柔道整復師が雇われ院長を辞めたいとき|退職の進め方と管理者の手続き

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院長という肩書きで整骨院を任されているのに、決められることは少なく、売上の責任だけが重くのしかかる。辞めたいと伝えたら「後任が決まるまでは無理だ」と言われて話が止まってしまった。

雇われ院長の行き詰まりは、気持ちの持ちようではなく、制度と契約の問題として整理できます。

この記事では、柔道整復師が雇われ院長を辞めたいときに知っておきたい退職の申し出の根拠、後任が決まらないと言われたときの考え方、管理者・施術管理者の変更手続き、そして辞める前に確認したい契約の条項までを、法令と公的機関の資料をもとにまとめました。

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    雇われ院長を辞めたい柔整師が多い理由

    施術所で辞めたいと悩む柔道整復師

    雇われ院長の悩みは、権限・労働条件・方針・業績の4つに整理できます。どれも「我慢が足りない」という話ではなく、後半で扱う法令や契約の論点につながっています。

    権限と責任が釣り合わない

    院長として現場の全責任を負いながら、採用も給与も施術料金も自分では決められない。シフトだけは自由に組めるものの、人を増やす判断は開設者が握っている。この状態は、雇われ院長からよく聞く不満の典型です。

    やっかいなのは、権限がないまま「管理職だから残業代は出ない」と扱われる場合です。労働基準法上の管理監督者に当たるかどうかは、肩書きではなく実態で判断されます。判断の要素は後半で扱います。

    労働条件に納得できない

    時間外労働に対する割増賃金が出ない、年次有給休暇を申請しても通らない。雇われ院長の相談で多いのがこの2つです。

    労働条件そのものが業界の平均から離れている場合もあります。医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)では、柔道整復師の求人3,737件のうち、整骨院・接骨院の求人は2,075件でした。柔道整復師の求人全体で見ると、完全週休2日は19%、年間休日120日以上は6%にとどまります。

    求人に占める労働条件の割合(柔道整復師 全求人対象)
    025%50%75%100%
    社会保険完備
    95%
    交通費支給
    89%
    賞与あり
    64%
    シフト制
    40%
    退職金制度あり
    21%
    完全週休2日
    19%
    独立・開業支援あり
    16%
    残業ほぼなし
    10%
    年間休日120日以上
    6%
    待遇・雇用条件 休み・労働時間に関する条件

    開設者との方針が合わない

    健康保険が使えるのは、骨折・脱臼・打撲・捻挫(肉離れを含む)といった急性・亜急性の外傷に限られます。慢性的な肩こりや日常生活での腰痛は保険の対象外で、全額自己負担です。骨折・脱臼は、応急手当の場合を除いて医師の同意が必要です。

    ここで開設者から保険請求の幅を広げるよう求められると、板挟みになります。請求の内容に問題があったときに指導や処分の対象となるのは、施術を行った柔道整復師自身です。

    方針の違いが免許のリスクに直結する点が、ほかの職種と大きく違うところです。

    健康保険が使える施術・使えない施術の境界
    保険が使える(急性・亜急性の外傷)
    骨折 脱臼 打撲 捻挫(肉離れ含む)
    骨折・脱臼は、応急手当の場合を除き医師の同意が必要
    保険が使えない(全額自己負担)
    慢性的な肩こり 日常生活での腰痛 筋肉疲労

    業績への責任が重い

    柔道整復の施術所は、令和6年時点で全国に50,924か所あります。同じ商圏に複数の整骨院が並ぶことも珍しくなく、来院数が落ちた原因が立地や競合にあっても、責任は院長の評価として跳ね返ってきます。

    • 新規来院数や回数券の販売目標を設定される
    • 目標未達が賞与や院長手当の減額につながる
    • 集客の予算や広告の判断は自分で決められない

    参考:厚生労働省「柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて」 / 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」

    退職の申し出に関する基本

    雇用契約書を手に持つスーツ姿の男性

    いつ辞められるかは、締結している労働契約が「期間の定めのないもの」か「期間の定めのあるもの」かで変わります。まず自分の雇用契約書がどちらかを確認するところから始めましょう。

    退職の申し出フロー(契約の種類で判断)
    雇用契約に期間の定めがあるか?
    期間の定めなし
    解約の申入れの日から2週間の経過で雇用は終了する
    民法627条1項
    期間の定めあり
    (a) やむを得ない事由がある
    直ちに契約を解除できる(民法628条)
    (b) 契約期間が1年を超え、初日から1年を経過している
    いつでも退職できる(労働基準法附則137条)
    (c) (a)(b)のいずれにも当たらない
    原則は期間満了まで。専門家に相談する
    ※労働基準法附則137条は、一定の事業の完了に必要な期間を定める契約、高度の専門的知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者の契約には適用されません

