訪問鍼灸で開業するには?鍼灸師に必要な届出・資金・集客の進め方
訪問鍼灸で開業したいと考えても、何から手をつければよいのか分かりにくいものです。届出の提出先は複数に分かれ、健康保険の療養費を扱うなら施術管理者の要件も関わってきます。
さらに、施術した分の売上がすぐ手元に入るとは限らないため、資金の準備を誤ると開業直後につまずきます。
この記事では、訪問鍼灸で開業するために必要な資格と要件、保健所・地方厚生局・税務署への届出、開業資金と資金繰りの考え方を順に整理します。
あわせて、療養費を扱ううえで欠かせない医師の同意書を得るための連携や、売上の見通しの立て方も解説します。
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訪問鍼灸で開業する働き方

訪問鍼灸は、通院が難しい方の自宅や施設へ出向いて、はり・きゅうの施術を行う働き方です。院を構えて患者さんを待つスタイルとは、対象となる方も日々の動き方も変わります。開業の形も、施術所を持つか持たないかで届出や設備の負担が変わってきます。
まずは、どういった方が対象になるのか、そして施術所を構えるかどうかで何が違うのかを押さえておきましょう。ここを曖昧にしたまま準備を進めると、後の届出や療養費の請求でつまずきやすくなります。
訪問鍼灸の対象となる利用者
健康保険の療養費を使ってはり・きゅうの施術を受けられるのは、医師が同意書を交付した方に限られます。厚生労働省は、はり・きゅうの療養費の支給対象を「慢性病(慢性的な疼痛を主訴とする疾病)であって保険医による適当な治療手段のないもの」と示しています。
具体的には、神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症の6疾病が挙げられています。この6疾病以外の病名で同意書が出された場合は、記載内容から支給要件に当たるかを保険者が個別に判断する扱いです。
はり・きゅうの療養費 支給対象6疾病
慢性病(慢性的な疼痛を主訴とする疾病)であって保険医による適当な治療手段のないもの
※6疾病以外の病名は保険者が個別に判断
さらに訪問して施術するには、条件がもう一段加わります。厚生労働省の資料では、歩行が困難などのやむを得ない理由で通所が難しい場合に自宅へ赴き、定期的・計画的に施術することを「訪問」、そうした理由が突発的に生じて赴くことを「往療」と区別しています。
同意書の「訪問又は往療」欄で必要とする旨と、その理由が記載されていることが前提になります。
医師は、公共交通機関を使った通院・通所が困難か、認知症や視覚・内部・精神の障害により単独での外出が難しいか、介護保険の要介護度や他職種との連携状況はどうかといった点を踏まえて、訪問・往療の同意を判断します。
つまり訪問鍼灸の利用者さんは、慢性的な痛みを抱え、なおかつ外出そのものが制限されている方が中心になります。
出張専門と施術所を構える形の違い
訪問鍼灸の開業には、大きく2つの形があります。ひとつは施術所を開設したうえで訪問も行う形、もうひとつは施術所を持たず出張のみで業務を行う形です。
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき法)では、この2つが別の条文で整理されています。施術所を開設した場合は第9条の2、専ら出張のみで業務に従事する場合は第9条の3に基づく届出が必要です。届出の名称も提出内容も変わるため、どちらの形で始めるかは開業準備の最初に決めておきたいポイントです。
施術所を構える形 と 出張専門の形 の比較
施術所を構える場合は、あはき法第9条の5により、構造設備が厚生労働省令で定める基準に適合していなければなりません。開設者には衛生上必要な措置を講じる義務もあります。物件を借りる費用に加え、基準を満たすための内装工事が必要になることもあります。
一方、出張専門なら物件費用を抑えられますが、施術所として広告や来院導線を持てない分、利用者さんとの接点をどう作るかが課題になります。訪問鍼灸は在宅の高齢者が中心になるため、後述する医師やケアマネジャーとの連携がより重要になります。
自宅サロンや店舗での施術も並行したいなら施術所の開設
訪問一本に絞り初期費用を抑えたいなら出張専門
将来の形が固まっていないなら、まず管轄の保健所へ相談
参考:厚生労働省「はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」 / e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」
今のあなたの状況は?
