感染制御認定薬剤師の役割|ICT・ASTでの業務と認定の取得要件
病院で感染対策の委員会やラウンドに関わるうちに、「感染制御認定薬剤師を目指してみようかな」と考え始める薬剤師もいるはずです。
感染制御認定薬剤師は日本病院薬剤師会(日病薬)が認定する資格で、ICT(感染制御チーム)やAST(抗菌薬適正使用支援チーム)の中で、薬の専門家として感染対策を支える役割を担います。
この記事では、感染制御認定薬剤師の役割とチームでの業務、認定を受けるための要件・流れ・更新条件を、日病薬の公表資料をもとに紹介します。
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感染制御認定薬剤師が担う役割

感染制御認定薬剤師は、消毒薬や抗菌薬の知識を生かして、院内感染の予防・早期発見・拡大防止に関わる薬剤師です。 日病薬の公表資料では、令和7年10月1日現在の認定者は1,070名(うち更新者565名)です。
病院の感染対策は、医師・看護師・臨床検査技師などとのチームで進めます。 その中で薬剤師が受け持つのは、「どの薬を・どう使えば感染を防げるか」を判断する部分です。
感染対策マニュアルの作成と見直し
感染対策向上加算を届け出る病院では、感染制御チームが標準予防策や抗菌薬適正使用などを盛り込んだ手順書(マニュアル)を作り、各部署に配布することが施設基準で定められています。 薬剤師は、この中で薬に関わる項目の作成・改訂を受け持つことが多いです。
| 手順書の項目 | 薬剤師が関わる主な内容 |
|---|---|
| 標準予防策 | 手指消毒薬の選び方と使用方法 |
| 感染経路別予防策 | 病原体ごとに効果のある消毒薬の整理 |
| 職業感染予防策 | 針刺し後の予防内服やワクチンの情報提供 |
| 疾患別感染対策 | 疾患ごとの治療薬・予防投与の目安 |
| 洗浄・消毒・滅菌 | 消毒薬の濃度・希釈方法・保管方法 |
| 抗菌薬適正使用 | 特定抗菌薬の届出・許可の手順と使用指針 |
マニュアルは作って終わりではなく、新しい知見を取り入れて定期的に改訂することも施設基準に含まれています。 採用薬の切り替えや新しいガイドラインの公表があったときに、該当箇所を見直すのも薬剤師の仕事です。
サーベイランスと耐性菌の動向把握
サーベイランスとは、感染症の発生状況や抗菌薬の使用状況を継続的に集計し、変化をつかむ取り組みです。 薬剤師は、抗菌薬の使用量や広域抗菌薬の使用日数など、薬剤部にあるデータの集計を担当しやすい立場にあります。
集計したデータを、微生物検査で分離された耐性菌(MRSAなど)の動向と照らし合わせると、「特定の病棟で広域抗菌薬の使用が増え、耐性菌も増えている」といった変化に気づけます。
こうした変化を数字で示し、処方の見直しにつなげるのが薬剤師の強みです。
アウトブレイク時の対応
アウトブレイクとは、通常より多くの感染症患者さんが特定の場所や期間に集中して発生する状態です。 発生が疑われた時点で、感染制御チームが原因の調査と拡大防止策を一気に進めます。
薬剤師は、病原体に合った消毒薬の選定や在庫の確保、治療薬の選択や投与量の助言を受け持ちます。 病棟から問い合わせが集中しやすい場面なので、薬の情報を一本化して現場に伝える役割も大切です。
薬剤師って、アウトブレイクのときにどこまで関わるの?
