鍼灸師になるには?資格の取り方から学費・試験・年収まで完全ガイド
鍼灸師とは、鍼やお灸で体のツボを刺激し、人が本来持っている回復力を引き出す医療の専門家です。
この資格を得るには、国が指定した養成施設で3年以上学んだうえで国家試験に合格しなければなりません。
ここでは、鍼灸師になるには何が必要なのかを、資格取得までの流れ・学費・国家試験・年収まで順を追って解説します。
鍼灸師になるには?必要な資格と取得までの流れ

鍼灸師になるには「はり師」と「きゅう師」という二つの国家資格が必要です。
実は法律上「鍼灸師」という単独の免許はなく、この二つを両方持っている人を総称して鍼灸師と呼んでいます。
それぞれの施術内容と効果は次の通りです。
金属製の鍼で体のツボを刺激する
痛みの軽減、自律神経の調整
もぐさを燃やした温熱でツボを刺激する
血行の改善、免疫力の向上
二つの試験は同じ日に実施され、出題の大部分が共通科目です。
そのため、ほとんどの受験者が一度の試験で両方の資格をまとめて取得しています。
養成施設の入学から免許取得までのステップ
鍼灸師になるまでの道のりは、大きく4つのステップに分かれます。
- 高校卒業後、厚生労働省または文部科学省が指定する養成施設に入学する
- 解剖学や生理学といった基礎医学、東洋医学の理論、鍼や灸の実技を3年以上かけて学ぶ
- 所定の課程を修了して卒業し、毎年2月に行われる国家試験を受験する
- 合格後、免許を申請・登録して鍼灸師として働けるようになる
鍼灸師は独学や通信教育では取得不可能
なお、鍼灸師の資格を独学や通信教育だけで取ることはできません。
0.1ミリから0.3ミリという髪の毛ほどの細い鍼を安全に扱う技術は、教科書を読むだけでは身につかず、教員の指導のもとで繰り返し練習して初めて習得できるものです。
養成施設では、人体の構造を学ぶ解剖学から、ツボの位置や東洋医学の考え方を体系的に学ぶ経絡経穴概論まで、幅広い専門知識と実技を身につけていきます。
法律上も、国家試験の受験資格を得るには指定の養成施設で対面による実技と臨床実習を含む課程を修了することが義務づけられています。
今のあなたの状況は?
鍼灸師の養成施設の種類と費用

鍼灸師を目指すうえで避けて通れないのが、養成施設の選択と学費の準備です。
専門学校と大学では修業年数やカリキュラムの方向性が異なり、かかる費用にも差があります。
ここでは、学校の種類ごとの特徴や学費の目安、費用を軽減できる公的支援制度について解説します。
専門学校と大学の違い
鍼灸師の養成施設には3年制の専門学校と4年制の大学があり、どちらを選ぶかで学びの方向性や将来の選択肢が変わります。両者の違いを整理すると次の通りです。
| 専門学校 | 大学 | |
|---|---|---|
| 修業年数 | 3年間 | 4年間 |
| 管轄 | 厚生労働省 | 文部科学省 |
| カリキュラム | 国家試験対策と実技指導に重点 | 一般教養や研究手法も幅広く学ぶ |
| 夜間部 | 設置校が多い | 基本的になし |
| 向いている人 | 最短で現場に出たい人、社会人 | 研究職や教育職も視野に入れたい人 |
専門学校は国家試験合格と臨床技術の即戦力化に特化しているのが強みです。
一方、大学では科学的な根拠に基づいて鍼灸の効果を検証する研究手法も学べるため、大学院への進学や教育職を視野に入れている人に適しています。
大学によっては、鍼灸師の免許に加えてアスレティックトレーナーなどスポーツ系資格の受験資格を同時に取得できるプログラムもあります。
学校選びで失敗を避けるには、過去3年から5年の新卒合格率の推移を確認することが重要です。
既卒者の合格率は新卒者より大幅に低くなる傾向があるため、在学中に確実に合格できる指導体制が整っているかを見極めましょう。
附属の臨床施設で実際の患者に施術できる実習環境があるか、万が一不合格だった場合に卒業後の対策講義を無料で受けられる「合格保証制度」があるかも、確認しておきたいポイントです。
