専門薬剤師とは？取得するメリットと種類一覧【病院・薬局別おすすめ付き】

薬剤師としてのキャリアアップを目指すとき、選択肢に入るのが「専門薬剤師の資格取得」です。高度な知識とスキルが必要となりますが、臨床から研究職や指導者への転身、医療職としてのやりがい、年収アップなどを目指すことができるでしょう。

専門薬剤師は一つの団体が全て認定しているわけでなく、さまざまな学会が複数の専門薬剤師資格を制度化しています。

この記事では、専門薬剤師の種類一覧と、それぞれの概要について解説します。自分に合う資格がないかぜひ探してみてください。

専門薬剤師とは

専門薬剤師とは、次のような条件を満たしていると認められた「高度な知識とスキルを持つ薬剤師」をさします。

参照元：厚生労働科学研究費補助金 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業「6年制薬剤師の輩出を踏まえた 薬剤師の生涯学習プログラムに関する研究｜平成25年度 総括・分担研究報告書」

薬剤師が地域の医療へ貢献するためには、生涯にわたる学習と自己研鑽が必要です。

専門薬剤師の資格取得や更新には厳しい要件があります。それらをクリアした専門薬剤師は、日々アップデートされていく医療と薬物療法に責任を持って活動していると認められた薬剤師とも言えるでしょう。

専門薬剤師を取得するメリット

専門薬剤師になるには「特定の専門領域の研修を受ける」「専門領域の症例を提出する」など、多くの取得要件があります。簡単に取得できる資格ではありませんが、以下のようなメリットを感じることもあるでしょう。

自分の中でよりスキルを高めたいジャンルに専門薬剤師があるようであれば、ぜひ資格取得を検討してみてください。

専門薬剤師の種類一覧

2023年の厚生労働省の資料によると、専門薬剤師の種類は次のとおりです。

※役立つ勤務先については、2025年時点の資格者の所属先をもとに記載しています

参照：主な厚生労働省「領域別認定・専門薬剤師」

専門薬剤師は各学会で認定されています。取得するには該当の学会に所属している必要がある場合も多いため、検討している場合には取得要件を早めに確認しておくことが大切です。

病院薬剤師におすすめの専門薬剤師

ここでは、病院薬剤師が取得していると役立つ専門薬剤師について解説します。専門薬剤師の資格取得要件についての詳細は、各学会サイトをご覧ください。

感染制御専門薬剤師

日本病院薬剤師会が認定する「感染制御専門薬剤師」には、感染制御によって患者さんが安全に治療を受けられる環境を確保し、感染症治療において安全で適切な薬物療法が実施できるスキルが求められます。感染症の薬物治療についてはもちろん、消毒や微生物についての知識も持ち、院内感染対策チーム等の一員として院内感染防止対策に貢献できるスキルが必要です。

「感染制御認定薬剤師の資格を有している」「2回以上の学会発表」「学術論文の投稿が1編以上」などの取得要件があります。

参照元：日本病院薬剤師会「感染制御 専門薬剤師・認定薬剤師」

精神科専門薬剤師

「精神科専門薬剤師」は、日本病院薬剤師会が認定する資格です。精神科における薬物療法に対する高度な知識を持ち、精神疾患患者さんの治療と社会復帰に貢献できる薬剤師が認定されます。この資格で対象となる精神疾患は ICD-10 により分類された精神・行動の障害であり、該当する薬物療法について、医師と患者さん両方とコミュニケーションを取りつつ貢献していきます。

資格の申請時には精神科薬物療法認定薬剤師であることが必須要件です。また、学会発表や論文投稿などの要件を満たす必要があります。

参照元：日本病院薬剤師会「精神科 専門薬剤師・認定薬剤師」

妊婦・授乳婦専門薬剤師

日本病院薬剤師会が認定する「妊婦・授乳婦専門薬剤師」は、妊娠・授乳中の薬物投与の有害作用について高度な知識を持ち、母体・胎児・乳児の健康に貢献することが求められます。

単純に薬物の母体・胎児・母乳への影響を考えるだけでなく、母親が強い不安を抱いて胎児の中断や乳児の健康に影響をおよぼさないよう、わかりやすい説明を実施できることが重要です。また、必要に応じて産婦人科医や小児科医と適切な連携ができるスキルが望まれます。

資格取得には、学会発表や学術論文の投稿などの要件があります。

参照元：日本病院薬剤師会「妊婦・授乳婦 専門薬剤師・認定薬剤師」

HIV感染症専門薬剤師

日本病院薬剤師会が認定する「HIV感染症専門薬剤師」は、HIV感染症における薬物療法について高度な知識、技術、倫理観を持つ薬剤師が取得できます。安全で有効な薬物療法を行うことはもちろん、患者さんの意思を尊重しつつ治療を進めることができる倫理観も必要です。

