訪問鍼灸のデメリットとは?鍼灸師が知っておきたい働く際の負担と対策
訪問鍼灸は、通院が難しい方のご自宅へ出向いて施術を行う働き方です。施術所を構えずに始められる、同じ利用者さんと長く関われるといった魅力がある一方で、移動や制度対応にともなう負担があることも事実です。
訪問鍼灸のデメリットを知らないまま始めると、想像していた働き方と違ったと感じることもあります。
この記事では、鍼灸師が訪問鍼灸で働くときに直面しやすい負担を、移動や施術環境といった実務面と、療養費や同意書といった制度面の両方から整理します。
あわせて、利用者さん側の事情から生じる負担、移動にともなうリスクへの備え、そして訪問鍼灸で働く前に確認しておきたいことも解説します。訪問鍼灸という働き方を選ぶかどうかを判断する材料としてお役立てください。
気になることを
キャリアパートナーに相談できます
気になる内容をお選びください(複数選択可)
訪問鍼灸という働き方

訪問鍼灸のデメリットを正しく捉えるには、まずこの働き方の輪郭を押さえておくことが役立ちます。施術所での勤務と何が違うのかが分かると、どこに負担が生じるのかも見えてきます。
ここでは訪問鍼灸の概要と、施術所での勤務との違いを整理します。
訪問鍼灸の概要
訪問鍼灸は、歩行が困難などの理由で施術所へ通えない方のご自宅や入居先へ鍼灸師が出向き、はり・きゅうの施術を行う働き方です。
利用者さんは高齢の方や、脳血管疾患の後遺症などで移動に制限がある方が中心になります。
健康保険の療養費を使って施術を行う場合は、医師の同意書が前提となります。同意書がないまま保険を使った施術はできないため、施術所での自費施術とは業務の進め方が大きく変わります。
なお、厚生労働省の資料では、通所が困難な方に対して定期的・計画的に赴く場合を「訪問」、その理由が突発的に生じて赴く場合を「往療」として区別しています。日常会話では同じ意味で使われがちですが、療養費の取り扱いでは別の扱いになる点に注意が必要です。
- 対象になるのは、歩行が困難などの理由で通所が難しい方
- 施術は施術所ではなく、利用者さんの生活の場で行う
- 療養費を使う場合は医師の同意書が前提になる
- 定期的・計画的に赴く「訪問」と、突発的な理由で赴く「往療」は区別される
施術所での勤務との違い
施術所での勤務は、利用者さんが来院する前提で1日が組み立てられます。設備や道具は院内にそろっており、施術と施術の間に生じる移動もありません。これに対して訪問鍼灸は、鍼灸師が移動する前提で1日が組み立てられます。
働く場所の分布を見ると、令和6年衛生行政報告例では、はり・きゅうを行う施術所も、あん摩マッサージ指圧を合わせて行う施術所も全国に数万か所あり、就業しているはり師・きゅう師の数も増加傾向にあります。
施術所で働く選択肢が広くあるなかで、あえて訪問という形を選ぶ意味を整理しておくことが大切です。
参考:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」 / 厚生労働省「はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」
お探しの求人は?
