看護師の前残業は当たり前なの?理由や看護協会の見解、業務効率化の実例を紹介

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「看護師って前残業するのが当たり前なの?」

「どうすれば前残業を減らせるんだろう?」

「前残業が少ない職場はあるのかな?」

このように悩んでいる方は少なくありません。多くの看護師は、定刻より早めに出勤し業務を行っていますが、常態化すると心身の負担になる可能性があります。

そこでこの記事では以下について解説します。

  • 看護師の前残業が当たり前になっている理由
  • 労働基準法で見る前残業の扱い
  • 前残業に関する看護協会の見解と実際
  • 前残業を減らすための具体的な対策と業務効率化の事例
  • 前残業が少なめの職場

前残業がつらいと感じており、働き方を見直したい方はぜひ参考にしてみてください。

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看護師の前残業が当たり前になっている5つの理由

白衣を着た女性が頭を抱えてる

「前残業」とは、始業前に業務準備や情報収集を行う勤務外の作業のことです。医療現場では日常的に行われていますが、勤務時間外労働として扱われるべきケースもあります。

看護師の前残業は「通常より早めに出勤して業務をする」だけではありません。現場の慣習や人員体制、看護師自身の責任感など、さまざまな要因が重なって発生します。前残業が当たり前になっている5つの背景を見ていきましょう。

1.業務開始前でないと情報収集ができない

病棟看護師の1日のスケジュールは分刻みです。勤務開始時間になると、すぐに点滴や清潔ケア、創傷処置といったケアが始まります。急変や急患への備えも欠かせません。

そのため、多くの看護師は時間前にカルテを開き、前日の記録や当日の検査や手術のスケジュール、処方変更などを確認します。

連休明けの場合、患者さんの状態が変化していたり、新しい患者さんが入院していたりすることもあるため、情報の整理に時間がかかることも少なくありません。業務が始まってから情報収集を行うと、患者さんの対応に支障をきたす恐れがあるため、始業前に確認しておくことが習慣になっているのです。

始業時間に業務を開始すると1日のスケジュールが押して残業になってしまうというケースも多いですよね。

2.前残業が暗黙のルールになっている

前残業が常態化している職場では、「早く来るのが当たり前」の雰囲気がある場合もあります。特に新人看護師の場合、5分前の出勤でも十分ではないと受け取られることもあるようです。病棟の文化や雰囲気が影響している場合もあります。

こうした暗黙のルールは、「みんながやっているから」という雰囲気で続いていることが多いです。

3.業務量が多く、前残業をしないと終わらない

病棟勤務の場合、最低限の人数でシフトが組まれていることも多く、1人あたりの受け持ち患者数が多くなりやすいです。さらに緊急入院や急変対応が重なると、定時で業務を終えることが難しくなります。

こうした経験があると、少しでも早めに業務を進めておこうという考えが定着し、前残業が当たり前になってしまうのです。

4.看護記録以外の書類業務が多い

看護師の業務の中で、患者さんのケアの他に時間を要するのが「記録」です。毎日の看護記録や看護計画に加え、入退院の書類やカンファレンス記録、退院時サマリー、看護必要度など書類は多岐にわたります。

また、転倒・転落やインシデントが発生すれば、報告やレポートの提出が求められます。勤務時間内に書類作成が難しく、早めに出勤して行う人も少なくありません。記録類の多さは、前残業の大きな要因となっています。

看護師が担当する書類

  • 看護記録
  • 看護計画
  • 入退院書類
  • 看護必要度
  • カンファレンス記録
  • インシデントレポート

5.委員会や勉強会、看護研究の仕事がある

看護師の仕事は、患者さんのケアだけではありません。委員会活動や勉強会、看護研究など多岐にわたります。

教育委員会や記録委員会、臨床指導者会、リスク委員会といった活動に加え、看護研究に関わる機会があります。時間内で行われる場合は、委員会参加を見込んだスケジュールで動かなければなりません。

また、看護研究は勤務時間内で行うのが難しく、自分の時間を割いて取り組んでいるのが実情です。

委員会が勤務時間内であってもほかの業務が終わらずに残業になったり、時間外で業務をしないと終わらない場合も多いですよね。

労働基準法で見る看護師の前残業の扱い

労働基準法のぶろっくが紙の上に置いてある

「前残業は当たり前だから残業代は出ない」と考えている方もいるでしょう。しかし、労働基準法から見ると、支給対象となるケースもあります。

労働基準法では、労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間」と示しています。具体的には以下のとおりです。

労働基準法によって示されている労働時間
  • 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替えなど)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃など)を事業場内において行った時間
  • 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機などしている時間(いわゆる「手待時間」)
  • 参加することが業務上義務付けられている研修や教育訓練、使用者の指示により業務に必要な学習などを行っていた時間

