鍼灸師がクレームを受けたときの対応マニュアル|よくある事例・正しい初期対応・予防策まで解説

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施術後に「痛みが悪化した」「効果が感じられない」と言われたり、料金や接客への不満を伝えられたり。鍼灸師として働いていれば、クレームに直面する場面は少なくありません。真摯に施術していても、患者さんの受け取り方や説明不足からトラブルになることはあります。対応を誤れば信頼を失い、口コミの悪化や賠償問題に発展することもあります。

実は、クレーム対応には基本の型があります。まず話を最後まで聴いて共感し、事実を確認してから解決策を示す。この順序を守るだけで、多くは落ち着いて収められます。そして、その大半は事前の説明と記録で未然に防げるものです。

この記事では、クレームが起こる原因と正しい初期対応、ケース別の具体例、カスハラへの備え、予防策、そして賠償責任保険までを、現場で使える形で解説します。

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目次

鍼灸師がクレームを受ける主な場面

鍼灸師へのクレームは、施術そのものへの不満だけでなく、説明・費用・接客・予約対応など幅広い場面で起こります。

ここでは現場で特に多い6つの場面を取り上げ、それぞれの背景にある患者さんの気持ちを整理します。

クレームが起こりやすい主な6場面

施術そのものへの不満だけでなく、説明・お金・接客・運営まで原因は幅広い

施術そのものへの不満
  • 施術後に痛み・不調が悪化したと言われる
  • 「効果がない」「変わらない」と感じさせる
  • 内出血(皮下出血)が出る
説明・お金・接客・運営への不満
  • 費用や保険適用の説明に不満を持たれる
  • 態度や言葉遣いに不快感を持たれる
  • 予約時間・待ち時間への苦情

クレームは「施術ミス」だけが原因ではなく、その多くは説明不足やコミュニケーションのすれ違いから生まれます。どの場面でも起こりうると知っておくと、落ち着いて初期対応ができます。

施術後に痛みや不調が悪化したと言われる

「鍼を打った後に痛みが強くなった」「だるさが続いている」といった訴えは、鍼灸で比較的起こりやすいクレームです。

施術後に一時的なだるさや眠気、症状の揺り戻しが出ることもありますが、事前に説明がないと患者さんは「悪化させられた」と受け取ってしまいます。実際には施術と無関係な日常動作が原因のこともあり、その場で因果関係を断定するのは禁物です。

「効果がない」「変わらない」と感じさせてしまう

数回通っても「症状が変わらない」「お金がもったいない」と感じる患者さんは一定数います。鍼灸の効果には個人差があり、慢性的な症状ほど改善に時間がかかります。

一方で患者さんは「1回で良くなる」と期待していることも多く、その期待と現実のズレが不満につながります。

内出血や皮下出血が出る

鍼を刺した部位に内出血が生じることは、鍼灸で起こりうる一般的な現象です。毛細血管に鍼が当たることで起こり、痛みや健康被害を残すものではありません。

それでも見た目の変化に患者さんが驚き、「あざができた」とクレームになることがあります。特に顔や手など人目につく部位では、不満が大きくなりがちです

費用や保険適用の説明に不満を持たれる

「思っていたより高い」「保険が使えると思っていた」といった費用面のクレームも多く起こります。鍼灸の施術費用は自由診療が基本で、医師の同意書があり一定の傷病に該当する場合のみ療養費(保険)の対象となります。

この仕組みは患者さんに伝わりにくく、料金体系や保険の条件を共有していないと、会計時のトラブルになります。回数券や追加施術の費用も、事前の合意がないと「聞いていない」と言われがちです。

参考:厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」

施術者の態度や言葉遣いに不快感を持たれる

施術の腕とは別に、態度や言葉遣いへの不満がクレームになることもあります。説明がそっけない、目を見て話さない、私語が多い、上から目線に感じる——こうした印象は患者さんの満足度を大きく下げます。

鍼灸院は体に触れる距離の近いサービスのため、接遇の印象が施術全体の評価を左右します。特に初診の患者さんは緊張しており、ちょっとした言葉のニュアンスを敏感に受け取ります。

予約時間・待ち時間に対する苦情

「予約したのに待たされた」「施術時間が短かった」など、時間に関する苦情も少なくありません。予約制でも、前の患者さんの施術が延びれば後ろにずれ込み、待ち時間が発生します。施術時間が日によって違うと、「今日は短かった」と不満につながります。