学費の相場は3年間で350〜500万円
鍼灸師の養成施設に通うには、まとまった費用がかかります。
3年制の専門学校で約350万から500万円、4年制大学ではそれ以上になるのが一般的です。
学費の内訳は、入学金が30万円ほど、年間授業料が約100万円、施設維持費などの諸経費が年間30万円ほどです。
これに加えて、教科書代や白衣、鍼の道具といった教材費が3年間で10万円から14万円ほどかかります。
国家試験の受験手数料も「はり師」と「きゅう師」あわせて28,800円が別途必要です。
入学前の段階で総額を把握し、無理のない支払い計画を立てておきましょう。
「数百万円の投資」と聞くと不安に感じるかもしれませんが、一生涯使える国家資格であることを踏まえれば、長い目で見て回収できるコストといえます。
社会人でも働きながら通える夜間部
「鍼灸師に興味はあるけれど、今の仕事を辞めるわけにはいかない」という声は少なくありません。
そんな社会人の方にとって現実的な選択肢が、専門学校の夜間部です。
- 平日18時〜21時ごろの授業で、日中の仕事を続けながら通える
- 昼間部と同じカリキュラムで、国家試験の受験資格も同様に取得できる
- 昼間部より授業料が20〜30万円ほど安い学校が多い
- 日中に鍼灸院でアルバイトすれば、生活費を得ながら実務経験も積める
- 卒業後すぐに即戦力として働きやすい
20代から30代でキャリアチェンジを目指す方にとっては、収入を確保しながら資格を取れる堅実な方法です。
学費を抑える奨学金・給付金制度
数百万円の学費を全額自己負担する必要はありません。
社会人・高校生それぞれが使える主な支援制度は次の通りです。
| 専門実践教育 訓練給付金 |
教育訓練 支援給付金 |
日本学生支援機構 の奨学金 |
学校独自の 特待生制度 |
|
|---|---|---|---|---|
| 対象 | 雇用保険に加入 している社会人 |
45歳未満で離職 して学び直す人 |
高校生・保護者 | 学校ごとに異なる |
| 支給内容 | 学費の最大80% 上限192万円 |
受講期間中 失業保険の約80% |
給付型(返済不要) 貸与型(要返済) |
入学金・授業料の 一部免除 |
| 窓口 | ハローワーク | ハローワーク | 在籍校または 進学先の学校 |
志望校の 入試窓口 |
志望校が対象になっているか、募集要項を早めにチェックしておきましょう。
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鍼灸師の国家試験の難易度と合格率

鍼灸師になるには、はり師ときゅう師の国家試験に合格しなければなりません。
「国家試験」と聞くと不安に感じるかもしれませんが、養成施設でしっかり学んだ新卒者の合格率は約9割です。
ここでは、試験の合格率や出題内容、そして合格者に共通する勉強のコツを紹介します。
はり師・きゅう師試験の合格率の推移
直近の第33回試験の合格率は、はり師73.9%、きゅう師74.9%でした。
受験者の約4人に3人が合格している計算です。
| 回次 | はり師合格率 | きゅう師合格率 | 傾向 |
|---|---|---|---|
| 第1回(1993年) | 88.8% | 88.2% | 基本事項が中心 |
| 第26回(2018年) | 57.7% | 62.5% | 過去最低の合格率 |
| 第32回(2024年) | 69.3% | 70.2% | 近年の平均的水準 |
| 第33回(2025年) | 73.9% | 74.9% | 前年よりやや易化 |
ただし長い目で見ると試験は難しくなってきており、第1回試験では88%台だった合格率が、第26回試験では過去最低のはり師57.7%、きゅう師62.5%まで落ち込んだ年もあります。
注目すべきは新卒者と既卒者の差です。
新卒者の合格率は約9割にのぼる一方、卒業後に再受験する既卒者は1割程度しか合格できていません。