職員への教育と研修
感染対策向上加算の施設基準では、感染制御チームが職員向けの院内感染対策研修を少なくとも年2回程度開くことになっています。 薬剤師は消毒薬の正しい使い分けや抗菌薬の適正使用などをテーマに講師を務めることがあります。
研修以外にも、病棟ラウンドの場で手指消毒薬の使用量や薬の保管状況を確認し、その場で助言することも教育の一部です。 現場の看護師から相談を受ける機会が増えるほど、薬剤師の視点を感染対策に反映しやすくなります。
薬剤師の求人を探す参考:厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和8年3月5日保医発0305第7号)」 / 日本病院薬剤師会「感染制御認定薬剤師認定者の公表について」
感染対策チームでの業務

病院の感染対策は、ICT(感染制御チーム)とAST(抗菌薬適正使用支援チーム)の2つのチームで進めることが多いです。 どちらにも薬剤師が入りますが、目的と業務の中身は異なります。
ICTの構成と薬剤師の位置づけ
ICTは、院内感染の予防と拡大防止を目的としたチームです。 令和8年度診療報酬改定後の感染対策向上加算でも、加算1・2ではICTに薬剤師を置くことが施設基準になっています。
| 職種 | 加算1 | 加算2 | 加算3 |
|---|---|---|---|
| 医師 | 感染症対策3年以上・専任常勤 | 感染症対策3年以上・専任常勤 | 専任常勤 |
| 看護師 | 感染管理5年以上+研修修了・専任 | 感染管理5年以上・専任 | 専任 |
| 薬剤師 | 病院勤務3年以上・専任 | 病院勤務3年以上または研修修了・専任 | 配置の定めなし |
| 臨床検査技師 | 病院勤務3年以上・専任 | 病院勤務3年以上または研修修了・専任 | 配置の定めなし |
施設基準で求められるのは「病院勤務経験3年以上」などの経験年数で、感染制御認定薬剤師の資格そのものは要件になっていません。 そのため認定は、チームの中で専門性を示し、業務の質を高めるための資格と考えるのが自然です。
ICTの日常業務の中心は、週1回程度の院内ラウンドです。 薬剤師は、手指消毒薬や環境消毒薬の使用状況、特定抗菌薬(広域抗菌薬・抗MRSA薬など)の届出・許可の運用状況を確認します。
ASTとの役割の違い
ASTは、抗菌薬の適正使用を支援し、治療効果の向上と耐性菌の抑制をめざすチームです。 ICTが「感染を広げない」ことを目的とするのに対し、ASTは「感染症の患者さんに適切な抗菌薬を使う」ことを目的にしています。
- 院内ラウンドと感染事例の把握
- 手順書(マニュアル)の作成・改訂
- 職員向けの院内感染対策研修
- 特定抗菌薬の届出・許可制の運用
- 対象患者さんの抗菌薬治療を早期から評価
- 主治医へのフィードバックと記録
- 施設内アンチバイオグラムの作成
- 採用抗菌薬の定期的な見直し
感染領域には、感染制御認定薬剤師(日病薬)のほかに、日本化学療法学会が認定する抗菌化学療法認定薬剤師もあります。
ICT寄りの業務が多いなら感染制御認定薬剤師、ASTで抗菌薬治療の支援を深めたいなら抗菌化学療法認定薬剤師と、自分の業務の比重で選ぶ人もいます。
消毒薬と個人防護具の管理
消毒薬は、病原体や使う場所によって効果のある成分が異なります。 薬剤師は、ノロウイルスなど一般的なアルコールが効きにくい病原体への対応も含めて、採用する消毒薬の種類と使い分けを整理します。
-
消毒薬の選定病原体・対象物(手指・器具・環境)に合わせて採用品を決める
-
希釈と保管希釈濃度・使用期限・開封後の管理方法を部署ごとに統一する
-
使用量の把握手指消毒薬の払い出し量から、部署ごとの手指衛生の実施状況をつかむ
-
個人防護具の備蓄マスク・手袋・ガウンなどの在庫と供給ルートを確認する
個人防護具(PPE)の管理は病院によって担当部署が異なりますが、新興感染症の流行時には薬剤部が供給調整に関わることもあります。
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地域の医療機関との連携
感染対策向上加算1を届け出る病院のチームは、加算2・3や外来感染対策向上加算を届け出る医療機関と合同で、年4回程度のカンファレンスを開くことが施設基準になっています。
このうち1回以上は、新興感染症の発生などを想定した訓練です。
カンファレンスでは、各施設の抗菌薬の使用状況や耐性菌の検出状況を共有します。
薬剤師は、中小病院やクリニックからの抗菌薬に関する相談に応じるなど、地域全体の抗菌薬適正使用を支える役割も担います。
院内だけじゃなく、地域の感染対策にも関わるんだね
参考:厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和8年3月5日保医発0305第7号)」
認定を受けるための要件