開業に必要な資格と要件

訪問鍼灸で開業するには、はり師・きゅう師の免許が土台になります。そのうえで健康保険の療養費を扱うのであれば、施術管理者としての要件を別途満たす必要があります。
免許を持っているだけでは療養費の受領委任を取り扱えない点は、見落とされやすいところです。開業の時期を逆算するうえでも、要件の中身を早めに確認しておきましょう。
はり師・きゅう師の免許
はり・きゅうの施術を業として行えるのは、あはき法第1条により免許を受けた方に限られます。訪問という形態でも、この前提は変わりません。
免許を得るには、文部科学大臣が認定した学校または都道府県知事が認定した養成施設で3年以上必要な知識と技能を修得し、国家試験に合格する必要があります。試験は公益財団法人東洋療法研修試験財団が指定試験機関として実施しており、受験手数料は1試験につき19,500円です。はり師ときゅう師の両方を受験する場合は2試験分がかかります。
合格後は名簿への登録が必要です。新規免許申請にかかる費用は、申請手数料が1免許5,600円、収入印紙(登録免許税)が1免許につき9,000円です。はり師・きゅう師の2免許を申請するなら、この費用も2免許分となります。なお免許証は、申請書類の受領後に不備がなければ1か月半ほどで郵送されるとされています。
はり師・きゅう師 免許取得・登録費用の目安
1免許あたり
2免許(はり師+きゅう師)
すでに免許を持って勤務している方は、この段階は済んでいます。ただし免許証の記載事項に変更がある場合や、紛失している場合は、開業前に手元の状態を確認しておくと安心です。
届出や受領委任の申し出では免許証の写しを求められる場面があります。
療養費を扱う場合の施術管理者の要件
健康保険の療養費を受領委任の取扱いで請求するには、施術管理者にならなければなりません。令和3年1月1日から、施術管理者の要件に実務経験と研修の受講が加わりました。
実務経験は、免許取得後に施術所で施術者として実務に従事した期間で判断され、受領委任の申し出時に「実務経験期間証明書」により1年以上の従事期間が確認できる必要があります。勤務形態は常勤・非常勤・パート・アルバイトを問いませんが、保健所に業務に従事する施術者として届出されている期間であることが条件です。複数の施術所で働いた場合は期間を通算できます。
もうひとつが施術管理者研修です。厚生労働省に登録された研修実施機関が行うもので、合計16時間・2日間以上の講義による研修と定められています。修了すると研修修了証が交付され、その有効期間は研修修了年月日から5年間です。受領委任の申し出には、有効期間を経過していない修了証の写しを添えます。
施術管理者になるまでの流れ
※この要件は令和3年1月1日から適用
なお実務経験は、はり・きゅうとあん摩マッサージ指圧で区分して数えます。はり・きゅうの実務経験しかない場合、申し出できる療養費の種類ははり・きゅうのみとなり、あん摩マッサージ指圧の申し出はできません。訪問マッサージも視野に入れるなら、あん摩マッサージ指圧師の免許と、その実務経験が別途必要になります。
要件は改定されることがあるため、申し出の直前に厚生労働省や管轄の地方厚生局の最新情報を確認してください。ここに挙げた内容は2026年7月時点で公表されている通知に基づくものです。
参考:e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」 / 厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩マッサージ指圧師試験の施行」 / 公益財団法人東洋療法研修試験財団「新規免許申請の方」 / 厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」
鍼灸師の求人を探す必要な届出

訪問鍼灸の開業では、届出の提出先が3か所に分かれます。保健所、地方厚生局、税務署の3つで、それぞれ目的も期限も別物です。
まとめて役所へ行けば済むわけではないため、順番と期限を整理しておく必要があります。特に様式や必要書類、運用は自治体や地方厚生局によって異なります。ここでは全体像を示しますが、実際に提出する前には必ず管轄の窓口で確認してください。
| 保健所 | 地方厚生局・都道府県 | 税務署 | |
|---|---|---|---|