患者さんは自分の時間を割いて来院しているぶん、時間の扱いには敏感です。

ここで挙げた場面の多くは、施術ミスそのものより、説明不足やコミュニケーションのすれ違いから生まれます。それぞれへの具体的な対応はのちほど「ケース別の対応例」で、起こさないための工夫は「クレームを未然に防ぐためにできること」で詳しく解説します。

クレームが起こる根本的な原因

個々のクレームは状況が違っても、根っこをたどると共通の原因に行きつきます。目の前の訴えにその都度対応するだけでなく、この根本原因を理解しておくと、再発そのものを減らせます。

ここでは鍼灸師が押さえておきたい3つの原因を整理します。

クレームに至る「根本原因」の因果フロー

状況が違っても、根っこの原因はつながっている

01説明不足
施術の内容・効果・回数や料金を、患者が納得できるまで伝えきれていない。
02期待値のズレ
説明が足りないまま施術が進み、患者の「思っていた結果」と現実が食い違う。
03コミュニケーション不足
ズレが生じても確認・対話の機会がなく、不満が解消されないまま積み重なる。
RESULT
クレームの発生

原因の連鎖を断つ起点は「01 説明不足」の解消。最初の説明を丁寧にすることが、再発防止につながる。

施術前後の説明不足

クレームの多くは、施術の前後で十分な説明がなされていないことから生まれます。

どんな施術を行うのか、どんな反応が出るのか、費用はいくらかかるのか——これらを事前に共有していないと、患者さんは「聞いていない」「想定外だ」と感じます。

初診時の問診や同意確認が浅いまま施術を進めると、リスクの説明漏れや認識のズレはいっそう起こりやすくなります。

起こりうることを先に伝えておけば、同じ現象が起きても「説明されていた」と受け止められます。説明は施術の一部だと考え、省略しないことが予防の基本です。

患者さんの期待値と実際の効果のズレ

患者さんは「すぐに治る」「一度で楽になる」と期待して来院することが多いものです。一方で、慢性的な症状や体質に関わる不調は、改善に時間がかかります。

この期待と現実のギャップが大きいほど、「効果がない」という不満につながります。

施術前に改善の見通しや必要な回数を率直に伝え、過度な期待を持たせないことが大切です。できることとできないことを正直に示すほうが、結果的に信頼を得られます。

施術者と患者さんのコミュニケーション不足

施術中の会話や、患者さんの表情・反応への気配りが不足すると、不満を抱えていてもその場で言い出せず、後からクレームになることがあります。「痛くないですか」「強さはどうですか」と適度に声をかけ、患者さんが要望を伝えやすい雰囲気をつくることが大切です。

一方的に施術を進めるのではなく、双方向のやり取りを意識することで、小さな不満を早めに拾い、大きなクレームになる前に対処できます。

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クレームを受けたときに絶対やってはいけない対応

クレームそのものより、その後の対応で信頼を失うケースは少なくありません。初期対応を誤ると、患者さんの怒りを増幅させ、解決を難しくします

ここでは、クレームを受けた瞬間にやってしまいがちな5つのNG対応を取り上げます。これらは無意識にやってしまうことが多いため、あらかじめ「やらないこと」として意識しておくことが重要です。まずは落ち着いて、患者さんの話を受け止める姿勢を持ちましょう。

クレーム対応でやってはいけない5つのこと

無意識にやりがち。「やらないこと」として事前に意識しておく

1×

すぐに言い訳をする

正しい説明でも、相手が感情的な段階での弁明は「向き合ってくれない」と映り、逆効果になる。

2×

相手の話を遮って説明し始める

最後まで聞かず口を挟むと、「聞いてもらえない」という新たな不満を生む。

3×

感情的に言い返す

感情のぶつかり合いは対立を深め、冷静な解決から遠ざかる。

4×

「自分は悪くない」という態度を見せる

腕組み・ため息など非言語の防御姿勢は、言葉以上に相手の不満を高める。

5×

その場しのぎの謝罪をする

中身のない謝罪は見抜かれ、「形だけだ」と受け取られて信頼を損なう。

まずは落ち着いて、患者さんの話を受け止める姿勢を持つことが初期対応の基本です。

すぐに言い訳をする

クレームを受けた瞬間に「それは○○だからです」と理由を並べると、患者さんは「言い訳をしている」「向き合ってくれない」と感じます。たとえ説明として正しくても、相手が感情的になっている段階での弁明は逆効果です。

