鍼灸師の職場はブラック?言われる理由と入職前に見分けるチェックポイント
「鍼灸師の職場ってブラックばかりなの?」と、就職や転職を前に不安を感じている人は少なくありません。
診療時間外の練習や清掃、歩合頼みの給与、休みの取りにくさなど、鍼灸師の職場がブラックと言われる理由には共通するパターンがあります。
この記事では、ブラックと言われる理由と業界構造の背景を分けて整理したうえで、求人票・面接・院内見学・口コミの4つの段階で入職前に見分けるチェックポイントと、今の職場がつらいときの選択肢を紹介します。
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鍼灸師の職場が「ブラック」と言われる理由

「ブラック」は法律で決まった言葉ではありませんが、鍼灸師の職場で不満が出やすいポイントはおおむね5つに分かれます。 どれも「治療院だから仕方ない」で済ませがちですが、労働基準法のルールに照らすと問題になるものも含まれます。
診療時間外の練習や清掃で拘束されるため
鍼灸院や整骨院では、朝の開院前や閉院後に技術練習・勉強会・清掃をする院が多くあります。 「自主練」「自由参加」と言われていても、実際には全員参加が当たり前になっていて、その時間の給料が出ないケースが不満の代表格です。
厚生労働省のガイドラインでは、使用者の指示で行う着替え・清掃や、参加が義務づけられた研修の時間は労働時間として扱うと示されています。 名目が「自主的」でも、参加しないと評価が下がるなど事実上の強制であれば、労働時間と判断される可能性があります。
- 指示された開院前の準備・着替え例:ユニフォームへの着替え、ベッドメイク
- 閉院後の業務に関連した後始末例:施術室の清掃、タオルの洗濯
- 参加が義務づけられた研修・練習例:全員参加の朝練、院内勉強会
- すぐ対応を求められる待機時間例:予約待ちで院から離れられない時間
- 不参加でも不利益がない自主練習
- 院の指示がない自宅での勉強
- 自分で選んで申し込んだ外部セミナー
歩合や手当込みで基本給が低く設定されるため
求人票の月給は高く見えても、内訳を見ると基本給が低く、指名料や自費施術の歩合、各種手当で総額を作っている職場もあります。 この形だと、患者さんが少ない月や体調を崩した月に収入が大きく下がります。
| 固定給中心 | 基本給+歩合 | 歩合の比重が大きい | |
|---|---|---|---|
| 収入の安定 | ◎毎月ほぼ一定 | ○基本給分は確保 | △月ごとの差が大きい |
| 患者さんが少ない月 | 影響は小さい | 歩合分が減る | 総額が大きく下がる |
| 頑張りの反映 | 昇給・賞与で反映 | 指名・自費で上乗せ | 売上に直結 |
| 確認したい点 | 昇給の基準 | 歩合の計算方法 | 保障給の有無と金額 |
歩合制で働く場合でも、労働基準法第27条により、使用者は労働時間に応じた一定額の賃金を保障しなければなりません。 また、残業代や退職金の計算に使う「基本給」が低いと、月給の総額が同じでも受け取れる額が少なくなることがあります。
休診日が少なく有給を取りにくいため
土日も開院する治療院は多く、シフト制で週休1日や、祝日のある週だけ休みが減る職場もあります。 少人数の院では「自分が休むと予約を回せない」という事情から、有給休暇を言い出しにくい空気が生まれやすくなります。
有給休暇は法律で決まった権利で、年10日以上付与される人には年5日を確実に取らせることが使用者の義務になっています。 「うちは有給がない」という職場は、それだけで法令上の問題を抱えている可能性があります。
鍼灸師の求人を探す回数券や物販の販売ノルマがあるため
自費メニューの回数券や、サプリメント・枕・インソールなどの物販に目標件数を設ける院もあります。 目標を持つこと自体は違法ではありませんが、未達成を理由に強く叱責されたり、施術よりも販売を優先させられたりすると、「患者さんのためにならない」と感じて心がすり減ります。
ノルマ未達成の罰金や、売れ残った商品の買い取りを給与から天引きする扱いは、労働基準法の賠償予定の禁止(第16条)や賃金の全額払い(第24条)に反するおそれがあります。
院長のワンマン経営で労務管理が緩いため
個人経営の治療院は、院長の考え方がそのまま職場のルールになりやすい環境です。 就業規則がない、雇用契約書を交わしていない、タイムカードがないといった状態だと、労働時間や残業代があいまいになりがちです。
院長に言いにくいことって、小さな院ほど多いよね
一方で、院長の方針が明確で、スタッフの成長を本気で考えている院もあります。 ワンマン経営そのものより、ルールが書面になっているか、記録が残っているかで判断するのが現実的です。
参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」 / e-Gov法令検索「労働基準法」
ブラックな治療院が生まれる業界構造の背景

ブラックと言われる職場が生まれる背景には、個々の院長の問題だけでなく、業界全体の構造もあります。 「どこに行っても同じなのか」「職場を変えれば解決するのか」を判断する材料として、3つの背景を押さえておきましょう。
施術所数の増加による過当競争