    期間の定めのない雇用の場合

    民法第627条第1項は、雇用の期間を定めなかったときは各当事者がいつでも解約の申入れをでき、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了すると定めています。正社員として期限のない契約を結んでいる雇われ院長は、この規定が土台になります。

    同条第2項には、月給制のように期間によって報酬を定めた場合の定めもありますが、これは使用者からの解約の申入れに関する規定です。労働者側から辞める場合は、第1項の2週間が原則です。

    期間の定めがある雇用の場合

    契約期間を定めている場合、期間の途中で辞めるには民法第628条の「やむを得ない事由」が必要です。この事由があるときは直ちに契約を解除できますが、その事由が自分の過失で生じたときは損害賠償の責任を負うとされています。

    もう一つ、労働基準法附則第137条という規定があります。期間が1年を超える有期労働契約を結んだ労働者は、契約期間の初日から1年を経過した日以後は、使用者に申し出ることでいつでも退職できます。一定の事業の完了に必要な期間を定める契約や、高度の専門的知識等を有する労働者・満60歳以上の労働者の契約は対象外です。

    就業規則で「〇か月前」と定められている場合

    就業規則や雇用契約書に「退職の3か月前までに申し出ること」と書かれている例は少なくありません。この定めと民法の2週間のどちらが優先するかは見解が分かれており、一律に「就業規則は無効だから2週間で辞められる」と言い切れる問題ではありません。

    • 就業規則の申出時期を無視して強行すると、引き継ぎをめぐる争いの火種になります
    • 実務では、引き継ぎに必要な期間を見込んで早めに申し出るほうが穏当に進みます
    • 定めの期間が長すぎる、退職を認めない運用になっているといった場合は、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう
    柔道整復師の求人を探す

    参考:e-Gov法令検索「民法」 / e-Gov法令検索「労働基準法」

    後任が決まるまで辞められない?

    複数の柔道整復師が施術している整骨院の様子

    「院長がいなくなったら院が回らない」「後任が見つかるまで待ってほしい」。雇われ院長の退職で最も多い引き止めの言葉です。ここは制度の建て付けを知っているかどうかで結論が変わります。

    医療機関に管理者を置く義務がある

    医療法第10条第1項は、病院または診療所の開設者は、医業を行うものである場合は臨床研修等修了医師にこれを管理させなければならないと定めています。この義務が課されているのは「開設者」であり、管理者本人ではありません。クリニックの雇われ院長が辞めたあと管理者が不在になることは、開設者が解決すべき問題です。

    なお、整骨院・接骨院は医療法でいう病院・診療所ではなく、柔道整復師法上の「施術所」です。医療法の管理者の定めはそのまま当てはまりません。

    クリニックと整骨院、管理者に関する定めの違い
    クリニック(病院・診療所)
    根拠になる法律 医療法
    施設の呼び方 病院・診療所
    管理者・院長に関する法令上の定め 医療法10条1項:開設者が、臨床研修等修了医師に管理させなければならない
    義務を負う人 開設者
    整骨院・接骨院(施術所)
    根拠になる法律 柔道整復師法
    施設の呼び方 施術所
    管理者・院長に関する法令上の定め 医療法のような管理者設置の定めはなく、柔道整復師法19条に開設後10日以内の届出義務がある
    義務を負う人 開設者

    後任の確保は開設者の責任であること

    整骨院でも構図は同じです。施術所の届出義務を負うのは開設者で、そこに従事する柔道整復師ではありません。受領委任で保険請求を行う場合の施術管理者についても、申し出を行うのは開設者側です。

    後任がすぐに見つかりにくい事情はあります。受領委任の施術管理者になるには実務経験と研修修了の要件を満たす必要があり、免許を持っていれば誰でもすぐに就けるわけではないからです。