まずは不満を受け止め、相手の気持ちが落ち着いてから事実や経緯を伝える順番が大切です。説明は必要ですが、タイミングを誤らないようにしましょう。

相手の話を遮って説明し始める

患者さんが話している途中で口を挟み、こちらの説明を始めると、「話を聞いてもらえない」という新たな不満が生まれます。クレーム対応では、まず最後まで話を聴くことが何よりも重要です。途中で遮ると、患者さんは伝えたいことを言い切れず、不信感が強まります。

相づちを打ちながら最後まで耳を傾け、相手が話し終えてから対応に移りましょう。

感情的に反論する

患者さんの言葉に対してこちらも感情的になり、強い口調で反論するのは最も避けたい対応です。感情のぶつかり合いは事態を悪化させ、解決を遠ざけます。理不尽に感じる内容でも、その場で言い返さず、冷静さを保つことが求められます。

感情的になりそうなときは、一度深呼吸をして間を置き、事実の確認に意識を向けると落ち着いて対応できます。

「自分は悪くない」という態度を見せる

言葉にしなくても、表情や態度で「自分に非はない」という姿勢が伝わると、患者さんの不満は一気に高まります。腕を組む、目をそらす、ため息をつくといった仕草は、防御的な印象を与えます。

仮に施術に落ち度がなくても、不快な思いをさせた事実には誠実に向き合う姿勢が必要です。態度は言葉以上に相手に伝わることを意識しましょう。

その場しのぎの謝罪をする

早く収めたい一心で、中身のない謝罪を繰り返すのも逆効果です。「とりあえず謝っておこう」という姿勢は患者さんに見抜かれ、「形だけだ」と受け取られます。謝罪は、何に対して謝るのかを明確にし、誠意を込めて行うことが大切です。

一方で、事実確認をしないまま全面的に非を認めてしまうのも、後のトラブルにつながります。不快な思いをさせたことへの謝罪と、原因や責任の確認は切り分けて考えると、対応しやすくなります。

対応の前に、ひと呼吸

  • カッとなったら、まず深呼吸して一拍おく
  • 「言い負かす」より「受け止める」を意識する
  • 事実の確認と、気持ちへの共感は分けて考える
  • 一人で抱えず、必要なら別のスタッフを呼ぶ
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クレーム対応の基本

クレームへの対応には、押さえるべき基本的な流れがあります。感情を受け止め、事実を確認し、解決策を示すという順序を守ることで、多くのクレームは落ち着いて収められます。

場当たり的に対応するのではなく、型として身につけておくと、いざというときに冷静に動けます。ここでは6つのステップに分けて、初期対応から締めくくりまでの流れを解説します。スタッフ全員が同じ手順を共有しておくことが、安定した対応につながります。

クレーム対応6ステップの流れ

初期対応から締めくくりまで、順序を守って進める

初期対応 ― まず相手の感情を受け止める

1
傾聴
相手の話を途中でさえぎらず、最後まで聞く。何に困っているのかを正確につかむ。
2
共感
「ご不便をおかけしました」と気持ちに寄り添い、相手の高ぶった感情を落ち着かせる。

解決対応 ― 事実を確かめ、対応を示す

3
事実確認
いつ・どこで・何が起きたのかを具体的に確認し、思い込みを排して状況を整理する。
4
解決策の提示
確認した事実をもとに、できること・できないことを線引きして具体的な対応案を示す。

締めくくり ― 約束し、感謝で結ぶ

5
約束
いつまでに何をするのかを明確に伝え、対応の見通しを共有して相手の不安を残さない。
6
感謝
指摘してくれたことへの感謝を伝え、前向きな印象で締めくくる。改善の機会として受け止める。

まず最後まで話を聴く

クレーム対応の出発点は「傾聴」です。患者さんが何に不満を感じているのか、何を求めているのかを、遮らず最後まで聴きます。途中で反論や説明を挟まず、相づちを打ちながら受け止めることで、患者さんは「わかってもらえた」と感じ、感情が落ち着きます。