厚生労働省の衛生行政報告例によると、はり及びきゅうを行う施術所は2024年末で35,494か所あり、10年前の2014年末(25,445か所)から約1.4倍に増えています。 同じ期間に、就業しているはり師も108,537人から136,736人に増えました。
施術所が増えると、1院あたりの患者さんを取り合う形になり、営業時間の延長や休診日の削減、値下げ競争が起こりやすくなります。 経営が苦しい院ほど、その負担がスタッフの長時間労働や低い基本給として表れます。
保険適用と療養費の縮小
はり・きゅうの施術に健康保険が使えるのは、医師の同意がある場合で、対象となる疾患も限られています。 はり・きゅうの療養費は2014年度の380億円から2022年度の447億円へと増えていますが、施術所の増え方と比べると大きな伸びではありません。
鍼灸師の職場に大きく影響しているのは、整骨院の柔道整復療養費です。 柔道整復の療養費は2014年度の3,825億円から2022年度には2,747億円と約3割減っています。 医療キャリアナビに掲載されている鍼灸師求人の約3分の2は整・接骨院のため、この保険収入の減少が多くの鍼灸師の職場環境に関わってきます。
保険収入が減った分を自費メニューで補おうとすると、回数券や物販の販売目標が強まる傾向があります。 前章で紹介した販売ノルマは、個別の院の方針であると同時に、業界の収益構造の変化から生まれている面もあります。
今のあなたの状況は?
「修行」として長時間労働を許容する慣習
鍼灸・手技の世界では、「技術は先輩から盗むもの」「若いうちは修行」という考え方が根強く残っています。 院長自身が長時間の修行を経て開業しているため、同じ働き方をスタッフに求めるのを当然と考えるケースもあります。
技術の習得に時間がかかるのは事実ですが、練習の義務づけと給与の支払いは別の問題です。 最近は、研修を勤務時間内に組み込む院や、外部セミナーの費用を補助する院も出てきています。
じゃあ、職場を変えれば解決するのかな?
過当競争や療養費の減少は業界共通ですが、それにどう対応するかは院ごとに大きく異なります。 労務管理がきちんとしている院を選べば、同じ鍼灸師の仕事でも働き方は大きく変わります。
参考:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」 / 厚生労働省「あはき療養費の令和8年度改定の基本的な考え方(案)について」
入職前にブラックな治療院を見分けるチェックポイント

ブラックな職場かどうかは、入職前の4つの段階でかなりの部分を確認できます。 段階ごとに分かることが違うため、1つの情報だけで判断せず、複数の段階で答え合わせをするのがポイントです。
給与の内訳・休日数など書面の条件
書面にない運用ルールと院長の考え方
スタッフの表情や院内の実際の雰囲気
働いた人しか知らない内部の実態
求人票で確認する項目
求人票は最初に手に入る判断材料で、書かれていない項目にもヒントがあります。
- 月給の内訳(基本給・歩合・手当の金額)
- 固定残業代の有無と、何時間分を含むか
- 年間休日数と、週休の形(完全週休2日か)
- 1日の勤務時間と休憩時間
- 社会保険・雇用保険の加入
- 試用期間中の給与と条件
スタッフが常時10人未満の治療院は、法律上週44時間までの労働時間が認められる特例があります。 週40時間を前提に比べると休みが少なく見えることがあるため、勤務時間と休日をセットで確認しましょう。
- 鍼灸師求人2,814件中、完全週休2日は23%
- 年間休日120日以上は6%、残業ほぼなしは9%
- インセンティブありは23%。内訳まで確認を
2024年4月からは、雇用契約を結ぶときに「就業場所・業務の変更の範囲」を明示することも義務になりました。 分院への異動がある法人では、内定時の労働条件通知書で確認しておくと安心です。
面接で質問する項目
面接は、求人票であいまいだった部分を直接確かめられる場です。 「残業はありますか?」のように聞くと印象を気にしてしまう人も多いため、働き方を具体的にイメージしたい姿勢として聞くのがおすすめです。
| 確かめたいこと | 聞き方の例 |
|---|---|
| 時間外の練習 | 「技術練習や勉強会は、勤務時間内に行っていますか?」 |
| 残業の実態 | 「最終受付のあと、皆さんは何時ごろに退勤されていますか?」 |
| 歩合の仕組み | 「入職1年目の方の、給与の内訳の例を教えていただけますか?」 |
| 有給の取りやすさ | 「有給休暇は、皆さんどのように取得されていますか?」 |
| 販売目標 | 「回数券や物販について、スタッフごとの目標はありますか?」 |
答えを濁される、話題をそらされる場合は、その項目に問題を抱えている可能性があります。 面接の質問例や志望動機の伝え方は、以下の記事で詳しく紹介しています。
院内見学で確認する項目
見学では、求人票や面接では分からない「実際の空気」を確かめられます。 可能であれば、閉院時間の前後にも院の様子を見せてもらうと、時間外の動きが分かります。
- スタッフ同士や院長との会話の雰囲気
- スタッフの年齢層と勤続年数
- タイムカードや勤怠システムがあるか
- 待合室の物販コーナーや回数券の掲示の多さ
- 施術室の清潔さと備品の管理状態
見学のお願いを嫌がる院は、それ自体がサインかも!
