鍼灸師(はり師・きゅう師)は医療従事者に該当する?法律上の位置づけや厚労省の定義を解説
「鍼灸師は医療従事者なのか?」と疑問に感じたことがある方は少なくないでしょう。看護師や薬剤師と比べると、鍼灸師(はり師・きゅう師)の法律上の位置づけはあまり知られていません。
コロナ禍ではワクチンの優先接種や支援金の対象範囲が議論になり、鍼灸師が医療従事者に含まれるかどうかが改めて注目されました。
結論としては、鍼灸師は厚生労働大臣が免許を付与する国家資格であり、広義の医療従事者に該当します。
この記事では、あはき法や医療法の条文、厚生労働省の定義をもとに、鍼灸師が医療従事者に含まれる根拠を解説します。医療費控除や労災保険での扱い、コロナ禍での議論まで網羅しているので、自身の立場を正確に理解したい方はぜひ参考にしてください。
気になることを
キャリアパートナーに相談できます
気になる内容をお選びください(複数選択可)
鍼灸師は医療従事者に含まれる

結論から述べると、鍼灸師(はり師・きゅう師)は医療従事者に含まれます。
はり師・きゅう師の免許は、厚生労働大臣が国家試験の合格者に対して付与する国家資格です。厚生労働省の統計でも「就業医療関係者」として分類されており、行政上も医療に携わる有資格者として位置づけられています。
令和4年(2022年)の衛生行政報告例によると、全国で就業しているはり師は134,218人、きゅう師は132,205人にのぼります。あん摩マッサージ指圧師や柔道整復師と合わせると、あはき法・柔道整復師法に基づく就業者は合計46万人以上です。
いずれも前回調査から増加しており、医療関係職種としての需要が年々高まっています。
参考:厚生労働省「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
法律上の位置づけ
鍼灸師の法的根拠となる法律は、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」(通称:あはき法、昭和22年法律第217号)です。1947年に制定され、現在に至るまで鍼灸師の免許制度を支える根幹的な法律として機能しています。
あはき法第1条には、以下のように定められています。
医師以外の者で、あん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゅうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許又はきゅう師免許を受けなければならない。
つまり、はりやきゅうの施術を業として行うには国家資格の取得が必須であり、無資格者が行うことは法律で禁止されています。この点は、医師免許なく医療行為を行えないのと同じ構造です。
はり師・きゅう師の免許を取得するためには、文部科学大臣が指定した学校または厚生労働大臣が指定した養成施設で3年以上の教育課程を修了する必要があります。
カリキュラムには解剖学・生理学・病理学・衛生学などの基礎医学系科目が含まれており、医学的な知識を体系的に学んだうえで国家試験に臨みます。
このように、鍼灸師は法律に基づく厳格な教育要件と国家試験を経て免許を付与される職種であり、医療に携わる有資格者として明確に位置づけられています。
参考:厚生労働省「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」
厚労省の定義
厚生労働省は、はり師・きゅう師を「就業医療関係者」として統計上分類しています。厚労省が2年ごとに実施する「衛生行政報告例」では、医師や看護師、薬剤師と並んで、はり師・きゅう師の就業者数が「就業医療関係者」の一部として報告されています。
また、厚労省が運営する職業情報提供サイト(job tag)でも、はり師・きゅう師は医療関連の職種として掲載されています。年収や労働時間などのデータも公開されており、医療系の国家資格職として位置づけられていることがわかります。
さらに、医療法第1条の2では「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手」という表現が使われています。この「その他の医療の担い手」に鍼灸師が含まれるかどうかは文脈によって解釈が分かれますが、少なくとも厚生労働省が管轄する国家資格であるという事実は変わりません。
ただし、「医療従事者」という用語には法律上の統一的な定義が存在しないため、使われる場面ごとに範囲が異なる場合があります。この点については、次の章で詳しく解説します。
参考:厚生労働省「医療法」
鍼灸師の求人を探す医療従事者と医療職は同じ?