話を聴く段階では、解決を急がず、まず相手の気持ちを受け止めることに集中しましょう。

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共感の言葉を返す

話を聴いたら、「ご不安でしたよね」「お辛かったですね」と、相手の気持ちに寄り添う言葉を返します。

共感は、相手の主張をすべて認めることとは違います。「不快な思いをさせてしまったこと」に対して理解を示すことで、患者さんは「敵ではない」と感じ、対話がしやすくなります。共感の一言があるかないかで、その後の展開は大きく変わります。

事実を確認する

感情が落ち着いてきたら、何が起きたのかを冷静に確認します。いつ、どの施術で、どんな状態になったのかを、患者さんと一緒に整理します。記録を見ながら確認すると、認識のズレを防げます。

この段階では、原因を決めつけず、事実を客観的に把握することが大切です。確認した内容はその場でメモを取り、後の対応に活かします。

解決策を提示する

事実を確認したうえで、具体的な解決策を示します。施術方針の見直しや、必要に応じた医療機関の受診のすすめなど、状況に応じた対応を提案します。

解決策は一方的に押し付けず、患者さんの希望も聞きながら、双方が納得できる落としどころを探ります。できることとできないことを明確に伝えることで、誠実な印象を与えられます。

今後の対応を約束する

解決策に合意したら、今後どう対応するかを具体的に約束します。次回の施術での配慮、経過の確認、再発防止のための取り組みなどを伝えることで、患者さんは安心します。

約束したことは必ず守り、口だけにならないようにします。継続して通ってもらうためには、この「今後の安心」を示すことが欠かせません。

感謝の言葉で締めくくる

最後は、クレームを伝えてくれたことへの感謝で締めくくります。「ご指摘いただきありがとうございます」という一言は、患者さんの不満を改善のきっかけに変えます。

クレームは、院のサービスを良くするための貴重な声でもあります。感謝で締めくくることで、患者さんとの関係を前向きに保ち、再来院につなげられます。

ケース別の対応例

ここまでの基本(傾聴→共感→事実確認→解決策)を、現場で多いクレームに当てはめてみます。同じ「クレーム」でも、痛みの悪化、効果への不満、内出血、料金、接客とでは、伝えるべき内容や配慮のポイントが異なります。

実際の言葉のかけ方を含めて整理しておくと、いざというときに落ち着いて対応できます。どのケースでも、まず傾聴と共感から入るという基本は共通です。

ケース別・クレーム対応の早見表

5つの代表的なケースを「受け止めの言葉/確認ポイント/提案する配慮」で対比

ケース 受け止めの言葉 確認ポイント 提案する配慮
痛みの悪化施術後にだるさ・痛みが増した 「つらい思いをさせてしまい申し訳ありません」とまず謝意を示す いつから・どの部位か、好転反応の範囲か、発熱や強い炎症がないかを問診で切り分け 水分補給と安静を案内し、強度を下げた再施術や受診の目安を提示。経過確認の連絡を約束
効果への不満通っても変化を感じない 「期待に沿えず残念に思います」と気持ちを受け止める 主訴と目標のズレ、来院間隔、生活習慣や負荷の要因を一緒に振り返る 到達までの見通しと回数の目安を再共有。施術方針の見直しや他院・受診の選択肢も率直に伝える
内出血刺鍼部位に青あざが出た 「驚かせてしまい申し訳ありません」と先に声をかける 大きさ・痛みの有無・服用薬(抗凝固薬等)を確認し、起こり得る現象である旨を丁寧に説明 多くは1〜2週間で吸収される経過を伝え、冷却や患部圧迫の対処を案内。記録を残し次回も配慮
料金高い・聞いていない 「分かりにくくご不便をおかけしました」と説明不足を認める 提示済みの料金表・自由診療か保険適用かの認識、回数券の条件を事実ベースで照合 内訳を明細で示し、今後の総額の目安を提示。掲示・書面での事前説明を徹底すると伝える
接客態度・言葉づかいへの不満 「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」と素直に謝罪 どの場面の何が不快だったか、事実を遮らず最後まで傾聴して具体化 院内で共有し再発防止策を伝える。担当変更や時間配分など、本人が望む形で改善を提案
どのケースでも共通する起点は「傾聴」と「共感」。事実確認や提案に入る前に、まず相手の言葉を遮らず受け止めることが、その後の対応を落ち着いて進める土台になります。

「痛みが悪化した」と言われた場合

まずは「お辛いですね、状態を確認させてください」と受け止め、痛みの場所・程度・いつから続いているかを丁寧に聞き取ります。施術との因果関係をその場で断定せず、体の状態を客観的に確認します。