感染制御認定薬剤師の認定申請資格は、令和6年6月1日施行の内容が最新です(2026年10月19日確認)。 以下の条件をすべて満たしたうえで、日病薬の認定試験に合格する必要があります。
このほか、薬剤師免許があることと、病院長や施設長などの推薦も必要です。 認定薬剤師の種類やほかの資格との比較は、以下の記事にまとめています。
実務経験と感染制御活動の期間
申請には、薬剤師としての実務経験3年以上と、日病薬の会員であることが必要です(日本薬剤師会・日本女性薬剤師会の会員でも可)。
日病薬のQ&Aでは、実務経験は医療機関などで薬剤師として働いた期間を指し、大学・企業での研究開発や行政機関での勤務期間は含まれません。
あわせて、申請時に病院または診療所に勤務し、施設内の感染制御活動に3年以上、かつ申請時まで引き続き1年以上従事していることが条件です(所属長の証明が必要)。
感染制御活動には、院内感染防止対策委員会やICT・ASTの一員としての活動のほか、委員会・チームと連携した活動も含まれます。
申請時に病院または診療所に勤務していることが条件のため、保険薬局やドラッグストアで働いている間は申請できません。目指す場合は、感染対策チームのある病院への転職から考える必要があります。
医学・薬学系の大学院博士課程(4年制)の修了者は、個別審査のうえ、実務経験と感染制御活動の年数にそれぞれ2年を加算できる場合があります。
前提となる日病薬病院薬学認定薬剤師
申請時には、日病薬病院薬学認定薬剤師であることも求められます(日本医療薬学会の専門薬剤師制度で認定された専門薬剤師でも可)。
日病薬のQ&Aでは、感染制御認定薬剤師の認定開始日の前日に、この資格を持っている必要があるとしています。
日病薬病院薬学認定薬剤師の取得には、過去3年度の通算で50単位以上(毎年度10単位以上)の研修単位と、認定試験の合格が必要です。 単位の積み上げだけで最低3年度かかるため、感染制御の実務経験と並行して早めに取り組みましょう。
条件が多くて、どこから手をつけるか迷っちゃうよね
所属が必要な学会
申請時には、次のいずれかの学会の会員であることが必要です。
- 日本医療薬学会
- 日本薬学会
- 日本臨床薬理学会
- 日本TDM学会
- ICD制度協議会に加盟している学会・研究会
これらの学会は、講習単位を取得できる「別に定める学会」と同じです。
更新時には所属学会の条件がさらに細かくなるため、入会する学会は更新条件も見ながら選ぶと二度手間になりません。
症例報告の件数
施設内で感染制御に貢献した業務と、薬剤師としての薬学的介入で実施した対策を、20例以上報告できることが条件です。 日病薬は「感染制御に貢献した内容」として、次のような業務を例に挙げています。
- 院内ラウンドの実施
- 薬物血中濃度モニタリング(TDM)業務への参画
- 院内感染対策マニュアル・抗菌薬使用ガイドラインの作成
- 感染制御に関する各種サーベイランスへの参加
講習の受講時間と単位
日病薬が認定する感染制御領域の講習会や、指定の学会が主催する講習会などを、合計20時間・10単位以上履修する必要があります。
このうち、日病薬主催の感染制御に関する講習会を1回以上受講していることが条件です。
対象になる講習会は、厚生労働省・都道府県、日病薬(eラーニングを含む)、各都道府県病院薬剤師会が実施するもののほか、ICD制度協議会の講習会や四病院団体協議会のICS養成講習会です。
日病薬のQ&Aでは、認定申請に使う講習単位は受講した年度から5年間有効とされています。
- 薬剤師求人1,450件のうち病院は289件
- 病院求人の月給平均は約31.1万円
- 感染対策の経験を積むなら病院求人が中心
参考:日本病院薬剤師会「感染制御認定薬剤師認定申請資格」 / 日本病院薬剤師会「日病薬病院薬学認定薬剤師制度規程細則」
認定までの流れ

感染制御認定薬剤師の認定試験と認定申請は、原則として年1回です。 令和8年度は、5月に認定試験、7月上旬に認定申請の締め切りという日程が公表されていました。
単位と症例の積み上げ
試験の前に、講習単位と症例を計画的にためておきます。 講習会は日程が限られるため、年度の初めに日病薬や都道府県病院薬剤師会の開催予定を確認し、受講計画を立てておくと安心です。
症例は、介入した時点で内容・結果・自分の役割をメモしておくと、申請時にまとめやすくなります。 20例を短期間でそろえるのは大変なので、感染制御活動を始めた段階から記録を残しておくのがおすすめです。
認定試験
認定試験は日病薬が実施し、原則1日で行われます。 令和8年度の感染制御認定薬剤師認定試験は、5月10日(日)にTKPガーデンシティ渋谷で行う予定と公表されていました。
日病薬のQ&Aでは、認定試験の合格は合格した年度と翌年度の2回の認定申請に有効とされています。 試験に先に合格し、翌年度に症例や単位をそろえて申請する方法もとれます。
試験の合格は翌年度まで使えるから、計画が立てやすいね!