    ただし、その要件を満たす人を確保できていないことは開設者側の事情であり、それを理由に退職の自由が制限されるわけではありません。

    とはいえ、契約の内容や引き継ぎの状況によって判断が変わる場面もあります。

    引き止めへの対応

    引き止めが長引く原因の多くは、退職日があいまいなまま「辞めたい」という意思だけが伝わっていることにあります。日付を決めて書面にすると、話が具体的になります。

    1. 雇用契約書と就業規則で、契約の種類と申出時期の定めを確認する
    2. 退職日を決め、退職届に日付と退職日を明記して提出する
    3. 受け取ってもらえない場合は、控えを残す方法(内容証明郵便など)で送る
    4. 引き継ぎの範囲と期限を、口頭ではなくメールなど記録が残る形で確認する

    感情的なやり取りになると、引き継ぎもスタッフとの関係もこじれます。開設者の姿勢を責めるのではなく、契約と日付の話に絞って進めるほうが、結果的に早く片づきます。

    退職を認めないと言われた場合の相談先

    公的な窓口から順に当たるのが基本です。費用がかからず、記録も残ります。

    • 労働基準監督署
      賃金の不払いや労働基準法違反が疑われるときの申告先
    • 総合労働相談コーナー
      退職や引き止めなど職場のトラブル全般の相談窓口。全国378か所に設置され、予約不要・無料で面談または電話で相談できる
    • 都道府県労働局の紛争解決援助
      当事者間で解決しないときの助言・指導やあっせん
    • 弁護士への相談
      契約書の条項の有効性や損害賠償を持ち出されたときの法的判断
    総合労働相談コーナーの使い方
    378か所
    各都道府県労働局・労働基準監督署内などに設置
    相談料無料
    予約不要
    相談方法面談または電話
    休み土日祝・年末年始(12/29〜1/3)

    今のあなたの状況は?

    参考:e-Gov法令検索「医療法」 / 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」

    退職に伴って生じる手続き

    施術録を記録する柔道整復師の手元

    退職に伴う届出は、自分が行うものと開設者が行うものに分かれます。ここを取り違えると、「手続きが終わらないから辞められない」という誤解につながります。

    退職に伴う届出の主体・提出先・期限
    手続き誰が届け出るかどこへいつまでに
    病院・診療所の管理者変更届開設者都道府県知事10日以内
    保険医療機関の届出事項変更(異動)届保険医療機関(開設者側)地方厚生(支)局長速やかに
    施術所(整骨院)の届出事項変更届施術所の開設者都道府県知事(窓口は保健所)10日以内
    受領委任の施術管理者の変更開設者側(廃止の届出と後任の新たな申し出)地方厚生(支)局―

    退職する本人に、これらの届出義務はない

    管理者の変更に関する届出

    病院・診療所の管理者が変わったときの届出義務も、開設者側にあります。医療法施行令第4条の2第2項は、開設の許可を受けた者が、届け出た管理者の住所・氏名などに変更を生じたときは10日以内に都道府県知事へ届け出なければならないと定めています。

    いずれも届出の主体は開設者で、退職する管理者本人の義務ではありません。ただし、届出には後任の氏名や資格の情報が要ります。開設者から資料の提供を求められたときに応じられるよう、自分の免許証の写しなど手元の書類は整理しておきましょう。

    保険医療機関に関する手続き

    保険診療を行うクリニックでは、指定を受けたときの届出事項に変更があった場合、地方厚生(支)局長へ速やかに変更(異動)の届出を行うことになっています。管理者の変更もこの届出事項に含まれます。届け出るのは保険医療機関、つまり開設者側です。

    整骨院・接骨院の場合

    整骨院では、根拠が柔道整復師法に変わります。同法第19条第1項は、施術所を開設した者が、開設の場所や業務に従事する柔道整復師の氏名などを都道府県知事に届け出ること、その届出事項に変更を生じたときも同様であると定めています。院長が辞めることは、この「従事する柔道整復師」の変更にあたります。期限は開設後・変更後10日以内で、届出を怠った場合は30万円以下の罰金の対象です。

    受領委任で保険請求をしている施術所では、もう一段の手続きが加わります。受領委任の取扱いは施術管理者ごとの契約なので、施術管理者が入れ替わるときは、現在の取扱いの廃止と、後任による新たな申し出が必要です。後任が施術管理者になるには、令和6年度以降は3年以上の実務経験(うち保険医療機関で従事した期間は2年まで)と、施術管理者研修の修了が求められます。

    受領委任・施術管理者の実務経験要件の推移

    〜令和3年度
    実務経験1年以上
    令和4〜5年度
    実務経験2年以上
    うち保険医療機関で従事した期間は1年まで。
    令和6年度〜
    実務経験3年以上
    うち保険医療機関で従事した期間は2年まで。
    いずれの年度区分でも、実務経験に加えて施術管理者研修の修了が必要。