学校を離れてから膨大な学習内容を独力で維持し続けることは非常に難しいため、在学中に一発合格を目指すことが何より大切です。
参考:厚生労働省|第33回あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師国家試験の合格発表について
試験科目と出題範囲の概要
国家試験で問われる科目は、大きく「基礎医学」「臨床医学」「東洋医学」「専門理論」の4領域です。
試験はすべて四つの選択肢から正解を選ぶマークシート形式で、実技試験はありません。
実技は養成施設の卒業認定をもって免除されるため、筆記対策に集中できます。
近年は単純な暗記だけでは解けない応用問題や、写真・図を使った読解問題が増えています。
解剖学や生理学といった基礎科目を深く理解しているかどうかが、合否の分かれ目になっています。
はり師・きゅう師の同時受験で共通科目が免除
はり師ときゅう師の二つの国家試験は同じ日に実施され、同時に受験できます。
二つの試験は出題の大部分が共通しているため、同時受験を申請すると一方の共通科目が免除されます。
同時受験の出題構成
合格基準は6割以上の正答率で、上位から何人という定員制ではなく、基準点を超えた受験者は全員合格できる絶対評価の仕組みです。
ほとんどの受験者がこの同時受験を選んでおり、一度の試験で二つの免許をまとめて取得しています。
「二つの国家試験を受ける」と聞くと大変そうに感じますが、実質的な負担は1回分の試験とほぼ変わりません。
合格者に共通する効果的な勉強法
効率よく学習を進めるには、科目を「基礎科目」「暗記科目」「応用科目」の三つに分類する方法が有効です。
科目分類で進める3ステップ学習法
1年生の段階から日々の授業を丁寧に復習し、3年生の直前期に慌てないことが合格への近道です。
学校が実施する模擬試験を活用して、本番の時間配分に慣れておくことも欠かせません。
国家試験勉強に対しては、過去5年分以上の問題を繰り返し解くことで出題の傾向がつかめ、自分の苦手分野も明確になります。
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鍼灸師の年収と給料の実態

鍼灸師を目指すうえで、実際にどのくらいの収入が得られるのかは誰もが気になるポイントです。
勤務先の規模や地域、保有する資格の数によって年収には大きな幅があります。
ここでは、公的な統計データをもとに鍼灸師の収入の全体像を解説します。
勤務鍼灸師の平均年収の目安
鍼灸師の平均年収は約459万3,000円で、全職業の平均である約416万円を上回っています。
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査をもとにした数値で、平均月給は約31万8,500円、年間の賞与は約77万円です。
| 年齢層 | 年収の目安 | キャリアの特徴 |
|---|---|---|
| 20〜24歳 | 約313万円 | 新卒で月給約22万5,700円からスタートする時期 |
| 25〜29歳 | 約370万円 | 臨床経験を積み、対応できる症状の幅が広がる |
| 30〜34歳 | 約440万円 | 指名やリピーターが増え、収入が安定してくる |
| 35〜39歳 | 約496万円 | 中堅として後輩指導や院の運営にも関わる |
| 40〜54歳 | 約500万〜530万円 | 管理職・開業など、キャリアの選択肢が広がる |
| 55〜59歳 | 約550万円以上 | 月収約36万円に達し、年収のピークを迎える |
「国家資格を取っても食べていけるのか」という不安を持つ人は少なくありませんが、数字を見る限り、全産業の平均を超える収入を得られる職業です。
年齢とともに着実に収入が伸びていく点は、長く働くことを前提にした資格職の強みといえます。
エリア別・勤務先別の給与相場
鍼灸師の年収は、勤務する地域と職場の規模によって大きく変わります。
