薬剤師は衛生管理者になれる?試験免除の条件と申請方法を解説
「薬剤師なら衛生管理者に無試験でなれる」と聞いて、詳しく調べはじめた方も多いのではないでしょうか?実際に、薬剤師免許を持っていれば試験を受けずに第一種衛生管理者免許を取得できます。ただし、無試験で取れるのは第一種だけで、第二種には免除の規定がありません。
また、免許を持っているだけでは衛生管理者として働くわけではなく、事業場で選任されて初めて職務が生じます。
この記事では、薬剤師が衛生管理者になれる法的な根拠、試験免除で申請する手順と必要書類、選任されたあとの仕事内容、免許を活かせる職場までを、労働安全衛生法と労働安全衛生規則の条文を確認しながら解説します。取得前に知っておきたい注意点もあわせて見ていきましょう。
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衛生管理者とは?

衛生管理者は、労働安全衛生法にもとづいて事業場の労働衛生を管理する国家資格です。薬剤師免許が医薬品の専門家であることを示す資格なのに対し、衛生管理者は働く人の健康障害を防ぐ役割を担う人として法律で位置づけられています。
衛生管理者の役割
労働安全衛生法第12条第1項は、事業者に対し、一定規模の事業場ごとに衛生管理者を選任し、衛生に係る技術的事項を管理させなければならないと定めています。
ここでいう業務の範囲は、同法第10条第1項各号に挙げられた内容のうち衛生に関わる部分です。
- 労働者の危険または健康障害を防止するための措置に関すること
- 労働者の安全または衛生のための教育の実施に関すること
- 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること
- 労働災害の原因の調査および再発防止対策に関すること
つまり衛生管理者は、健康診断や衛生教育、作業環境の改善といった労働衛生の実務を、事業場のなかで動かしていく立場です。労働安全衛生規則第11条第2項では、事業者は衛生管理者に対して衛生に関する措置をなし得る権限を与えなければならないとされており、意見を述べるだけの役職ではなく、改善を求める権限が制度上セットになっています。
なお、選任義務がある事業場で衛生管理者を選任しなかった場合、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金の対象となります。企業にとっては、置かないという選択肢がない役割だといえます。
選任が必要な事業場
労働安全衛生法施行令第4条により、衛生管理者を選任すべき事業場は常時50人以上の労働者を使用する事業場と定められています。ここでいう単位は会社全体ではなく、工場や店舗、支社といった事業場ごとである点に注意が必要です。
選任すべき人数は、労働安全衛生規則第7条第1項第4号で事業場の規模に応じて段階的に決められています。労働者が増えるほど必要な人数も増える仕組みです。
選任のタイミングにも決まりがあります。同項第1号では、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任することとされており、労働者数が50人に達してから慌てて探すのでは間に合わない場合もあります。
さらに一定規模を超えると、要件が加わります。常時1,000人を超える労働者を使用する事業場、または常時500人を超える事業場で坑内労働などの有害業務に常時30人以上を従事させている場合は、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任、つまり衛生管理の業務に専念する形で置かなければなりません。加えて、有害業務の一部に該当する事業場では、1人を衛生工学衛生管理者免許を受けた者から選任する必要があります。
なお、常時10人以上50人未満の事業場については、労働安全衛生法第12条の2と労働安全衛生規則第12条の2により、衛生管理者ではなく衛生推進者を選任することとされています。50人という基準は、事業場の労働衛生体制が切り替わる境目にあたります。
事業場の労働者数と選任義務の早見表
| 常時使用する労働者数 | 選任する者 | 専任の要否 |
|---|---|---|
| 10人以上50人未満 | 衛生推進者 | ― |
| 50人 ここから衛生管理者の選任義務が発生 | ||
| 50人以上200人以下 | 衛生管理者 1人 | ― |
| 200人超500人以下 | 衛生管理者 2人 | ― |
| 500人超1,000人以下 | 衛生管理者 3人 | ― |
| 1,000人超2,000人以下 | 衛生管理者 4人 | 1人専任 |
| 2,000人超3,000人以下 | 衛生管理者 5人 | 1人専任 |