| 何を出すか | 施術所を設ける場合は施術所開設届。出張のみの場合は「専ら出張のみで業務に従事する旨」の届出 | 受領委任の申出書+実務経験期間証明書の写し+研修修了証の写し | 個人事業の開業・廃業等届出書。希望する場合は青色申告承認申請書 |
| いつまでに | 施術所開設届は開設後10日以内(休止・廃止・再開も10日以内)。出張のみの届出は業務を開始したとき | 療養費を受領委任で扱う前(原則として申出書の受理年月日が取扱いの開始日) | 開業届は事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで。青色申告承認申請書は原則その年の3月15日まで、1月16日以後に開業した場合は事業開始等の日から2か月以内 |
| 目的 | 施術所・出張業務の把握(あはき法第9条の2・第9条の3) | 健康保険の療養費を受領委任の取扱いで請求できるようにする | 事業の開始を税務上届け出る |
※様式・必要書類・運用は自治体や地方厚生局によって異なる
保健所への届出
保健所への届出は、施術所を設けるか出張のみかで種類が変わります。
施術所を開設した場合は、あはき法第9条の2により、開設後10日以内に、開設の場所や業務に従事する施術者の氏名などを施術所の所在地の都道府県知事に届け出ます。保健所を設置する市や特別区では市長・区長が窓口となるため、実務上は管轄の保健所に提出することになります。届出事項に変更が生じたときも同様で、休止・廃止・再開の際も10日以内の届出が必要です。
一方、施術所を持たず出張のみで業務を行う場合は、あはき法第9条の3に基づき、業務を開始したときにその旨を住所地の都道府県知事へ届け出ます。名称は自治体により異なりますが、出張施術業務開始届などと呼ばれます。休止・廃止・再開の際も届け出ます。
- 施術所を設ける場合:施術所開設届(開設後10日以内)
- 出張のみの場合:出張のみで業務に従事する旨の届出
- 届出事項の変更・休止・廃止・再開のときも届出が必要
もうひとつ注意したいのが、あはき法第9条の4です。住所地(施術所の開設者や勤務者はその施術所の所在地)が属する区域の外に滞在して業務を行おうとするときは、あらかじめ、業務を行う場所や施術者の氏名などを、その地の都道府県知事へ届け出る必要があります。訪問エリアを広く設定するときは、この点も確認しておきましょう。
地方厚生局への届出
健康保険の療養費を受領委任の取扱いで請求するには、地方厚生(支)局長および都道府県知事へ申し出を行います。受領委任とは、利用者さんから一部負担金だけを受け取り、残りを施術者が保険者へ請求する仕組みです。
申し出の際には、受領委任の申出書に加えて、前章で触れた「実務経験期間証明書」の写しと「研修修了証」の写しを添付します。過去に施術管理者としての実務経験がある方は、実務経験期間証明書に代えて、受領委任の取扱いの承諾に係る通知の写しなどを添えることができます。
受領委任の取扱いの開始日は、原則として申出書の受理年月日となります。それより前に行った施術は受領委任の対象になりません。訪問先を確保してから申し出るのではなく、開業スケジュールの早い段階で準備を進めておくことが大切です。申し出の様式や添付書類、受付の流れは管轄の地方厚生局のサイトで公表されているため、必ず確認してください。
税務署への届出
事業として開業する以上、税務署への届出も必要です。個人で始める場合は「個人事業の開業・廃業等届出書」を納税地を所轄する税務署へ提出します。国税庁は提出期限を事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までとしています。
あわせて検討したいのが青色申告です。青色申告承認申請書の提出期限は原則としてその年の3月15日までですが、その年の1月16日以後に新たに事業を開始した場合は、事業開始等の日から2か月以内となります。開業届と同じタイミングで出しておくと、期限の管理が楽になります。
従業員を雇って給与を支払う場合は、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を1か月以内に提出します。ひとりで始めるならこの届出は不要ですが、途中で人を雇うことになったら忘れずに提出しましょう。
参考:e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」 / 国税庁「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など」 / 厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」
