胎児循環|3つのシャントの役割と閉鎖のタイミング
胎児は肺で呼吸をしていないため、酸素の受け渡しを胎盤で行っています。
そのため胎児の血液は肺を大きく迂回して流れており、これを支えているのが「卵円孔」「動脈管」「静脈管」という3つのシャント(短絡路)です。
胎児循環とは
胎児循環とは、出生前の胎児に特有の血液の流れのことです。
胎児の肺は羊水で満たされておりガス交換の役割を担っていないため、酸素と二酸化炭素のやり取りはすべて胎盤で行われます。
胎盤で酸素を受け取った血液は臍静脈を通って胎児の体内に入り、全身をめぐったあと臍動脈から胎盤へ戻ります。
肺でガス交換をしないということは、肺に大量の血液を送る必要がないということです。
実際、胎児期の肺血管抵抗は非常に高く保たれており、肺へ流れる血液はごくわずかにとどまります。
- ガス交換は肺ではなく胎盤で行われる
- 肺血管抵抗が高く、肺血流はごくわずか
- 胎盤という低抵抗の血管床があるため、体血管抵抗は低い
- 右心房の圧が左心房より高く、右→左シャントが成立する
- 臍静脈血でも酸素飽和度は約80%程度で、成人の動脈血ほど高くはない
- 血行動態:大動脈 → 肺動脈への左→右短絡により肺血流が増加する
- 好発:早産児・低出生体重児に多い
- 所見:連続性雑音、脈圧の増大(反跳脈)、多呼吸や哺乳不良など
- 進行時:肺高血圧や心不全をきたすことがある
- 治療:インドメタシンなどのプロスタグランジン合成阻害薬の投与、カテーテル治療や手術による閉鎖
- まず「なぜ肺を避けるのか」という理由から入る(肺呼吸をしていないため)
- 次に3つのシャントを「つながり」で覚える(卵円孔=右心房→左心房、動脈管=肺動脈→大動脈、静脈管=臍静脈→下大静脈)
- 別名をひも付ける(動脈管=ボタロー管、静脈管=アランチウス管)
- 出生後の閉鎖の順番を押さえる(静脈管・卵円孔は数分〜、動脈管は12〜24時間)
- 最後に閉鎖後の名称をまとめて覚える(卵円窩・動脈管索・静脈管索)
胎児循環の3つのシャントと役割
胎児循環を理解するうえで最も重要なのが、卵円孔・動脈管・静脈管の3つのシャントです。

| 名称 | 場所・つながり | 役割 |
|---|---|---|
| 卵円孔 | 右心房 → 左心房 | 肺を通さずに、酸素の多い血液を左心系から全身へ送る |
| 動脈管(ボタロー管) | 肺動脈 → 大動脈 | 肺動脈に流れた血液の大半を大動脈へ逃がし、肺血流を減らす |
| 静脈管(アランチウス管) | 臍静脈 → 下大静脈 | 肝臓を迂回し、胎盤からの酸素の多い血液を心臓へ直接送る |
卵円孔(右心房→左心房)
卵円孔は心房中隔にある穴で、右心房に戻ってきた血液を左心房へ直接通します。
胎児期は肺血管抵抗が高く右心房の圧が左心房より高いため、血液は右から左へ流れます。
これにより、下大静脈から運ばれてきた酸素の多い血液が肺を経由せずに左心系へ入り、大動脈から脳や上半身へ優先的に送られます。
動脈管/ボタロー管(肺動脈→大動脈)
動脈管は肺動脈と大動脈をつなぐ血管です。
右心室から肺動脈に送り出された血液のうち、肺へ向かうのはごく一部で、大部分はこの動脈管を通って下行大動脈へ流れます。
胎児期の動脈管は、胎盤由来のプロスタグランジンE2(PGE2)と低い酸素分圧によって開存が保たれています。
静脈管/アランチウス管(臍静脈→下大静脈)
静脈管は臍静脈と下大静脈をつなぐ血管です。
胎盤から臍静脈を通って戻ってきた酸素の多い血液の一部は肝臓へ入りますが、残りは静脈管を通って肝臓を迂回し、下大静脈から右心房へ直接向かいます。