| 3,000人超 | 衛生管理者 6人 | 1人専任 |
第一種と第二種の違い
衛生管理者免許には第一種と第二種があり、どちらが必要かは業種によって変わります。労働安全衛生規則第7条第1項第3号は、業種を2つに区分しています。
イに挙げられているのは、製造業や医療業、建設業、運送業をはじめとする13の業種です。これらの業種では、第一種衛生管理者免許または衛生工学衛生管理者免許を持つ人などからしか選任できません。第二種では要件を満たさないということです。
一方、ロのその他の業種であれば、第一種でも第二種でも選任できます。
整理すると、第一種はすべての業種をカバーでき、第二種は有害業務との関わりが少ない業種に限られる、という関係です。そして薬剤師が試験免除で取得できるのは、適用範囲が広いほうの第一種になります。
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
薬剤師が衛生管理者になれる理由

薬剤師が試験を受けずに衛生管理者免許を取得できるのは、慣例ではなく法令に根拠があります。どの条文に、どう書かれているのかを確認しておきましょう。
試験が免除される根拠
免許を受けることができる人は、労働安全衛生規則第62条にもとづき、同規則の別表第四で免許の種類ごとに定められています。第一種衛生管理者免許の欄には4つの区分が挙げられており、薬剤師はこのうち第4号のその他厚生労働大臣が定める者に含まれます。
都道府県労働局が公開している免許申請の案内でも、試験免除で第一種衛生管理者免許を申請できる人として、薬剤師の免許を受けた者が明記されています。
つまり薬剤師は、試験に合格した人と同じ第一種衛生管理者免許を、申請手続きだけで受けられるということです。実務経験の年数や講習の受講といった追加要件も設けられていません。
取得できるのは第一種であること
ここで誤解が生まれやすいのが、薬剤師なら衛生管理者の免許は両方とも無試験で取れる、という思い込みです。別表第四の第二種衛生管理者免許の欄に挙げられているのは、第二種衛生管理者免許試験に合格した者と、その他厚生労働大臣が定める者の2つだけで、薬剤師を対象とした免除の仕組みはありません。
とはいえ、第二種が取れないことで困る場面はありません。前述のとおり第一種はすべての業種で選任要件を満たすため、第二種でなければ務まらない職場というものが存在しないからです。第二種をあえて受け直す実益はないと考えてよいでしょう。
なお、試験を受けるルートは決して楽ではありません。公益財団法人安全衛生技術試験協会の統計によると、令和7年度はどちらの区分も合格率が5割を下回りました。受験手数料も学科試験共通で8,800円かかります。
薬剤師にとっては、この試験をまるごと省略できるところに価値があります。
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 / 愛知労働局「試験免除(無試験)による申請」 / 公益財団法人安全衛生技術試験協会「統計」 / 公益財団法人安全衛生技術試験協会「試験手数料」
今のあなたの状況は?
薬剤師が衛生管理者免許を申請する方法

インターネットで見つかる申請手続きの解説は、その多くが免許試験に合格した人を前提にしています。薬剤師は試験を受けないため、添付する書類も提出先も異なります。ここでは薬剤師のケースに絞って、様式の入手から提出までの流れを整理します。
申請書を入手する
使用するのは、労働安全衛生規則第66条の3に定められた様式第12号の免許申請書です。この様式は新規の免許申請だけでなく、免許証の再交付や書替えにも共通で使われます。
入手先は複数あります。厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできるほか、都道府県労働局、労働基準監督署、安全衛生技術センターの窓口にも備え付けられています。厚生労働省は同じページで免許申請書等手続きの手引きを公開しており、記入方法はこの手引きで確認できます。
また、令和8年3月からはマイナポータルからの申請もできるようになりました。ただし電子申請の場合も、免許証送付用の封筒などを別途郵送する必要があります。
必要書類を用意する
薬剤師が試験免除で申請する場合にそろえるのは、次の書類です。
- 免許申請書(様式第12号)
- 免許を受ける資格を有することを証明する書類として薬剤師免許証
- 写真1枚
- 本人確認証明書等
- 収入印紙
- 免許証送付用の返信用封筒と切手
- すでに労働安全衛生法関係の免許を持っている場合はその免許証
薬剤師の場合、資格を証明する書類にあたるのが薬剤師免許証です。以前は原本の提示を求められていましたが、労働局の案内では現在、免許証のコピーを申請書に添付する扱いに変わっています。原本を郵送で預ける必要がないのは、実務上ありがたい変更です。