開業資金の考え方

訪問鍼灸は、店舗を構える鍼灸院より初期費用を抑えやすい開業形態です。ただし「安く始められる」ことと「資金が要らない」ことは別で、実際には運転資金の設計のほうが結果を左右します。
ここでは初期費用の内訳、運転資金の考え方、公的な資金調達の手段を順に見ていきます。金額は地域や規模、開業の形で大きく変わるため、具体的な数字は自分の計画に当てはめて試算してください。
初期費用の内訳
初期費用は、施術所を構えるかどうかで構成が大きく変わります。出張専門なら物件にかかる費用が不要になる一方、移動手段の確保が欠かせません。
訪問鍼灸の開業で準備する費目一覧
※出張専門なら7は不要。その分、移動手段の確保が重要になる
移動手段は訪問鍼灸の生命線です。車で回るなら車両費・駐車場代・ガソリン代、自転車やバイクなら車体費と保険料がかかります。訪問エリアの地形や道路事情によって最適な手段は変わるため、想定する訪問エリアを先に決めてから移動手段を選ぶと無駄が出にくくなります。
施術所を開設する場合は、あはき法第9条の5の構造設備基準に適合させる必要があるため、内装工事費が上乗せされます。基準の具体的な内容は厚生労働省令で定められ、運用は自治体によって細部が異なります。物件を契約する前に、候補物件で基準を満たせるかを管轄の保健所に相談しておくことをおすすめします。
運転資金の目安
運転資金とは、売上が安定するまでの間、事業と生活を回し続けるための資金です。訪問鍼灸では、この運転資金の見積もりが特に重要になります。
理由は次章で詳しく扱いますが、療養費は施術した月にそのまま入金されるわけではないためです。開業直後は施術件数も伸びきらず、売上が立っているのに手元の現金は増えていない、という状態が続きます。
- 車両維持費・駐車場代・ガソリン代
- 通信費
- レセプト作成にかかる費用
- 消耗品費
- 賠償責任保険料
- 施術所がある場合は家賃・光熱費
- 生活費
- 住居費
- 社会保険料
- 税金
見積もる際は、事業の経費だけでなく生活費も含めて計算します。家賃や光熱費、社会保険料、通信費といった毎月出ていくお金を書き出し、それが何か月分手元にあれば持ちこたえられるかを考えます。
何か月分が適切かは、家族構成や既存の貯蓄、訪問先の確保状況によって変わるため、一律の正解はありません。
資金調達の方法
自己資金だけで足りない場合は、公的な融資制度を検討します。代表的なのが日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。
この制度は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、適正な事業計画を策定し、その計画を遂行する能力が十分あると認められることが条件とされています。融資限度額は7,200万円で、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内、いずれも据置期間は5年以内です。
利率は基準利率が原則ですが、女性や若年・シニア層、認定特定創業支援等事業を受けた方など一定の要件に該当する場合には特別利率が適用されます。要件や利率は改定されるため、申し込む前に必ず公式サイトで最新の内容を確認してください。
このほか、自治体が独自に設けている制度融資や創業支援制度がある地域もあります。商工会議所や自治体の創業支援窓口では、事業計画書の作成についても相談できます。融資の審査では事業計画の中身が見られるため、次章で扱う資金繰りの見通しを数字で説明できる状態にしておくと話が進みやすくなります。
参考:e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」 / 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
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入金までの期間を見込んだ資金繰り

訪問鍼灸の資金計画で最も見落とされやすいのが、施術してから入金されるまでの時間差です。開業前に用意する資金というと初期費用に目が向きがちですが、実際に事業を止めてしまう原因になりやすいのはこちらです。