施術者にとっての働くデメリット

ここでは、訪問鍼灸で働く鍼灸師が実際に感じやすい負担を並べます。対策は記事の後半でまとめて扱いますので、まずは何が起きるのかを事実として押さえておきましょう。
いずれも「訪問だから避けられない」性質のものが多く、事前に見積もっておくと働き始めてからのギャップを小さくできます。
移動に時間がかかる
訪問鍼灸で最も大きいのが移動の負担です。1件あたりの施術時間が20〜30分程度でも、移動と準備・片付けを含めると1件に1時間前後かかることは珍しくありません。担当エリアが広いほど、1日の労働時間に占める移動の割合は大きくなります。
移動時間は施術そのものではないため、働いている実感と報酬が結びつきにくいと感じる方もいます。移動手段が自動車か自転車かによっても、疲労の質や1日に回れる件数が変わります。
1件あたりの時間の内訳
天候に左右される
屋外を移動する以上、雨・雪・強風・猛暑の影響を直接受けます。荒天の日は移動時間が延び、予定していた件数を回りきれないこともあります。
自転車やバイクで移動している場合は影響がさらに大きく、雨具や着替えの準備が必要になります。施術道具を濡らさない工夫も欠かせません。天候は自分の努力では変えられないため、予定を組む段階で余裕を持たせておくことが現実的な対応になります。
施術環境が整わない場合がある
施術所であれば高さの合った施術ベッドがあり、照明も十分です。訪問先ではベッドや布団の上、床の上で施術することになり、施術者が中腰や膝立ちの姿勢を続ける場面が出てきます。
室温や照明も利用者さんのご自宅の条件に合わせるほかありません。冬に暖房が十分でない部屋や、手元が見えにくい照明のもとで施術する日もあります。こうした環境の差は、施術の質を保つ難しさと、施術者自身の身体的な負担の両方につながります。
訪問先の環境は選べません。腰や膝への負担を減らす姿勢の工夫と、携帯できる補助具の準備が働き続けるための現実的な備えになります。
道具を持ち運ぶ負担がある
はりやきゅうの消耗品、消毒用品、廃棄容器、タオル類、記録用の書類など、訪問には一式を持ち歩く必要があります。灸を使う場合は消火や換気への配慮も加わり、荷物はさらに増えます。
補充を忘れると訪問先で対応できなくなるため、出発前の確認が毎日の業務に組み込まれます。荷物の重さは移動手段の選択にも影響し、自転車移動の場合は積載量が上限になることもあります。
1日の予定が固定されやすい
訪問鍼灸は、利用者さんの生活リズムやご家族の在宅時間に合わせて訪問時間を決めます。そのため、一度組んだ予定を動かしにくくなります。
1件の施術が延びると後続の訪問がすべて後ろにずれるため、時間管理の緊張感は施術所勤務より高くなりがちです。
急な体調変化によるキャンセルが出ても、他の訪問時間は動かせないことが多く、空いた時間をそのまま持て余すこともあります。
こうした負担が、そのまま給与に上乗せされるとは限りません。医療キャリアナビ掲載求人データで、訪問マッサージ分野と整骨院・接骨院の正社員月給の中央値を比べると、大きな差は見られませんでした。
制度に起因する負担

訪問鍼灸のデメリットとして語られる「大変さ」の多くは、実は療養費の仕組みに由来しています。どの業務にどれだけ時間を取られるのかは、制度を理解しておくと事前に見積もれます。
なお、療養費の要件は改定されるため、実際に働く際は必ず厚生労働省の最新の通知で確認してください。
医師の同意書が必要になる
はり・きゅうの施術で健康保険の療養費を受けるには、保険医による同意書の交付が必要です。施術者の判断だけで保険を使った施術を始めることはできません。
この同意書を取得する過程が、そのまま施術者の業務になります。利用者さんやご家族に制度を説明し、かかりつけ医へ相談していただき、書類を受け取るまでの調整が発生します。医師によっては、はり・きゅうの療養費の仕組みに詳しくない場合もあり、説明に時間がかかることもあります。
新規の利用者さんを受け入れるたびにこの手順が発生するため、施術以外の時間が一定量必要になると考えておくとよいでしょう。
同意書の更新が定期的に発生する
同意書は一度もらえば終わりではありません。厚生労働省の資料によると、同意書による療養費の支給可能期間は6か月です。あん摩マッサージ指圧の変形徒手矯正術のみ1か月とされています。
継続して施術を行う場合は再同意が必要で、再同意にあたっても保険医の診察と、文書(同意書)の交付が求められます。さらに、医師が再同意を判断する際の材料として、施術者が施術報告書を交付することが求められます。