写真については、京都労働局の案内で縦30mm×横24mmの運転免許証サイズとされ、上三分身、正面、着衣、無帽、無背景という条件が示されています。愛知労働局の案内では、申請前6か月以内に撮影したものとされています。
本人確認証明書等は、運転免許証やマイナンバーカードなどのコピーで足ります。これ以外の書類を求められるかどうかは労働局によって案内が異なる場合があるため、提出先となる自分の住所地の労働局のページで確認してから準備すると確実です。
手数料を納付する
手数料は、労働安全衛生法関係手数料令第1条で決まっています。免許の申請1件につき1,500円で、収入印紙を申請書に貼って納めます。労働局の案内では、貼った収入印紙に消印をしないよう注意が呼びかけられています。
マイナポータルなどの電子情報処理組織を使用して申請する場合は、同条により1,450円と定められています。
このほかに、免許証を郵送で受け取るための切手が必要です。京都労働局の案内では、令和6年9月17日以降の申請について460円分とされています。定形郵便と簡易書留の料金を合わせた額で、郵便料金の改定に合わせて変わるため、こちらも申請前に最新の案内を確認しておきましょう。
試験ルートでは受験手数料が別にかかることを考えると、薬剤師が負担するのは免許申請の実費だけということになります。
申請書を提出する
提出先を間違える人が多いのが、この手続きの落とし穴です。労働安全衛生規則第66条の3第3項では、免許試験に合格した者以外の者は、その者の住所を管轄する都道府県労働局長に免許申請書を提出すると定められています。
一方、免許試験の合格通知書を持っている人の提出先は東京労働局免許証発行センターです。厚生労働省も申請先の誤りが多いとして、合格通知書がある場合と結果通知書がある場合とで送り先を分けて案内しています。薬剤師は試験を受けていないため、東京労働局免許証発行センターではなく、自分の住所地を管轄する労働局に送るのが正しい流れです。
提出方法は郵送または窓口への持参です。免許証が届くまでの期間について、厚生労働省は申請書類に不備がなければ申請から1か月程度で発送しているとしたうえで、試験の合格発表日が集中する時期などは多少時間がかかる場合があると案内しています。転職や配属のタイミングに合わせたい場合は、余裕をもって申請しておくと安心です。
| 項目 | 試験合格者 | 薬剤師(試験免除) |
|---|---|---|
| 提出先 | 東京労働局 免許証発行センター | 住所地を管轄する都道府県労働局 |
| 資格を証明する書類 | 免許試験の合格通知書 | 薬剤師免許証のコピー(原本提示不要) |
| 写真 | 縦30mm×横24mm/6か月以内撮影 | 縦30mm×横24mm/6か月以内撮影 |
| 収入印紙 | 1,500円(電子申請は1,450円) | 1,500円(電子申請は1,450円) |
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生法関係手数料令」 / 厚生労働省「労働安全衛生法関係の免許について」 / 京都労働局「労働安全衛生法に係る各種免許申請手続き」 / 鳥取労働局「労働安全衛生法に基づく免許を申請される皆様へ」 / 厚生労働省「労働安全衛生法関係の免許証の申請をしたのだが、いつ頃手元に届くのか?」
薬剤師の求人を探す衛生管理者の仕事内容

免許を取ることと、衛生管理者として働くことは別の話です。選任を打診されたときに引き受けられるかどうかを判断するには、実際にどんな職務が発生するのかを知っておく必要があります。ここでは条文で定められている代表的な職務を見ていきます。
作業場の巡視
もっとも頻度が高い職務が巡視です。労働安全衛生規則第11条第1項は、衛生管理者は少なくとも毎週1回作業場等を巡視し、設備、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならないと定めています。
同じ規則の第15条で定められた産業医の巡視が少なくとも毎月1回であるのと比べると、衛生管理者の巡視は週単位です。産業医が月に一度、医学的な視点で確認するのに対し、衛生管理者は日常的に職場を見て回る役割を担っている、と考えると分かりやすいでしょう。
見るのは設備や作業方法、職場の衛生状態そのものです。異常を見つけたときにその場で措置を求められる点が、単なる見回りとの違いになります。
衛生委員会への参加
労働安全衛生法第18条第1項と労働安全衛生法施行令第9条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場には衛生委員会の設置が義務づけられています。委員の構成は同条第2項で決められており、衛生管理者のうちから事業者が指名した者が必ず含まれます。