療養費は、施術した日に全額が手元に入る仕組みではありません。受領委任の取扱いでは、利用者さんから受け取るのは一部負担金だけで、残りは保険者から後日支払われます。この構造を理解しないまま計画を立てると、施術件数が順調に伸びていても手元の現金が尽きる、という事態が起こり得ます。
療養費が支払われるまでの流れ
受領委任における療養費の流れは、通常の商売と大きく異なります。まず医師の同意書を得たうえで施術を行い、利用者さんからはその都度、一部負担金だけを受け取ります。
残りの費用は、施術者が療養費支給申請書を作成し、保険者へ請求します。療養費の支給決定は、健康保険法や国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律などにより保険者が行うこととされており、請求すれば自動的に支払われるわけではなく、審査を経て支給が決定されます。
施術から入金までの流れ
※支払いの時期は保険者によって異なる
申請書には同意書の写しなどを添え、施術内容や施術日が正しく記載されている必要があります。記載に不備があれば返戻となり、修正して再提出することになるため、入金はさらに先送りになります。開業当初は書類作成に慣れておらず、返戻が発生しやすい時期でもあります。
なお、療養費の支給は療養の給付を補完する役割を持つものです。保険者ごとに取扱いの差が生じないよう、厚生労働省が支給基準等を通知で定めています。
請求から入金までにかかる期間
請求から入金までに何か月かかるのかは、多くの方が知りたいところです。ただし、保険者によって審査や支払いの時期が異なるため、一律の月数を示すことはできません。
分かっているのは、施術月・請求月・入金月がずれるという構造です。ひと月分の施術をまとめて申請書にし、翌月に請求する形が基本となるため、その時点で施術月から少なくとも1か月は経過しています。そこから保険者の審査を経て支払われるので、さらに時間がかかります。
資金繰りで押さえておきたい前提
- 施術した月にその分の売上が入金されることはない
- 入金の時期は保険者によって異なり、統一されていない
- 返戻が発生すると入金はさらに後ろにずれる
- 開業直後は施術件数も少なく、入金額も小さい
つまり、開業直後は施術を行っても手元にほとんどお金が入らない期間が続く前提で準備する必要があります。この期間をどう乗り切るかが、初期費用をいくらに抑えるかよりも重要になります。
手元資金をどれだけ用意するか
必要な手元資金は、月々の固定費と、入金が始まるまでの期間の掛け算で考えます。ここに、開業当初は施術件数が計画どおりに伸びない可能性も織り込みます。
具体的には、事業の経費と生活費を合わせた月々の支出額を出し、それが数か月分手元にある状態を目指します。何か月分を用意すべきかは、入金までの期間や訪問先の確保状況によって変わるため、余裕を持った設定にしておくほど選択肢が残ります。
現実的な備えとして、次のような方法もあります。開業直後は勤務先の仕事を一部残して収入源を確保する、家族の収入で生活費をまかなえる期間を確認しておく、融資の据置期間を活用して返済開始を後ろにずらす、といった選択肢です。
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金では、据置期間が5年以内に設定されています。
- 入金が始まるまで何か月分の支出を賄えるか
- その間、生活費をどこから出すか
- 据置期間を使うなら返済開始をいつに設定するか
参考:厚生労働省「はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」 / 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
同意書を得るための連携

訪問鍼灸で療養費を扱うには、医師の同意書が前提になります。どれだけ利用者さんを紹介してもらっても、同意書が得られなければ療養費の対象にはなりません。
チラシやWebでの集客を考える前に、医療機関との関係づくりを進めておく必要があります。ここでは、主治医への依頼の流れ、ケアマネジャーとの関わり方、そして同意書の期限管理を見ていきます。
主治医へ依頼するときの流れ
同意書は、利用者さんが医師の診察を受けたうえで交付を受けるものです。施術者が直接医師に発行を求めるのではなく、利用者さんから主治医に依頼していただく形が基本になります。