上記を踏まえると、前残業は「労働」とみなされる可能性もあるのです。

参照:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)/厚生労働省

1.残業代が支払われるケース

看護師が前残業をして、残業代の支払い対象となるのは以下のようなケースです。

  • 師長や管理者から「早めに出勤して対応してほしい」といわれたとき
  • 勉強会の準備を、業務開始前にするように指示されたとき

2.残業代が支払われないケース

一方、ご自身の判断で早めに出勤した場合は、基本的に残業代は支払われないことが多いです。

  • 他のスタッフに合わせて早めに出勤しているとき
  • 通勤ラッシュを避けるために、早めに出勤しているとき

ただし、業務上必要で前残業をする場合もあります。その場合は、事前に上司へ確認し、記録を残しておくとよいでしょう。

3.残業代を請求するためのポイント

前残業が指示に基づくものである場合、以下の準備をしておくとよいでしょう。

記録を残しておくことで、後からの申請や説明がスムーズになります。

  • 事前に上司に相談して、了承を得ておく
  • 出退勤記録やカルテ操作履歴を控えておく
  • 実際の作業時間をメモしておく

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前残業(時間外労働)に関する日本看護協会の見解と実際

スーツを着た中年の女性が笑顔で立っている

日本看護協会では、「就業継続可能な看護職の働き方」で、5要因10項目を提案しています。要因の一つに「時間外労働」を挙げ、業務開始前残業や持ち帰り残業、勤務時間外での研修参加などを把握し、「必要な業務は所定労働時間に組み込む」ことを挙げています。

しかし、人員不足であることや現場での周知がされておらず、あいまいに扱われているケースが少なくありません。看護協会の見解と実際の現場では乖離しているといえるでしょう。看護協会の見解と看護現場の実際を見ていきます。

1.看護協会の見解

日本看護協会の「労働に関するよくあるご質問」によると以下が示されています。

時間外労働について
  • 業務上参加を指示された研修・委員会・看護研究などの時間は労働時間として取り扱うのが適切。労働時間とみなされる研修・教育訓練が所定の勤務時間外に行われた場合には、残業代の支払いが必要。
  • 新人職員だからといって、実際に行った時間外の申請を認めないことは不適切。
  • 事業者は、厚生労働省令で定める方法により、職員の労働時間の状況把握と記録をすることが義務付けられており(労働安全衛生法第66条の8の3)、労働時間は1分単位で把握する義務がある。
  • 事前申請した残業時間や、目安の残業時間を超えた場合は、実際にかかった労働時間を残業時間として申請し、賃金の請求が可能。
  • 上司の明示又は黙示の指示を受けて持ち帰って看護記録などの業務を実施しているのであれば、労働時間とみなされる。事業所内で行う業務と同様、所定労働時間を超えた時間については残業代の支払いが必要。

つまり、「命令がある業務上必要な作業」であれば、時間外労働として残業代を支払う必要があるというのが、看護協会の見解です。

参照:労働に関するよくある質問/日本看護協会

2.看護現場の実際

看護協会では前述の見解を示していますが、十分には浸透していないのが現状です。

「2019 年病院および有床診療所における看護実態調査」では、以下の結果が報告されています。

  • 「前残業」を時間外労働として扱っていない病院:62.9%
  • 勤務時間外に院内で開催する研修への参加について、時間外労働として「扱っていない」病院:26.4%
  • 「前残業」があった看護職員:61.8%
  • 事務作業や院内の看護研究などを業務時間外、自宅に持ち帰った看護師:29.9%(平均5.5時間

参照:就業継続が可能な看護職の働き方の提案/日本看護協会 p18

参照:2023 年 病院看護実態調査 報告書/日本看護協会

さらに「就業継続が可能な看護職の働き方の提案」では、時間外労働を申請した時間(平均5.8時間)と実際の労働時間(平均8.7時間)の間に、約3時間の乖離があることも明らかになっています。

参照:就業継続が可能な看護職の働き方の提案/日本看護協会 p18

こうした結果からも、多くの現場で労働時間の把握が不十分であり、未払い残業のリスクが存在していることが分かります。

前残業を減らすための対策と業務効率化の事例

白衣を着た女性がパソコンの前で笑顔でこちらを向いている

前残業を減らすには、個人の努力だけでは限界があります。病院や組織全体での「働き方を変える仕組み作り」が必要です。ここでは、取り組みやすい対策や看護業務の効率化につながった事例を紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

1.病棟全体で情報を共有し、改善策を立てて実践する

まず大切なのは、現状を分析し情報を共有することです。なぜ前残業が発生しているのか、チーム全体で把握するようにしましょう。業務内容や時間、流れを把握するのがポイントです。

その上で以下の改善策を進めるとよいでしょう。

  • 記録方法の標準化
    例)入力項目やテンプレートを統一する
  • 業務手順の標準化
    例)誰が行っても同じ流れでできるようにする
  • 物品配置や動線の工夫
    例)探す時間を短縮できる配置にする

小さなことでも積み重ねれば、1人あたりの業務時間を減らすことにつながります。チーム全体で意識を持つことが重要です。

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2.AIやICT活用で業務の効率化を図る

AIやICT活用は、看護師の人員不足や業務効率化に対して効果的です。しかし、AIは情報漏洩の懸念もあり、医療ではまだまだ進んでいないのが現実です。病院全体、さらには病院外の企業と連携して取り組む必要があります。