委員会で調査審議するのは、労働者の健康障害を防止するための基本対策、健康の保持増進を図るための基本対策、労働災害の原因および再発防止対策のうち衛生に係るものなどです。
開催の頻度も決まっています。労働安全衛生規則第23条により、毎月1回以上開催し、その都度、議事の概要を労働者に周知したうえで、記録を3年間保存することも求められます。月に一度、資料をそろえて議題を用意する実務が発生すると考えておきましょう。
労働衛生教育の実施
労働安全衛生法第59条第1項は、労働者を雇い入れたときに、その従事する業務に関する安全または衛生のための教育を行うことを事業者に義務づけています。作業内容を変更したときも同様です。
教育すべき内容は労働安全衛生規則第35条第1項に列挙されており、機械等や原材料等の危険性および有害性とその取扱い方法、保護具の性能と取扱い方法、作業手順、作業開始時の点検、その業務に関して発生するおそれのある疾病の原因および予防、整理整頓と清潔の保持、事故時の応急措置と退避などが含まれます。
このうち疾病の原因と予防、化学物質の有害性といったテーマは、薬理や衛生化学を学んできた薬剤師にとって説明しやすい領域です。医薬品の知識がそのまま使えるわけではありませんが、専門用語をかみ砕いて伝える経験は服薬指導と共通しています。
健康診断の事後措置への関与
健康診断は実施して終わりではありません。労働安全衛生法第66条の4により、健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者について、事業者は健康を保持するために必要な措置を医師または歯科医師から聴かなければならないとされています。労働安全衛生規則第51条の2では、この意見聴取を健康診断が行われた日から3か月以内に行い、聴取した意見を健康診断個人票に記載することが定められています。
そのうえで同法第66条の5は、事業者が医師等の意見を勘案し、必要があると認めるときは、就業場所の変更や作業の転換といった措置を講じるほか、医師等の意見を衛生委員会に報告するといった適切な措置を講じなければならないとしています。
衛生管理者は、この一連の流れを実務として回す立場にいます。受診勧奨や結果の管理、産業医との連絡調整、衛生委員会への報告といった作業が、健康診断の時期に集中して発生します。
健康診断の事後措置の流れ
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」
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薬剤師が衛生管理者免許を活かせる職場

免許を取っても、選任義務のない職場では出番がありません。ここは正直に押さえておきたいところです。厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によれば、届出薬剤師329,045人のうち60.0%にあたる197,437人が薬局に従事しています。
ところが薬局は全国に6万施設以上あり、1施設あたりの薬剤師は数人という計算になります。常時50人以上という選任義務の基準に届く薬局はごく限られるわけです。
では、どこで意味を持つのか。具体的に見ていきましょう。
ドラッグストアの本部や物流センター
ドラッグストアチェーンの本部や物流センターは、1つの事業場に多数の従業員が集まりやすい職場です。常時50人以上になれば衛生管理者の選任義務が生じます。
小売業や倉庫業は労働安全衛生規則第7条第1項第3号のロ、つまりその他の業種にあたるため第二種でも選任できますが、第一種を持っていれば当然にその要件も満たせます。店舗勤務から本部の商品部や品質管理部門へ移る際に、持っていると話が早い資格だといえます。
製薬会社の工場
製薬会社の工場は製造業にあたり、労働安全衛生規則第7条第1項第3号のイに区分されます。この区分では第二種衛生管理者免許では選任できません。第一種衛生管理者免許か衛生工学衛生管理者免許などが必要です。
薬剤師は製造管理や品質管理の職種で製薬会社に関わることが多く、そこに第一種衛生管理者免許が加わると、製造現場の労働衛生まで担える人材として位置づけられます。有機溶剤や特定化学物質を扱う工程がある工場では、化学物質の有害性を理解している人材の価値が高まります。
企業内診療所
大企業のなかには、従業員向けの診療所や健康管理室を置いているところがあります。産業医や保健師、看護師とともに従業員の健康を支える部署で、産業保健の現場に最も近い職場です。
診療所は医療業にあたるため、その事業場で衛生管理者を選任する場合は第一種が求められます。薬剤師として医薬品の管理に関わりながら、衛生管理者として健康診断や衛生委員会の実務も担う、という働き方が考えられます。