厚生労働省は所定の様式を示しており、はり・きゅう用とあん摩マッサージ指圧用で書式が分かれています。施術者側では、利用者さんが依頼しやすいよう様式を用意し、施術の内容や必要性を伝える資料を添えておくと話が進みやすくなります。
医師にとっては、同意することで施術結果の責任を負うわけではない点も明示されています。とはいえ、はり・きゅうの施術に馴染みのない医師もいるため、どのような症状に対して何を行うのかを具体的に伝えることが信頼につながります。
なお、同意する疾病について処置や投薬などの治療が行われている場合は治療が優先され、はり・きゅうの療養費の支給を受けることはできません。この点も含めて、利用者さんの状況を正確に把握しておく必要があります。
鍼灸師の求人を探すケアマネジャーとの関係づくり
訪問鍼灸の利用者さんは、介護保険サービスを利用している方が多く含まれます。そのため、ケアマネジャーは利用者さんの状況を最もよく知る存在といえます。
医師が訪問・往療の同意を判断する際には、介護保険の要介護度や他職種との連携状況も踏まえるとされています。ケアマネジャーとの情報共有は、利用者さんの紹介という意味だけでなく、同意を得るための材料をそろえる意味でも重要です。
訪問鍼灸に関わる人と情報の流れ
関係づくりで意識したいのは、売り込みではなく情報提供の姿勢です。どういった症状の方に対応できるのか、訪問可能なエリアと曜日はどこか、施術後にどう報告するのかを整理して伝えます。
一方で、集客に関しては法律上の制約がある点にも注意が必要です。あはき法第7条は、はり業・きゅう業やその施術所に関する広告について、施術者である旨と氏名・住所、業務の種類、施術所の名称・電話番号・所在の場所、施術日または施術時間などに限定しています。広告できる事項であっても、その内容が施術者の技能や施術方法、経歴にわたってはならないとされています。効果を強調するチラシやWeb広告は、この規定に触れる可能性があります。
同意書の期限の管理
同意書には有効な期間があります。厚生労働省は、同意書に基づく療養費の支給が可能な期間を6か月としています。あん摩マッサージ指圧の変形徒手矯正術については1か月です。
期間を過ぎて施術を続けるには、再同意が必要です。再同意の場合であっても、施術の同意には保険医の診察が必要で、同意書という文書の交付も必要とされています。口頭のやり取りや、診察なしでの同意では要件を満たしません。
さらに、医師と施術者の連携が図られるよう、医師の再同意に際しては施術者から施術報告書を交付することが求められます。施術報告書の様式も厚生労働省が示しています。日々の施術内容を記録し、報告できる状態にしておくことが再同意をスムーズにします。
- 利用者さんごとに同意日と期限を一覧で管理している
- 期限の1か月前に受診の案内ができる体制になっている
- 施術報告書を作成し、医師に渡す準備ができている
- 再同意には診察と文書の交付が必要だと利用者さんに説明している
同意書の期限管理は、そのまま売上の安定にも直結します。期限切れに気づかず施術を続けた場合、その分は療養費の対象外となり、請求できなくなります。利用者さんが増えるほど管理の手間も増えるため、開業当初から仕組みを作っておくことが大切です。
参考:厚生労働省「はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」 / e-Gov法令検索「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」
転職活動するなら?
売上の見通しを立てる

訪問鍼灸の売上は、1日に何件回れるかでほぼ決まります。院を構える場合と違い、移動時間が施術可能な件数を直接縛るためです。
ここでは、訪問件数の考え方、移動時間との関係、そして損益分岐の見方を整理します。数字は地域やエリア設定で変わるため、自分の条件に置き換えて計算してみてください。
1日に回れる訪問件数
1件あたりに必要な時間は、施術時間だけではありません。玄関先でのやり取り、記録の作成、次の訪問先への移動を含めた合計時間が、1件分の実質的な所要時間になります。
移動距離が短い都市部と、1件ごとに車で移動する地方とでは、同じ施術時間でも回れる件数が変わります。訪問エリアを絞るほど移動時間は短くなり、件数を増やしやすくなります。一方でエリアを絞りすぎると、利用者さんの確保が難しくなります。
エリアの広さと訪問件数はトレードオフの関係にあります。
訪問1件に含まれる時間
- 自宅や施設までの移動時間
- 玄関先でのあいさつと準備・片づけ
- 実際の施術時間