つまり、施術者は施術を続けながら、利用者さんごとに更新時期を管理し、報告書を作成し、医療機関との連絡を取り続けることになります。担当する利用者さんが増えるほど、この事務負担は積み上がっていきます。
- 同意書を取得して施術を開始する
- 6か月の支給可能期間を管理する(変形徒手矯正術のみ1か月)
- 施術報告書を作成し、医師の再同意の判断材料として交付する
- 保険医の診察を経て、文書で再同意を受ける
往療料の要件を満たす必要がある
訪問して施術を行う場合の料金は、施術料に加えて往療料や訪問施術料といった区分で構成されます。この部分は改定が続いており、令和6年度の改定(令和6年10月施行)では、往療料の4km超の加算が廃止され、あらたに訪問施術料が新設されました。訪問施術料は、同一日・同一建物で施術する患者さんの人数によって1人あたりの単価が変わる仕組みです。
距離についても要件があります。片道16kmを超える往療・訪問施術については、絶対的な理由がある場合以外は認められないとされています。担当エリアを広げれば売上が伸びるという単純な話にはならず、エリア設計そのものが制度の制約を受けます。
料金の額は改定のたびに変わるため、具体的な金額は最新の通知で確認する必要があります。ここでは金額そのものより、「距離」「同一日・同一建物の人数」「訪問と往療の区別」という要件の構造を押さえておくことが大切です。
往療料の新旧比較(令和6年10月施行)
| 項目 | 改定前 | 改定後(令和6年10月〜) |
|---|---|---|
| 料金の区分 | 往療料(加算方式) | 新設訪問施術料 |
| 4km超の加算 | 加算あり | 廃止 |
| 単価の決まり方 | 距離に応じた加算が中心 | 同一日・同一建物で施術する人数に応じて1人あたりの単価が逓減 |
| 訪問と往療の区別 | 定期的・計画的に赴く=訪問/突発的な理由で赴く=往療 | 区別は維持されたまま単価の構造が変更 |
片道16km超の往療・訪問施術は、改定の前後を通じて絶対的な理由がある場合以外は認められない
療養費の対象が限られる
はり・きゅうの療養費は、どのような症状にも使えるわけではありません。厚生労働省の資料では、支給対象となる主な疾病として、神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症の6つが挙げられています。これら以外の疾病については、保険者が個別に判断することとされています。
対象が限られているということは、問い合わせを受けても保険では対応できない場合があるということです。その際は自費施術として案内するか、他の選択肢をお伝えすることになります。
また、同一の疾病について医療機関で治療を受けている期間は、はり・きゅうの療養費の対象にならない場合があります。この点も利用者さんに説明が必要な項目で、施術者側が制度を正確に理解していないと誤った案内につながります。
参考:厚生労働省「はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」 / 厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」
鍼灸師の求人を探す利用者側の事情が施術に影響する

訪問鍼灸の負担は、施術者側の努力だけで解決できるものばかりではありません。訪問先は利用者さんの生活の場であり、そこにある事情がそのまま施術者の業務量に跳ね返ります。
利用者さん側から見た訪問鍼灸の課題を知っておくと、訪問先で起きる問題を先回りして防げるようになります。
施術スペースの確保
施術には、利用者さんが横になれる広さと、施術者が体を動かせる余裕が必要です。しかし、ご自宅の間取りや家具の配置によっては、十分なスペースを確保できないことがあります。
介護用ベッドが置かれている部屋は、周囲に手すりや車いす、酸素機器などが並んでいることも多く、施術者が入れる位置が限られます。訪問のたびに家具を動かしていただくのは利用者さんの負担になるため、初回訪問で施術位置を決めておくことが実務上のポイントになります。
ご家族が同居している場合は、施術中の生活音や人の出入りにも配慮が必要です。限られた空間で施術の質を保つ工夫が求められます。
担当者との相性