書類の準備と提出
申請では、認定申請書とあわせて、各条件を満たしていることを証明する書類を提出します。
- 実務経験・感染制御活動の従事期間の証明(所属長の証明)
- 日病薬病院薬学認定薬剤師などの認定証の写し
- 講習会の受講証明書・単位の証明書類
- 症例報告(20例以上)
- 病院長・施設長などの推薦
講習会の受講証や単位の証明書類をなくすと、その単位は認められません。 受講証は受講のたびにまとめて保管しておきましょう。
認定までにかかる費用は、認定試験の受験料・認定審査料・認定料の3つです。
日病薬主催の講習会の受講料(会員は1日1万円・税別)や学会の年会費も別にかかるため、数年がかりの準備費用として見込んでおきましょう。
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参考:日本病院薬剤師会「令和8年度各領域の専門薬剤師・認定薬剤師に係る研修・講習会・認定試験等の予定について」 / 日本病院薬剤師会「専門薬剤師・認定薬剤師認定制度規程細則」
認定後の更新と上位資格

感染制御認定薬剤師の認定期間は5年間です。 更新しないと、感染制御認定薬剤師を名乗ることはできません。
更新の周期と必要な単位
更新対象者には、満期の約1年前に日病薬から更新手続きの通知が届きます。 現在の更新条件(令和6年6月1日施行)では、更新申請までの5年間に、次の条件を満たす必要があります。
| 項目 | 新規認定 | 更新(5年ごと) |
|---|---|---|
| 講習単位 | 20時間・10単位以上(日病薬主催を1回以上) | 30単位以上(毎年3単位以上、日病薬の講習会で12単位以上) |
| 症例報告 | 20例以上 | 5年間で10例以上 |
| 学会発表・論文 | 不要 | 発表1回以上または論文1編以上 |
| 所属学会 | 指定学会のいずれか | 薬学会・医療薬学会・臨床薬理学会のいずれか+TDM学会・ICD加盟学会のいずれか |
| 前提資格 | 病院薬学認定薬剤師 | 病院薬学認定薬剤師 |
| 活動実績 | 感染制御活動3年以上 | 認定期間中の専門的業務の従事 |
| 認定試験 | 合格が必要 | なし |
令和8年度までに更新申請する人は、講習単位について従前の条件で申請することも認められています。 出産・育児などで条件を満たせない場合は、理由書を出して最長3年間まで更新を保留できますが、保留期間中は感染制御認定薬剤師を名乗れません。
更新の進め方や単位が足りないときの対処法は、以下の記事も参考になります。
学会発表や論文の要件
更新申請までの5年間に、感染制御に関する学会発表1回以上、または学術論文1編以上が必要です。 学会発表は、国際学会・全国レベルの学会・日病薬ブロック学術大会が対象で、共同発表者でも認められます。
論文は、複数査読制のある国際的・全国的な学会誌や学術雑誌に掲載されたもので、共同著者でも認められます。 日常のICT・ASTの取り組みをまとめて発表しておくと、更新条件と講習単位の両方に生かせます。
日々の取り組みをまとめれば、発表のネタになるよ
感染制御専門薬剤師へのステップ
感染制御認定薬剤師を取得すると、上位資格の感染制御専門薬剤師を目指せます。 専門薬剤師の申請には、認定薬剤師であることに加えて、学会発表2回以上・筆頭著者の論文を含む学術論文1編以上と、専門薬剤師認定試験の合格などが必要です。
認定薬剤師が「現場で質の高い業務を実践できる」ことを認める資格なのに対し、専門薬剤師は指導や研究まで担える能力を認める資格です。 認定薬剤師と専門薬剤師の違いは、以下の記事でも紹介しています。
専門薬剤師の申請時点で認定薬剤師の資格を持っている必要があるため、認定を更新しながら発表や論文の実績を積んでおくとスムーズです。
参考:日本病院薬剤師会「感染制御認定薬剤師認定の更新条件」 / 日本病院薬剤師会「感染制御専門薬剤師認定申請資格」
まとめ
感染制御認定薬剤師は、ICTやASTの中で消毒薬・抗菌薬の専門知識を生かし、院内と地域の感染対策を支える資格です。 感染対策向上加算の施設基準で資格そのものは求められていませんが、チームでの役割をはっきりさせ、業務の質を高める裏付けになります。
この記事のポイント
- マニュアル作成・サーベイランス・研修が主な役割
- ICTは感染を防ぐ、ASTは抗菌薬を適正に使うチーム
- 病院・診療所での感染制御活動3年以上が必要
- 前提資格の病院薬学認定薬剤師は早めに準備
- 認定期間は5年。更新には単位・症例・発表が必要
前提資格と感染制御活動の年数がそろうまでには時間がかかります。 今の職場で感染対策チームに関われるかどうかを確認し、難しい場合はICT・ASTの活動がある病院への転職も視野に入れてみましょう。