    退職後に登録が残っていないか確認する

    手続きを行うのは開設者側なので、実際に届け出られたかどうかは退職した本人には見えません。ここが落とし穴です。名前が施術管理者や管理者として残ったままだと、自分が関わっていない期間の施術や請求について説明を求められるおそれがあります。

    • 退職日から2週間ほど経ったら、開設者に変更届の提出状況を確認する
    • 施術所の届出は所在地の保健所、受領委任は地方厚生(支)局が窓口なので、必要に応じて自分でも問い合わせる
    • 求人広告やホームページに院長として名前・写真が残っていないか確認し、削除を依頼する
    • やり取りはメールなど記録が残る形で行い、依頼した日付を残す

    参考:e-Gov法令検索「柔道整復師法」 / 北海道厚生局「柔道整復師の施術に係る療養費の受領委任に関する申し出」

    辞める前に確認したい契約の内容

    資料を示しながら契約内容を説明する様子

    退職を申し出たあとで「契約書にこう書いてある」と持ち出されるのが、雇われ院長でありがちな展開です。申し出る前に、雇用契約書・就業規則・覚書の3点を読み返しておきましょう。

    違約金や損害賠償の定め

    労働基準法第16条は、使用者は労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならないと定めています。「契約期間の途中で辞めたら100万円」といった条項は、この規定に反します。

    混同しやすいのが、実際に生じた損害の賠償請求です。あらかじめ金額を決めておくことは禁止されていますが、現実に労働者の責任で発生した損害について賠償を請求すること自体まで禁じたものではありません。あらかじめ決めた金額を請求されているのか、実損害の請求なのかで話が変わります。

    金額を提示されたら、その場で認めず、根拠を書面で示してもらいましょう。

    「違約金の予定」と「実損害の賠償請求」の違い
    あらかじめ金額を決めておく契約
    現実に生じた損害の賠償請求
    何を指すか
    辞めた場合や契約違反があった場合の金額を、事前に取り決めておくこと
    労働者の責任で実際に発生した損害について、その内容に応じて賠償を求めること
    契約書での書かれ方の例
    「途中で退職した場合は違約金として一定額を支払う」のように、金額を先に固定した条項
    具体的な金額を先に示さず、「損害が生じたときは賠償を請求できる」といった定め
    労基法16条での扱い
    禁止されている。金額をあらかじめ決めておく契約そのものが対象
    禁止の対象ではない。事前の金額設定を禁じたもので、実損害の請求までは禁じていない
    言われたときにまず確認すること
    請求の根拠が、契約書にあらかじめ書かれた金額なのかを確認する
    何が原因でいつ生じた損害か、金額の根拠は何かを書面で示してもらう

    競業避止義務の条項

    退職後に一定の期間・地域で同業に就くことや開業することを制限する条項です。この種の条項が有効かどうかは、守るべき使用者の利益があるか、制限される期間や地域・職種の範囲が広すぎないか、代償となる手当などの措置があるか、といった事情を総合して判断されます。

    一律に有効とも無効とも決まらないため、近隣で開業や転職を考えているなら、申し出る前に条項の文言を確認し、弁護士に相談してから動くのが安全です。「独立するなら半径○km以内は不可」と口頭で言われただけで、契約書には記載がないケースもあります。

    役員を兼ねている場合

    医療法人の理事を兼ねている場合、退職と役員の退任は別の手続きです。医療法人の役員は社員総会などの決議によって選任され、任期は2年を超えられません。ただし、医療法人が開設する病院等の管理者として理事に加わっている場合は、管理者の職を退いたときに理事の職も失うと定められています。

    株式会社が運営する整骨院で取締役を兼ねている場合は、会社と取締役の関係は委任に関する規定に従います。従業員としての退職届を出しただけでは取締役を辞めたことにならず、辞任の意思表示と役員変更の登記が別に必要です。登記簿に名前が残ったままだと、退職後の会社の債務について問い合わせを受けることがあります。

    医療法人の理事 と 株式会社の取締役 の違い

    比較の観点 医療法人の理事 株式会社の取締役
    法人との関係 委任に関する規定に従う(医療法46条の5第4項) 会社法330条により、会社との関係は委任に関する規定に従う
    選任のされ方 社員総会などの決議 株主総会の決議
    任期 2年を超えることができない(再任は可能) 定款や会社法の定めによる
    従業員としての退職との関係 管理者として理事に加わっている場合、管理者の職を退いたときに理事の職も失う 従業員としての退職届を出しただけでは、取締役を辞めたことにならない
    退職届だけで辞められるか 退職と役員の退任は別の手続き 辞められない。辞任の意思表示と役員変更の登記が別に必要