訪問鍼灸は、同じ施術者が長期にわたって同じ利用者さんのご自宅に上がる働き方です。施術所であれば担当を代わることもできますが、訪問では代わりの人員を立てにくく、相性の問題が表面化しやすくなります。
利用者さんやご家族が求めるものは、施術の効果だけではありません。会話の量、訪問時の立ち居振る舞い、生活空間への入り方など、施術以外の要素も評価の対象になります。ここが合わないと、施術内容に問題がなくても継続が難しくなることがあります。
なお、利用者さんの側には、鍼灸師と国家資格を持たない施術者の区別がつきにくいという事情もあります。厚生労働省も有資格者と無資格者の判別について周知しており、施術者の側から資格を明示して信頼を得る姿勢が求められます。
費用の仕組みを説明する必要がある
訪問鍼灸の費用は、保険を使う部分と自費の部分、そして交通費の扱いが絡み合います。利用者さんやご家族から「結局いくらかかるのか」と尋ねられる場面は必ず訪れます。
負担額は加入している保険や年齢、負担割合によって変わり、地域や保険者によって取り扱いが異なる部分もあります。そのため、断定的な金額を先に伝えるのは避け、費用の決まり方を説明するのが安全です。同意書が必要であること、更新のたびに医療機関の受診が必要になることも、あわせて伝えておくと後の行き違いを防げます。
こうした説明は施術時間の外で発生する業務ですが、訪問鍼灸では避けて通れません。説明の型を用意しておくと負担を抑えられます。
参考:厚生労働省「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師と無資格者との判別について」
転職活動するなら?
移動に伴うリスクと備え

訪問鍼灸では、移動そのものが業務の一部です。ここには施術所勤務にはないリスクがあり、備えの有無が働きやすさを左右します。
駐車、交通事故、感染対策の3点を押さえておきましょう。
駐車場所の確保
自動車で訪問する場合、駐車場所の確保は毎回の課題になります。マンションや住宅密集地では来客用の駐車スペースがないことも多く、コインパーキングを探すために予定より時間がかかることもあります。
駐車禁止の規制がかかっている場所であっても、特別の事情がある場合には警察署長の許可を受けて駐車できる制度があります。警察庁の資料では、貨物の集配や訪問診療・訪問介護などに使用する車両も許可の対象になり得るとされています。申請先は駐車場所を管轄する警察署で、駐車許可申請書、駐車場所および周辺の見取図、自動車検査証の写し、用務を疎明する書面が必要とされています。
反復して業務に使う車両については、有効期間を1年以上とすることも可能とされています。訪問先が固定している場合は、この制度を確認しておくと移動の負担を減らせます。ただし運用は管轄の警察署によって異なるため、事前の相談が前提です。
- 駐車許可申請書
- 駐車場所及び周辺見取図
- 自動車検査証の写し
- 用務を疎明する書面
交通事故への備え
移動距離が長くなるほど、交通事故に遭う確率は上がります。自動車、バイク、自転車のいずれでも、加害・被害の両方の可能性があります。
事故が起きると、自分の治療だけでなく、担当している利用者さんの施術がすべて止まります。訪問鍼灸は代わりの施術者を立てにくい働き方であるため、事故は事業の停止に直結します。勤務する場合は業務中の事故がどう扱われるかを就業規則で確認し、独立して働く場合は任意保険や所得補償の備えを検討しておくと安心です。
移動ルートに無理がないか、1日の訪問件数が多すぎないかを定期的に見直すことも、事故を遠ざける現実的な方法です。
交通事故が起きたときの「備え方」は働き方で変わる
感染対策
訪問先の利用者さんは高齢の方や基礎疾患のある方が多く、施術者が感染を持ち込まない配慮が欠かせません。訪問鍼灸は複数のご自宅を1日で回るため、施術者自身が媒介者になり得ることを前提に行動する必要があります。
手指衛生、体調不良時の対応方針、道具の消毒と使い捨て用品の管理は、訪問ごとに徹底したい項目です。はりは使い捨てのものを使用し、使用済みのはりは専用の容器に入れて持ち帰るなど、廃棄までの流れを決めておきます。
- 訪問前後の手指衛生を徹底する
- 施術者自身の体調管理と、体調不良時の連絡・振替のルールを決めておく
- 使い捨てのはりを使用し、使用済みのものは専用容器で管理する
- タオル類は利用者さんごとに分け、使い回しをしない
- 利用者さんに発熱等がある場合の訪問可否を、事前に取り決めておく
訪問鍼灸で働くメリット