都道府県別では東京都が約543万円と最も高く、最も低い山梨県の約221万5,000円との間には約300万円もの開きがあります。
ただし、地方だから稼げないわけではなく、地域ごとの生活コストや競合の少なさを考慮すると、一概に都市部が有利とは限りません。
勤務先の規模による差も顕著です。大規模な法人ほど昇給制度や賞与の仕組みが体系化されているため、同じ経験年数でも年収に差が出やすくなります。
| 勤務先の規模 | 平均年収の目安 | 傾向 |
|---|---|---|
| 10〜99人 | 約408万円 | 個人院や小規模チェーンが中心。実力次第で歩合が伸びやすい |
| 100〜999人 | 約458万円 | 中規模法人で福利厚生や研修制度が整いはじめる |
| 1,000人以上 | 約507万円 | 昇給・賞与の制度が体系化され、安定した収入を得やすい |
従業員10人から99人の施設と1,000人以上の施設では、年間で約100万円の差が生じています。
就職先を選ぶ際には、給与額だけでなく、福利厚生や将来の昇給制度まで確認しておくことが大切です。
独立開業後の収入の変化
鍼灸師には、保健所に届け出ることで自分の治療院を開ける「開業権」があります。
経営が軌道に乗れば、勤務時代を大きく上回る収入も現実的です。
独立開業した鍼灸師の収入
一方で、鍼灸院の約40%が開業から5年以内に廃業しているという厳しい現実も見逃せません。
技術力があっても、患者が集まらなければ経営は成り立ちません。
立地の選定、ホームページやSNSを使った集客、リピーターを増やすための接客力など、施術とは別の経営スキルが成功と失敗を分けるポイントになります。
鍼灸師に向いている人と主な就職先

「自分に向いているのか」「資格を取った後どこで働けるのか」は、鍼灸師を目指すかどうかを判断するうえで気になるポイントです。
鍼灸師に向いている人の特徴
「自分は鍼灸師に向いているのだろうか」という不安は、多くの人が資格取得を考える際に感じるものです。
特別な才能は必要ありませんが、長く活躍している鍼灸師には共通する素質があります。
鍼灸師は、資格を取った時点がゴールではありません。働き始めてからも学び続ける姿勢が欠かせない仕事です。
伝統的な東洋医学の理論をベースにしながらも、美容鍼灸やスポーツ鍼灸など新しい分野が次々と広がっており、最新の研究や治療技術を取り入れて自分の施術を磨き続けられる人ほど、患者からの信頼を得やすくなります。
一度覚えた知識だけで満足してしまうと、日々進歩する医療現場についていくことが難しくなるという現実があります。
学会や研修会に足を運んだり、専門書を読んだりすることを苦にせず、むしろ知ること自体を楽しめる人にとっては、やりがいの大きい職業です。
鍼灸師の主な就職先
鍼灸師の資格を活かせる就職先は多岐にわたります。
最も多いのは鍼灸院・鍼灸接骨院で、肩こりや腰痛などの慢性症状に対して施術を行います。
このように活躍の場は幅広く、自分の興味や得意分野に合わせてキャリアを選べる点は鍼灸師の大きな魅力です。
また、鍼灸師の需要は高齢化の進展とともに着実に伸びており、施術所の数も過去10年で約1万か所増加しました。
薬を使わず体への負担が少ない治療法として高齢者からの支持が広がっているほか、美容・スポーツ・介護など活躍のフィールドも拡大し続けています。
まとめ
鍼灸師になるには、最短3年の養成校での学びを経て、国家試験を突破する必要があります。
まとまった学費はかかりますが、給付金制度や夜間部の活用により、社会人からでもリスクを抑えて挑戦できる環境が整っています。
平均年収は全産業平均を上回る約459万円で、ダブルライセンスや独立開業によってさらに収入を伸ばす道も開かれています。
超高齢社会で需要が拡大し続けるこの国家資格は、美容やスポーツなどあなたの関心に合わせて活躍の場を広げられる一生モノの武器になります。
確かな専門性を身につけ、自分らしいキャリアを今から歩み始めましょう。