口コミと離職状況で確認する項目
口コミサイトや知人からの情報は、内部の人しか知らない実態を知る手がかりになります。 ただし、辞めた人の不満が強く出やすいため、1件の口コミで判断せず、同じ内容が複数あるかどうかを見ましょう。
離職状況は、求人がいつも出ているか、スタッフ紹介ページの顔ぶれが短期間で変わっていないかで推測できます。 面接で「直近で辞めた人の理由」を聞いてみるのも一つの方法です。
鍼灸師の求人を探す参考:厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」 / e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」
今の職場がブラックだと感じたときの選択肢

今の職場がつらいと感じたら、すぐに辞めるか我慢するかの二択で考えず、段階を踏んで選択肢を検討しましょう。 記録と書面がそろっているほど、どの選択肢を取るときも有利になります。
雇用契約書と勤務実態の照合
最初にするのは、雇用契約書や労働条件通知書と、実際の働き方を比べることです。 書面で「9時〜19時」となっているのに毎日21時まで残っている、「週休2日」なのに休みが週1日になっているなどのずれがあれば、改善を求める根拠になります。
- 雇用契約書・労働条件通知書・就業規則を手元にそろえる
- 出勤・退勤の時刻を毎日メモやアプリで記録する
- 給与明細を保管し、残業代や歩合の計算を確認する
雇用契約書をもらっていない場合は、まず書面での交付をお願いしましょう。 賃金や労働時間などの労働条件は、書面などで明示することが法律で義務づけられています。
院内での労働条件の交渉
ずれが見つかったら、院長や管理者に相談して改善を求める方法があります。 いきなり「違法です」と伝えるより、記録を見せながら「この時間も勤務として扱ってもらえませんか?」と具体的に提案するほうが話が進みやすくなります。
1人で言いにくいときは、同じ悩みの同僚と一緒に伝えてもいいよ!
法人が大きい場合は、院長ではなく本部の人事・総務に相談する方法もあります。 交渉の内容や日時もメモしておくと、あとで外部に相談するときの記録になります。
労働基準監督署や外部窓口への相談
院内で解決しない場合は、外部の窓口に相談できます。 各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内など378か所にある総合労働相談コーナーは、予約不要・無料で、在職中でも相談できます。
- 向いている人
- 何から始めればいいか分からない
- できること
- 相談・解決方法の情報提供
- 費用
- 無料・予約不要
- 向いている人
- 法律違反がはっきりしている
- できること
- 申告による調査・指導
- 費用
- 無料
- 向いている人
- 未払い分を請求したい
- できること
- 交渉や手続きの代理
- 費用
- 有料が一般的
残業代の未払いや休日を与えないなど、労働基準法違反が明らかな場合は、労働基準監督署に申告して調査や指導を求める方法もあります。 相談の際は、記録してきた勤務時間や給与明細を持参すると話がスムーズです。
転職活動するなら?
転職による職場の切り替え
改善の見込みがない場合や、心身に不調が出ている場合は、職場を変えるのが一番の近道になることもあります。 前述のとおり、業界共通の課題はあっても、労務管理がきちんとした院を選べば働き方は変わります。
鍼灸師という仕事そのものを続けるか迷っている場合は、以下の記事も参考にしてください。
職場を変えると決めたら、前の章のチェックポイントを使って、同じ悩みを繰り返さない職場を選びましょう。 転職の流れやスケジュールは、以下の記事が参考になります。
在職中に次の職場を決めておくと、収入が途切れる心配をせずに、今の職場と条件をじっくり比べられます。
まとめ
鍼灸師の職場がブラックと言われる理由には、時間外の練習や清掃、歩合頼みの給与、休みの取りにくさ、販売ノルマ、ワンマン経営があります。 背景には施術所の増加や保険収入の減少といった業界構造がありますが、それにどう向き合うかは院ごとに異なります。
この記事のポイント
- 指示された練習・清掃は労働時間にあたる可能性がある
- はり・きゅう施術所は10年で約1.4倍に増加
- 求人票・面接・見学・口コミの4段階で確認する
- つらいときは記録を残し、交渉・相談・転職を検討
入職前の確認を丁寧にすれば、ブラックな職場を避けられる可能性は高くなります。 自分に合う職場を効率よく探したいときは、求人票に載っていない職場の雰囲気や労働条件まで確認してくれる転職エージェントに相談するのも一つの方法です。