好転反応の可能性がある場合はその仕組みを説明し、強い痛みやしびれ、発熱などがあれば医療機関の受診をすすめます。

次回以降は刺激量を調整するなど、具体的な配慮を伝えると安心につながります。

「効果がない」と言われた場合

「期待に応えられず申し訳ありません」と受け止めたうえで、これまでの施術経過を一緒に振り返ります。症状の変化を可視化し、わずかでも改善した点があれば共有します。改善に時間がかかる症状であれば、その見通しを率直に伝え、施術方針の見直しも提案します。

無理に通院を続けさせるのではなく、患者さんにとって最善の選択を一緒に考える姿勢が信頼につながります。

内出血のクレームを受けた場合

「驚かせてしまい申し訳ありません」とまず謝り、内出血が鍼灸で起こりうる現象であること、健康に害はなく数日から1〜2週間ほどで自然に消えることを丁寧に説明します。隠したりごまかしたりせず、誠実に経過を伝えることが大切です。

人目につく部位の場合は配慮を示し、次回以降は出やすい部位を避ける、刺激を弱めるといった対応を提案します。

料金トラブルが発生した場合

「説明が行き届かず申し訳ありません」と受け止め、料金体系と今回の会計内容を、料金表を見せながら一つずつ確認します。保険適用の条件や自由診療の仕組みについても、わかりやすく説明します。

認識のズレがあった場合は、今後は施術前に総額の目安を伝えることを約束します。金銭に関わる問題は感情的になりやすいため、特に冷静で丁寧な対応が求められます。

受付や接客態度へのクレームを受けた場合

「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」と素直に謝罪します。態度や言葉遣いへの指摘は、受け取る側もつい防御的になりがちですが、まずは相手の感じ方を尊重することが大切です。

具体的に何が不快だったかを確認し、院内で共有して改善につなげます。接客は院全体の評価に直結するため、スタッフ全員で受け止める意識を持ちましょう。

カスタマーハラスメントへの対応

クレームの中には、正当な指摘の範囲を超えた、理不尽な要求や暴言といったカスタマーハラスメント(カスハラ)も存在します。すべての訴えに無制限に応じる必要はありません。スタッフの心身を守るためにも、正当なクレームと不当な要求を見分け、組織として対応する体制を整えることが重要です。

ここでは、カスハラに備えるための具体的な対策を解説します。一人で抱え込まず、院全体・外部機関と連携する姿勢が大切です。

参考:厚生労働省「「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等を作成しました!」

理不尽な要求と正当なクレームを見分ける

正当なクレームは、施術や対応の改善につながる具体的な指摘です。一方、カスハラは、過剰な金銭要求、土下座などの人格否定、長時間の拘束、暴言や脅迫といった、要求の内容や手段が社会通念上許容されないものを指します。

両者を見分ける基準を持っておくと、過剰に萎縮せず、毅然と対応できます。要求が「施術の改善」なのか「相手を屈服させること」なのかを冷静に見極めましょう。

正当なクレーム と カスハラ の見分け方

正当なクレーム
よくある内容
施術や対応への具体的な指摘
改善できる点が明確に示される
要求の手段が常識の範囲内
判別の軸
目的は「施術の改善」
=サービスを良くするための声
×カスハラ
よくある内容
過剰な金銭要求
土下座など人格を否定する要求
長時間の拘束・暴言・脅迫
判別の軸
目的は「相手を屈服させること」
=手段や要求が社会通念を超える

迷ったら一点を確認。要求が「施術の改善」なら正当、「相手を屈服させること」ならカスハラと冷静に線引きする。

複数人で対応する体制をつくる

理不尽な要求に一人で対応すると、精神的な負担が大きく、判断も誤りやすくなります。カスハラが疑われる場合は、複数人で対応する体制をつくることが大切です。

院長や責任者が同席する、別のスタッフが記録を取るなど、役割を分けて対応します。複数人で対応することで、相手の過剰な要求を抑える効果もあり、スタッフを守ることにもつながります。

録音・記録を残す

カスハラへの対応では、やり取りの記録を残すことが重要です。日時、内容、要求された事柄、対応した経緯を具体的に記録します。必要に応じて、相手に伝えたうえで通話や会話を録音することも有効です。