ここまで負担を並べてきましたが、訪問鍼灸には施術所勤務では得にくい魅力もあります。デメリットとあわせて見ることで、自分に合う働き方かどうかを判断しやすくなります。
継続性、コスト、地域とのつながりの3つの視点から整理します。
継続して同じ利用者に関われる
訪問鍼灸は、同じ利用者さんのもとへ定期的に通う働き方です。施術所のように一度きりの来院で終わることが少なく、数か月から数年単位で経過を追えるのが大きな特徴です。
生活環境や家族関係まで見えるため、症状の背景にある要因を捉えやすくなります。施術の効果を長い時間軸で確認できることは、鍼灸師としての経験の蓄積につながります。感謝の言葉を直接受け取る機会が多いことも、やりがいとして挙げられる点です。
施術所の単発来院とは異なる、関わりが深まっていく時間軸
施術所の家賃がかからない
出張のみで施術を行う場合、施術所を構える必要がありません。テナントの家賃や内装費、設備投資といった固定費が発生しないため、開業時の初期費用を抑えやすい働き方といえます。
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律では、施術所を開設した場合は10日以内に届け出ることとされている一方、専ら出張のみによって業務に従事する場合は、業務を開始した際に住所地の都道府県知事へ届け出ることとされています。設ける形態によって必要な手続きが変わります。
なお、医療キャリアナビ掲載求人データでは、鍼灸師の求人のうち訪問マッサージ分野は415件で、鍼灸院の90件を大きく上回ります。まず勤務先として訪問の現場を経験してから独立を考える道も現実的です。
地域のなかで信頼を得やすい
訪問鍼灸は、担当エリアが地理的に限られます。同じ地域を繰り返し訪れるため、ケアマネジャーや訪問看護師、医療機関との関係が自然に積み上がります。
利用者さんのご家族や近隣の方からの紹介につながることも多く、広告に頼らない集客の土台をつくれます。地域に根を張る働き方を望む方にとっては、施術所を構えるよりも早く信頼を得られる場合があります。
参考:e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」
今のあなたの状況は?
訪問鍼灸で働く前に確認したいこと

デメリットを把握したうえで訪問鍼灸を選ぶなら、始める前に確認しておきたい項目があります。勤務する場合と開業する場合では、必要な手続きも確認先も変わります。
ここでは、判断と準備のために押さえておきたい点を整理します。
勤務する場合に確認すること
訪問鍼灸を行う事業所に勤める場合は、求人票だけでは分からない条件を面接で確認しておくと入職後のギャップを防げます。担当エリアの広さ、1日の訪問件数、移動手段と交通費の扱い、直行直帰の可否は、働きやすさに直結する項目です。
同意書の取得や施術報告書の作成を誰が担当するのかも重要です。事務担当がいる事業所と、施術者がすべて行う事業所では、実質的な労働時間が変わります。
将来的に受領委任の取扱いを行う施術管理者を目指す場合は、要件も確認しておきましょう。施術管理者になるには、実務経験1年以上と、施術管理者研修(合計16時間・2日間以上)の修了が求められます。実務経験は保健所に届け出られた施術者としての期間に限られ、はり・きゅうとあん摩マッサージ指圧では区分して扱われます。研修修了証の有効期間は修了年月日から5年間です。
面接で確認しておきたい項目
- 担当エリアの広さと1日あたりの訪問件数
- 移動手段と、交通費・車両費の負担区分
- 同意書の取得と施術報告書の作成を誰が担うか
- 直行直帰の可否と、移動時間の労働時間としての扱い
- 施術管理者を目指す場合の実務経験の積み方
開業する場合に必要な届出
開業する場合は、施術所を設けるか、出張のみで行うかで届出が変わります。施術所を開設した場合は、開設後10日以内に施術所の所在地の保健所へ届け出ます。休止・廃止・再開の際も同様に10日以内の届出が必要です。
施術所には構造設備の基準や衛生上の措置も定められています。
一方、専ら出張のみによって業務に従事する場合は、業務を開始した際に住所地の都道府県知事へ届け出ます。様式や必要書類は自治体によって異なるため、必ず管轄の保健所へ事前に確認してください。
税務上の手続きも必要です。個人事業の開業・廃業等届出書の提出期限は、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までとされています。青色申告承認申請書は原則として3月15日まで、1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内が期限です。