- 医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)では、薬剤師求人1,450件のうち調剤薬局が1,124件
- 病院は289件、製薬会社やドラッグストアの求人はごく少数
- 企業勤務のポジションは公開求人に出にくいので、相談ベースで探すのが近道です
薬局チェーンの本社
薬局を運営する企業の本社機能も、選任義務が生じやすい事業場です。店舗ごとでは50人に届かなくても、本社に管理部門や教育部門が集まれば人数の条件を満たします。
エリアマネージャーや教育担当、品質管理担当として本社勤務に移る薬剤師にとっては、現場経験と労働衛生の知識を組み合わせられるポジションになります。全国の店舗で働く薬剤師の労働環境を整える側に回る、というキャリアの広げ方です。
一般企業の総務・人事部門
調剤や販売から離れ、企業の総務部や人事部で働く道もあります。従業員の健康管理や安全衛生の担当は、これらの部門に置かれるのが一般的です。
この場合、衛生管理者免許は職務に直結する資格になります。薬剤師免許があるから採用される、というよりも、労働衛生を担える人材として評価される構図です。薬剤師としての専門性をどう位置づけ直すかを考えたい方は、次の記事もあわせて確認してみてください。
職場タイプ別・衛生管理者免許の必要区分
| 職場タイプ | 規則上の区分 | 第一種免許 | 第二種免許 |
|---|---|---|---|
| 製薬会社の工場製造業 | イ | ◯ | ✕ |
| 企業内診療所医療業 | イ | ◯ | ✕ |
| ドラッグストアの本部・物流センター小売業・倉庫業 | ロ | ◯ | ◯ |
| 薬局チェーンの本社・一般企業の総務人事イに列挙のない業種 | ロ | ◯ | ◯ |
※イに掲げる業種以外はロに区分される。◯は選任要件を満たす免許
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 / 厚生労働省「令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 / 厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例の概況」
薬剤師の求人を探す薬剤師が衛生管理者免許を取得するメリット

ここまでの内容を踏まえて、薬剤師が衛生管理者免許を持つことにどんな意味があるのかを整理します。
試験を受けずに取得できる
最大のメリットは、前述のとおり試験勉強が一切いらないことです。第一種衛生管理者免許試験は、関係法令、労働衛生、労働生理の科目で構成され、独学であれば数か月の学習期間を見込むのが一般的です。
薬剤師はこの期間をまるごと省略し、書類の準備と郵送だけで免許を得られます。働きながら取得できる資格のなかでは、負担がきわめて小さい部類に入ります。転職を考えはじめた時期に、まず手をつけられる選択肢のひとつです。
産業保健の分野に関わりやすくなる
産業保健は、働く人の健康を守る分野です。従来は産業医と保健師が中心でしたが、メンタルヘルス対策や化学物質管理の重要性が高まるなかで、担い手の幅は広がっています。
衛生管理者は、この分野に法律上の役割を持って関われる立場です。健康診断の事後措置や衛生委員会の運営を通じて、個人の患者さんではなく組織全体の健康を扱う仕事に軸足を移せます。調剤中心のキャリアから視野を広げたい方にとって、入口になりやすい資格だといえます。
企業の求人で評価されやすくなる
企業は事業場ごとに衛生管理者を確保する必要があり、選任できる人を社内に持っておきたいという事情があります。とくに製造業のように第一種でなければ選任できない業種では、免許保有者は限られます。
薬剤師免許と第一種衛生管理者免許を併せ持つことは、医薬品の専門性と労働衛生の要件を1人で満たせるという意味を持ちます。求人票に必須資格として書かれていなくても、応募書類のなかで自分を説明する材料にはなります。
関連する認定資格とどう組み合わせるかを整理したい方は、次の記事も参考にしてください。
労働衛生の知識が服薬指導にも生きる
衛生管理者が扱う領域には、有機溶剤や特定化学物質による健康障害、作業環境の管理、交代制勤務と睡眠、メンタルヘルスなどが含まれます。これらは、調剤薬局やドラッグストアで働く薬剤師が日々出会う相談内容と重なります。
夜勤のある患者さんから睡眠薬について相談を受けたとき、工場勤務の患者さんが皮膚症状を訴えたとき、仕事の内容と症状を結びつけて考えられるかどうかで、聞き取りの質は変わります。免許の申請自体に勉強は不要ですが、労働衛生の知識を学び直しておくと、現場での引き出しが増えます。
転職活動するなら?