肝臓を通らないことで、酸素をあまり消費せずに心臓へ届けられる点がポイントです。
出生後の変化と閉鎖のタイミング
出生して肺呼吸が始まり、胎盤からの血流が途絶えると、3つのシャントは役目を終えて閉鎖していきます。

閉鎖には「機能的閉鎖(血流が止まる)」と「器質的閉鎖(組織が線維化して完全に閉じる)」の2段階があり、時期が異なる点に注意が必要です。
| シャント | 閉鎖のタイミング | 閉鎖後の名称 |
|---|---|---|
| 卵円孔 | 機能的閉鎖:生後数分 器質的閉鎖:生後数か月 | 卵円窩 |
| 動脈管 | 機能的閉鎖:生後12〜24時間 器質的閉鎖:生後2〜3週間 | 動脈管索(動脈管靭帯) |
| 静脈管 | 機能的閉鎖:臍帯切断後まもなく 器質的閉鎖:生後1〜3か月ごろ | 静脈管索(アランチウス索) |
出生の瞬間、肺呼吸の開始によって肺血管抵抗が急激に低下し、肺への血流が一気に増えます。
同時に臍帯が切断されて胎盤血流が途絶えるため、体血管抵抗は上昇します。
この2つの変化により肺静脈から左心房へ戻る血液量が増えて左心房圧が右心房圧を上回り、卵円孔は弁のように押し付けられて閉じます。
動脈管は、動脈血酸素分圧の上昇と胎盤由来PGE2の消失によって収縮し、閉鎖に向かいます。
なお、静脈管の遺残が静脈管索(アランチウス索)であるのに対し、臍静脈そのものが閉鎖したものは肝円索と呼ばれます。名称が混同されやすいため、あわせて整理しておくと安心です。
動脈管開存症(PDA)
動脈管が本来閉じるべき時期を過ぎても開存したままの状態を、動脈管開存症(PDA:patent ductus arteriosus)といいます。
先天性心疾患のひとつで、出生後は大動脈の圧のほうが高いため、大動脈から肺動脈へ向かう左→右短絡が生じ、肺血流が増加します。
一方で、大血管転位症など動脈管が開いていることで循環が保たれる疾患もあり、その場合はプロスタグランジンE1製剤を投与して動脈管の開存を維持します。
動脈管は「閉じればよい」だけの構造ではない点も押さえておきましょう。
3つのシャントをまとめて覚えるコツ
| 胎児循環 | 新生児循環 | |
|---|---|---|
| ガス交換の場 | 胎盤 | 肺 |
| 肺血流 | ごくわずか | 心拍出量のほぼ全量 |
| 肺血管抵抗 | 高い | 低い(出生直後に急低下) |
| 体血管抵抗 | 低い(低抵抗の胎盤あり) | 高い(胎盤血流が途絶) |
| 心房の圧 | 右心房 > 左心房 | 左心房 > 右心房 |
| シャント | 卵円孔・動脈管・静脈管が開存 | 3つとも閉鎖 |
胎児循環でつまずきやすいのは、シャントの名前・つながり・閉鎖後の名称が混ざってしまうことです。
次の順番で整理すると、記憶が定着しやすくなります。
印刷して活用しよう
胎児循環は、シャントの役割・閉鎖のタイミング・閉鎖後の名称を横に並べて見比べると一気に整理できます。
下記の資料には「3つのシャントと役割」「出生後の閉鎖のタイミング」「出生前後の循環の比較」を1枚にまとめました。実習前の確認や国家試験対策の暗記シートとして、印刷して手元に置いておくと便利です。
なお、掲載している時期や数値は学習用の目安です。文献によって幅があるため、実際の学習や実務では最新の教科書・ガイドラインもあわせて確認してください。
胎児循環
卵円孔・動脈管・静脈管の3つのシャントの役割、出生後の閉鎖のタイミングと閉鎖後の名称、胎児循環と新生児循環の比較を1枚にまとめた早見表です。