記録は、後に弁護士や警察、保健所などに相談する際の客観的な証拠になります。感情的なやり取りこそ、事実を残しておくことが自分たちを守る手段になります。

弁護士・保健所に相談する

院内だけで解決が難しい場合は、外部の専門機関に相談します。法的な脅迫や金銭トラブルは弁護士、施術所の運営に関わる相談は保健所が窓口になります。所属する師会や賠償責任保険に付帯する相談窓口を利用できる場合もあります。

一人で抱え込まず、早めに専門家の助けを借りることで、適切な解決につなげられます。

一人で抱え込まないで!困ったときの相談先

  • 法的な脅迫・金銭トラブル → 弁護士・法テラス
  • 施術所の運営に関わる相談 → 保健所
  • 会員向けの相談窓口 → 所属する師会
  • 賠償に関わる相談 → 加入中の賠償責任保険の窓口
迷ったらまず相談を
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施術を断る判断基準

鍼灸師には、暴言や脅迫が繰り返されるなど信頼関係を保てない相手に対して、施術をお断りする判断も認められます。ただし、感情的な理由や思い込みで安易に断るのは避け、客観的な事実に基づいて慎重に判断します。

暴言や脅迫を繰り返す、他の患者さんやスタッフに迷惑をかける、要求がエスカレートするといった場合は、施術の継続が困難と判断できます。断る際は、感情的にならず、理由を冷静に伝えます。

あらかじめ「お断りする場合がある」という基準を院内で共有しておくと、判断に迷いません。

施術を断るときの進め方と伝え方

いきなり打ち切らず段階を踏み、伝え方は「当院では対応が難しい」にとどめる

STEP 1
事前に予告する
「この対応が続く場合はお断りすることがあります」と先に伝える
STEP 2
改善を待つ
予告後も暴言・要求のエスカレートが続くかを客観的に見極める
STEP 3
冷静に断る
改善されなければ、施術者側の判断として簡潔に理由を伝える

断るときの言い回し例

  • 「当院では、安全に施術を行うことが難しいと判断しました」
  • 「ご希望に沿った対応はいたしかねます」

相手を非難する言い方は避け、「当院では対応が難しい」という形にとどめると、余計な対立を生みません。

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クレームを未然に防ぐためにできること

クレームは、起きてから対応するよりも、起きないように予防するほうがはるかに負担が少なくて済みます。

ここでは、日々の施術で実践できる5つの予防策を紹介します。予防は、患者さんとの信頼関係を深めることにもつながります。

クレームを生まない5つの予防策

「言った・言わない」を防ぐ鍵は、説明を口頭で終わらせず記録に残すこと。5つの手段が、それぞれどのトラブルを防ぐのかを整理しました。

予防策防げるクレーム具体的な手段
問診
1事前の状態把握
「持病を伝えたのに考慮されなかった」「禁忌だと知らなかった」 既往歴・服薬・妊娠の有無を問診票に記入してもらい、施術前に確認・署名を残す
文書化
2説明の記録化
「そんな説明は聞いていない」という認識のズレ 施術内容・期待できる効果・起こりうる反応・費用を書面にして手渡し、控えを保管する
リスク説明
3反応の予告
「だるさや揉み返しが出た、聞いていない」 好転反応・内出血・効果の個人差を施術前に伝え、出た場合の対処も合わせて案内する
料金明示
4費用の透明化
「想定より高い」「追加料金は聞いていない」 初回・継続・オプションの料金表を掲示し、回数券や追加施術の費用は事前に提示する
同意書
5合意の証拠化
「同意していない施術をされた」 説明内容に納得した旨を署名でもらい、施術者自身を守る記録として保管する

説明を記録として残すことは、患者さんの安心と施術者自身の保護の両方につながります。

初診時の問診とカウンセリングを丁寧に行う

クレーム予防の第一歩は、初診時の問診とカウンセリングを丁寧に行うことです。症状や既往歴だけでなく、患者さんの不安や期待、生活背景まで聞き取ることで、認識のズレを防げます。時間をかけて向き合うことで、患者さんは「しっかり診てもらえた」と安心し、信頼関係の土台ができます。

初回の丁寧な対応が、その後のトラブルを大きく減らします

施術内容と効果の説明を文書化する

口頭の説明は、時間が経つと「言った・言わない」のトラブルになりがちです。

施術内容や期待できる効果、起こりうる反応、費用などを文書にして渡すことで、認識のズレを防げます。文書があれば、患者さんも後から見返すことができ、安心につながります。説明を記録として残すことは、施術者自身を守る手段にもなります。