資格申請時には、認定薬剤師である「HIV感染症薬物療法認定薬剤師」をすでに取得している必要があります。認定薬剤師の申請時には、病院・診療所・保険薬局に勤務し、HIV感染症患者に対する指導に3年以上（かつ申請時に引き続いて1年以上）従事していることなどの要件があります。

HIV感染症専門薬剤師は薬局薬剤師も目指すことができますが、病院薬剤師の取得者が多い傾向にあります。

参照元：日本病院薬剤師会「HIV感染症専門薬剤師部門」

がん専門薬剤師

「がん専門薬剤師」は、日本医療薬学会が認定する資格です。日々高度化していくがん薬物療法において高度な知識とスキルを持ち、良質かつ安全な治療を提供できることが求められます。がんの薬物療法について患者さんへ説明するだけでなく、提案されたレジメンの審査や、レジメンに基づいた薬物投与量や具体的なルートなどを調整するスキルが求められます。

がん専門薬剤師は国内で初めて広告可能とされた専門薬剤師資格であり、病院・診療所の街頭設置看板や新聞・雑誌などに「一般社団法人日本医療薬学会認定 がん専門薬剤師　氏名」といった表記ができます。資格取得には「薬剤師としての実務経験5年以上」「3領域のがん種について50症例の報告」などが要件とされています。

参照元：日本医療薬学会「がん専門薬剤師制度」

薬物療法専門薬剤師

日本医療薬学会が認定する「薬物療法専門薬剤師」は、特定の専門領域というよりも幅広い薬物療法全般において高度な知識とスキル、臨床経験を求める資格制度です。他職種と連携して患者さんへ最大の利益をもたらす薬物療法が実践できるような薬剤師が求められます。

「薬剤師の実務経験5年以上」「症例報告50以上」「学会発表・論文報告」などの要件を満たす必要があります。

参照元：日本医療薬学会「薬物療法専門薬剤師制度」

栄養サポートチーム（NST）専門療法士

栄養サポートチーム（NST）専門療法士は、一般社団法人日本栄養治療学会が認定する資格です。薬剤師特有の資格ではなく、管理栄養士、看護師、臨床検査技師なども対象です。静脈栄養・経腸栄養を用いた臨床栄養学について優れた知識と技能を持つ医療資格者が認定されます。

申請時の要件には「対象の国家資格者として3年以上医療・福祉施設に勤務し、栄養サポートに関する業務に従事」「対象のセミナーにおいて単位取得」などがあります。

参照元：日本栄養治療学会「NST専門療法士認定資格制度」 

緩和医療専門薬剤師

「緩和医療専門薬剤師」は、がん専門薬剤師に次いで広告が可能になった専門薬剤師です。「一般社団法人日本緩和医療薬学会認定 緩和医療専門薬剤師　氏名」として、看板や雑誌などで一般に向けて広告できます。日本緩和医療薬学会が認定する資格で、緩和医療に用いる医療⽤⿇薬・向精神薬を含む薬剤の適正な使用を推進し、患者や家族にとって最適な緩和医療を提供することを目標にしています。

資格取得の要件としては「薬剤師としての実務経験10年以上」「1症例について口頭試問（プレゼンテーション）を実施」などがあります。

参照元：日本緩和医療薬学会「緩和医療専門薬剤師」

腎臓病薬物療法専門薬剤師

「腎臓病薬物療法専門薬剤師」は、日本腎臓病薬物療法学会が認定する資格です。透析・腎移植・慢性腎臓病など、幅広い腎臓に関わる薬物の適正使用が実践できる一定水準以上の知識やスキルを持つ薬剤師が認定されています。

資格を取得するには「腎臓病薬物療法認定薬剤師として3年以上腎臓病の薬物療法に携わっている」「学会発表5回以上」「学術論文の投稿が3編以上」などが要件となります。

参照元：日本腎臓病薬物療法学会「腎臓病薬物療法専門薬剤師認定制度」

救急専門薬剤師

「救急専門薬剤師」は、日本臨床救急医学会が認定する資格です。救急医療における専門的薬剤業務が実践でき、かつ指導的な役割を果たすことで国民の健康に貢献することを目的としています。

まずは、救急認定薬剤師として5年以上の実務経験があることが必須要件です。その他に、症例・学会報告や学術論文の投稿などの要件を満たす必要があります。

参照元：日本臨床救急医学会「救急専門・認定薬剤師について」

医薬品情報専門薬剤師

「医薬品情報専門薬剤師」は、日本医薬品情報学会（JASDI）が認定する専門薬剤師です。医療施設、地域医療、教育、企業、行政での医薬品情報の活用を通じて、医薬品の適正使用を推進できる専門性を持つ薬剤師が取得できる資格であり、医薬品情報に関する高い専門知識や、技術、倫理観、経験が必要とされます。