「医療従事者」と似た言葉に「医療関係職種」「コメディカル」などがあります。
これらは日常的にはほぼ同じ意味で使われることもありますが、厳密には意味合いが異なります。鍼灸師が自身の立場を正確に理解するためにも、それぞれの違いを押さえておきましょう。
| 用語 | 意味・位置づけ |
|---|---|
| 医療従事者 | 医療の提供に携わる者を広く指す言葉。医師・歯科医師・看護師・薬剤師などが代表的だが、法律上の統一定義はないため、制度や文脈によって範囲が変わる。狭義では医療法に例示されている職種のみを指し、広義では厚労省管轄の国家資格を持つ医療関係者全体を含む。 |
| 医療関係職種 | 厚生労働省が統計や政策文書で使用する行政用語。衛生行政報告例では、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師なども「就業医療関係者」として報告されており、行政上の「医療関係職種」にはり師・きゅう師が含まれることは明確。 |
| コメディカル | 医師・歯科医師以外の医療従事者を指す通称。看護師・理学療法士・薬剤師・臨床検査技師などが該当し、鍼灸師が含まれる場合もある。ただし正式な法律用語ではなく、近年では「メディカルスタッフ」という呼び方に置き換わりつつある。 |
「医療従事者」と「医療関係職種」の関係
鍼灸師は医療法に職種名が明示されているわけではありませんが、あはき法に基づく国家資格であり、厚労省の統計で「就業医療関係者」として扱われています。鍼灸師は広義の医療従事者に該当するという理解で問題ありません。
一方で、「医療従事者」の範囲が文脈によって異なる以上、制度や手続きごとに自分が対象に含まれるかどうかを確認する姿勢も大切です。
今のあなたの状況は?
鍼灸師が医療従事者として扱われる場面

法律上は広義の医療従事者に含まれる鍼灸師ですが、実際にどのような場面で医療従事者として扱われるのでしょうか。ここでは、鍼灸師が制度上「医療従事者」として認められる代表的な3つの場面を紹介します。
医療現場でチーム医療に参加するとき
近年、医療現場では多職種が連携する「チーム医療」の考え方が広がっています。鍼灸師も、訪問鍼灸や緩和ケア、スポーツ医療などの分野で医師の指示や同意のもと、チーム医療の一員として参加するケースが増えてきました。
たとえば、がんの緩和ケアチームでは、痛みや吐き気の軽減を目的としたはり治療が取り入れられることがあります。WHO(世界保健機関)も鍼灸の有効性を認める疾患を公表しており、エビデンスに基づく治療法として医療現場での評価は高まっています。
また、訪問鍼灸の現場では、医師の同意書に基づいて在宅療養中の患者さんに施術を行います。ケアマネジャーや訪問看護師と連携しながら施術計画を立てるため、まさにチーム医療の一員としての役割を果たしています。
こうした場面では、鍼灸師は医師や看護師、理学療法士と同様に医療チームの構成員として位置づけられています。チーム内で信頼を得るためにも、自身が医療従事者であるという自覚を持つことは大切です。

労災・自賠責保険で施術を行うとき
鍼灸師の施術は、労災保険(労働者災害補償保険)や自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の適用対象です。国が関与する保険制度で施術費が認められている点は、鍼灸師が医療従事者として扱われている根拠の一つといえます。
労災保険では、業務中や通勤中のけがや病気に対してはり・きゅうの施術が認められています。医師が必要と認めた場合に、はり・きゅうの施術費が療養補償給付として支給されます。
自賠責保険でも、交通事故によるむち打ちや腰痛、頸部痛などに対して、はり・きゅうの施術費が補償の対象になります。整形外科との併用で鍼灸を受ける患者さんも多く、自賠責保険の仕組みの中で鍼灸師の施術は医療行為の一環として位置づけられています。

医療費控除の対象として認められるとき
鍼灸師の施術に対する費用は、所得税法上の医療費控除の対象になります。確定申告の際に、はり・きゅうの施術費を医療費に含めて申告できるのです。
医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、その超過分を所得から差し引ける制度です。国が「治療行為」として認めた施術にのみ適用されるため、鍼灸師の施術が対象に含まれていることは、制度上も医療行為の一つとして認められている証拠です。
ただし、注意点もあります。医療費控除の対象となるのは「治療目的」の施術に限られます。疲労回復やリラクゼーション、美容を目的とした施術は対象外です。患者さんから質問を受けた際には、この点を正確に説明できるようにしておきましょう。