    貸付金や保証人になっている場合

    開業資金や研修費用の貸付を受けている、法人の借入に連帯保証人として署名している、といったケースがあります。退職しても保証の効力が自動的に消えるわけではありません。

    • 貸付金の残額と、退職時に一括返済を求める条項の有無
    • 研修費用の返還規定が、実質的に退職を制限する内容になっていないか
    • 連帯保証の契約書の有無と、保証の範囲・期間
    • 社宅や車両の貸与について、退職時の取り扱い
    柔道整復師の求人を探す

    参考:栃木労働局「賠償予定の禁止(第16条)」 / e-Gov法令検索「会社法」

    未払い賃金と年次有給休暇

    給与明細書と給与に関する書類

    「院長は管理職だから残業代はない」「引き継ぎがあるから有給は使わせられない」。どちらも、そのまま受け入れる前に確認したい話です。

    管理監督者に労基法の規定は適用されるか
    規定 一般の労働者 管理監督者
    労働時間の上限(法定労働時間) 適用される 適用されない
    休憩 適用される 適用されない
    休日 適用される 適用されない
    時間外労働の割増賃金 適用される 適用されない
    深夜労働の割増賃金(午後10時〜午前5時・2割5分以上) 適用される 適用される
    年次有給休暇 適用される 適用される

    時間外労働に対する割増賃金

    労働基準法第41条第2号は、監督もしくは管理の地位にある者について、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しないと定めています。ただしここでいう管理監督者は、部長・工場長など労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者を指し、名称にとらわれず実態に即して判断されます。院長という肩書きがあるだけでは該当しません。

    判断では、労務管理上の権限があるか、出退勤の時間を自分で決められるか、待遇が地位にふさわしいかといった点が見られます。シフトに組み込まれて遅刻を注意される立場なら、管理監督者とされない方向に働きます。

    管理監督者に当たるかを実態で見る判断フロー
    院長という肩書きがある
    肩書きではなく、次の3つの実態を総合的に見る
    (1) 採用・給与・勤務シフトなど労務管理について、経営者と一体的な立場にあるか
    はい経営者側の立場に近い
    いいえ管理監督者から離れる方向
    (2) 自分の出退勤の時間を自分で決められるか(遅刻・早退を注意されたり評価に響いたりしないか)
    はい経営者側の立場に近い
    いいえ管理監督者から離れる方向
    (3) 基本給・手当・賞与が、その地位にふさわしい水準になっているか
    はい経営者側の立場に近い
    いいえ管理監督者から離れる方向
    いずれかが「いいえ」に寄るほど、管理監督者に当たらない方向に働く
    この場合、時間外労働には割増賃金の支払いが必要になる
    ※3つの視点をあわせて実態から総合的に判断される

    さらに押さえておきたいのが深夜労働です。第41条が適用除外にしているのは労働時間・休憩・休日に関する規定で、深夜の割増賃金はこれに含まれません。午後10時から午前5時までの労働には、管理監督者であっても2割5分以上の割増賃金が必要です。

    賃金の請求権の時効は、当分の間3年とされています。過去にさかのぼって請求する場合は、この期間内かどうかを確認しましょう。

    編集部からのアドバイス
    • 退職を申し出る前に、勤務時間の記録を自分の手元にも残しておきましょう
    • タイムカードの写し、シフト表、施術録の入力時刻の控えが証拠になります
    • 退職後は院内のデータにアクセスできなくなります
    キャリアパートナー

    年次有給休暇の取得

    年次有給休暇は、雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に10日が与えられます。管理監督者に当たる場合でも、年次有給休暇の規定は適用されます。

    退職前のまとめ取りについては、明確な整理があります。使用者は、請求された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合、ほかの時季に変更できます(時季変更権)。しかし退職によって年休の権利は消滅するため、退職間近に残った年休をすべて使いたいと申請された場合、使用者は時季変更権を行使できません。

    退職前の年休で確認すること


    • 残日数を給与明細や年次有給休暇管理簿で確認する
    • 退職日から逆算して取得日を決め、退職届と一緒に申請する
    • 引き継ぎを理由に退職日を後ろにずらす提案を受けても、応じるかどうかは自分で判断してよい

    お探しの求人は?