- 施術録の記入と関係者への連絡
1日の稼働時間をこの合計で割った数が、現実的に回れる件数の上限になります。もうひとつ知っておきたいのが、同一日・同一建物で複数の方に施術した場合の扱いです。訪問による施術の料金は、同じ日に同じ建物で施術した患者さんの人数が増えるほど、1人あたりの料金が下がる仕組みになっています。施設をまとめて訪問すれば件数は稼げますが、1件あたりの単価は在宅の個別訪問より低くなります。
料金の区分や金額は改定されます。令和6年の改定では訪問施術料が新設され、令和8年度の改定でも区分の見直しが議論されています。試算に使う金額は、必ず管轄の地方厚生局が公表している最新の通知で確認してください。
往療の距離と移動時間
訪問鍼灸では「訪問」と「往療」が区別されます。歩行困難などのやむを得ない理由により通所が難しい方に対し、定期的・計画的に自宅へ赴いて施術するのが訪問、そうした理由が突発的に生じた場合に赴くのが往療です。
距離の扱いも改定されています。令和6年の改定では、往療料の4km超加算が廃止されました。遠方まで足を延ばしても、その分の加算が受けられるとは限りません。移動時間は増えるのに収入は増えない構造になり得るため、エリア設定はより重要になっています。
また、片道16kmを超える往療は、往療を行うことについて絶対的な理由がある場合を除き、原則として支給対象になりません。訪問エリアを設計する段階で、この距離感を意識しておきましょう。
離島や中山間地などの特別地域については、施術体制を確保する観点から加算が設けられています。該当地域で開業を検討している方は、対象地域の範囲を確認しておくとよいでしょう。
損益分岐の考え方
損益分岐点とは、売上と費用が釣り合い、利益がゼロになる件数のことです。訪問鍼灸では、月々の固定費を1件あたりの平均単価で割ることで、おおまかな目安を出せます。
固定費には、車両費・駐車場代・保険料・通信費・レセプト作成にかかる費用・自分の生活費などが含まれます。ここで注意したいのが、損益分岐点を超えた月と、その分の入金がある月はずれるという点です。帳簿上は黒字でも、手元の現金が足りない状態は起こり得ます。
- 掲載中の鍼灸師求人は2,814件
- うち「独立・開業支援あり」は20%
- 訪問マッサージの事業所からの求人は415件
- 働きながら訪問の現場を知る選択肢もあります
判断の基準として、鍼灸師として勤務した場合の収入と比べてみるのもひとつの方法です。医療キャリアナビ掲載求人データ(2026年時点)から、職場の種類ごとの月給水準を見てみましょう。
独立を選ぶなら、少なくともこの水準を安定して超える見通しが立つかが、ひとつの判断材料になります。
開業してすぐにこの水準へ届くとは限らないため、何か月目に損益分岐点を超える計画なのかを数字で描いておくことが、資金計画の精度を高めます。売上が読めるようになるまでは、勤務と両立しながら訪問先を増やしていく進め方も選択肢になります。
参考:厚生労働省「はり、きゅう及びあん摩マッサージ指圧の同意書の取扱い(保険医療機関及び保険医の皆様へ)」 / 厚生労働省「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の改定等について」
まとめ
訪問鍼灸で開業するには、はり師・きゅう師の免許に加え、療養費を扱うなら実務経験1年以上と16時間・2日間以上の施術管理者研修という要件を満たす必要があります。届出は保健所・地方厚生局・税務署の3か所に分かれ、施術所を設けるか出張のみかで保健所への届出の種類も変わります。
そして最も見落とされやすいのが、施術してから入金されるまでの時間差です。療養費は施術した月にそのまま入金されるわけではなく、支払いの時期は保険者によって異なります。初期費用を抑えることより、入金が始まるまで持ちこたえられる運転資金を確保することのほうが、開業直後の分かれ目になります。
利用者さんを確保するうえでは、医師の同意書が前提になる点も忘れてはいけません。集客の前段として、主治医やケアマネジャーとの関係づくりを進めておきましょう。同意書の有効な期間は6か月で、再同意には診察と文書の交付が必要です。
まずは管轄の保健所と地方厚生局に相談し、必要な届出と様式を確認するところから始めてみてください。そのうえで、訪問エリアと1日の件数、月々の固定費を数字に落とし込み、入金までの期間を織り込んだ資金計画を作ることが、独立への現実的な一歩になります。





