やその家族に向けて、公認心理師や精神保健福祉士などの専門職員が再乱用防止の支援もしています。
捜査だけじゃなく、医療や予防にも関わる仕事なんだね!
麻薬取締官の年収や勤務条件は、以下の記事で紹介しています。
参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「麻薬取締部について」 / 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「鑑定」
麻薬取締官になるには

麻薬取締官になるルートは、薬剤師免許を持って選考試験を受けるルートと、国家公務員採用一般職試験(大卒程度)に合格するルートの2つです。 どちらのルートも、麻薬取締部に採用されたあと研修を受け、厚生労働大臣から麻薬取締官に任命されます。
薬剤師免許から目指すルート
薬剤師のルートでは、麻薬取締部が独自に行う「薬学系選考採用試験」を受けます。 受験できるのは、薬剤師、薬剤師国家試験の合格者、合格見込みの人で、薬剤師免許の取得が採用の条件です。
年齢の条件もあり、2026年度の試験では1996年4月2日以降に生まれた人が対象です。 一次試験は各地の麻薬取締部で論文・適性検査・面接を行い、合格者は関東信越厚生局麻薬取締部での最終面接に進みます。
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公務員として働く薬剤師の選択肢は、麻薬取締官のほかにもあります。
国家公務員試験から目指すルート
薬剤師免許がない人は、国家公務員採用一般職試験(大卒程度)を受けます。 2026年度の募集では、試験区分「行政」「教養」「デジタル・電気・電子」の第1次試験に合格した人が、麻薬取締部を訪問する官庁訪問に進めます。
最終合格が採用の条件で、官庁訪問の面接を経て採用が決まります。 法律や経済を学んだ人など、薬学以外の分野から目指せるのがこのルートの特徴です。
薬剤師じゃなくても、麻薬取締官を目指せる道があるんだね!
採用人数と難易度
麻薬取締官の定数は、麻向法施行令で304人と決められています(2026年9月時点)。 全国の組織がこの人数で成り立っているため、毎年の採用も少人数です。
採用内定者は年度によって大きく変わり、令和7年度は2ルート合わせて8人でした。 倍率は公式サイトで示されていませんが、採用枠の少なさから狭き門といえます。 採用されると原則として全国転勤があり、勤務地が変わる前提で考えておきましょう。
- 業務説明会で現場の話を直接聞いておく
- 薬学系の試験は年齢要件あり。受験年度を確認
- 募集要項は公式サイトで最新版を確認
公式サイトの「採用に関するQ&A」では、勤務時間や休暇、住居などの働き方も確認できます。
参考:厚生労働省地方厚生局麻薬取締部「採用内定者数一覧」 / e-Gov法令検索「麻薬及び向精神薬取締法施行令」
まとめ
麻薬取締官と警察官は、どちらも逮捕や捜索ができる司法警察職員ですが、根拠となる法律と所属する組織が違います。 その違いが、捜査できる事件の範囲やおとり捜査の権限、階級の有無などにつながっています。
この記事のポイント
- 麻薬取締官は厚生労働省、警察官は警察庁・都道府県警察に所属
- 麻薬取締官が捜査できるのは薬物犯罪などに限られる
- 麻薬の譲受けによる捜査は麻薬取締官・麻薬取締員の特例
- 麻薬取締官に警察のような階級や制服の規則はない
- なるには薬剤師ルートと国家公務員試験ルートの2つ
麻薬取締官を目指すなら、まずは麻薬取締部の公式サイトで募集要項と説明会の日程を確認してみましょう。 薬剤師として公務員や医療機関など、ほかの働き方も比べたいときは、転職エージェントに相談すると選択肢を整理しやすくなります。