    参考:厚生労働省「年次有給休暇|しっかり学ぼう!働くときの基礎知識|確かめよう労働条件」 / 大阪労働局「管理監督者の範囲(労働時間の例外)」

    患者とスタッフへの対応

    患者さんに肩の状態を説明する柔道整復師

    院長の退職は、患者さんにもスタッフにも影響します。ただし、影響の大きさと自分が引き受ける責任の範囲は別の話です。

    引き継ぎの範囲

    引き継ぐべきは、自分が担当していた業務の情報です。施術の経過、通院中の患者さんの状況、外注先や取引先の連絡先、シフトや発注の手順。ここまでを整理して渡せば、労働者としての引き継ぎは果たしています。

    一方で、後任の採用や育成、退職後の電話対応は、開設者が引き受ける範囲です。「後任が育つまで週1回来てほしい」といった依頼を受けることもありますが、応じるかどうかは自由です。引き受けるなら、期間・回数・報酬を書面で決めてから始めましょう。

    伝える時期と順序

    最初に伝える相手は開設者です。スタッフや患者さんへの周知の方法と時期は、開設者と相談して決めます。順序を逆にすると、退職の話が伝聞で広がり、引き止めの交渉も難しくなります。

    患者さんへの説明は、開設者と合意した内容の範囲で行いましょう。退職理由を詳しく話す必要はありません。転院や通院先の相談を受けた場合も、自分の次の勤務先へ誘導する形にならないよう気をつけます。競業避止の条項がある場合はなおさらです。

    伝える順序
    1
    開設者に伝える
    退職の意思と退職日を伝える
    開設者より先に周囲へ伝えない
    2
    周知方法を決める
    スタッフ・患者さんへの伝え方と時期を開設者と相談する
    自分だけで手順を先に決めない
    3
    スタッフへ伝える
    開設者と決めた内容に沿って伝える
    決めた内容と違う話を加えない
    4
    患者さんへ伝える
    合意した範囲で説明する
    転院先は自分の次の勤務先へ誘導しない

    診療録等の取り扱い

    施術録や診療録は施設が保存するもので、個人が持ち出すものではありません。患者さんの氏名・連絡先の控え、写真、施術の記録を私物の端末に残したまま退職するのは避けましょう。

    柔道整復師法第17条の2は、柔道整復師は正当な理由がなく業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならず、柔道整復師でなくなった後も同様であると定めています。違反した場合は50万円以下の罰金の対象で、この罪は告訴がなければ起訴されない親告罪とされています。退職後にSNSや面接の場で個別の患者さんの話を出さないことも、この義務に含まれます。

    参考:厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」

    まとめ

    雇われ院長の退職でつまずきやすいのは、「辞められるかどうか」と「手続きが終わるかどうか」を同じ問題として考えてしまうことです。この2つは切り離せます。

    • 期間の定めのない雇用なら、解約の申入れから2週間の経過で雇用は終了する
    • 管理者を置く義務も、施術所の届出義務も、課されているのは開設者。後任の不在を理由に退職の自由が制限されるわけではない
    • 管理者・施術管理者の変更届は開設者が行うため、退職後に登録が残っていないか自分で確認する
    • 違約金の定めは労働基準法で禁止されている。競業避止の条項は個別判断なので、近隣での開業・転職を考えるなら事前に弁護士へ
    • 退職間近の年休のまとめ取りに、使用者は時季変更権を行使できない
    退職を決めてから完了するまでの流れ
    1
    雇用契約書・就業規則を開き、契約の種類と申出時期の定めを確認する
    2
    違約金・競業避止・役員の兼務・貸付や保証など、契約上の制約を洗い出す
    3
    退職日を決め、書面で申し出る
    4
    残っている年次有給休暇の取得を申請する
    5
    引き継ぎ資料を整理してまとめ、渡す
    6
    退職後、管理者・施術管理者の変更届が出されたかを確認する

    まず手元の雇用契約書と就業規則を開き、契約の種類と申出時期の定めを確認するところから始めましょう。そのうえで退職日を決めて書面で申し出れば、話は前に進みます。判断に迷う部分が出てきたら、一人で抱えずに総合労働相談コーナーや弁護士を頼りましょう。

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    医療キャリアナビ編集部

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    記事の執筆・編集は、医療業界に精通した編集スタッフが担当しています。日々の転職支援業務で得た現場のリアルな情報と、厚生労働省をはじめとする公的機関のデータに基づき、信頼性の高いコンテンツをお届けしています。

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