内出血や好転反応のリスクを事前に説明する

内出血や施術後のだるさといった反応は、事前に説明しておくかどうかで、患者さんの受け止め方がまったく変わります。「起こることがある」と先に伝えておけば、実際に起きても「説明されていた」と納得できます。逆に説明がないと、同じ現象でも「悪化させられた」と受け取られます。

起こりうるリスクは、隠さず先に伝えることが信頼につながります。

料金体系を明示する

費用に関するクレームは、料金体系を明示することで大きく減らせます。施術費用、回数券、追加施術の料金、保険適用の条件などを、料金表として掲示し、施術前に説明します。

会計時に初めて金額を知る状態をなくすことが重要です。金銭は信頼に直結する部分のため、わかりやすく透明性のある料金提示を心がけましょう。

同意書を取得する

文書での説明に加えて、その内容に患者さんが同意したことを署名で残しておくと、トラブル予防にいっそう有効です。同意書には、施術内容、起こりうる反応、費用などを明記し、患者さんの理解と合意を記録として残します。

同意書があれば、後から「聞いていない」というトラブルを防げます。形式的なものにせず、説明とセットで丁寧に行うことが大切です。

クレームを次に活かすための仕組みづくり

クレームは、対応して終わりではありません。一つひとつの事例を院全体で共有し、再発防止やサービス改善に活かすことで、クレームを成長の糧に変えられます。

ここでは、クレームを次に活かすための4つの仕組みづくりを解説します。継続的な改善が、クレームの少ない院への近道です。

クレームを成長に変える改善サイクル

4つの仕組みを回し続けることで、クレームの少ない院へ近づく

1
記録・共有する
いつ・誰が・どんな内容かを記録に残し、スタッフ全員に展開して同じクレームの再発を組織全体で防ぐ
2
マニュアルを更新する
対応の基準を明文化し、誰が対応しても一定の品質を保てるようにする
3
研修で実践力にする
ロールプレイや過去事例の共有で、知識を現場で動ける力に変える
4
第三者の声で見直す
アンケートや口コミを取り入れ、サービスそのものを継続的に改善する
次のクレームを再び「1.記録する・共有する」へ。止めずに回し続けることが、長く信頼される院をつくる

クレーム事例を記録し、院内で共有する

起きたクレームは、まず記録に残し、担当者一人の問題にせず院内で共有することが大切です。いつ・どんな状況で・どう対応し・どう解決したかを残し、スタッフ全員で振り返ります。共有することで、同じようなクレームが起きたときに他のスタッフも適切に対応でき、再発防止にもつながります。

失敗を責めるのではなく、学びとして活かす文化をつくることが重要です。

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マニュアルを定期的に更新する

クレーム対応のマニュアルは、一度作って終わりではなく、実際の事例をもとに定期的に更新します。新しいケースや、うまくいった対応、改善が必要だった点を反映させることで、マニュアルは実用的なものになります。

現場の実態に合った内容に保つことで、スタッフが迷わず対応できます。マニュアルは生きた資料として、継続的に育てていきましょう。

スタッフ研修を実施する

クレーム対応の質を院全体で高めるには、スタッフ研修が効果的です。ロールプレイで対応を練習したり、過去の事例を共有したりすることで、知識を実践力に変えられます。

研修を通じて対応の基準をそろえておくと、誰が対応しても一定の質を保てます。定期的に学ぶ機会を設けることが、安定した対応につながります。

第三者の意見(口コミ・アンケート)を取り入れる

院の中だけでは気づきにくい改善点も、患者さんの声からは見えてきます。アンケートや口コミを通じて第三者の意見を集め、サービスの見直しに活かします。

良い評価は励みになり、厳しい意見は改善のヒントになります。患者さんの声に耳を傾け続ける姿勢が、クレームの少ない、信頼される院づくりにつながります

鍼灸師賠償責任保険について

どれだけ予防に努めても、施術に伴うトラブルを完全になくすことはできません。

万が一、施術によって患者さんに健康被害が生じ、賠償を求められた場合に備えるのが、鍼灸師賠償責任保険です。特に開業している鍼灸師にとっては、リスク管理の要となります。