チーム医療の中で医薬品情報を活用できることも目指しますが、どちらかと言うと組織としての薬物療法の適正化をはかり、安全性情報を組織で活用できる能力が求められます。資格取得には「医薬品情報としての業務5年以上」「オンラインセミナーへの参加」などが必須要件とされています。

参照元：JASDI 医薬品情報学会「専門薬剤師制度」

薬局薬剤師におすすめの専門薬剤師

専門薬剤師は病院薬剤師だけが取得できる、というわけでもありません。薬局薬剤師が取得できる資格について紹介します。

外来がん治療専門薬剤師

日本臨床腫瘍薬学会が認定する「外来がん治療専門薬剤師」は、病院または薬局での勤務経験が5年以上ある薬剤師が申請できる資格です。外来で行うがん薬物療法を安全に実施するための知識とスキルを持ち、患者とその家族が安心して治療を進められるよう、薬局・病院間で連携が取ることができるスキルが求められます。

外来がん治療専門薬剤師になるには、認定資格である「外来がん治療認定薬剤師」を取得する必要があります。認定資格に加えて「病院または薬局での勤務歴が5年以上」「がん診療病院連携研修」を修了することが取得要件です。

参照元：日本臨床腫瘍薬学会「BPACC制度について」

地域薬学ケア専門薬剤師

「地域薬学ケア専門薬剤師」は日本医療薬学会が認定する資格で、薬局薬剤師として幅広い薬物療法の高度な知識とスキルを持つことが求められます。高度な薬物療法の知識とスキルで、地域医療・介護などの現場で活躍している薬局薬剤師を認定していますが、副領域としてがんの専門知識も持つ場合には「地域薬学ケア専門薬剤師（がん）」として認定しています。

「薬剤師としての実務経験5年以上」「学会発表もしくは学術論文の投稿」などの要件があります。

参照元：日本医療薬学会「地域薬学ケア専門薬剤師制度」

認定女性ヘルスケア専門薬剤師

日本女性医学学会が認定する「認定女性ヘルスケア専門薬剤師」には、女性医学の分野の専門家としての知識やスキルが必要です。この学会の認定資格は薬剤師以外の医療資格者も対象となっていて、おもに医師の取得者（認定女性ヘルスケア専門医）が大半を占めています。2025年8月時点の認定女性ヘルスケア専門薬剤師は、わずか19名です。

資格の申請には「医療従事者および更年期医療等の女性医学の分野で活動している」「学会の研修単位を30単位取得する」などの要件がありますが、企業において女性の健康に関する事業に関わる薬剤師なども要件を満たせる可能性があります。

参照元：日本女性医学学会「専門医・専門資格制度」

日本禁煙学会認定専門指導者

日本禁煙学会の「日本禁煙学会認定専門指導者」には、禁煙指導についての一定水準以上の知識とスキルが求められます。医療資格と取得要件を満たせば薬剤師以外も取得できる資格です。

取得要件としては「学会に5年以上在籍している」「禁煙指導を5年以上実施している」「禁煙講師歴・学会発表歴・論文執筆歴のいずれか」「研修カリキュラムを修了している」を満たす必要があります。

参照元：一般社団法人日本禁煙学会認定専門指導者・認定指導者制度

専門薬剤師になるには

専門薬剤師は簡単になれるものではありません。それぞれの学会によりますが「薬剤師としてある程度の実務経験があること」や「該当する学会への所属」「専門薬剤師の研修カリキュラムの修了」は、どの資格でもほぼ必須の要件です。

また、学会によっては、「専用の研修施設に勤務していること」や「学会・学術論文の発表」「認定薬剤師の取得」なども取得要件になることがあります。

いずれにしても、専門薬剤師になるには何年かかけて要件を満たしていく必要があるため、目指したい資格がある場合には、早めに計画的に動く必要があるでしょう。さらに、専門薬剤師を取得した場合、5年ごとに更新が必要なことがほとんどです。薬剤師としての専門性を高めるために、日々知識をアップデートし自己研鑽に励む必要があります。

専門薬剤師を取得して周りと差別化しよう

専門薬剤師は、病院薬剤師以外の方でも目指せるものもあります。この記事をきっかけに、ご自身のキャリア設計を考えてみるのもおすすめです。

最新の医療・薬物療法の情報を活用できる薬剤師になるには、生涯にわたった学習が不可欠です。自己研鑽をして今後のキャリアアップができるよう、専門薬剤師の資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。

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