開業スタイル別・届出の比較
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届出先 | 施術所所在地の保健所 |
| 届出のタイミング | 開設後10日以内 |
| 休止・廃止・再開 | いずれも10日以内に届出 |
| そのほかの定め | 構造設備の基準・衛生上の措置あり |
あはき法第9条の2・第9条の5にもとづく届出
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届出先 | 住所地の都道府県知事 |
| 届出のタイミング | 業務を開始した時 |
| 施術所の設置 | 不要(家賃などの固定費がかからない) |
| そのほかの定め | 様式・必要書類は自治体により異なる |
あはき法第9条の3にもとづく届出
| 書類 | 提出期限 |
|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 事業開始の日の属する年分の確定申告期限まで |
| 青色申告承認申請書(原則) | 原則として3月15日まで |
| 青色申告承認申請書(1/16以後に開業) | 開業日から2か月以内 |
施術所・出張のみのどちらでも税務署への届出が別途必要
利用者を集める方法
訪問鍼灸の集客は、施術所のように看板や立地に頼れません。ケアマネジャーや地域包括支援センター、訪問看護ステーション、医療機関との関係づくりが中心になります。制度の説明ができる資料を用意しておくと、紹介につながりやすくなります。
ここで注意したいのが広告の制限です。あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律では、広告できる事項が施術者の氏名・住所、業務の種類、施術所の名称・電話番号・所在地、施術日や施術時間などに限定されています。技能・施術方法・経歴にわたる内容は広告できません。
「〇〇が治る」「〇年の経験」といった訴求はできないため、集客は実績の宣伝ではなく、関係先への情報提供と信頼の積み重ねで進めることになります。この点も、訪問鍼灸を始める前に理解しておきたい制約のひとつです。
あはき法第7条:広告できる項目 / できない項目
| 広告表示の内容 | 広告できる | 広告できない |
|---|---|---|
| 施術者の氏名・住所 | ◯ | - |
| 業務の種類(はり・きゅう等) | ◯ | - |
| 施術所の名称・電話番号・所在地 | ◯ | - |
| 施術日・施術時間 | ◯ | - |
| 技能 | - | ✕ |
| 施術方法 | - | ✕ |
| 経歴 | - | ✕ |
法律で列挙された事項に限定される点が、一般的な広告表示との大きな違いです
参考:e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」 / 厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」 / 国税庁「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など」
まとめ
訪問鍼灸のデメリットは、移動時間や天候、施術環境、道具の持ち運びといった実務面の負担と、同意書の取得・更新、往療料の要件、療養費の対象疾病といった制度面の負担に分けられます。とくに制度面の負担は、施術以外の時間を確実に必要とするため、始める前に業務量として見積もっておくことが大切です。
また、施術スペースの確保や費用の説明といった利用者さん側の事情も、そのまま施術者の負担になります。両方の視点を持っておくと、訪問先で起きる問題を先回りして防げます。
一方で、同じ利用者さんと長く関われること、施術所の固定費がかからないこと、地域のなかで信頼を積み上げやすいことは、訪問鍼灸ならではの魅力です。負担と魅力の両方を並べたうえで、自分が続けられる形かどうかを判断してください。
まずは訪問の現場を持つ事業所で経験を積み、担当エリアや訪問件数、事務作業の分担といった条件を確かめるところから始めるのがおすすめです。療養費の要件は改定されるため、実際に働く際は厚生労働省の最新の通知で確認するようにしましょう。