薬剤師が衛生管理者免許を取得する前に確認したいこと

取得のハードルが低い資格だからこそ、期待と実態がずれやすい面があります。申請する前に知っておきたい3つのポイントを挙げます。
選任されなければ職務は発生しない
免許を持っていることと、衛生管理者であることは別です。労働安全衛生法第12条第1項が義務づけているのは事業者による選任であり、免許保有者が事業場で選任されて初めて職務と権限が生じます。
そのため、勤務先が常時50人未満の事業場であれば、免許を取っても業務上の出番はありません。前述のとおり、多くの薬剤師が働く薬局はこの規模に届かないことが一般的です。
資格手当を期待する前に確認したいこと
- 衛生管理者の資格手当は法律で定められた制度ではない
- 支給の有無と金額は勤務先の賃金規程や労働協約による
- 自分の事業場に選任義務があるか、つまり常時50人以上かを先に確認する
- 手当を目的にする場合は、就業規則や人事部への確認を取得前に済ませておく
取れば手当がつくという前提で申請すると、期待外れに終わることがあります。免許は将来の選択肢を広げるためのものと捉えるほうが、実態に合っています。
原則として事業場に専属である必要がある
労働安全衛生規則第7条第1項第2号は、衛生管理者についてその事業場に専属の者を選任することと定めています。専属とは、その事業場だけに所属している状態を指します。
例外はごく限られています。2人以上の衛生管理者を選任する場合で、そのなかに労働衛生コンサルタントがいるときに限り、その1人については専属でなくてもよいとされています。逆にいえば、労働衛生コンサルタントの資格がなければ、他社の衛生管理者を掛け持ちすることはできません。
副業として複数の企業の衛生管理者を引き受ける、といった働き方は制度上想定されていない点は押さえておきましょう。免許を活かすなら、勤務先を選ぶ段階で考える資格です。
免許に更新はないが知識の更新は必要
衛生管理者免許に有効期間の定めはなく、更新手続きも必要ありません。一度取得すれば失効しない点は、負担が小さいところです。
ただし、労働衛生分野の制度は変更が続いています。たとえばストレスチェックは、これまで常時50人以上の事業場が義務の対象でしたが、令和7年5月に公布された改正労働安全衛生法により、令和10年4月1日から常時50人未満の事業場にも義務化されます。厚生労働省は小規模事業場向けの実施マニュアルも公表しています。
また、衛生管理者を選任したときの労働基準監督署長への報告は、労働安全衛生規則第7条第3項により電子情報処理組織を使用して行うこととされており、手続きの電子化も進んでいます。選任される立場になったら、法改正の情報を継続して追う必要があります。免許そのものより、選任後に知識をどう保つかのほうが実質的な負担だと考えておきましょう。
※免許自体に更新制度はなく、制度側の変更を追う必要がある。
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」 / e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」 / 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」 / 厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」
まとめ
薬剤師は、労働安全衛生規則別表第四のその他厚生労働大臣が定める者として、試験を受けずに第一種衛生管理者免許を取得できます。無試験で取れるのは第一種だけで第二種には免除の規定がありませんが、第一種はすべての業種で選任要件を満たすため、実務で困る場面はありません。
申請は、様式第12号の免許申請書に薬剤師免許証のコピーなどを添えて、住所地を管轄する都道府県労働局に提出します。試験合格者の送り先である東京労働局免許証発行センターとは異なる点に注意してください。手数料は収入印紙1,500円、電子申請なら1,450円です。
選任されれば、毎週1回の作業場巡視、毎月1回以上の衛生委員会、雇入れ時の労働衛生教育、健康診断の事後措置といった職務が発生します。一方で、選任されなければ職務も手当も生じません。勤務先が常時50人以上の事業場かどうかを確認したうえで、製薬会社の工場やドラッグストアの本部、企業内診療所など、免許が意味を持つ職場を視野に入れて考えるのがおすすめです。
産業保健や企業勤務に関心が出てきたら、まずは求人を眺めて、どんなポジションで衛生管理者が求められているかを確かめてみてはいかがでしょうか。