ここでは、保険でカバーされる範囲や加入の手順、適用事例、加入のタイミングについて解説します。安心して施術を続けるための備えとして、内容を理解しておきましょう。

保険でカバーされる範囲

鍼灸師賠償責任保険は、施術によって患者さんの身体に損害を与えた場合などに、法律上の賠償責任をカバーするものです。

具体的には、施術ミスによる健康被害、施術中の事故、預かり品の破損などが対象になります。一方で、故意による行為や、施術と無関係なトラブルは対象外です。保険によって補償範囲や上限額が異なるため、加入前に補償内容を細かく確認することが大切です。

賠償責任保険を選ぶときのチェックポイント
  • 補償の範囲(施術ミス・施術中の事故・預かり品の破損など)を確認する
  • 補償の上限額が自分の働き方に見合っているかを比べる
  • 免責事項(補償されないケース)と保険料のバランスを見る
  • 師会の会費に保険が含まれているか、別途加入が必要かを確認する
知っておこう!
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保険に加入する手順

鍼灸師賠償責任保険は、所属する師会(公益社団法人の鍼灸師会など)を通じて加入する方法や、民間の保険会社・共済を通じて加入する方法があります。師会の会員になると、会費に賠償責任保険が含まれている場合もあります。

加入の際は、補償範囲、補償上限額、保険料、免責事項を比較し、自分の働き方に合ったものを選びます。開業者と勤務者では必要な補償が異なるため、状況に応じて検討しましょう。

加入先2ルートの比較

同じ「鍼灸師賠償責任保険」でも、加入ルートで会費との関係や手続きが変わります。チェック観点ごとに見比べて選びましょう。

チェック観点 師会経由
(会員制)
民間保険会社・共済
補償範囲 施術業務を中心に標準設計。会の制度に準拠 プランで選べる。物損・情報漏えい等の追加も
補償上限額 制度ごとに一律で設定されることが多い 上限額を複数から選択しやすい
保険料の扱い 会費に含まれる場合あり 保険料を単独で支払う
免責事項 制度の規約で確認 約款で個別に確認
開業者向き 入会が前提 補償を厚く設計しやすい
勤務者向き 会員なら手続き簡便 必要分を個別加入

加入前に補償範囲・補償上限額・保険料・免責事項の4点を必ず比較し、開業者か勤務者かなど自分の働き方に合うルートを選びましょう。

実際に保険が適用された事例

賠償責任保険が適用される場面としては、施術後に患者さんが体調を崩し治療費を請求されたケースや、施術中の器具で患者さんの衣類や持ち物を傷つけたケースなどがあります。

こうした事例では、保険によって賠償金や治療費が補償され、施術者の経済的な負担が軽減されます。トラブルは予期せず起こるため、実際の適用事例を知っておくと、保険の必要性を実感できます。

保険加入のタイミング

賠償責任保険には、施術を始める前に加入しておくことが基本です。トラブルはいつ起こるかわからず、加入前に発生した事故は補償されません。新たに開業する場合や、勤務先で保険に加入していない場合は、施術を始めるタイミングで加入を済ませておくと安心です。

勤務先が保険に加入しているかどうかも、就職や転職の際に確認しておきたいポイントです。

まとめ

鍼灸師がクレームを受ける場面は、施術後の痛みや内出血、効果への不満、費用や接客、予約時間など多岐にわたります。その多くは、説明不足や期待値のズレ、コミュニケーション不足といった根本原因から生まれます。

クレームを受けたときは、言い訳や感情的な反論を避け、まず最後まで話を聴き、共感し、事実を確認したうえで解決策を示す——この基本の流れが対応の土台になります。理不尽な要求には、一人で抱え込まず、複数人での対応や記録、外部機関への相談で対処します。

そして、丁寧な問診や事前説明、料金の明示、同意書の取得といった予防策と、事例の共有・研修といった仕組みづくりが、クレームの少ない院につながります。万が一に備えて、賠償責任保険への加入も済ませておくと安心です。

クレームを成長のきっかけととらえ、患者さんに信頼される鍼灸師を目指しましょう。

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この記事を書いた人
医療キャリアナビ編集部

医療キャリアナビ編集部

記事の執筆・編集は、医療業界に精通した編集スタッフが担当しています。日々の転職支援業務で得た現場のリアルな情報と、厚生労働省をはじめとする公的機関のデータに基づき、信頼性の高いコンテンツをお届けしています。

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