東京都では、医療機関におけるAI技術促進事業を打ち出しています。

参照:令和7年度 医療機関におけるAI技術活用促進事業/東京都 保健医療局

以下ではICTの導入事例を紹介します。

事例1:自治医科大学附属さいたま医療センター(埼玉県)

自治医科大学附属さいたま医療センターでは、病棟看護師の時間外勤務が「1人あたり月平均15時間」であり、人員に関しての課題がありました。そこで、看護師間の報告・連絡の効率化と移動距離の削減を目的とし、インカム(インターコミュニケーションシステム)を導入しています。

その結果、1日あたり「約32分の時間効率化、移動距離は2.8km減少」と改善が見られました。業務連携がスムーズになり、看護の質が向上したと報告されています。

病棟看護師の時間外勤務
1人あたり月平均15時間
インカム導入
1日あたりの効果
約32分の時間効率化・移動距離は2.8km減少
看護師間の報告・連絡の効率化と移動距離の削減によって業務連携がスムーズに

参照:業務量調査から見えた業務負担とその改善策チーム活動を円滑にする通信機器の活用/自治医科大学附属さいたま医療センター

事例2:社会医療法人柏葉会 柏葉脳神経外科病院(北海道)

柏葉脳神経外科病院では、時間外勤務の主な原因である「看護記録」を問題視し、業務の改善を試みました。「音声入力システム」の導入によって、以下の結果が得られています。

今後も積極的に活用を進め、音声入力が当たり前になる環境作りを目指しています。

勤務時間外平均看護記録時間
  • 急性期病棟:63.3分 → 15.0分
  • 亜急性期病棟:8.0分 → 4.6分(参考値)

参照:ナースハッピープロジェクト(NHP)音声入力による記録時間の削減/社会医療法人 柏葉会 柏葉脳神経外科病院

3.タスクシフト/シェアで他職種と協働する

タスクシフト/シェアとは、これまである職種が担っていた業務を、他の職種にシフトしたりシェアしたりすることをいいます。それぞれの職種の負担を最適化し、医療の質を高める取り組みとして、近年注目されています。

事例:聖隷三方原病院(静岡県)

聖隷三方原病院では、医師の協力のもと、看護師が電子カルテ上で、食形態や安静度を変更できる仕組みを作りました。また、看護補助者の役割を明確にし、看護師が専門的なケアができる環境も整えています。

参照:看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアへの取り組み 事例3 社会福祉法人聖隷福祉事業団総合病院 聖隷三方原病院/日本看護協会

4.時間外労働を減らす職場環境を整える

看護師の前残業を減らすために最も重要なのは、職場の環境作りです。組織全体で改善することで、スタッフそれぞれの意識も変わります。具体的には以下のとおりです。

  • 定時退勤を推奨する文化を作る
  • 労働時間を見える化する
  • 管理職が時間外勤務を減らす行動を示す

なぜ前残業が発生しているのか、どうすれば前残業を減らせるのかを、スタッフ全員で考えることが大切です。

前残業が少なめの職場

白衣を着た女性3人が重なって笑顔でこちらを向いている

看護師の前残業は、仕事の仕組みや職場風土に左右されます。AI活用やタスクシフトの推進も重要ですが、前残業が少ない職場を選ぶことも一つの解決策です。訪問看護ステーションや介護施設、クリニックなどでは、比較的前残業が発生しにくい環境にあるといわれています。

1.訪問看護ステーション

訪問看護ステーションは、訪問スケジュールに合わせて自分で判断し、動けるのが特徴です。モバイル端末を導入しているところも多く、訪問先で記録できることもあります。申し送りは、チャットやLINEで行っているところもあり、リアルタイムでの情報共有が可能です。

また「直行直帰制度」を採用している事業所も増えています。直行直帰とは、朝は事業所に立ち寄ることなく訪問先に向かい、夕方は訪問先から直接帰宅することです。利用者の急変や家族対応などでスケジュールが変動することもありますが、前残業が発生しにくい傾向にあります。

2.介護施設

介護老人保健施設や特別養護老人ホームなどの介護施設は、利用者の生活リズムに合わせて業務が組まれます。日々の業務の流れが安定しているのが特徴です。緊急入院の受け入れや、緊急手術といった病棟のような変動はありません。そのため、病院勤務に比べて前残業が発生しにくい傾向にあります。

医療行為よりも生活支援が中心であるため、勤務時間のコントロールがしやすいこともあります。

3.クリニック

クリニック勤務は、病棟勤務と比べて業務範囲が限定され、午前・午後で診療時間が区切られているため、業務の始まりと終わりが明確になりやすい傾向です。夜勤や入院対応もないこともあり、前残業が発生しにくいケースが多いです。

ただし、繁忙期(インフルエンザ時期など)には一時的に残業が発生することもあります。

クリニックの休診日は固定されていることが多く、仕事と家庭の両立がしやすいと考えられています。

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