コロナ禍で議論された「医療従事者扱い」
新型コロナウイルスの感染拡大は、鍼灸師の「医療従事者」としての位置づけを改めて問い直すきっかけになりました。ワクチンの優先接種や慰労金・支援金の対象範囲をめぐり、鍼灸師が医療従事者に含まれるのかという議論が各地で起こりました。
認識のずれが起きた背景
コロナ禍で「医療従事者」という言葉が頻繁に使われましたが、その範囲は制度ごとに異なっていました。「医療従事者」に法律上の統一定義がないことが、認識のずれを生んだ最大の原因です。
たとえば、病院に勤務する鍼灸師は医療従事者として扱われやすい一方、鍼灸院で開業している鍼灸師は対象外とされるケースもありました。同じ国家資格を持ち、同じ施術を行っていても、勤務先や業務形態によって扱いが分かれたのです。
また、一般市民の中にも「鍼灸師は民間資格」という誤解が少なからずあり、国家資格であることが十分に認知されていないという課題も浮き彫りになりました。この経験は、鍼灸師の社会的位置づけを明確にする必要性を業界全体に突きつけるものとなりました。
ワクチン優先接種をめぐる議論
2021年に始まった新型コロナワクチンの優先接種では、最初の対象は「医療従事者等」とされました。厚生労働省の事務連絡では、医療機関の従事者が主な対象とされましたが、施術所の開業鍼灸師については自治体ごとの判断に委ねられたため、地域によって対応が大きく異なりました。
一部の自治体では、はり師・きゅう師を医療従事者として優先接種の対象に含めました。しかし、含めなかった自治体も多くありました。公益社団法人日本鍼灸師会をはじめとする関係団体は、厚生労働省に対して要望書を提出し、鍼灸師を優先接種の対象に含めるよう求める動きを見せました。
この問題は、「医療従事者」の範囲が法律で明確に定められていないことの弊害を如実に示しました。同じ国家資格を持つ鍼灸師でありながら、住んでいる地域によって扱いが異なるという状況は、鍼灸師の間に不公平感を生みました。
転職活動するなら?
医療機関向け支援金の対象範囲
2020年に実施された「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」は、感染リスクのある環境で働く医療従事者等に対して最大20万円を支給する制度でした。医療機関や介護施設等に勤務する鍼灸師も、要件を満たせば支給対象とされました。
具体的には、病院や診療所、介護施設、訪問看護ステーションなどに勤務し、患者さんや利用者さんと接する業務に従事していた鍼灸師が対象でした。感染者が発生した施設や重点医療機関では20万円、それ以外の施設では5万円が支給されました。
一方、鍼灸院や施術所で開業している鍼灸師は、原則としてこの慰労金の対象外でした。感染リスクを負いながら患者さんの施術を続けた開業鍼灸師が対象から外れたことは、制度設計の課題として指摘されています。
こうしたコロナ禍の経験を踏まえ、鍼灸師が医療従事者として一律に扱われるための制度整備を求める声は今なお続いています。
まとめ
鍼灸師(はり師・きゅう師)は、あはき法に基づく国家資格であり、広義の医療従事者に該当します。医療法に職種名が明示されていないため「狭義の医療従事者」に含まれるかどうかは議論がありますが、厚生労働省の衛生行政報告例では「就業医療関係者」として分類されており、行政上も医療関係職種として扱われています。
- あはき法に基づく国家資格であり、法律上の裏付けがある
- 厚労省の衛生行政報告例で「就業医療関係者」に分類されている
- チーム医療・労災保険・自賠責保険・医療費控除など、制度上も医療従事者として扱われる場面がある
- コロナ禍で「医療従事者」の統一定義がないことが課題として浮き彫りになった
鍼灸師が医療従事者として認められる場面は制度の中に明確に存在しますが、「医療従事者」の範囲は文脈によって異なります。だからこそ、自身の法的な位置づけを正確に理解しておくことが、患者さんや他の医療職種からの信頼を得ることにつながります。
もし今の職場環境に悩みがあったり、鍼灸師としてのキャリアをさらに広げたいと考えているなら、新しい働き方や転職先を検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
鍼灸師は国家資格ですか?
はい、鍼灸師(はり師・きゅう師)は「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」に基づく国家資格です。厚生労働大臣が免許を付与します。養成施設で3年以上学んだうえで国家試験に合格する必要があります。
鍼灸師の施術は健康保険が使えますか?
医師の同意書があれば、慢性的な痛みやしびれなどに対するはり・きゅうの施術に健康保険(療養費)が適用されます。対象となる傷病名には神経痛、リウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症、頸椎捻挫後遺症の6疾患が含まれます。
鍼灸師と柔道整復師の違いは何ですか?
鍼灸師(はり師・きゅう師)はあはき法、柔道整復師は柔道整復師法と、それぞれ異なる法律に基づく国家資格です。鍼灸師ははり・きゅうによる施術を行い、柔道整復師は骨折・脱臼・打撲・捻挫などに対する手技療法を行います。
鍼灸師は医師の指示なしで施術できますか?
はい、鍼灸師は医師の指示がなくても独立して施術を行うことができます。ただし、健康保険(療養費)を使って施術する場合は、医師の同意書が必要です。自費での施術であれば、鍼灸師の判断で施術を行えます。





